ユーラシアリサーチ 服部倫卓ブログ

ロシア・ウクライナ・ベラルーシを中心に旧ソ連諸国の経済・政治情報をお届け

カテゴリ: ウクライナ

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 ウクライナの経済戦略センターというところが、同国の最新の経済情勢を詳しい図解入りで伝えてくれるのが大変有難いのだけど、その中でも個人的にいつもチェックしているのが上で転載させていただいた食料輸出の月別データである。ウクライナからの穀物および植物油の輸出が、ウクライナの黒海港湾(濃い青)、ドナウ川港湾(薄い青)、鉄道(薄い緑)、トラック(濃い緑)というどの手段で行われているかを示している。

 それで、当ブログでは再三お伝えしているとおり、黒海海運が麻痺し、ロシアもウクライナも自国の輸出貨物を自国の黒海港湾から満足に積み出せない状況となっている。なので、8月のウクライナの食料輸出の数字は相当厳しいものになるぞと注視していたのだが、今般そのデータが示された。8月は、黒海港湾がわずか10万t、ドナウ川港湾が70万t、鉄道が50万t、トラックが10万tに留まり、計130万tということである。これは本当に深刻だ。


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 上掲の動画は、ウクライナの公共放送「ススピーリネ(Суспільне)」ドニプロ支局による報道番組で、2023年6月のカホフカ水力発電所ダム破壊によって消滅したカホフカ貯水池を、戦後に再建すべきか、それとも自然環境の回復が進む「大ルーフ(Великий Луг)」を保全すべきかという論争を取り上げている。主な内容を以下のとおり整理しておく。

 2023年6月6日、ロシア軍によるものと疑われるカホフカ水力発電所のダム破壊で、巨大なカホフカ貯水池が消滅した。それから3年以上が経過した2026年現在、かつての貯水池の底には若い森林や草地が広がり、歴史的な湿地帯「大ルーフ」の自然環境が急速に回復しつつある。こうした中、9月19日、ドニプロペトロウシク州議会議長のミコラ・ルカシュークが、戦後の貯水池再建を支持する意見をSNSに投稿し、論争が再燃した。ルカシュークは、大ルーフが歴史やコサックの伝承、環境保護プロジェクトの中では魅力的な存在であっても、現代の地域経済を支えているのは都市、工場、農業であると指摘する。ニコポリ地区とクリヴィーリフ地区だけでも100万人以上が暮らしており、安定した水源がなければ農業生産、雇用、地方財政が脅かされるとして、戦後復興計画に貯水池の再建を盛り込むよう求めた。

 ダム破壊当時、ニコポリ地区の行政責任者を務めていたイェウヘン・イェウトゥシェンコも再建を支持する。同氏によると、かつてニコポリ地区では約2万7,000haの農地が貯水池の水を利用して灌漑されていた。しかし、ダム破壊後は灌漑ができなくなり、収穫量が減少した。その結果、農家の収入や納税額が減少し、雇用削減にもつながっている。また、地域の多くの住民は家庭菜園、果樹栽培、ベリー類の生産などによって収入を得ていたが、これらの活動も水不足によって打撃を受けた。 工業部門でも、水不足が企業活動を制約している。ロシア軍による砲撃が続く中、水の確保が困難になったことで、企業が他地域に移転する危険性も高まっている。さらに、貯水池は重要な水上輸送路でもあった。現在もドニプロ川の本来の河道は残っているものの、幅が狭く、従来のような貨物輸送には適していない。道路や鉄道への負担が増しているが、これらの輸送手段だけでは従来の水運貨物量を代替できない。イェウトゥシェンコは、現在の河道では地域の発展に必要な水量を確保できないと主張する。

 ニコポリ地区で30年以上農業に従事するヴォロディミル・イェウトゥシェンコは、ダム破壊後、干ばつによって収穫量が数分の一に減少したと訴える。同地区はもともと気候が不安定な地域であるが、貯水池が消滅してから水不足が一層深刻になったという。同氏は、巨大な貯水池が存在していた頃には周辺の水分環境にも影響を与えていたと考えている。現在は周辺地域に雨が降っても、ニコポリ地区だけ降水が極端に少ないことがある。作物の生育に必要な月20~30mmの降水量が確保できず、3~55mm程度しか降らないこともあるという。節水技術としての点滴灌漑についても、水の使用効率を改善することはできても、水そのものを生み出すことはできないと指摘する。地域の地下水は灌漑に適しておらず、淡水を安定的に確保する必要がある。

 これに対し、環境学者のヴァディム・マニュークは、貯水池の再建に強く反対する。大ルーフは、カホフカ貯水池の建設以前に存在していたドニプロ川流域の広大な湿地帯であり、春の増水によって水が流入し、夏にも湿地に水が残るという自然の循環を持っていた。この仕組みが地域の気候を調整し、豊かな生物多様性を支えていた。現在、かつての貯水池の底では、草地、ヤナギを中心とする若い森林、水域などが急速に回復している。野生動物の回復も顕著である。さまざまな小鳥類に加え、ペリカンが2025年から確認されるようになり、2026年にはニコポリからバゾウルクにかけて定期的に観察されるようになった。チョウザメの生息を示す情報もあり、キツネやノウサギなどの哺乳類も増加している。軍用ドローンによる映像も、野生動物の回復を裏付けているという。マニュークによれば、貯水池が消滅したことで、ドニプロ川は本来の流れを取り戻した。流速が速くなった結果、河川の自然浄化能力も回復している。同氏は、こうした湿地帯がもたらす生態系サービスは、経済的な価値を含めて、ダムの再建による利益を上回ると主張する。

