ロシア・ウクライナ・ベラルーシ探訪 服部倫卓ブログ

ロシア・ウクライナ・ベラルーシを中心とした旧ソ連諸国の経済・政治情報をお届け

カテゴリ: ベラルーシ

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 例のウクライナのレアアース騒ぎを受け、何を色めき立ったか、ベラルーシの独裁者ルカシェンコまでもが「我が国でもレアアース資源を探せ」などという指示を出したものだから、関連の情報がいくつか出ている。

 まず、こちらの記事で、ベラルーシの地質研究・生産センターのV.コルブ副所長が、ベラルーシの資源状況につき以下のように述べている。ベラルーシのレアアース資源は、ソ連時代に確認された。特にモリブデンとツリウムである(注:モリブデンはレアアースには該当しないが)。これらは200~250mとかなり深いところにある。しかし、現時点ではより詳細な調査を行っているところで、商業生産を語るのは時期尚早。生産に入るためには、一連の地質学的探査作業を実施する必要がある。具体的な産出深度を決定し、資源量と埋蔵量を計算する。最も重要なことは、これらの元素の抽出技術を決めること。ベラルーシにはそのような経験がない。世界の技術を研究したり、ロシアの専門機関に照会したりしなければならない。そして、経済的に採算が合うかどうか、さらに詳細な作業を行うのが理に適っているかどうかを見極めることになる。(ゴメリとドブルシのエリアでゲルマニウム、ツリウム、銀、金を含む約15の元素の含有量の増加がそこで検出され、関連作業が行われてかどうかに関し)深度のマッピング作業が行われている。このエリアはかなり困難な場所で、700~900m付近に資源がある。今のところ、その見込みについて地域を特定している。どの地点で特定の金属や元素の含有量が最も高いか。その後、実現可能性についてさらに詳しく検討する。コルブは以上のように述べた。

 次に、ロシア側の専門家であるN.カルポヴァ氏が、こちらの記事の中でコメントしている。いくつかのデータによれば、ベラルーシにはレアアースの小規模な鉱床がある。イットリウムとイッテルビウムの痕跡が指摘されているゴメリ州ジトコヴィチ地区にある結晶基盤の岩石と、グロドノ州シチュチンスキー地区とグロドノ地区が有望。専門家たちは、利用可能な地質学的資料の調査を開始し、その構成と作業範囲を決定している。2026年から2030年までの国家プログラム「地下資源」の草案に、計画中の活動を含める可能性が検討されている。ただ、現段階では、ベラルーシだけでなく、ロシアのヨーロッパ地域を含むヨーロッパ全体で、大規模な商業的レアアース採掘について語るのは時期尚早。ベラルーシの役割は資源というよりは主に研究開発になる。レアアース・レアメタルを使った仕事の理論と実践を積極的に発展させるための主要な分野になるだろう。ソ連時代から知られている冶金学者の学派は、幅広い開発を行い、ICT、レーザー、医療技術、省エネルギー、バイオテクノロジーの専門家も同様に価値ある貢献ができる。カルポヴァはこのように述べた。


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 今般ロシアのM.オレーシキン大統領府副長官がベラルーシを訪問し、最高権力者のA.ルカシェンコと会談したということである。その中でロシア側はいくつか具体的なベラルーシへの投資プロジェクトを提案したようだ。オレーシキンはプーチンのお気に入りなどとも言われているので、これはプーチン政権としての正式な提案ということになろう。

 まず、こちらに見るように、ベラルーシにデータセンターを建設することを提案した。ベラルーシ原発が稼働したので、その電力の有効活用という意味合いだろう。記事によるとオレーシキンは、「ミンスク州とオルシャ市にロジスティクス・センターを計画しているが、それだけでなく、我々はベラルーシに大規模なデータ処理センターを建設する可能性を検討している。使用可能な電力容量がある。データ経済における協力の可能な分野としては、デジタル・プラットフォームや標準の作成と導入、原子力発電を利用したデータセンターの建設、人工知能分野における共同研究センターの設立、法律の調和などが挙げられる。ここで、両国はまだやることがあるように思える。科学的な分野、訓練や研究において、私たちはもっと緊密に交流する必要がある。もっと積極的に前進する必要がある」と発言した。

 もう一つ、こちらによると、(軍事用なのか民生用なのかは不明だが)無人機の生産工場をベラルーシに建設することも提案した。こちらは、ベラルーシでは高度人材を得やすいという判断なのか、はたまたロシア本土と違いベラルーシに工場があればウクライナの攻撃を受けにくいという判断なのか。記事によるとオレーシキンは、「基本的な提案は、年間10万台の無人機を生産できる工場を1年以内に建設するというものだ。これがロシア側の提案だ。現在、我々はパラメータについて議論しており、今後合意する予定だ。ベラルーシは、国の経済と安全保障を真に主権的なものにするために、独自の生産設備を持つべきだ。我々は、ロシアで利用可能な技術開発やソリューションを利用することについて話している。そして、共通の技術プラットフォームを使用することで、経済効率を確保することができる」と発言した。


