
このほど発行された『比較経済研究』第62巻第1号に、拙稿「ロシアのウクライナ侵攻を受け中欧班列に生じた異変」が掲載されています。昨年の比較経済体制学会での報告を論文にしたものです。こちらからPDF版をお読みになれますので、ぜひご利用ください。
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ロシア・ウクライナ・ベラルーシを中心とした旧ソ連諸国の経済・政治情報をお届け
このほど発行された『比較経済研究』第62巻第1号に、拙稿「ロシアのウクライナ侵攻を受け中欧班列に生じた異変」が掲載されています。昨年の比較経済体制学会での報告を論文にしたものです。こちらからPDF版をお読みになれますので、ぜひご利用ください。
シリーズで中国の旧ソ連諸国との輸出入額のグラフをお目にかけてきたが。本日は中央アジアのカザフスタンおよびウズベキスタンとの貿易動向である。
まず、中国の対カザフスタン輸出入動向が、上図のとおり。カザフ側にとってみれば、自国の輸出が伸び悩み、ここ2年ほどで不均衡が大きく広がった点が気がかりであろう。
次に、中国とウズベキスタンの輸出入動向が下図だが、カザフ以上に不均衡が目立ち、ウズベク側の赤字が肥大化している。むろん貿易は必ずしも二国間で均衡させる必要はないわけだが、ただ、中国から買うものは多くても売るものがないという状況は、好ましいものではない。
先日、「紅海危機という追い風で勢いを取り戻した中欧班列」という話題をお届けしたが、その補足である。
繰り返しになるが、「中欧班列」とは、中国と欧州を結ぶコンテナ鉄道輸送サービスであり、その主要部分はカザフスタン~ロシア~ベラルーシ領を経由する。ロシアのウクライナ侵攻で、このルートのトランジット輸送はいったん下火になり、中国⇔ロシア・ベラルーシの貨物増により補われる状態が続いていたが、2023年終盤にイエメンの武装組織フーシ派の商船に対する攻撃が発生すると、東西輸送の「裏技」として再び中欧班列のトランジット輸送への需要が盛り返した。
それで、本日は、こうした変動の前提となっている海運の動きにつき、補足的にお伝えしたい。国際的な海運のボトルネックとなりうるような難所のことを「チョークポイント」と呼ぶが、上掲のグラフはその中でも重要なパナマ運河、スエズ運河、喜望峰周りの船舶通航数を図示している。パナマ運河は、降雨不足による水位の低下で2023年終盤に利用制限が課せられ、現在はそれからの回復途上にある。問題はやはり2023年暮れから生じたスエズ運河利用の急減であり、これがまさにフーシ派問題の影響によるものである。そして、スエズ運河航行数と反比例するように、喜望峰周りが拡大し、船舶が大回りを余儀なくされていることが確認できる。
私の集計によれば、2023年から2024年にかけて、パナマ運河は10,870隻から8,760隻へと19.4%減、スエズ運河は26,884隻から12,059隻へと55.1%減、喜望峰周りは17,862隻から29,043隻へと62.6%増だった。
いつも思うことだけど、中国という国は政治的にはアレだが、経済統計が出るのが早いのは、経済をやっている私のような人間にとっての好感度が高い。先日、「遅れ馳せながら中欧班列のHPを発見」というエントリーでお伝えしたとおり、このHPの統計コーナーに中欧班列の輸送データが毎月掲載されており、早くも2024年通年のデータが発表されたので、それを使って上図を更新してみた。
改めて説明すると、中欧班列というのは中国と欧州を鉄道コンテナ列車で結ぶ輸送プロジェクトであり、習近平政権の一帯一路の旗艦的位置付けになっている。主要ルートは、カザフスタン~ロシア~ベラルーシ領を通過するものである。上図に見るとおり、その列車本数、輸送コンテナ量は、一貫して増え続けている。
しかし、内実は見かけの印象とは異なる。2022年にウクライナでの戦争が起きると、EU企業は侵略国ロシアと、その同盟国ベラルーシを通過する輸送スキームを敬遠するようになった。そうして生じた顧客離れにもかかわらず、2022年、2023年も中欧班列が拡大を続けたのは、中国⇔ロシア・ベラルーシ輸送が急拡大したからである。ロシア・ベラルーシは、地理的には一応欧州ということで、中国鉄道はその分も中欧班列の実績に加えているのである。
こうして、中国⇔EUのトランジット輸送路としてはいったん斜陽化し、どちらかと言うと中露貿易の輸送手段になりかけていた中欧班列だったが、2023年暮れからまた様相が変わる。イエメンの武装組織フーシ派による商船への攻撃が発生し、東西の大動脈だった紅海・スエズ運河が麻痺、中国⇔EU輸送の裏技として、再び中欧班列の利用が拡大に転じたのだった。