 ドニプロ・オリシリ自然保護区の研究員、オレクサンドル・ポノマレンコも、かつての貯水池を自然保護区として活用するよう提案する。ドニプロペトロウシク州では、土地の78%が耕地として利用されている。残る22%にも都市、道路、送電線などのインフラが含まれるため、自然のまま残されている土地は極めて少ない。こうした地域で、約20万haもの土地を自然保護の対象とすることができれば、非常に大きな意義がある。ウクライナには、これほど広大な自然保護区域はほとんど存在しないという。ポノマレンコは、これほど農業開発が進んだ地域で、自然保護区を設ける機会を逃すべきではないと主張する。

 マニュークは、貯水池を再建しなくても、地域の雇用や経済を維持・発展させることは可能だと考えている。具体的には、大ルーフの自然環境を利用した観光、湿地帯を巡るツアー、水上交通関連サービス、土産品の販売などが考えられる。こうした観光・レクリエーション産業は、適切に計画すれば、ダム再建よりも多くの雇用を生み出し、数十年にわたって持続的な収入源となり得るという。 また、科学者たちは、水供給の問題と貯水池再建の問題を切り離して考える必要があると主張する。 地域の水需要には、近代的な取水設備、節水型灌漑、小規模な貯水施設などを組み合わせることで対応できるとする。

 ドニプロペトロウシク州の復興・インフラ開発局長、オレクサンドル・コロミイツェウは、ダム破壊後に建設された新しい水道管について説明する。ダム破壊によってニコポリ地区の住民は集中水道を失ったが、政府は特例措置を講じ、新たな水道管の建設を迅速に進めた。新しい水道システムは、ザポリージャ市付近から取水し、ニコポリ、マルハネツ、ポクロウ、ミロヴェ、トマキウカなどに水を供給するものである。長期使用を前提とする近代的な設備であり、都市住民だけでなく、工業用水の需要も考慮して設計された。コロミイツェウによれば、この水道システムによって、現在の対象地域の水需要は十分に満たされている。

 ダム破壊直後、地域住民は深刻な水不足に直面した。ある住民は、川まで容器を持って水をくみに行かなければならず、汚れた水しか手に入らなかったと振り返る。水道が復旧するまで半年ほどかかった地域もあった。しかし、現在は生活用水の供給が改善している。住民の一人は、井戸にポンプを設置したことで、家畜の世話や家庭菜園などに必要な水は確保できるようになったと話す。飲料水は別途運搬されてくるものの、日常生活に必要な水は足りているという。

 カホフカダムの破壊によって、ウクライナは2つの異なる将来像の選択を迫られている。一つは、貯水池と水力発電所を再建し、従来の灌漑農業、工業、水上輸送を基盤とする地域経済を復活させる道である。もう一つは、自然に回復しつつある大ルーフの生態系を保全し、新たな自然保護区や観光資源として活用する道である。マニュークは、この選択は単に一つの水力発電施設を再建するかどうかという問題にとどまらないと強調する。戦後のウクライナが、破壊されたものを従来どおりに復旧するのか、それとも新たな価値観に基づいて地域の将来像を描くのかを示す重要な事例となる。


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 こちらの記事が、ロシアの攻撃による大オデーサ港の輸出停止で、ウクライナの食料輸出が滞っており、ウクライナ農業の資金繰りから次期作付けにまで波及しつつあることを論じている。以下で記事を抄訳しておく。

 ロシアの攻撃によって大オデーサ港(オデーサ、チョルノモルシク、ピウデンヌィの総称)からの農産物輸出が停止してから約1カ月半が経過した。政府はドナウ川と鉄道への貨物振替を進めたが、代替できたのは一部にとどまる。9月最初の20日間の輸出は潜在的な輸送量の44%まで回復したものの、8月は30%だった。

 輸送ルートが長く高価になった一方、国内の農産物買付価格は下落している。収穫が続いて倉庫が埋まるなか、農家には秋播き用の種子、肥料、燃料を購入する資金が必要となっている。秋の作付けだけで約2,000億フリヴニャ、半年後の春にはさらに3,000億フリヴニャ以上が必要になる。

 本来、その相当部分を現在の収穫物の販売によって調達するはずだった。資金や貯蔵能力に余裕がなければ価格回復まで販売を待つことも難しい。現在の輸出制約が続けば、冬作物の作付面積は100万ha以上減少し、とりわけ小麦が大きな影響を受ける可能性がある。

 大オデーサ3港からの穀物積出量は、7月の221万tから8月には19万4,000tへ激減した。同じ期間にドナウ川港湾の積出量は19万8,000tから67万5,000tへ増加したが、大オデーサで失われた積出量の4分の1弱しか補えなかった。8月の農産物輸出通関量全体も7月の367万tから215万tへ減少し、特に穀物が98万8,000tまで落ち込んだ。逆に油糧種子は8万8,500tから32万9,500tへ増えた。

 代替ルートの中心はドナウ川と鉄道である。現在の輸送能力は必要量の44%程度で、月間約500万tを輸出する必要があるのに対し、約200万tしか運べない。条件が良くても代替ルートで処理できるのは約250万t、必要量の半分程度である。ルーマニア方面への輸送は急増しており、主要国境通過地点の農産物輸送量は7月の12.5万tから8月には71.7万tとなった。イズマイル経由は9.9万tから43.1万t、レニ経由は0.3万tから13.3万tへ増えた。ポーランド、ハンガリー方面も36.4万tから59.2万tへ増加した。