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 強権的なルカシェンコ体制下のベラルーシにあって、国鉄のベラルーシ鉄道は、気骨を示したことがある。2020年の脱ルカシェンコ運動時には労働者の団結が見られたし、2022年のロシアによるウクライナ侵攻開始時にはロシア軍のための輸送を妨害する地下運動もあった。そして、今般初めて知ったのだが、こちらに見るとおり、そうした流れで、ベラルーシ鉄道の輸送状況や内情を情報発信するサイトが存在することが分かった。

 ロシアもベラルーシも現在、詳しい貿易統計を発表していないので、ロシア・ベラルーシの貿易の実情は、闇の中である。そうした中、くだんのサイトでは、ベラルーシ鉄道によってベラルーシからロシアに運ばれた貨物のきわめて詳細な情報を発信しており、どうやって情報を収集しているのかはちょっと見当がつかないが、とにかく有益である。

 それ以上に驚いたのは、2024年にロシアのどの軍需工場からベラルーシのどの部隊に鉄道で兵器が運ばれたかといった情報まで出ている。これはなかなかシビレる。


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Mineral

 米地質調査所は、Mineral Commodity Summariesというレポートを、毎年刊行している。世界各国の鉱物資源の埋蔵量や生産量を網羅した、なかなか有難い資料だ。

 当ブログでは、ロシアにおいて経済統計の開示度が低下していると苦言を呈することが多いが、実はベラルーシはもっと徹底していて、たとえば同国にとり最重要な輸出品目である塩化カリウムの生産動向が、2021年以降国家機密となっている。そこで、2021年以降に関しては、米地質調査所レポートに出ている推計値を用い、個人的に以下のようなグラフを作成している。

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 ちなみに、同レポートにはレアアースというページもあるのだが、そこにはウクライナが一言も出てこない。スカンジウムのところで、ちょろっと言及されるだけである。このレポートを紐解けば、ウクライナが潤沢なレアアース資源を抱えているわけではないことなど一目瞭然なのだが、果たしてトランプのチームはこのレポートをちゃんと読んだり、あるいは米地質調査所のスタッフから聞き取りをしたりしたのだろうか? それとも職員解雇しちゃった?


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 2023~2024年のロシアにおけるブランド別の乗用車販売を示した上表を見ると、中国系ブランドばかりがずらりと並んでおり、壮観である。1位のLadaこそロシア地場メーカーであるAvtoVAZのブランドだが、他は全部中国系と言って差し支えない。2024年のロシア市場における中国ブランド車の比率は、約6割に上ったということだ。初めて知ったが、10位のTankというのも中国Great Wall Motorのオフロード車サブブランドということである。中国メーカーはサブブランドが多く、覚えるのが大変だ。

 さて、問題は9位のBelgeeなのだが、これは中国のGeelyとベラルーシがミンスク郊外に建設した合弁工場である。同合弁は、当初はGeelyブランド車のみを生産していたが、2023年からは独自のBelgeeブランド車の生産も開始され、2024年の生産内訳はBelgeeが約6万台、Geelyが約3万台となった。2024年に生産された9万台のうち、ベラルーシ国内で販売されたのは2.5万台で、残りはすべてロシアに輸出されたということである。ということは、2024年にロシア市場で売られた15万台弱のGeely車のうち、2万台程度がベラルーシ産であり、残り13万台程度がおそらく中国からの輸入といったところだろうか。Belgeeブランド車に関しては、中国車とはカウントしないのが正解なのだろう。


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 国際情報サイト「Foresight」に、「ロシア・ウクライナ戦争を奇貨に生き延びたベラルーシの独裁者ルカシェンコ」と題する論考を寄稿しました。こちらが上こちらが下となります。なお、全文閲覧には有料購読が必要です。


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 Wedge ONLINEに、「『弾圧のベルトコンベア』で抑圧するルカシェンコ それでも国民がベラルーシに住む理由」を寄稿しました。無料でお読みになれますので、ぜひご利用ください。


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 私が研究している旧ソ連諸国にとって、中国との関係の重要性が高まっており、多くの国で中国が最大の貿易相手国という状況となっている。他方、ロシアやベラルーシが統計を出し渋る中で、発表されるのが早い中国の貿易統計は、有難い存在だ。そこで、今般発表された中国の2024年通関統計を利用し、中国と私の関係国との輸出入額を図示してお目にかけたい。本日は、国際的な孤立ゆえに中国に期待するところが大きいロシアとベラルーシを取り上げる。後日、ウクライナ、モルドバ、カザフスタン、ウズベキスタンも取り上げたい。

 まず、中国とロシアの貿易動向が上図のとおり。2024年の中国の対露輸出が1,155億ドルで前年比4.0%増、輸入が1,293億ドルで0.7%増だった。一応は拡大し、過去最高を更新はしたが、明らかに伸びは鈍化している。2024年に米バイデン政権が中国の銀行に二次制裁を適用し、中国の銀行や企業が対露取引を見合わせたことが大きかったと思われる。

