
こちらの記事が伝えているとおり、3月18日にプーチンがトランプと電話会談する前に、プーチンはロシア産業家・企業家同盟の総会に出席し、その席でウクライナ戦争についても言及したということである。プーチンは、ロシアが達成したもの、すなわちクリミア、セヴァストーポリ市、ルガンスク人民共和国、ドネツク人民共和国、ザポロジエ州、ヘルソン州をロシアから奪うことはできず、それらがロシア連邦の領土であることを認めるべきだとした上で、もしその承認が近いうちになされるのであれば、ロシアはオデーサその他の現在ウクライナに属している地域を要求することはしない旨述べたということである。
そもそも、オデーサをはじめ、ロシアが占領すらしていない地域に対し潜在的に権利を有するかのような発言がイカレているが、問題は今回のプーチン発言をどう捉えるかである。ロシアの報道振りでは、「オデーサまで攻め込むつもりはない」と、ロシアの「善意」を強調したものが目立つ。他方、反政府派のモスクワタイムズはむしろ、こちらの記事で、もしもウクライナ側が一連の占領地のロシアによる編入を飲まなければ、ロシアはオデーサにまで攻め入るというニュアンスで捉えている。
私自身も、モスクワタイムズの受け止め方に近い。停戦の機運が出てきたとはいえ、現時点でウクライナのゼレンスキー大統領が占領地の全面的な割譲に応じるのはあまりにハードルが高く、ロシア側もそのことは見透かしているだろう。しかも、おそらくロシアは、ウクライナ東部・南部の4地域につき、実際に占領しているエリアだけでなく、ウクライナ側が保持できているエリアもロシアへの編入を要求し、わざと飲めないような厳しい条件を突き付けるのではないか。そうすると、「ウクライナが条件に応じないから停戦できない」と称し、あたかもロシア側にオデーサに攻め入る大義名分が生じたかのような立場をとるのではないか。ロシアとしては、万が一ウクライナ側が「4地域の編入を認める」と回答して来たらそれでよし、断ってきてもそれを理由にさらに攻撃を続けられるのでそれもよしということではないだろうか。
もちろん、ロシアとしては今すぐに地上部隊をミコライウ州やオデーサ州にまわす余裕はないだろうし、ウクライナの攻撃で黒海艦隊の揚陸艦を失っていることからも、オデーサ攻略は難易度が高い。しかし、以下のようなことから考えて、プーチンがオデーサ州を諦めたとは、個人的に思えないのである。
- オデーサ一帯はプーチンも尊敬する女帝エカテリーナ2世が獲得した領土で、その思い入れが強い。
- オデーサは、言語的にはロシア語圏(現実には、だからといって、現地住民のロシアへの親近感が特に強いわけではないのだが…)。プーチンは2023年12月に「オデーサは完全にロシア人の街だ」と発言した。
- 2014年にオデーサで親露派多数が労働組合会館で焼き殺された事件は、プーチンが主張している「ウクライナ=ネオナチ」のエビデンスとされており、ロシア側は同事件の首謀者を捕らえ裁くとしている。
- ウクライナがオデーサの港を失い、内陸国になってしまえば、食料や鉄鋼・鉄鉱石の輸出もままならなくなり、ウクライナを経済的に弱体化させられる。
- 逆にロシアは港と(日本人から見るとしょぼいが)ビーチを手に入れられる。
- ウクライナが海への出口を失えば、ロシア黒海艦隊への脅威もなくなり、活動範囲を広げられる。
- オデーサ一帯を支配できれば、ロシアはモルドバにも直接的に軍事的圧力を行使できる。
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