 ルーマニアのコンスタンツァ港へはモルドバ経由でもウクライナ産穀物が運ばれている。8月17日から9月5日までに、一つの鉄道路線だけで小麦、大麦、菜種約3.5万t、約500貨車が輸送された。しかし代替ルートで輸出できているのは、穀物では潜在輸出量の35%にすぎない。油糧種子と植物油では66%に達する。トン当たり価格の高い商品ほど追加輸送費を吸収しやすいためである。菜種なら近隣のEU市場へ輸出できるが、北アフリカ向け穀物の場合には、ドナウ川あるいはポーランド経由でバルト海まで運んだ後、さらに海上輸送が必要となる。9月最初の21日間の輸出計画達成率は、油糧種子75%、植物油55%、ミール41%、穀物38%だった。

 輸出封鎖によって世界市場価格とウクライナ国内価格の連動が切れた。国外では穀物価格が上昇する一方、ウクライナ国内の買付価格は下落した。9月初めにはその価格差が、小麦で1t136ドル、大麦100ドル、トウモロコシ67ドルに達した。小麦の国内指標価格は7月初めから9月10日までに35%下落した。ポーランド・グダニスクまでの輸送費は1t90~110ドルで、農場が西部国境から離れていればさらに5~10ドル増える。イズマイル~コンスタンツァ経由では、積み替えとルーマニアからの海上運賃を合わせて125~135ドルに達する。

 エジプトの買い手が小麦1tに300ドルを支払う場合、大オデーサ港が機能していた時にはオデーサからの海上運賃は約20ドルだった。しかし現在ではドナウ川からエジプトまでの海上輸送部分だけで100ドル近くになる。そこから港までの国内輸送、積み替え、保険、トレーダーの経費などを差し引くと、農家に提示できる価格は1t約130ドルまで低下する。輸送費そのものはトレーダーが支払うが、そのコストは農家への買付価格に転嫁される。小麦1tの生産費が7,500~9,000フリヴニャなのに対し、販売価格は最高でも6,000フリヴニャ程度で、損失が1t4,000フリヴニャに達する場合もある。それでもヒマワリ種子など新たな収穫物を入れる倉庫を空けるため、赤字を承知で小麦を売らざるを得ない農家がある。特に脆弱なのは、ドナウ川や西部国境から遠い小規模農家と一部の中規模農家である。

 ドナウ川でも水先案内人不足、低水位、船舶の待機列が問題となっており、船舶の停泊コストは1日1万ドルに達する場合がある。ルーマニアのターミナルは自国や第三国の貨物も扱っており、船舶の待機が貨車やエレベーターの滞留を引き起こし、ウクライナ国内の貯蔵施設が新しい収穫物を受け入れられないという連鎖も生じている。

 政府が設定する農産物の最低輸出価格も問題を複雑化させている。市場価格に応じて毎月改定されるが、9月には一部商品で実際に外国の買い手が提示する価格を上回った。トウモロコシの最低輸出価格は1t195ドルだったのに対し、ドナウ川港での提示価格は170ドルだった。ヒマワリ油も最低価格1,350ドルに対して市場価格は1,125ドル、ヒマワリ種子も最低価格671ドルに対してブルガリア、ルーマニアの買い手は最大570ドルしか提示しなかった。政府は10~12月の最低価格算定に引き下げ係数を導入する方向で調整している。

 大豆と菜種にはさらに10%の輸出関税がかかる。生産者自身が輸出する場合には一定の条件で免除されるが、トレーダーに販売すれば関税がトレーダーのコストとなり、買付価格に反映される。農業団体は、関税を撤廃すれば、トレーダーが節約分を農家に還元する限り、買付価格を最大10%引き上げられるとみている。最高会議には油糧種子の輸出関税を一時停止する2つの法案が提出されている。

 一方、油脂加工業界は撤廃に強く反対している。輸送能力が不足している以上、海外に輸出すべきなのは油脂やミールであり、原料となる種子は国内加工工場に残すべきだと主張する。2026年の油糧種子収穫量は2,000万t、そのうち1,570万tが国内で加工される見通しである。関税を撤廃すれば農家には新たな販売先が生まれるが、国内加工業者は輸出業者との原料獲得競争にさらされ、一部工場が操業できなくなる可能性がある。

 輸出制約、高額な物流費、国内価格の低下、最低輸出価格制度が重なり、秋播きを前に農家の手元資金が不足している。秋の農作業には約2,000億フリヴニャ、春にはさらに3,000億フリヴニャ以上が必要となる。政府は融資によって資金不足を補おうとしている。「5-7-9%」制度では年利10%で融資を受けられ、1企業当たりの上限も9,000万フリヴニャに引き上げられた。穀物を担保として評価する際の掛け目も0.4から0.75へ引き上げられ、融資期間も12カ月から18カ月へ延長された。しかし港湾問題の発生後に農業部門が調達した融資は210億フリヴニャ、そのうち「5-7-9%」によるものは63億フリヴニャにすぎず、秋の農作業だけで必要な金額にも遠く及ばない。銀行側も価格下落と換金の難しさから、穀物を担保に取ることに消極的である。

 融資を受ければ当面の種子や肥料などを購入できるが、春には穀物販売収入から返済しなければならない。輸出が正常化せず国内価格も低迷すれば、問題を先送りするだけになる。肥料1tは約4万フリヴニャであり、それを購入するためには、現在の5,000~6,000フリヴニャという価格では小麦を7~8t売らなければならない。このため肥料や種子への投入を削減する農家や、一部の農地を作付けしない農家が出る可能性がある。