ロシアの石油大手ルクオイルは、ブルガリアでビジネスを展開してきた。ブルガスに製油所を有するほか、ガソリンスタンド、石油貯蔵所、船舶・航空機向けの燃料供給を手掛けてきた。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻後の事業環境の悪化を受け、ブルガリア・ビジネスを手放す方針を、1年ほど前に表明していた。そう言えば、以前に「ウクライナに燃料を供給していたのはブルガリアだった」などという話題もあった。
されで、今般伝えられたこちらの記事によると、カザフスタンの国営企業であるカザムナイガスが、ブルガス製油所買収の競売に参加する招待を受けているということである。カズムナイガス側では、我が社はブルガリアの隣国であるルーマニアでも2箇所の製油所に出資しており、ブルガリアの製油所を加えれば、国際エネルギー市場におけるプレゼンスが強化されるとして、前向きな姿勢を示しているということだ。
先日、「遅れ馳せながら中欧班列のHPを発見」というエントリーをお届けした際に、「中国⇔欧州だけでなく、中国⇔アジアというデータも出ており、後者が何を指しているか個人的にはよく分からないのだが、これもそのうち確認してみたい」とコメントした。今般、必要に駆られ、その確認作業を行ったので、以下報告したい。
調べてみて確認できたのは、要するに中国鉄道は、欧州とのコンテナ列車の行き来を「中欧班列」と呼び、アジアとのコンテナ列車の行き来を「中亜班列」と呼んでいるという事実だった。統計上は別扱いであり、後者が前者に含まれるわけではない。
ここで肝心なのは、同じユーラシア諸国であっても、ロシアおよびベラルーシとの行き来は中欧班列、カザフスタンをはじめとする中央アジア諸国との行き来は中亜班列であるという点である。中亜班列にはこのほか、モンゴル、東南アジアとの行き来が含まれる。
それで、2024年1~11月の国境別の中欧班列・中亜班列の貨物通貨量を整理すると、上図のようになる。重要なポイントは、阿拉山口およびホルゴスは中欧班列と中亜班列を両方含んでおり、たとえば中国からコンテナが運ばれた際に、地元カザフ(およびその他中央アジア諸国)に留まれば中亜、それを越えてさらにロシア、ベラルーシ、EUまで運ばれれば中欧という扱いになるわけである。対モンゴル国境の二連浩特に関しても同様である。
このように、だいたいのことは判明したが、一つ分からないのは、「中亜班列」というネーミングである。「中欧班列」は、中国と欧州を結ぶ輸送路なので、そう呼ばれる。「中亜班列」も、私は中国と亜細亜を結ぶからそう呼ばれているのではないかと思ったのだが、中国語で「中亜」というのは中央アジアのことであり、もしかしたら「中央アジア班列」という意味なのかもしれない(中国人留学生がそのように主張していた)。私は、モンゴルや東南アジアもあるので、あくまでも中国・亜細亜だと思うのだが、どんなもんだろうか?
対ロシア制裁を徹底するのが難しい要因の一つに、カザフスタンの存在がある。両国はともにユーラシア経済連合という経済同盟のメンバーとなっており、国境障壁は基本的に存在しない。そして、ロシア・カザフスタン国境は7,500kmにも及ぶ世界最長の陸上国境であり、それを全部監視するなどということは不可能なので、どうしても抜け穴になりやすい。
そんな問題と、関係あるような、ないような話題だが、こちらの記事が、カザフスタンが対ロシア国境の通過ポイントを近代化しようとしているという動きを伝えている。これは、現在両国間の貨物が増加しているはずなので、それに対応しようという動きではないだろうか。
記事によれば、カザフ・ロシア国境には、自動車道路の国境通過ポイントが30箇所存在する(別ソースだが上掲地図参照)。カザフ側の運輸省は今般、そのうち29箇所を、2027年までに近代化する計画を固めた。カザフ運輸省では、ロシア側とも歩調を合わせて、通過ポイントを早期に近代化して通過キャパシティを拡大したい意向である。
このブログでは過去にも、中国と欧州の間を鉄道コンテナ輸送で結ぶ「中欧班列」というプロジェクトについてお伝えしている。この輸送は、大部分が、カザフスタン~ロシア~ベラルーシというルートを辿る。そして、この3国部分の輸送を担うために3国の国鉄の対等出資で設立されたのが、「ユーラシア鉄道アライアンス」という合弁である。同アライアンスによる中国⇔欧州の輸送データを整理していたところ、興味深いことに気付いた。上図に見るとおり、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻開始後、中国⇔欧州間のトランジット輸送は大きく低下し、政治・安全保障上の理由で顧客離れが起きていることをうかがわせた。ところが、今年に入り、一転して、輸送量は再び拡大に転じていたのである。