 一方、2024年の中国の対ベラルーシ貿易は、輸出こそ65.8億ドルで前年比12.8%増だったが、輸入は18.1億ドルで30.5%減となった。ベラルーシが欧州で売れなくなったカリ肥料をコンテナに詰めてせっせと中国に輸出していると聞いていたので、中国の対ベラルーシ輸入減は少々意外だった。

cnby

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 ロシア『イズベスチヤ』のこちらのインタビュー記事で、ベラルーシのM.ルィジェンコフ外相が同国の対外政策について語っているので、気になった部分だけ発言内容を以下のとおりまとておく。2022年以降、ベラルーシは相手国別の貿易額を発表しなくなっているので、大まかにでもそれに言及した箇所が、貴重と言えば貴重である。

 今日、ロシアとの貿易はベラルーシの貿易総額の65~70%に近づいている。今日のロシアとの政治的な交流は非常に強力で強固なものであり、我が国の外交政策において他のいかなる戦略的方向性もそのレベルに到達することはできない。ロシアとの文化的、人道的な結びつき、共通の歴史ゆえに、他の国家や国家グループとこのような関係を繰り返すことは不可能である。伝統的な家庭生活からスラブ的な正教の価値観に至るまで、現代のあらゆる物事に対する両国によるアプローチのメンタリティも、他のいかなる相手とも再現することは不可能である。したがって、ロシアは常に最も重要な位置を占めている。今日、我々が置かれている状況により、この関係は発展のピークにあり、相互統合の道を最大限早く進むことができる。多くの輸入代替策や革新的な開発プログラムが実施されており、両国にとって強力な経済基盤となっている。ロシア抜きで我が国経済のあらゆる分野の発展を想像することは不可能である。2020年という年は、我々の真のパートナーが誰なのか、そして誰がベラルーシを、経済的観点から、あるいは資源基盤や地政学的野心の実現という観点から、常にパートナーとして見ているのかを如実に示している。

 あらゆる制裁にもかかわらず、ベラルーシとEUの貿易額は依然として約80億ドルに及んでいる。興味深いことに、この額のほとんどは、EU内でベラルーシを批判し、反ベラルーシのレトリックを展開する急先鋒の国に属している。つまり、ベラルーシ当局の違法性を訴え、制裁を唱える一方で、商売はしているのである。というわけで、今日、ベラルーシとの貿易と経済協力への関心は存在する。EUの中核諸国が、ますます関心を示している。このことは経済関係の各種のイベントによっても裏付けられている。

  ベラルーシはBRICSのパートナー国となったが、正式メンバーになる可能性も常にある。しかし、正式なメンバーになるためには、まずこの組織の主な参加者すべてに、我が国の意図が本気であること、そしてベラルーシがこの組織に求められていることを証明する必要があるだろう。BRICSのメンバーになることは、ベラルーシの課題である。しかし、組織内を見渡し、他の人々が私たちに慣れ、私たちの加盟希望が安定していることを確認してもらうことも必要だ。そうすれば展望が見えてくるだろう。


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 講演動画「ルカシェンコの30年を経てベラルーシはどこへ向かうか?」をSRCのYouTubeチャンネルにアップしたので、ぜひご利用ください。


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 本日行う「ルカシェンコの30年を経てベラルーシはどこへ向かうか?」という講演に向け、準備しているところ。それに関連して、ちょっと面白いデータを見付けたので、紹介したい。

 反動化する一方のルカシェンコ体制下では、もはや自由な世論調査を大掛かりに実施したりはできない。そうした中、英国のチャタムハウスが、ベラルーシでのアンケート調査を細々と続けており、もはやベラルーシ国民の本音を垣間見る最後の手段のようになっている。

 今回私が注目したのは、2024年2月に実施されたアンケート調査で、貴方が最近「ベラルーシに生きていてよかった」と実感したのはどんな点か?と問うた設問の結果である。それをまとめたのが上図。ご覧のとおり、「戦争がない」という回答者が最多で、64%に上った。思うに、戦争アレルギーがどこよりも強いベラルーシにあっては、これは権力者と国民の社会契約のようなものであり、その最低限の合意を破ったら、いかに強権ルカシェンコといえども、国民に盛大に「ノー」を突き付けられそうである。以下、上位は「美しい自然」、「親切な国民」と続き、全然ルカシェンコの手柄ちゃうやんとなる。


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 最近ロシアの経済・社会で一番問題となっているバターの不足・高騰につき、ちょっと考えてみた。

 まず、基礎的な指標として、ロシアにおける各種基礎商品の輸入依存度をまとめた表を、上掲のとおりお目にかける。これを見てお分かりのとおり、総じて自給率が高いロシアながら、牛肉、乳製品という「牛さん関係」は輸入依存度が高く、3割前後に上っている。ただ、乳製品などはベラルーシから輸入している分が多く、その場合には実質的に国内生産と言って差し支えない(?)。

 なお、上表は2021年で更新が止まってしまっているが、確認したところ、ロシア統計局は2022年以降の当該指標を発表しなくなったようだ。食料安全保障にかかわる機微なデータということなのだろう。

 他方、ロシアは以前、EU諸国からかなりバターをはじめとする乳製品を輸入していた。しかし、2014年のクリミア併合で、欧米がロシアに経済制裁を科すと、ロシアはそれへの対抗制裁として欧米からの主要食品の輸入を禁止した。EUからのバターの輸入も止まり、ロシアはベラルーシと南米から輸入してしのいできたが、従来の主要供給国を切り捨てたことで、バターの輸入条件は悪化していたと言えるだろう。世界的にもバターは価格が上昇しているし、今般のようにルーブル安が加われば、ロシア国内市場が不安定化しやすい条件が整ってしまったのだろう。