 冬作物の作付面積は100万ha以上減少する可能性があり、最大の影響を受けるのは小麦である。2026年の平均単収4.95t/haで計算すれば、100万haは約500万tの小麦に相当する。2025年の小麦収穫量が2,300万tだったことから、年間収穫量の約5分の1に相当する規模となる。さらに春には1,600万haの春播き作物に3,000億フリヴニャ以上が必要になる。海港の操業が回復したとしても、穀物輸出能力は月450万t程度で、必要な約600万tを下回る。現在の収穫物を正常に輸出して販売収入に変えられる状態が戻らない限り、融資は農家に「時間を買う」だけにとどまる。


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 「世界経済に忍び寄る『黒海海運』麻痺のダメージ」と題するエキスパートトピを書きましたので、ぜひご覧ください。



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 こちらの記事が、ウクライナ鉄鋼業がかつてない危機に直面していることを伝えているので、主な内容を以下のとおり整理しておく。

 ウクライナ最大の鉄鋼会社アルセロールミタル・クリヴィーリフは9月25日、ロシアによる工場への攻撃が激化する中、鉄鋼生産を再開できないと表明した。ウクライナの鉄鋼業界は、産業全体の崩壊を防ぐため、政府および国外のパートナーに大幅な支援強化を求めている。

 ロシアは夏以降、ウクライナの主要産業拠点を機能停止に追い込むことを狙った広範な攻撃を展開している。2025年にGDPの7%を占め、数万人を雇用していた冶金部門はその主要な標的となり、8月以降だけで少なくとも9回の弾道ミサイル攻撃を受けた。最近の攻撃による鉄鋼メーカーの損失は1億ドル近くに達すると推定されている。2022年にマリウポリのアゾフスターリおよびイリチ製鉄所がロシア軍に占領・破壊され、国内鉄鋼生産能力の40%が失われたが、2026年はそれ以降で最悪の年となっている。ロシア軍は高炉など重要設備を狙って精密攻撃を行い、銑鉄生産を不可能にしている。メトインヴェスト、インテルパイプ、アルセロールミタルいう主要3社はいずれも鉄鋼生産を停止している。

 問題は製鉄所への直接攻撃だけではない。ロシアの攻撃によって黒海の港湾が機能停止し、海上輸送による輸出入が困難になっている。同時に、EUが6月に導入した新たな通商措置によってウクライナ製品のEU市場へのアクセスが制約され、さらに欧州の脱炭素政策によって輸出コストも上昇している。加えて、一部の大手はオリガルヒ所有であるため、国際金融機関の支援対象になりにくい。海上輸送の代わりとなる陸上輸送は非常に高価であり、企業が毎月数千万ドル規模の損失を出している状況では大きな負担となっている。鉄鋼業が崩壊すれば影響は製鉄所だけにとどまらない。建設業界はより高価な欧州製鉄鋼を輸入せざるを得なくなり、建設費と物価を押し上げ、最終的には戦後復興のコストまで増大する可能性がある。

 欧州議会議員カリン・カールスブロは、EUがウクライナを支援するどころか、その鉄鋼業を弱体化させていると批判している。春にウクライナの製鉄所を視察した同議員は、EUに対して通商政策を早急に見直し、6月に導入した関税制度からウクライナを除外するよう求めている。ウクライナの防衛能力を本気で支援するのであれば産業インフラを支えなければならず、経済が崩壊すればウクライナは自国を防衛することがさらに困難となり、EUからの支援への依存度も高まるとの主張である。

 9月初め、鉄鋼業界はセルヒー・コレツキー首相に対し、状況が限界に達しているとして支援策を提案した。その一つが、既存の「ウクライナ・エネルギー支援基金」をモデルとした鉄鋼基金の創設である。外国のパートナーから資金を集め、被害を受けた企業が欧州から重要設備を調達できるようにする。緊急修理、生産能力の復旧、設備の強靱化などに利用することが想定されている。また、欧州復興開発銀行などの国際金融機関との協議を行い、リナト・アフメトフが所有するメトインヴェストのようなオリガルヒ系企業にも融資を可能にする必要があるとの主張も出ている。

 黒海港湾の閉鎖による物流費の高騰も深刻である。石炭など一部の貨物を鉄道やポーランド、ルーマニアの港湾経由で輸送すると、コストは従来より50~60%高くなる。これについては、ウクライナ政府と欧州諸国が物流費を分担する案が示されている。ウクライナ政府は財政収入を確保するため鉄道運賃を高水準に維持する必要があるため、EU側が資金を提供して政府が輸送費の一部を補助する仕組みが考えられている。物流費が下がれば、外国から銑鉄やスラブを輸入し、ウクライナ国内の圧延設備で鋼材を生産することも可能になる。現状では輸送費が高すぎるため、こうした原料・半製品の輸入も採算が合わない。

 鉄鋼業界は、EU鉄鋼市場への無制限のアクセスと、炭素集約的な輸入品に追加負担を課す炭素国境調整メカニズム(CBAM)からの免除も求めている。ミサイル攻撃を受けるたびに設備を再建しなければならないウクライナ企業には、大規模な脱炭素投資を行う余力がないというのがその理由である。