その際に鍵になるのは、海上運賃との兼ね合いである。中国⇔欧州間の貨物輸送は、海運が主流だが、海上運賃が値上がりすると、中欧班列の価格競争力が相対的に高まる。そこで上図では、中国から欧州向けのコンテナ海上運賃の指数も、赤線で複合的に示した。中国⇔欧州間の鉄道コンテナ輸送量は、かなりの程度海上運賃と比例しており、したがって2022年後半以降の中欧班列利用低下は、政治・安全保障の要因に加えて、海上運賃が下がったので、中欧班列の利用価値が下がったという面が大きかったと考えられる。それが、2024年に入り紅海危機で海上運賃が高騰し始め、顧客が中欧班列に戻ってきたというのが真相であろう。
こちらの記事が、カザフスタン領を経由して、ロシア産の天然ガスを中国に供給する動きについて伝えているので、以下骨子をまとめておく。
このほどカザフスタンのD.アバエフ駐露大使が、その計画についてタス通信に語った。ロシア産ガスをカザフ領を通じて中国に年間350億立米供給する計画があり、すでにロードマップが策定されているという。
大使によれば、カザフとしてはトランジット国としての利点を最大限活用したく、中国向けにトランジットするだけでなく、カザフ自身もガスを買い付けて、同国東部や北東部のガス化に繋げたい。現在は価格交渉が行われているところで、基本合意はできているので、あとは細部を詰めるだけだという。
以上が記事の伝えるところであるが、これはシベリアの力2(年間500億立米)の建設を見合わせ、現実的なカザフ・トランジットに切り替えたということなのだろうか? 引き続き注視していきたい。
ロシアから欧州方面に伸びる石油パイプライン「ドルージバ」は、上掲地図に見るとおり、ベラルーシ領で南支線と北支線に分かれる。なお、ベラルーシ領での輸送を管理しているのが、ゴメリトランスネフチ・ドルージバという会社である。こちらの記事が、ベラルーシ領の通過料金についての動きを報じているので、以下まとめておく。
記事によると、このほどゴメリトランスネフチ・ドルージバは、ロシア側のトランスネフチと、南支線の輸送料金を2月1日から10.2%引き上げることで合意した(注:記事には明記されていないが、1t当たり188ルーブル程度になると見られる)。ベラルーシ側は夏頃には1.8倍もの値上げを要求していたが、徐々に要求を引き下げ、今回の合意に至った。
北支線に関しては、EU側の制裁でロシア産原油の輸送は停止されており、カザフスタン産の輸送に利用されている。そして、北支線の輸送料金を43%引き上げ、1t当たり653.8ルーブルとすることをベラルーシは要求している。今後の交渉に委ねられるが、カザフ側は反発している。
ベラルーシが頻繁に料金の値上げを要求していることから、ベラルーシ・ルートの輸送は今後伸びそうにないと、専門家らは指摘している。
プーチン・ロシアは経済関係の大イベントを好む国なので、各大都市はそれぞれのイベントというのを持っている。ウラルの中心都市であるエカテリンブルグの場合には、「イノプロム」といって、製造業や技術革新をテーマに、展示会とフォーラムを折衷したようなイベントを、毎年夏に開催してきた。ロシア政府がかなり力を入れている行事なので、私の古巣の団体では安倍・プーチン時代にこれに参加したこともあった。
さて、こちらのサイトに見るとおり、今年はカザフスタンのアスタナでも9月25~27日にイノプロムを開催したということである。一瞬、「国際的な制裁で、ロシアでは開催しにくくなり、代わりにカザフで開催したのか?」と思ったのだけど、今年はすでに7月に通常のイノプロムは開催済みであり、今回それに加えて初めてカザフでも開催されたということのようだ。
こちらから拝借した下の写真のように、ロシア・カザフ・キルギスの首相が一堂に会して展示を視察したりしているのを見ていると、ソ連の紐帯もそれなりに残っているのだなということを感じる。
こちらの記事によると、ロシア主導のユーラシア経済連合および集団安保機構からのカザフスタンの脱退を求めるネット上の請願運動が進んでおり、投票した6.9万人のうち92%が脱退に賛成しているということである。ただ、請願を呼びかけているのは正体不明のまったく無名の人物であり、こうした匿名的な運動を過大視すべきではないと、専門家筋は指摘している。
しかしながら、記事によれば、カザフスタンがユーラシア経済連合から恩恵を受けていないという不満の声は、同国で根強い。連合発足後、カザフの対ロシア貿易が顕著に発展しているわけではなく、カザフ側の大幅な入超が続いている。また、関税同盟であるにもかかわらず、ロシアは域内で320件もの非関税障壁を発動しており、うち100近くが対カザフであることも問題である。
それでも、カザフの商店に並ぶ食品の3~5割がロシア産であるように、カザフの対ロシア輸入依存度は深い。カザフがユーラシア経済連合離れを進めるにしても、すぐに実現できるものではなく、長期的なプロセスになると、記事は論じている。
こちらの記事によると、カザフスタンがロシアをはじめとするユーラシア経済連合諸国民の入国・滞在条件を厳格化するということである。戦争、動員を避けるためにロシアを逃れる向きは少なくなく、ビザ無しで行けるカザフは有望な逃避先だったはずだが、狭き門となってしまうのだろうか?