 別の問題として、ロシアの場合、主要食品の自給率が一見高くても、それを生産するのに必要な原料や資材等を輸入に依存しているパターンがある。バターの場合は、7割が国産ということになっているが、原料となる生乳はかなり輸入している。したがって、国際的に生乳が不足したり価格上昇したりすれば、ルーブル安のロシアは苦しい。

 なお、先日テレビに出演した際に、「ロシアはバターの消費量が多いのか?」と訊かれ、さしたる根拠もなく「もちろんです」と答えてしまったのだが、その後改めてデータを確認してみた。こちらのサイトによると、ロシアにおける国民一人当たりの年間バター消費量は2.74kgで、世界36位ということだ。世界平均の1.55kg、日本の0.67kgよりはもちろん多いけれど、割と平凡な数字という気はする。他の私の関係国では、ベラルーシが4.44kgで18位、アゼルバイジャンが3.93kgで20位、モルドバが2.91kgで31位だった。


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 1月13日(月曜・祝日)にうちのセンターで、「かつての『新興国』のいまとこれから ―ラテンアメリカと中・東欧の2020年代の現状から考える」というワークショップを開催します。その中で私が、「ルカシェンコの30年を経てベラルーシはどこへ向かうか?」という報告をすることになりましたので、ご案内申し上げます。対面もありますが、リモートでの視聴も可能ですので、ご興味があればぜひ事前お申し込みをお願いします。


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 ちょっと変わり種の話題だが、こちらの記事によると、ベラルーシの独裁者A.ルカシェンコが、同国の最重要輸出商品であるカリ肥料に関し、(主にロシアとの)協調減産を提唱したということである。国営のベラルーシカリ社の社長に就任することになったA.ルィバコフ氏との面談の席で述べたもの。

 ルカシェンコは以下のように述べた。従来この課題を提起したことはなかったが、私は貴方に、生産量の問題を、特にロシアとの間で解決してほしい。鉱山労働者の仕事は楽ではないのに、カリ肥料が安すぎる。ロシアと話し合って、カリの生産量を10%、いや11%減らすべきだろう。市場に供給不足を起すというわけではないが、これが貴重な商品であり、それ相応の値段を支払う必要があることに誰もが気づくだろう。原価ぎりぎり、あるいは原価割れの価格で売るのは馬鹿げている。肝心なのは、人々が苦しまないようにすること、賃金が遅れなく支払われることである。国内市場では、カリ肥料、リン酸肥料、窒素肥料が、もうすぐ実質的に原価で販売され始めるかもしれない。ベラルーシの肥料は制裁を受けているからだ。それならば、それを食品に変えて、市場で販売しよう。つまり、食料の生産を拡大するのだ。ベラルーシの食品には、近隣市場でも、中国でも、外国で大きな需要がある。充分な量の肥料を投入し、農作物のより大きな収穫、さらには畜産のより大きな生産量を得て、それらを販売するのだ。ルカシェンコは以上のように語った。


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 ベラルーシで日本人が逮捕され、同氏が罪を自白し、「東京からのサムライの失敗」と題するドキュメンタリーまで作成された件。メディアから色々とコメントを求められているが、全部断ることにした。唯一、共同通信にはコメントを寄せたが、それは友人の小熊君の頼みだったので(笑)。他は、全部お断りすることにする。

 くだんのドキュメンタリーを一応観てみたが、だいたい予想どおりの雑なでっち上げという感想である。あまりに低レベルで、論評や分析にも値しない。拡散したくもないので、リンクも貼らないことにする。

 逮捕されてしまった日本人の方は、個人的に面識はないが、日本とベラルーシの間で何かビジネスはできないかと、模索されていたのだと思う。そうなると、中国企業の動きとかを視野に入れざるを得ず、中国の一帯一路政策、それとの関連で鉄道輸送などに関心を抱いたのではないか。ごく普通の好奇心にもとづき、鉄道や橋などの写真を撮った。それを根拠に、諜報活動だとのストーリーをベラルーシ当局にでっち上げられてしまったのではないかという気がする。

 今回の事件は、私にとって、あまりに生々しすぎる。余計なことを言えば、逮捕されたご本人、日本大使館などに迷惑がかかるかもしれない。そして、自分自身の身にも、何が起こるか分からない。

 大きな憤りを覚えるが、たちの悪い野良犬に噛まれたと思って諦めるしかない。騒ぎ立てず、忘れるのが一番ではないか。というわけで、本件についてのメディア対応はお断りする次第です。


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 こちらの記事が、ベラルーシと中国が自由貿易協定(FTA)を締結という見出しを掲げていて、驚いた。ベラルーシはロシア主導の経済同盟「ユーラシア経済連合」の一員であり、関税政策は同連合に委譲しているので、自国の判断で勝手に第三国とFTAを締結することなどできないからである。ところが、記事を読んでみると、これは商品ではなくサービス・投資分野のFTAということであり、それならば原理的に可能ではある。以下記事を抄訳しておく。