 鉄鋼業にとって最大の支援策となるのは、黒海航路の再開である。海上輸送が復活すれば物流費が大幅に低下するだけでなく、鉄鋼生産そのものを再開できない場合でも、鉄鉱石を輸出して外貨収入を得ることができる。9月23日の国連総会に合わせ、51カ国がウクライナの黒海通商ルート再開を支持する共同声明を発表した。しかしロシア側には、ウクライナの港湾や民間船舶への攻撃を弱める兆候はみられない。政府や外国のパートナーから必要な支援を得られたとしても、鉄鋼生産の再開には数カ月と数千万ドルが必要となる。しかもそれは、復旧後にロシアが再び攻撃しないことを前提とする。当面の課題は、生産拡大ではなく産業そのものを生き残らせることとなっている。


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 9月9日に開催した第59回スラブ・ユーラシア研究センター公開講演会での講演、「鉄は国家なり:戦争が試すロシア・ウクライナ鉄鋼業の底力」をYouTube配信しました。ぜひご覧ください。


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 引き続き、来週の講演「鉄は国家なり:戦争が試すロシア・ウクライナ鉄鋼業の底力」に向けて準備を進めているところだけど、なにやら、鉄鋼業自体からやや脱線して、ロシア・ウクライナの黒海海運全般についての話が増えそうだ。

 それで、IMFが運営しているPortWatchというデータベースがあり、世界海運の様々なチョークポイントの船舶通航数のデータを発表している。個人的にこれまでスエズ運河やパナマ運河のデータは調べたことがあったが、今回これを使ってボスポラス海峡、ケルチ海峡の1日当たりの商船通航数を調べてみることにした。その結果、出来上がったのが上図である。ボスポラスとケルチでスケールが左右違うので、ご注意を。

 まず、ボスポラス海峡。ロシア・ウクライナが黒海・アゾフ海の港湾から積み出して世界市場に商品を輸出しようとすれば、必ずボスポラス海峡を通過する。もちろん、ルーマニア、ブルガリア、トルコの分もあるので、すべてがロシア・ウクライナというわけではないが、ロシア・ウクライナの黒海海運が麻痺すれば、ボスポラスの通航数に響くはずである。と考えて調べたところ、PortWatchが記録しているボスポラスの商船通航数は、通常であれば1日あたり100隻前後であった。これが、今年夏に顕著な落ち込みを見せ、6月が81.7、7月が72.1、8月が途中経過で63.3と低下していることが確認できた。

 一方、ケルチ海峡は少々難しく、PortWatchにまったく記録されていない時期もある。IMF PortWatch はAISデータを使った可視化で、データの提供元はKplerであるとされており、その大元のデータに記録されていなければデータなしになってしまうようである。ケルチ海峡は、ボスポラスのような国際海峡とは異なり、もっぱらロシアが利用しているので、透明性がだいぶ落ちるようである。ともあれ、2025年以降についてはケルチ海峡もPortWatchのデータの対象になっていたようなので、その数字をグラフで跡付けてみた。これを見ると、穀物輸出の季節的な要因などに起因して、月ごとのばらつきはかなり大きいが、以前は1日当たり10隻前後の商船が海峡を通航していたようである。それが、4月の途中から、データベース上は、ずっとゼロになっている。報道では、ロシアは7月10日からケルチ海峡の船舶通航を停止したとされているので、早くも4月の途中からゼロだったというデータに疑問は残るが、統計上はそうなっている。


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 「黒海の物流破壊戦がブーメラン ロシアの石油・穀物・鉄鋼輸出が窮地に」と題するエキスパートトピを書きましたので、ぜひご覧ください。


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 「独立から35年後に本当の独立戦争を戦うウクライナ」と題するエキスパートトピを書きましたので、ぜひご覧ください。


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20260910

 私が以前編集長を務め、今も寄稿を続ける『ロシアNIS調査月報』の2026年9-10月号のご案内。今号は「中央アジア・コーカサスの貿易とコネクティビティ」と題する特集号となっております。詳しい内容とお問い合わせ・お申し込みはこちらまで。

 私は今号は完全な脇役で、「EV後進国ロシアにもガソリン危機で変化の兆し」、「ウクライナ首相はわずか1年で交代」という短い連載記事のみ書いております。


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LightNo59

 スラブ・ユーラシア研究センター公開講演会の第59回として、服部が「鉄は国家なり:戦争が試すロシア・ウクライナ鉄鋼業の底力」と題し、9月9日に講演します。無料かつオンラインでご参加いただけるので、お気軽にお申し込みください。これの数字が伸びないとセンター内の立場が…


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 昨日「ウクライナ・オデーサ州の物流を麻痺させようとするロシア」という話題をお届けしたが、それは『Взгляд』というプロパガンダ色の濃いロシア・メディアの記事に基づくものだったので、「ウクライナはすでに追い詰められた」というロシアにとって都合の良い描き方をされていた。そうしたところ、本日キーウポストがこちらの記事を配信し、この問題に関するウクライナ側の見方を伝えているので、『Взгляд』記事と比較しつつ軽く紹介したい。なお、上掲地図はキーウポストとは関係ないネット上の拾い物。

 キーウポストによると、ウクライナはモルドバを鉄道で横断してルーマニアのコンスタンツァ港へ穀物を運ぶルートを本格的に検討している。ウクライナはモルドバ側に鉄道運賃の50%割引を求め、モルドバ側はその代わり一定量の貨物を保証するよう要求している。想定輸送量は年間最大450万t。