記事によると、従来カザフにおいてユーラシア経済連合諸国の市民はビザ無しで入国した上で、最大90日まで滞在でき、それが過ぎても、いったん外国に出て入国し直せば、再び90日、という具合に更新し続けることができた。
1月17日にカザフ政府が発表し、27日から施行される新ルールでは、ユーラシア経済連合諸国の市民がビザ無しでカザフに滞在できるのは半年間に90日までであり、でいったん外国に出ても新たな滞在期間を更新できなくなった。なお、ユーラシア以外でビザ無しでカザフに入国できる国の市民は、一度に滞在できるのは30日までであり、いったん外国に出れば半年間に計90日まで滞在できる。
当面、ロシア市民は1月27日までにいったん外国に出て再入国すれば、そこから90日間の滞在は可能である。
今後、ロシア市民が90日を超えてカザフに合法的に滞在するためには、一時滞在許可証を取得する必要がある。それには、親族訪問、カザフ企業での就労、療養、留学、布教活動、業務出張といった正当な理由が必要となる。
専門家のT.ウマロフによると、今回の措置は以前から計画されていたもので、何らかの事件と関係があるものではないという。カザフ政府は、自国領土・経済が一時滞在の場となることではなく、外国人が合法的に長期滞在し国の発展に寄与してくれることを希望しているのだと、ウマロフは説明する。
カザフ内務省の幹部によると、2022年にカザフに到来したロシア市民は290万人であり、うち40.6万人が部分動員の発表された9月だったという。
カザフスタンの対ロシア輸出は、カザフ側の公式統計によれば、2022年1~11月で、前年同期比23.1%増となっている。この数字を信じる限り、激増という感じではないが、個別の品目によっては、極端に増えているものがあるようだ。昨年暮れに出たこちらの記事が伝えている。
記事によると、2022年1~10月のカザフスタンの対ロシア輸出で、特に前年同期からの伸びが目立つのは、以下のような品目だという。多い順に並べてみよう。
機械類などは、カザフスタンで生産されているのか疑わしいものが多い。現にスマホなどは、マレーシア、韓国、トルコ、リトアニアからの輸入が急増しており、それらがロシアに流れている形だろう。また、記事にはコカ・コーラの例が出ており、2022年夏にロシアでの生産が停止されながら、いまだにロシアでコカ・コーラを見かけるのは、ジョージアやカザフスタンから非正規に持ち込まれているからだという。
8月24日に日本国際問題研究所主催の「中東からみたウクライナ戦争と食糧不安・危機」という公開ウェビナーがあり、そこで「ロシア・ウクライナからみた黒海穀物輸送」という報告をさせていただいた。それに向けて作成したグラフをちょっとおすそ分けしたい。
旧ソ連諸国の中では、ロシア・ウクライナ・カザフスタンが3大穀物輸出国となっている。そこで、それら3ヵ国の穀物輸出構造を、穀物の種類別と、相手地域別に示したグラフを作成した。データは数量ベースで、2012~2021年の平均値である。
まず、穀物の種類別の内訳を見たのが、下図となる。ロシアとカザフスタンが小麦主体であるのに対し、ウクライナはとうもろこしが半分以上を占める。
次に、輸出相手地域が、下図のとおり。ロシアとウクライナは、アフリカ・中近東を主力とする構造が似通っている。ただし、ウクライナはEU、APEC(具体的には中国、インドネシア、韓国等)向けも多い。なお、2014年の連合協定後も、ウクライナのEU向け穀物輸出は、関税割当によって抑制されていた。遠い外国向けが主流のロシア・ウクライナと異なり、カザフスタンはCIS(近隣の中央アジア諸国)向けが圧倒的に多い。
編集作業が終わったばかりの『ロシアNIS調査月報』2022年9-10月号の中身を、どこよりも早くご紹介。
今号では、当研究所で7月に開催したセミナーの報告を軸に、「注目と期待を集めるカザフスタン」という特集をお届けしております。今年初めに政治危機が起きた時には、「カザフよ、お前もか」という雰囲気が漂いましたが、その後トカエフ政権は国内情勢を完全に掌握。2月下旬にロシアがウクライナへの侵攻を開始すると、トカエフ大統領率いるカザフは絶妙なバランス外交を見せ、ロシアの道連れになることを回避しました。ロシアがああなってしまった以上、この業界でカザフへの注目・期待度が高まるのは当然であり、小誌でも早速、特集という形で取り上げた次第です。
服部個人は、「ロシアとカザフスタンが穀物輸出で不協和音」、「ロシアの侵略に立ち向かう チーム・ゼレンスキー」、「2022年第2四半期のロシア港湾貨物量」、「ウクライナ~ロシア鉄道旅ルートが戦場に」といった記事を担当。8月20日発行予定。
なお、私・服部倫卓は2005年1月号より小誌の編集長を務めてまいりましたが、その役目は今号が最後となります。この間の会員および読者各位、そしてご寄稿いただいた皆様のご厚情にお礼を申し上げます。今後も一執筆者としては月報に貢献してまいりたいと思います。今後も変わらず月報をお引き立てのほど、お願いいたします。
ちょっと用事があり、カザフスタンの穀物輸出事情に関し調べていたら、興味深いことが分かった。
上図は、過去10年ほどのロシアとカザフスタンの穀物輸出相手地域を比較したものである。できればウクライナも加えたかったが、2ヵ国で力尽きた。
ロシア、ウクライナは、世界的な穀物輸出国であり、エジプト、トルコといった国を中心に、アフリカおよび中近東、さらには南アジアやAPECにまで市場を拡大している。