 ベラルーシと中国は、サービスと投資の自由貿易圏に関する協定を締結する。調印は、中国の李強首相がミンスクを公式訪問する際に行われる。最高権力者のルカシェンコによると、今回の訪問中に、両国は重要な分野における将来のパートナーシップの計画を強化する文書に署名する予定である。

 「そのうちのひとつは、間違いなく歴史的と呼べるもので、サービスと投資のための自由貿易圏の設立に関する合意だ。ベラルーシは、中国がこのような協定を結んだユーラシア経済連合で最初の国になる」と、ルカシェンコは発言した。

 ルカシェンコによれば、透明で予測可能なルールができるおかげで、ベラルーシの対中サービス輸出は今後5年間で少なくとも12~15%増加し、中国によるベラルーシへの投資は少なくとも30%増加するという。

 会談の中で、両国が「科学・技術・イノベーション協力年」(2024~2025年)を開始することが発表された。その成果は、両政府が最先端の分野で協力関係を発展させるためのロードマップになると確信していると、ルカシェンコは述べた。

 ルカシェンコはさらに、2030年までの中期的な両政府の中核的な課題を明確にし、ベラルーシに中国の技術が大量に流入することを実現することを提案する、ベラルーシの発展は、技術、イノベーション、質の高い人的資源に基づく中国の新たな生産力というコンセプトと連動していると指摘した。

 ルカシェンコによると、過去17年間に中国の支援を受けて、50億ドル以上に相当する27の戦略的産業プロジェクトがベラルーシで実施された。 30億ドルに相当する15の新たな戦略的投資プロジェクトが、中国のパートナーとともに積極的に検討されている、という。


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 戦争にもかかわらず、ほぼほぼ平常運転を続けるロシアの国民生活だが、しばらく前から表面化していた問題として、ガソリンと卵の品薄および値上がりがあった。このうち、卵に関しては昨年暮れにロシア政府がアゼルバイジャンとトルコから関税免除で緊急輸入することを決めたと報じられた。しかし、こちらの記事によると、実際にロシアへの卵供給量が最も多かったのは、ベラルーシだったようである。

 記事によると、2024年上半期に、ロシアはベラルーシ、アゼルバイジャン、トルコから4億4,770万個の卵を輸入した。うち、ベラルーシが3億6,300万個、アゼルバイジャンが4,650万個、トルコが3,820万個だった。ベラルーシからの輸入は、前年同期の2.4倍に上った。なお、卵の輸入関税は、アゼルバイジャンについては2023年11月から、トルコについては2023年12月29日から免除されている(ベラルーシとは関税同盟なので最初から輸入関税なし)。


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 ロシアの天然ガス輸出データを整理していたら、奇妙なことに気付いた。目下ロシアはヨーロッパ向けのガス輸出を急減させているが、上図に見るとおり、同盟国のベラルーシ向けにも2022年に減少に転じ、2023年には従来の水準からほぼ半減となっていたのである。ベラルーシのルカシェンコ体制は、以前はしばしばガス供給をめぐってロシアと対立していたものの、現在は完全にプーチンの軍門に下っており、現時点では政治的な理由でガス供給が削減されるとは考えられない。

 それで、考えてみれば、一つ重要な要因を思い出した。ベラルーシでは、同国初となる「ベラルーシ原発」が稼働し、それに伴い発電用のガス需要が大幅に低下すると言われていたのだ。どう考えても、上図に見るガス輸入の低下は、それに起因するものであろう。

 ベラルーシ原発に関する事実関係は、こちらのサイトに日本語で分かりやすくまとめてある。要約すれば、ベラルーシ原発1号機は2020年11月に国内送電網に初めて接続され、2021年6月に同国初の商業炉として営業運転を開始した。これにより、電力供給の大部分をロシアからの輸入天然ガスに依存する同国で、30億立米以上の天然ガス利用を削減できることになった。さらに、2号機も2023年3月に運転を開始した。

 そう言えば、以前「ロシア依存を軽減するはずが逆効果だったベラルーシ原発」というコラムを書いたことがあった。それにしても、ベラルーシ向けは低価格に設定されているので儲けは少ないとはいえ、ロシアがガスの売り先に困っている時に、肝心の同盟国までもがガス輸入を低下させるというのは、何とも微妙な状況である。


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 石油関連施設がウクライナから攻撃を受けたことなどで、ロシア国内の石油製品の供給体制にまた不安が持ち上がっている。そうした中、同盟国のベラルーシには2箇所の製油所があり、ベラルーシがロシアにガソリン等の燃料を供給する動きに注目が集まっている。この問題に関し、ベラルーシ側の専門家であるA.ハリトンチク氏がこちらのインタビュー記事で見解を述べているので、以下その発言要旨を整理しておく。

 最近ベラルーシがロシアに供給したとされる3,000tのガソリンなど、まったく微々たるものだ。ロシアでは毎週75万~80万tのガソリンが生産されているのである。

 ベラルーシの製油所で生産された石油製品は、年間600万tがベラルーシ国内に供給され、900万tが輸出される。それから比べても、3,000tはとるに足らない量である。