 昨日紹介したロシアの『Взгляд』は、ロシア軍がオデーサの港湾だけでなくザトカ、マヤキという交通の要衝を攻撃することで、ウクライナがドナウ港湾を経由してコンスタンツァにつなぐ物流まで阻害しようとしている、と論じていた。今回のウクライナ側記事も、ロシアによる南部港湾・海運インフラへの攻撃激化を受けて、より安全な代替輸出ルートとしてモルドバ経由鉄道を検討しているとしている。つまり、ロシアの攻撃 → 黒海・オデーサ方面の輸出リスク上昇 → モルドバ鉄道 → コンスタンツァという物流転換の動きそのものは、ロシア側の情報だけでなく、今回のウクライナ側記事からも確認できた形である。

 『Взгляд』は「大オデーサ港から世界の海への出口はすでに封鎖された」「ドナウ港湾へのアクセスも事実上遮断された」とまで主張していた。それに対し今回のキーウポストの記事には、オデーサ港が使用不能になったとも、ドナウ港湾が孤立したとも書かれていない。少なくとも今回の記事が依拠する現状認識では、海港は依然としてウクライナ穀物輸出の圧倒的な主力と位置付けられ、「大オデーサはすでに封鎖された」という『Взгляд』の表現とはかなり距離がある。

 ただし、ウクライナへの経済的影響は実際に出始めている。ウクライナ政府は2026/27年度の穀物輸出見通しを従来の4,300万tから3,800~4,000万tへ下方修正している。またAPK-Informも輸出障害を理由に予測を8.6%引き下げ、3,940万tとしている。したがって、「ロシア軍がウクライナの海上輸出を封鎖した」というのは誇張だが、ロシアの攻撃が輸出能力を実際に低下させ、代替物流の構築を迫っているという現実は、今回のウクライナ側記事からも確認できる。今回の記事にあるモルドバ経由の鉄道輸送は、期待はされるが、上述のとおり年間最大450万tとされており、これではウクライナの食料輸出の1割くらいしか賄えないので、今後に向けたバックアップ・ルートという位置付けであろう。

 ところで、ウクライナからモルドバ経由、ルーマニア・コンスタンツァ向け鉄道輸送とのことだが、当然のことながら沿ドニエストルを通るルートは使えないはずである。となると、ウクライナ南西部 → Berezine → Basarabeasca → モルドバ領内 → ルーマニア・コンスタンツァというルートが考えられるのではないか。これなら沿ドニエストルを通過する必要がない。ウクライナ・モルドバ両国政府は、20年以上不通だったこの国境鉄道のベレジネ(Березине/Berezine)~バサラベアスカ(Basarabeasca)線を、2022年に再開したという経緯がある。上の地図は、その位置関係が分かりやすいように拝借・掲載したもの。


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 こちらの記事は、ロシアの政治的立場を色濃く反映しているので注意は必要だが、内容は重要なので、以下要点を整理しておく。

 注目すべきは、オデーサ西方のマヤキの道路橋への攻撃である。ロシアは、同時にオデーサ港やチョルノモルシクの燃料・軍需物資関連施設なども攻撃したと発表した。ウクライナ側も港湾・エネルギー施設の被害自体は認めている。

 マヤキ橋が重要なのは、ここを通るM15号線が、オデーサから南西のイズマイル、レニなどドナウ川港湾へ向かう重要ルートだからである。しかも、それ以前にザトカの鉄道橋が破壊されていたため、ベッサラビア地方とオデーサ方面を結ぶ物流がM15号線に集中していた。そのマヤキ橋まで損傷したことで、ドナウ港湾へのアクセスが大幅に制約された。

 経済評論家イワン・リザンは、①大オデーサ港 → ②ザトカ経由の鉄道 → ③マヤキ経由の道路 という順に物流経路が潰され、結果としてドナウ港湾へのアクセスまで事実上遮断されつつある、と論じる。さらにロシア軍がドナウ港湾自体への攻撃を拡大すれば、コンスタンツァなどルーマニア方面につながる物流も阻害でき、最終的には「黒海沿岸全体の封鎖」がロシア側の狙いと推測している。

 経済面では、港湾への反復攻撃によって船舶保険料や運賃が上昇し、外国企業がウクライナとの海上貿易そのものを敬遠する効果もある。つまり物理的に港を完全破壊しなくても、商業航海のリスクを高めることで事実上の封鎖に近づけられる。

 ただし、前出のリザンは、オデーサ港湾の機能低下がウクライナ軍への兵器供給の停止を意味するわけではないと認める。海路ではミサイルや弾薬などが運ばれてきたものの、現在重要性の高いドローンやその部品は主として陸路で供給されているためだ。したがって、「港を締め上げればウクライナ軍の補給が止まる」という単純な話ではないという。

 一方、軍事評論家ヴァシーリー・ダンディキンはもっと強気で、港湾・交通インフラへの継続攻撃によってウクライナ軍の補給効率はすでに低下しており、今後さらに悪化すると主張しする。


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 こちらの記事が、ウクライナによるノヴォロシースク周辺への攻撃がカザフスタン原油の輸出まで阻害していることを受け、米国がウクライナ側から一定の「攻撃除外」の約束を取り付けたことを伝えている。記事の要旨を以下のとおり整理しておく。

 米政府当局者によれば、ウクライナは、カザフスタン原油の輸出に不可欠なCPC(Caspian Pipeline Consortium)の黒海側インフラと、一定の条件を満たす非ロシア系タンカーを攻撃対象としないことで合意した。ウクライナ側は商船会社との連絡窓口も設け、安全な航行のため船舶情報をやり取りする仕組みを整えるとしている。これは米政府高官とウクライナ指導部との協議を受けた措置。