カザフスタンは、旧ソ連のCISにおいて、ロシア、ウクライナに次ぐ穀物輸出国だが、輸出相手はその2国とはだいぶ異なることが判明した。カザフの場合、CIS域外への輸出もなくはないが、圧倒的にCIS域内市場への輸出が多かったのである。さらに言えば、CISの中でも、ウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、キルギスという中央アジアの近隣諸国への輸出が大半を占めていることが分かった。つまりカザフが中央アジア全体の食料安全保障の鍵を握っているということである。
今朝、「カザフスタンがユーラシア経済連合を脱退する可能性は?」というのをお届けしたが、同じ記事の中で、ロシア側の専門家、CIS研究所中央アジア部長のA.グロジン氏もコメントしているので、そちらの要旨も以下のとおり紹介する。
ロシアにとってカザフスタンのユーラシア経済連合脱退といった事態はきわめて望ましくない。
第1に、広大な隣国への影響力を失う。両国の国境は7,500kmもある。もしもカザフがロシアの同盟国でなくなったら、両国間に通常の国境を設けなければならず、それには10年、国家予算の3~4年分を要し、その分、宇宙開発や福祉を諦めなければならない。欧州方面に加え、南方の国防も強化しなければならない。
第2に、ロシアはその他の中央アジア諸国に権益、軍事施設、合弁企業があり、ロシア市民が住んでいるわけだが、ロシアと同諸国がカザフによって隔絶されてしまう。ロシアは中央アジアの南の辺境を制御する可能性を失い、運輸面でのポテンシャルも脅威にさらされる。
また、カザフがそのような動きを見せれば、ロシアと中国のパートナーシップも難しくなり、露中の経済・運輸プロジェクトが困難になる。
さらに、カザフという販売市場を失うのも痛い。カザフに次ぐ存在としてウズベキスタンがあるにせよ、カザフは中央アジアでは世界経済により密接に統合され、経済・社会指標で他の中央アジア諸国の追随を許さない。カザフにはロシアから食料、機械、軍需など多くの商品が輸出されており、両国のエネルギーシステムは密接に繋がっている。
カザフ経済のロシアへの依存度の方が大きいが、両者の断絶はカザフにとって悲惨なものとなり、ロシアにとっても非常にまずいことは、両者とも分かっている。今、我々が目にしているのは、ロシア指導部がカザフスタン当局を正気に戻らせようとする穏便で慎重な試みである。今のところ、カスピパイプラインコンソーシアムに関する決定は発効しておらず、カザフの石油はロシア領を通過しているが、それが止まったりすると、まったく別の状況となる(注:結局本件はひとまず解決した)。
カザフスタンとロシアの関係が微妙になっている。最大の対立点としてはロシア領を通るカスピパイプラインコンソーシアムのPLを通じたカザフ石油の輸送問題があり、その対立は今般ひとまず解消したのだが、二国間関係の緊張は続いている。
場合によっては、カザフがロシア主導のユーラシア経済連合から脱退するような可能性がありうるのか? こちらの記事の中でカザフ側のT.ウメタリエヴァという政治評論家がその問題について論評しているので、以下のとおり発言要旨をまとめておく。
現在のところ、カザフスタンはロシアとの善隣関係を維持したく、ユーラシア経済連合から脱退することはまずありえない。そのことはカザフの国益に適っている。仮に脱退といった決定があるとすれば、それは市民の間でそうした声が高まった時だろう。トカエフ大統領は世論を非常に重視している。彼にとっては国内での政治的な力を高めることが必要である。現在は脱退といったことはないにしても、将来的に関係がさらに悪化すれば、中期的にはそうなってもおかしくない。経済的にはマイナスでも、社会からの支持ゆえに、政治的なメリットの方が上回る。カザフ社会では、ロシアとの問題が生じると、ユーラシア経済連合、CIS集団安保から脱退すべきかということが、いの一番に論議の的となる。
先日のブログですでに触れましたが、日本貿易振興機構・アジア経済研究所に所属し、カザフスタンを中心とする中央アジア研究で活躍してきた岡奈津子さんが、急逝されたとのことです。改めて、HPに「さようなら岡奈津子さん」という小文を掲載しました。
中央アジア、特にカザフスタンの研究で活躍し、我が国における第一人者だった岡奈津子さんが急逝されたとのことです。つい1ヵ月ほど前に連絡をとりあった時には変わった様子はなかったので、信じられない思いです。
岡さんと言えば、中央アジアの民衆のひだに分け入ったような研究スタイルを持ち味とし、特に2019年に上梓された『〈賄賂〉のある暮らし:市場経済化後のカザフスタン』(白水社、2019年)は大きな評価を獲得しました。
以前当ブログに掲載した紹介文を再掲載させていただきます。心よりご冥福をお祈りいたします。
これはとんでもない本が出た。カザフスタンだけでなく、ロシア・ユーラシア諸国にかかわる者全員にとっての、必読書と断言できる。岡奈津子『〈賄賂〉のある暮らし:市場経済化後のカザフスタン』(白水社、2019年)である。Amazonから内容紹介を拝借すれば、以下のとおり。
ソ連崩壊後、独立して計画経済から市場経済に移行したカザフスタン。国のありかたや人びとの生活はどのような変化を遂げたのだろうか。独立前からカザフ人のあいだにみられる特徴のひとつに「コネ」がある。そして、市場経済移行後に生活のなかに蔓延しているのが、このコネクションを活用して流れる「賄賂」である。経済発展がこれまでの人びとの関係性を変え、社会に大きなひずみが生じているのだ。本書は、市場経済下、警察、教育、医療、ビジネス活動など、あらゆる側面に浸透している「賄賂」を切り口に現在のカザフスタンをみていく。賄賂は多かれ少なかれ世界中の国々でみられる現象だが、独立後のカザフスタンは、それが深刻な社会問題を生み出している典型的な国のひとつである。ここから見えてくるのは、人びとの価値観の変容だけでなく、ほんとうの「豊かさ」を支える社会経済システムとはどのようなものかという問題だ。豊かさを追い求めた、この30年の軌跡。