 これから増える可能性もあると言うが、第1に、少なくとも現時点では、ロシア側が特に必要としていない。ロシアにおけるガソリンの生産減は、たとえば3月18~24日の1週間で、前週比7%減にすぎなかった。しかも、すべてがウクライナのドローン攻撃による減産ではない。季節的要因や、プラントの計画的な修繕もあるだろう。

 ロシアはガソリンの10%を輸出していたが、3月から輸出を停止しており、国内市場で10%の不足が生じても、輸出していた分を回せば、自ら補える。

 現在の問題はむしろ輸送にある。被害を受けたロシアの製油所は欧州部に位置しており(元々ロシアの製油所が欧州部に偏重)、そこでの生産が縮小したということは、別の地域から原料を運んでこなければならない。ところが、中国との貨物が増えた関係で、鉄道では輸送キャパシティや貨車の不足が生じている。

 それではこうした状況でロシアがベラルーシからガソリンの供給を受けるのが有利かというと、ここでもやはり輸送の問題がある。ベラルーシも(欧州との対立で)たとえばカリ肥料にしても鉄道で中国向けの供給を増やしており、ロシア向けにガソリンを供給するための貨車を調達できるかという問題がある。

 もう一つ、価格の問題がある。現在ベラルーシの石油製品はロシアの港を経由してUAEまで運ばれ、そこから第三国に向かう。このスキームは、ロシアに供給するよりも収益性が高い。

 いずれにしてもベラルーシがロシア市場を埋めるのは物理的に無理である。ロシアは年間4,500万tのガソリンを生産する。一方、ベラルーシの製油所は昨年、1,600万tの石油を精製し、1,500万tの石油製品を生産し、うち850万~900万tを輸出したと見られる。フル操業なら2,400万tを精製でき、国内消費分を除けば、1,500万~1,600万tの石油製品(ガソリンだけではない)の輸出余力がある。

 そのすべてをロシアに向けるためには、当然価格に合意する必要がある。しかし、それは理論上の可能性にすぎない。結局のところ、肝心なのは輸送だからだ。そして、輸送はロシアとベラルーシの双方にとって深刻な問題である。


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 HP更新しました。マンスリーエッセイ「あれから20年:そろそろ単著を書かないとヤバい」です。よかったらご笑覧ください。


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 Geelyブランドで知られる中国の吉利汽車は、ベラルーシのミンスク近郊に合弁工場「ベルジー」を建設し、ジーリーブランド車の現地生産を行っている。その2023年の活動実績がこちらで伝えられたので、整理しておく。

 以前当ブログでお伝えしたとおり、ベルジーの乗用車生産台数は、2021年は約3万台、2022年は24,833台であった。それが、今回の記事によると、2023年には67,800台が生産されたということなので、前年の2.7倍程度に増えたことになろう。

 今回の記事によると、生産された67,800台のうち、52,000台がロシアに輸出された。生産の77%ほどがロシア向けだったということになる。一方、ベラルーシ国内の乗用車販売市場に占めるベルジーのシェアは、2022年の31.7%から、2023年には82.6%に高まった。


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 2023年のロシアで社会を悩ませた卵騒動。これまでロシアは国産に加えて、主にEUとベラルーシから卵を輸入してきた。統計が不完全なので推測が混じるが、2023年に卵の不足が生じたのは、EUからの輸入に異変が生じたからではなかったのだろうか。その結果、ベラルーシ一国に頼るようになり、供給量が充分でなくなったのではないかという気がする。

 2023年のロシアにおける鶏卵の国内生産は381億個で、前年比1.8%増だった。統計に不備があり判然としないのだが、ロシアは年間だいたい6億~7億個くらいの卵を輸入していたのではないかと思う。

 こちらの記事によると、2023年にロシアはベラルーシから5億1,080万個の鶏卵を輸入した。アゼルバイジャンからの輸入が2023年11月に決定され、12月後半に入荷。トルコからも無関税での輸入が決まった。

 2024年に入ってからは、1月26日現在で計6,070万個の鶏卵が輸入され、うちベラルーシが5,400万個、450万個がアゼルバイジャン、220万個がトルコとなっている。輸入はこの3国からのみである。1月の輸入はすでに前年同月の数字から倍増している。小売価格も沈静化しつつある。


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 こちらのサイトで伝えられているとおり、12月25日、ロシア主導のユーラシア経済連合および加盟5ヵ国は、イランとの自由貿易協定(FTA)に調印した。

 ただ、サイトの情報によると、25日にペテルブルグに署名のために集まったのは、国家元首や首相ではなく、ユーラシア経済委員会こそ事務方トップのM.ミャスニコヴィチ委員長だったが、ユーラシア側の5ヵ国は副首相クラスだった。イランに至っては、産業・鉱業・商業大臣だった。そんなに高い意義付けではないことを申し合わせていたような感じだ。

 実は、ユーラシア経済連合とイランの間では、2019年から暫定FTAが発効していた。その効果もあり、両者間の貿易は2019年の往復24億ドルから2022年の62億ドルへと拡大していた経緯がある。ただし、これはあくまでも暫定FTAで、対象となるのは一部の農産物・鉱工業製品に限られた。