 背景には、最近のノヴォロシースクのCPCターミナル周辺へのドローン攻撃がある。CPCはカザフスタンにとって代替困難な主要輸出ルートで、通常は世界の原油供給量の約2%を扱っている。とりわけ欧州の製油所にとっては重要な供給源。ところがウクライナがロシアの石油港湾への攻撃を強化する中、CPCターミナルに寄港する船舶も攻撃を受け、船主が寄港を避けるなど、積み出しに支障が生じた。

 今回の取り決めで攻撃除外の対象となる船舶には明確な条件がある。すなわち、①ウクライナの制裁対象でない、②ロシア産原油その他のロシア貨物を輸送していない、③ロシアの個人・企業が所有していない船舶である。CPCインフラそのものについても、ウクライナは攻撃を控えるとされている。

 ただし、これで輸送が完全に正常化するかは不透明。過去にも船会社がウクライナ側に「攻撃してはならない船舶」のリストを提供したにもかかわらず、実際にはその一部が攻撃された例があったため、船主の警戒感は強く残っている。また、ノヴォロシースク周辺でドローン警報が出ればロシア当局が積み出し作業自体を停止するため、CPCを直接攻撃しなくても輸送への影響は残る。

 実際、7月20日の週のドローン攻撃を受け、米企業がチャーターした商船はCPCターミナルでの積み込みを停止した。7月27日に再開したものの、その2日後には同ターミナルで積み込み中の商船が再びドローン攻撃を受けている。この混乱により、8月のCPC Blend輸出量は通常より約3分の1減少する可能性がある。

 さらに興味深いのが海運市場への波及。ロシア港への寄港リスクに加えて攻撃リスクが高まった結果、CPC原油を地中海まで運ぶタンカーの用船料収入は、8月7日時点で1日40万ドル超と、この航路として過去最高に達した。


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 米ウォールストリートジャーナルがこちらの記事で、米トランプ大統領がゼレンスキーに対し非常に好意的になっていることを伝えている。要するに、トランプは価値観や民主主義よりも、実績・強さ・成功を重視する人物だという話である。以下、記事の要点をまとめておく。

 トランプは1年以上にわたり、側近との私的な会話で「ウクライナは戦争に負けつつある」と語っていた。しかしここ数週間で、ゼレンスキーの粘り強さ、ロシア領奥深くまで及ぶ攻撃能力に感銘を受け、より前向きな評価を示すようになった。政権高官は、トランプは「勝者」が好きであり、最近ではゼレンスキーがそのように見え始めていると証言する。

 この変化は自然に起きたのではなく、国際会議でのゼレンスキーとの度重なる会談、欧州首脳による継続的な説得の結果である。ゼレンスキー自身も、トランプとの個人的関係改善に相当力を入れてきた。

 トランプは特に、ウクライナのドローン産業に強い印象を持った。ロシア領深部攻撃、シャヘド型ドローンへの防空、ドローン大量生産能力を高く評価しているとされる。ホワイトハウス関係者によれば、イランとの戦争を経験した米国にとっても、ウクライナの経験は極めて参考になるという認識が強まっている。

 一方、トランプは当初、「ロシア軍はいずれウクライナを圧倒する」と考えていた。しかし、ロシア軍の大きな損害、ウクライナの継続的な攻撃を見て、プーチンに対して以前ほど好意的ではなくなっている。

 ただし、この変化がずっと続くかは不透明だ。トランプは見解を素早く変えることがあり、またプーチンもこれまでトランプに対して一定の影響力を発揮してきたため、今回の「雪解け」が恒久的なものかどうかは依然として不透明である。ホワイトハウスは依然として双方と対話し和平を目指す姿勢を維持している。

 トランプのウクライナ観を変える上で、重要な人物が2人いた。まず、オレクサンドル・ウシクであり、現在世界を代表するヘビー級ボクサーである彼は、ホワイトハウスでトランプと会談した際、「ウクライナ人は戦う民族であり、勝者だ」と語り、家族がキーウで砲撃を受けた経験も話した。トランプが「ロシア人とウクライナ人は何が違うのか」と尋ねると、ウシクは「頭と心」を指差して答えたということである。

 もう1人が、米国の保守系政治活動家・インフルエンサーであるローラ・ルーマーである。彼女はキーウ訪問後に立場を大きく変え、「ロシアのプロパガンダにだまされていた」「ゼレンスキーは戦時の指導者だ」と評価するようになった。彼女は帰国後、トランプと何度も電話で話したとされる。

 内外の政治家によるロビー活動も重要であり、トランプへの働きかけを続けた人物としては、マルク・ルッテNATO事務総長、フィンランドのストゥッブ大統領、故リンゼー・グラム上院議員らがいた。特にグラムは、ロシア制裁法案への支持をホワイトハウスに働き掛けていた。

 トランプ政権は、パトリオット迎撃ミサイルのウクライナ・ライセンス生産、ドローン共同生産 を検討し始めた。また、ウクライナが2022年には年間約5,000機だったドローン生産を、2026年には年間数百万機規模へ拡大した。さらに、ウクライナがカスピ海経由でイランからロシアへ武器を運ぶ船舶を攻撃したことにも言及し、これはイランとロシアの補給線を狙う新たな能力を示したものであり、トランプの評価をさらに高める可能性がある。


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 先日出演したBS-TBS「報道1930」の模様が、上掲のとおりYouTube動画になっています。「 相次ぐドローン攻撃‥ロシアに広がる”痛み”/戦況好転ウクライナで国防相と軍トップを解任」というテーマです。