この本を読んで、「自分が今まで見てきたつもりでいたカザフスタンは、何だったのか?」と、愕然とさせられた。自分が断片的にでも知っているつもりでいた、公式的な存在としてのカザフスタンという国とは別に、まるでパラレルワールドのように、もう一つのカザフスタンが存在したのだ。そして、どうも、そちらのカザフスタンの方が、本物のようなのである。
本書は、カザフスタンおよび旧ソ連全般の地域研究を縦糸、政治・経済・社会学的な腐敗論を横糸とし、その両方の関心に見事に応えるものとなっている。カザフという国を知るための本であるのはもちろん(他の旧ソ連諸国のヒントも)、カザフそのものに興味がなくても、腐敗、途上国・新興国の社会、移行経済などについて大いに考えさせられる。2,420円と、この種の本としては手頃な価格でもあり、ぜひご一読をお勧めしたい。
こちらの記事が、ウズベキスタン外交の急展開につき伝えている。
これによると、12月6日にウズベキスタンのミルジヨエフ大統領とカザフスタンのトカエフ大統領が、両国の「連合関係」に関する宣言に調印した。従来両国の関係は「戦略的パートナーシップ」というものだったが、そのレベルが引き上げられたことを意味するという。
同時に両国間で一連の文書が調印され、これが両国関係に新たなインパクトを与えることが期待されている。両大統領は、二国間の貿易額をまずは50億ドルに、さらには100億ドルに高めることでも合意した。
ちなみに、これに先立っては、ミルジヨエフ大統領がロシアを訪問してプーチン大統領と会談、18の文書が結ばれた。12月2日にはウズベキスタンのクチカロフ副首相が第2回ユーラシア会議に出席して、「ウズベキスタン政府はユーラシア経済連合加盟に向けて大掛かりな準備作業を進めている」と発言した。また、ウズベキスタンのユーラシア開発銀行加盟も間近だという。
以上が、記事のあらましである。従来、旧ソ連空間における再統合が進まない大きな要因としてカリモフ時代のウズベキスタンの独自路線と、ウズベキスタンとカザフスタンのライバル関係というものがあったと思う。それが、ウズベキスタンとカザフスタンが「連合関係」を宣言するとは、隔世の感がある。ちなみにこの場合の「連合関係」はロシア語でсоюзническе отношенияであり、連邦とも同盟ともちょっと違うだろうから、やはり「連合」くらいが訳語としていいと、個人的には思う。
ロシア最大の地場自動車メーカーAvtoVAZは、カザフスタンの自動車販売会社BIPEK-Autoと「アジア・アフト」という合弁企業を設立し、自社ブランド車の「ラーダ」をカザフスタン・ウスチカメノゴルスクの工場で現地生産してきた。その効果で、ラーダは近年、カザフの乗用車販売市場をリードする存在となってきた。
しかし、こちらの記事によると、現在そのビジネスがピンチに立っているということなので、要点だけ以下のとおりまとめておく。
2021年1~5月の販売台数を見ると、ラーダは2,573台で、これはブランド別で5位であった。前年同期比、52%も減少している。ラーダは前年同期にはトップだったのだが。AvtoVAZの販売が低下したのは、過去5年で初めてのことである。
それに対し、カザフの販売市場で躍進しているのが、ウズベキスタンのメーカーであるウズアフトサノアト社である。同社の供給するシボレー車が、2021年1~5月にはカザフ市場でトップに立った。
AvtoVAZは、カザフ当局がウズアフトサノアト社を優遇していると、不満を表明している。
危機の発端は、AvtoVAZを現地生産している組立工場アジア・アフトの問題だった。2019年末以降、カザフスタン産業・インフラ開発省は、アジア・アフトとの工業アセンブリー契約を解除した状態にある。その上で政府は工場に対し、1,740億テンゲ(約296億ルーブル)を国庫に返納するよう要求している。同省は「アジア・アフトは、政府が与えた特典に対応して組立工程を近代化・拡大する義務を果たしていない」と工場側を非難している。
2021年3月初旬、アジア・アフトは生産を完全に停止し、数千人を回顧した。
ロシア産業・商業省では、事態に関心を寄せ注視している、としている。そして、ロシア産業・商業省はカザフスタン産業・インフラ開発省とともに、AvtoVAZに新しいカザフ・パートナーが見付かったということを明らかにした。それが、コスタナイに工場を有するAllur Autoであり、カザフにおけるラーダ車の現地生産はウスチカメノゴルスクからコスタナイに移転する見通しとなった。
ただし、Allur Auto社のサリアルカアフトプロム工場は新興工場であり、現状シボレーや中国JAC車を生産しており、AvtoVAZ車を生産する充分な余力があるかは未知数という指摘もある。
専門家のS.ブルガザリエフ氏は、AvtoVAZがCIS圏内で販売を拡大する能力は年々低下していると指摘する。時間が経つにつれ、ロシアの自動車メーカーは海外市場での地位を失っていくだろう。AvtoVAZは一定レベルの近代的・技術的レベルを有するが、競合他社はより優れた商品を消費者に提供しているからだ、という。
欧米がベラルーシに制裁を決定したことに対し、ベラルーシは対抗制裁を打ち出そうとしているわけだが、先日ベラルーシのI.ペトリシェンコ副首相は、ベラルーシのほかロシアやカザフスタンなど全5ヵ国から成るユーラシア経済連合が共同で対抗制裁を策定しているところだと発言した。
これを受け、こちらのサイトに見るように、カザフスタン外務省が反発を示した。6月5日付のプレスリリースで、その事実を否定したものである。