 それに対し、今回は全面的なFTAが調印されたわけである。ミャスニコヴィチ委員長によれば、今回のFTAでは品目表の90%が網羅され、貿易取引の95%がその対象となる。


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 ロシアから欧州方面に伸びる石油パイプライン「ドルージバ」は、上掲地図に見るとおり、ベラルーシ領で南支線と北支線に分かれる。なお、ベラルーシ領での輸送を管理しているのが、ゴメリトランスネフチ・ドルージバという会社である。こちらの記事が、ベラルーシ領の通過料金についての動きを報じているので、以下まとめておく。

 記事によると、このほどゴメリトランスネフチ・ドルージバは、ロシア側のトランスネフチと、南支線の輸送料金を2月1日から10.2%引き上げることで合意した(注:記事には明記されていないが、1t当たり188ルーブル程度になると見られる)。ベラルーシ側は夏頃には1.8倍もの値上げを要求していたが、徐々に要求を引き下げ、今回の合意に至った。

 北支線に関しては、EU側の制裁でロシア産原油の輸送は停止されており、カザフスタン産の輸送に利用されている。そして、北支線の輸送料金を43%引き上げ、1t当たり653.8ルーブルとすることをベラルーシは要求している。今後の交渉に委ねられるが、カザフ側は反発している。

 ベラルーシが頻繁に料金の値上げを要求していることから、ベラルーシ・ルートの輸送は今後伸びそうにないと、専門家らは指摘している。


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 こちらこちらこちらなどが伝えるところによると、EU理事会は11月27日、2024~2026年の魚介類原料の輸入にかかわる自主関税割当(Autonomous Tariff Quotas=ATQs)の方針を決定した。これにより、ロシアからの輸入が同制度の適用外になり、代表的なスケトウダラをはじめ、ロシアからの加工用魚介類の輸入関税率は、これまで0%だったものが、2024年の年初から13.7%に引き上げられる。

 これは、一連の対ロシア制裁パッケージとは若干位置付けが異なる。要するに、EUとしても域内の漁業は大事にしたく、外から入ってくる魚介類には普通に関税を課したいが、EUの自給率はしょせん限られているので(現状では39%止まりの由)、EU域内での加工産業に必要な魚介類原料の輸入は、特例的に無税にしようよ、という趣旨である(当然、域内の漁業者はこの措置に不満)。なので、すべての魚介類が対象ではなく、あくまでもEUの加工産業の原料になるものだけが対象で、完成品の魚製品は対象外となる。

 つまり、特例と言っても、域内の食品加工業に配慮したものであって、輸出する側の国を優遇するという意味合いではない。実際、これまではロシアもその対象に加えられていたものの、さすがにこのご時世でロシアから同スキームで輸入するのは問題と認識され、今回ロシアを除外することになったというのが真相である。なお、ベラルーシもロシアと同時に除外された。


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 ベラルーシにとって、ロシアから輸入した原油を国内2か所の製油所で精製して外国に輸出するビジネスは、ドル箱産業であった。その近況、特にロシアとの関係に関し、目に留まったいくつかの情報を整理しておく。

 6月に出たこちらの記事では、ベラルーシのD.クルトイ駐ロシア大使が、両国の経済関係についてインタビューに応じている。この中で対しは、ベラルーシにとってロシアは決して伝統的な石油製品輸出国ではなかったが、今年になってロシアへの供給を本格化しており、例年のベラルーシの輸出総量が600万~700万tであるところ、今年のロシア向けの輸出は100万tに達するかもしれず、これは前例のないことだと語っている。しかし、私の知る限り、例年のベラルーシの輸出総量が間違っているし、ベラルーシは時期により増減はあったがこれまでもロシア市場に供給してきたはずだ。

 8月のこちらの記事では、燃料の補助金にまつわる問題が触れられている。背景として理解すべきは、ロシアの石油精製部門には「ダンパー」という補助金制度があり、これによりガソリンと軽油の国際価格と国内価格のギャップを調整していることである。しかし、上記の記事によると、いくらベラルーシが統合相手だからと言って、ベラルーシ産の燃料は「外国産」として、この補助金の対象にならなかった。そこで、2022年9月より、ロシアのプロムスィリヨインポルト社がベラルーシ産の燃料を買い上げ、それをサンクトペテルブルグ国際商品・原料取引所で売却することによって、補助金受給を可能にするというスキームが編み出された。ところが、ロシアで今年9月から補助金額が半減されたことで、ベラルーシの燃料を取引所で販売する旨味が薄れ、今後はベラルーシ産が出回らなくなる可能性があるという。ベラルーシ産の比率は決して大きくないが、ペテルブルグでは一定のシェアもあり、ベラルーシ産が消えることになると、価格面で影響してくると、記事では述べられている。