プレスリリースいわく、ユーラシア経済連合は、もっぱら経済統合組織である。我が国はユーラシア統合機関に、それにそぐわない機能を与えることは受け入れられないという立場を、伝統的に示してきた。第三国の制裁措置に対する対抗措置を講ずるといったことは、ユーラシア経済連合条約の管轄外に属する。我が国は、西側の制裁は主として政治的な動機に基づくものであり、ユーラシア経済連合全体ではなく一部の国に適用されているとの認識に立脚する。カザフスタンは、他国による制裁に対抗してユーラシア経済連合が「連帯した措置」を講ずる交渉など、一切行っていない。ユーラシア統合のパートナー諸国との作業において、ありうるのは、制裁が加盟諸国の社会・経済情勢にに及ぼし得る否定的な影響を防止するための共同行動に限られる。
というわけで、当然のことながら、相当迷惑そうなカザフスタンであった。ベラルーシがロシアやカザフといった虎の威を借りようという作戦は失敗のようだ。
こちらのサイトに、ロシアに代わる石油供給源を模索したベラルーシが、カザフスタンに白羽の矢を立てながら、ロシアの妨害で実現しなかった経緯をまとめた記事が出ているので(I.ザハルキン署名)、以下のとおり要旨をまとめておく。
2020年に入ってもベラルーシとロシアの石油供給に関する合意がまとまらず、ベラルーシにとっては困難な時期となった。ベラルーシが代替の石油供給源を模索する中で、カザフスタンからの輸入という案が浮上した。ただし、過去数年、その案は何度が出ていたが、その都度実現には至らなかった経緯がある。
これまでベラルーシが代替供給源の候補国として挙げた国には、米国、アゼルバイジャン、中東諸国、そしてカザフスタンがあった。カザフの石油は、実際に入荷したこともある。2016年8月から2017年6月にかけて、ベラルーシはカザフから10万8,600tの石油、総額3,370万ドルを輸入した。その輸入には、ロシアからの輸入と比べて、480万ドルの追加費用がかり、しかも輸送ルートもきわめて複雑になった。にもかかわらず2019年5月にルカシェンコ大統領はカザフとの新たな交渉を開始した。
2019年秋にはベルネフチェヒムのV.シゾフ副総裁が、石油輸入に関するカザフスタンとの政府間協定が合意間近だと発言した。ベラルーシは原油だけでなく加工が可能な石油製品(軽油、重油)も輸入したい意向を示し、輸入量は年間100万~350万tになるとされた。その後の情報によれば、あとは技術的な問題、特にロシアが自国領でのトランジットを認めるかという点だけだと発表された。
しかし、その後本件は一切の進展がない。本年初めにベラルーシがロシアの石油会社(複数)と厳しく対立し、ノルウェー、アゼルバイジャン、サウジアラビア、さらには米国からの購入に走った時でさえ、カザフの石油にはアクセスできなかった。
本年の初めに明らかになったのは、ロシア同様、カザフスタンもベラルーシに値引きをするつもりはないということだった。2月にカザフのN.ノガエフ・エネルギー相は、ベラルーシへの石油供給が可能になるのは商業的な条件においてのみであり、値引きは一切なしで、カザフ企業に有利な場合だけであると発言した。さらにK.トレバエフ副首相は、価格に輸出関税が上乗せされた場合のみ供給の用意があると述べた。しかも、カザフ側にはベラルーシへの不信感が頭をもたげ、カザフの原料を用いてベラルーシの製油所で生産された石油製品は国内市場への供給に限定し、輸出はされないという保証をベラルーシ側に求めた。
ただ、専門家によれば、これらの問題がカザフスタンからベラルーシへの供給の主たる障害になったわけではない。ベラルーシ側は、価格を含め、カザフのすべての条件を飲むつもりだった。ところが、以前と同様、今回も、両国は最大の問題を解決できなかったのである。ロシアが、自国領の石油パイプラインを通じてカザフからベラルーシに石油を運ぶことを、認めようとしない問題だ。
それでも、両国は交渉らしきものは続けているようであり、7月のユーラシア経済連合の政府間会合でベラルーシのR. ゴロフチェンコ首相は、以前両国が結んだ政府間協定はもう実現可能であると発言した。
関連して興味深いのは、書類の上では2020年上半期にカザフスタンの石油はすでにベラルーシに入荷したことになっている点である。輸入統計には、37.6万tの輸入が記録されていた。ただ、それがいつなのか、誰が取引したのかはいまだに不明である。しかも、後に統計局はこのデータを削除し、実際に取引があったのかどうかは、迷宮入りした。
ここ数ヵ月の動きが物語っているのは、カザフ石油の輸入というはすでにほぼ意味を失っており、その今後はベラルーシ指導部のプロジェクトの域を出ないということである。
現時点ではすでに、カザフの石油を本当に必要ではなくなっている。1~5月にベラルーシは500.7万tの石油を9億483万ドルで輸入した。そのうちロシア以外の代替石油は20%ほどであり、それも第1四半期にロシア石油がほぼ入荷しなかったから生じたものである。6月にはもう、ベラルーシはロシアの石油を100万t輸入し、これは最適な分量である。
2019年秋に結ばれた2020年のベラルーシとロシアの需給バランス指標によれば、第3四半期にはさらに575万t(注:多すぎないか?)がロシアから輸入されることになっている。最近ベラルーシで取り沙汰されている代替石油はアゼルバイジャンと米国のものだけである。アゼルバイジャンについては、計画された100万tのうち、タンカー6隻分の50万tが入荷する。米国については、8万~8.5万tずつの入荷が2回あり、2度目は8月上旬の予定である。米国からの調達は、経済というより、政治的な動機だろう。これら以外の輸入はすべて、価格および輸送面で有利なロシアから行う予定である。現に、4~5月の1t当たりの価格を見ると、ロシアが109ドル、アゼルバイジャンが239ドルとなっている。