 最新のこちらの記事は、ロシアの石油税制改革に伴い、ベラルーシに支払われる補償金について伝えている。ロシアでは、石油の輸出関税を段階的に廃止し、地下資源採掘税にシフトする税制改革が進められてきた。ベラルーシはロシアの統合パートナーなので、もともと石油輸出関税なしでロシアの原油を輸入でき、他国に比べ有利だったわけだが、この税制改革が完了すると、そのアドバンテージが消えてしまう。そこで、ベラルーシが散々ゴネまくって、昨年のロシア・ベラルーシ財務省間の間接税共通化に関する協定により、ベラルーシの石油精製業者もロシアのそれと同等に逆物品税という形で補償金を得られることになった。今回の記事によると、これによりベラルーシの国庫に入る資金は2023年に17億ベラルーシ・ルーブルで、2024年の予算案では21億ベラルーシ・ルーブルに上るという。ただし、それは石油価格次第であると、記事では指摘している。


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 先日、「ルカシェンコが作り出した中東系移民・難民問題は今?」というエントリーをお届けした。そうしたところ、こちらの記事で、興味深い関連情報が伝えられていたので、これを取り上げておきたい。

 とくに、上掲のように、移民・難民の具体的な数をグラフにしたような資料は、個人的に今まで見たことなかった。これは、ベラルーシ・EU国境を突破しようとした移民・難民の週ごとの数を示しており、見づらいが、一番左が7月1~7日、一番右が9月18~24日である。一番下の紫がラトビア、真ん中の赤っぽいところがリトアニア、上の青っぽいところがポーランドを示している。関係がありそうな出来事も上部に示されている。こうやって見ると、不法移民は毎週1,000人前後に上っており(同じ人が何度もトライしたりするのだろうか?)、ちょっと沈静化したとは言えない気もしてきた。行き先がポーランドからラトビアにシフトしているのは、前回紹介したとおりだ。結局ラトビアは9月18日にウルバヌィ・シレネの国境通過ポイントを閉鎖したということである。

 今回の記事では、G.コルシュノフという有識者が、次のように指摘している。ベラルーシは移民危機を演出するに当たって、相手国ごとに対応を変えている。ルカシェンコ体制は、ポーランドおよびバルト諸国による共同戦線を、それほど強固なものと受け止めておらず、それぞれ個別の主体と捉えている。ポーランドの強硬姿勢は国内向けのものと見切り、同国とは慎重に和解の道を探っている。リトアニアとの関係はより複雑であり、現状は「中立化の努力」と言える。同国との関係では移民カードは使い果たし、かといって他のネタもない。ラトビアとの関係では、同国に期待するところもなければ、逆に懸念するところもないので、特に同国に働きかけようとはしていない。現在移民の矛先をラトビアに向けているのは、単に消去法的な選択である。コルシュノフは以上のように指摘した。


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 2年前に世間を騒がせた、中東系移民・難民がベラルーシの対EU国境に殺到した問題。その後、あれはどうなったのだろうか? こちらの記事の中でが、A.フリードマンという専門家が最新の動きを語っているので、同氏の発言要旨を以下整理しておく。なお、上図はこちらのサイトから拝借したもので、ベラルーシと近隣諸国の国境通過地点を示している。

 ルカシェンコの仕掛けた移民・難民問題は、当初の対リトアニア、ポーランド国境から、現在は対ラトビア国境に焦点が移っている。ベラルーシ・ラトビア間には2箇所の国境通過ポイントがあるが、ラトビアではそのうちの1箇所であるウルバヌィ・シレネ通過ポイントを閉鎖するという議論が持ち上がっている(上掲地図の21番)。

 現時点では、対ポーランド、リトアニア国境では情勢が安定しており、リトアニアでは対ベラルーシ国境を閉鎖する必要はないと示唆しているほどである。ルカシェンコ体制としては、こうした2国との関係を荒立てるよりは、移民たちをラトビアに向かわせ、ラトビアの出方、同国がポーランド・リトアニアとどこまで連帯しているかを見極めようとしている。

 他方で、現時点で一定数の移民たちがまだベラルーシに留まり、ルカシェンコ体制としてはこれをどうにかして片付けなければならない。そこで、これまでは主流ではなく、最も対応が弱いラトビアに向けているという面がある。

 その結果として、ラトビアが2つの国境通過ポイントのうち1つを閉鎖することになるかもしれないが、ベラルーシにとりその痛手は大したものではなく、それくらいで済めばむしろラッキーと言える。

 現在は、仮にルカシェンコ体制が移民・難民危機を再び演出しようとしても、移住希望者をリクルートする可能性が低下している。2021年には、たまたまクルド情勢がルカシェンコに味方した形だったが、現在はそのようなリクルート適地はない。

 ルカシェンコ体制は、再び大規模な移民・難民危機を起せば、EUから国境を閉鎖されたり、ロシアと同等の制裁を科せられたりといったリスクがあることを、よく分かっている。体制は、ロシアをめぐる危機に巻き込まれることを望んでいないように思える。


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 久し振りに雑誌『世界』に書かせていただきました。本日8月8日発行の2023年9月号に、「『プリゴジンの乱』後のワグネル ―ベラルーシが安住の地に?」を寄稿したものです。雑誌の一番冒頭の「世界の潮」というコーナーに載っているようで、ちと照れますね。


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 Wedge ONLINEに、「ワグネルで息を吹き返すベラルーシ 次なる触手は」を寄稿しました。無料でお読みになれますので、ぜひご利用ください。


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