他方、カザフ石油を輸入する場合のルートの問題は、相変わらず未解決である。多くの専門家が指摘するのは、カザフは石油を輸出する上でロシア、カスピ・パイプライン・コンソーシアムおよびアストラハン~サマラのパイプラインに高度に依存しているという点だ。カザフは年間1,500万tほどをロシア経由で輸出している。輸出先は多岐にわたるので、ベラルーシへの輸出も可能に思える。しかし、そのためにはロシアがカザフ石油により多くのキャパを割り当てることになり、一見大した問題ではないように思えるものの、現実にはロシアはそれを拒む。ロシアとしては、カザフの石油をトランジットして2億~3億ドル程度の料金をとるよりも、ベラルーシに直接石油を売った方が国益にかなうからである。
一方、カザフとしては、ベラルーシとの小口の取引のために、ロシアと対立することは避けたい。ロシアを迂回して輸送するルートとして、しばしばオデッサ経由が候補に挙がるが(注:ロシアを避けるとするとカザフ~カスピ海をフェリー~アゼルバイジャン~ジョージア~黒海をフェリー~オデッサ州のユジネ港~オデッサ・ブロディパイプライン~ベラルーシというルートだろう)、これはあまりにコスト高でベラルーシが受け入れられない。
結局のところ、カザフからベラルーシへの石油供給の問題が近い将来に解決する可能性はない。机上でも不可能であり、増してや以前表明された計画を実現するのは不可能である。したがってカザフからの輸入という構想は今のところ、単にベラルーシがロシアのパートナーを苛立たせようという試み以上のものではない。
こちらの記事が伝えるところによると、カザフスタン最大のテンギス油田では、作業員の新型コロナウイルス感染の拡大で、採掘が停止される恐れがあるという。同国の医療担当高官A.エスマガンベトフがこのほど明らかにした。
カザフスタン全体の感染確認が6,969人であるところ、テンギスでは935人の感染者が確認されている。テンギスでは現在、政府委員会が感染者数低下に向けた活動を行っているが、もしも思うように感染者が減らないと、テンギスシェヴルオイル社による採掘停止が不可避になる。すでに、同社の作業のうち不要不急に属するものについては、従事する人数を一時的に減らして対応している。テンギスシェヴルオイルでは当初、年産2,900万tだった生産能力を段階的に1,200万t高める拡張を計画していたが、油価下落を受けこの4月に3億ドル投資を来年に延期していた経緯がある。
昨年、カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領が退陣を表明し、トカエフ上院議長が大統領に就任するとともに、ヌルスルタンの娘のダリガ・ナザルバエヴァが上院議長に就任した。カザフでは大統領が任期前に退任すると上院議長が自動的に大統領に就任するという仕組みなので、ダリガの上院議長就任は、将来的な大統領就任への布石かという見方もあった。
ところが、こちらなどが伝えているとおり、昨日5月2日付のトカエフ大統領の大統領令により、ダリガの議員資格が停止された。トカエフ大統領は、ダリガの上院議長としての貢献に感謝するといったいかにもテンプレ的なコメントを発表している。
これは、何を意味するのだろうか? 一説によると、こちらなどに見るように、先日ダリガが政府のコロナ対策をかなり厳しく批判する場面があり、それが今回の決定の引き金になったのではないかという見方もあるようだ。ただ、依然として最高権力者のヌルスルタン・ナザルバエフ初代大統領の了解なしにそんな決定を下せるはずもなく、どう理解すればいいのか個人的に分からない。続報を待ちたいと思う。
GLOBE+に、「ユーラシア経済連合創設から5年 目指したEUには遠く及ばず」を寄稿しました。
ユーラシア経済連合が、2020年1月1日をもって、設立から5周年を迎えました。ただ、そう聞いても、何の話かピンとくる人は少ないかもしれません。ユーラシア経済連合は、日本の一般の方には、ほとんど知られていないでしょう。ロシアのプーチン政権は当初、EUに比肩するような経済同盟を形成するという意欲を見せていました。しかし、加盟国は思うように広がらず、経済統合の成果は限定的です。その一方で、発足から5年の今頃になって、ユーラシア経済連合に接近する国も現れています。そんなわけで、今回は5歳の誕生日を迎えたばかりのユーラシア経済連合について語ってみました。
既報のとおり、価格で折り合いがつかず、ベラルーシがロシアから石油を輸入する契約が結べないままとなっている。ベラルーシはロシア以外の供給源を模索しているわけだが、こちらの記事が、そのうちカザフスタンからの調達の試みについて論じている。
記事によると、ベラルーシの国営コンツェルン「ベルネフチェヒム」から、カザフスタンのエネルギー省に石油供給の打診がすでに届いている。1月20日に両者が交渉を行う予定であり、カザフ側は条件が折り合えば供給の用意があるとしている。
しかし、専門家らは懐疑的な見方を示す。AMarketsのA.デエフの指摘によれば、ベラルーシは国内市場を満たすのに600万tの、輸出向け石油精製のために1,200万~1,800万tが必要である。この量は、ウクライナ、ポーランド、カザフスタンが揃って供給をしてようやく可能となる分量である。カザフの石油はロシア領のパイプライン(アティラウ~サマラ)を経由してベラルーシに供給されることになる。しかし、BKSブローカーのN.アヴァキャンによれば、そのためにはロシアのトランスネフチとの交渉が必要であり、ロシアは2025年にユーラシア経済連合の共通石油・石油製品市場が発足するまでは、そうした輸送に応じることはありそうもない。しかも、カザフの石油はロシアよりも割高となり、これは経済的には無意味であり、むしろロシアとの政治的な駆け引きである。