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 私が以前編集長を務め、今も寄稿を続ける『ロシアNIS調査月報』の2026年8月号のご案内。今号は「中国との関係深化とロシア経済の変容」と題する特集号となっております。詳しい内容とお問い合わせ・お申し込みはこちらまで。

 私は今回は特集の枠外で、「プーチンの『デジタル主権』とロシア社会」、「ウクライナのドローン・ルネサンス ―隆盛をもたらした伝統と革新」という連載記事を書きました。また、浜由樹子著『ネオ・ユーラシア主義:「混迷の大国」ロシアの思想』の書評も担当。


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 ウクライナの元軍総司令官で、現在は駐英大使を務めるV.ザルジニー氏が、こちらに見るように、英テレグラフ紙に寄稿を行った。「ロシアはまだ負けていない。今後の勝敗を決めるのは前線ではなく、持久力である」といった内容になっている。以下、発言要旨を簡単にまとめておく。なお、上掲図も記事に添えられているもの。

 現代戦では「戦術的勝利」は決定打にならない。ドローン、精密誘導兵器、常時監視によって、昔のような突破→包囲→勝利という戦争ではなくなった。現在は消耗戦であり、前進しても維持、補給、負傷者搬送が極めて困難になっている。

 ロシアにはウクライナ全土を征服する能力はない。一方、ウクライナにも軍事力だけで全占領地を解放する能力はない。つまり、戦場は均衡状態にある。

 「ロシアは敗北した」という見方は誤りである。なぜなら、依然として広大な占領地を保持し、戦争継続能力を維持し、敗北を認める意思は全くないからである。

 ロシアはもはや急速な前進を狙っておらず、目的はウクライナを経済的、軍事的、心理的に疲弊させることだ。さらに、ロシアには人員、工業力、特に弾道ミサイル生産能力で依然優位がある。

 戦争を左右する最大要因は、前線ではなく、西側の政治意思。懸念として、ワシントンの変化、欧州内の分裂があり、首脳会談や連帯演出だけでは十分ではない。

 戦争の主戦場はもはや前線だけではなく、兵站、工業力、インフラ、防空、社会のレジリエンスへ広がった。

 以前は、ロシア本土からクリミアに至るアゾフ海沿岸回廊が、ロシア最大の成果だった。しかし 長距離攻撃能力の発展によって、占領していても、補給線は攻撃される。つまり、領土支配そのものの価値は以前ほど絶対ではなくなった。

 消耗戦で重要なのは、次の集落を取ることではなく、どちらの社会が長期間の経済・軍事・心理的負担に耐えられるかだ。つまり、勝敗を決める尺度そのものが変わった。

 NATOに感謝はするが、現状のNATOは冷戦型の組織であり、基本思想は核保有国とのエスカレーション回避にある。しかし、ドローン、サイバー、精密攻撃、AIが中心となる21世紀戦争には、その戦略文化は十分対応できていない。


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 8月6日に、「戦争・制裁と食料安全保障 ―ロシア・ウクライナから読み解く」という講演会を開催します。農林水産政策研究所の後藤正憲さんに「黒パンが消える? 近年のロシア・ウクライナの穀物事情」という報告をいただくのに加え、服部が「ロシア経済の"勝ち組”肥料産業」という発表を行います。リモートでご参加いただけるので、ぜひチェックしてみてください。


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 「人類が初めて直面する『原発』が『戦場』となる事態」というエキスパートトピを書きましたので、よかったらご覧ください。


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 昨晩、BSフジ プライムニュースにお邪魔し、兵頭慎治さんとともに、ロシア・ウクライナの最新情勢について解説しました。早くも番組が動画として公開されたということですので、以下ご紹介します。


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 Jリーグが秋春制に移行し、チーム作りのシーズン前キャンプをどこでやるかという点に関し、対応が分かれている。大きく分けると、①日本国内の涼しいところでやる、②あえて日本国内の暑いところ(沖縄など)でやる、③海外でやる(Jリーグから補助も出る)、に大別されるのではないかと思う。我が清水エスパルスは③であり、オーストリアでキャンプを張り、その間に練習試合を2試合やることになっている。

 それで、そのうちの一つが、7月14日に行われるウクライナ勢のFCポリッシャ・ジトーミルとの一戦となっている。ただ、私の認識にはないクラブだったので、ちょっと調べてみた。

 そうしたところ、FCポリッシャ・ジトーミルは最近急激に力をつけてきた新興勢力で、2025/26シーズンにはプレミア3位に躍進していたことが分かった。あのディナモ・キーウを4位に蹴落としての快挙である。

 クラブの起源は1959年までさかのぼるが、一度消滅。2016年頃から再建が始まる。2023年に初めてウクライナ・プレミアリーグへ昇格。わずか数年で上位争いをするクラブになったということだ。

 近年は資金力を背景に、元ディナモ・キーウ所属選手、元ウクライナ代表選手、外国人選手を積極的に補強。市場価値もウクライナでは上位クラスで、キーウやドネツクに続くグループへ食い込もうとしている。監督が非常に有名で、かのルスラン・ロタン。元ウクライナ代表主将であり、代表で100試合以上出場し、長年、FCドニプロの中心選手だった。FCポリッシャ・ジトーミルは近年はUEFAカンファレンスリーグ予選にも出場している。

 そして、FCポリッシャ・ジトーミルを短期間で強豪に押し上げたのが、ウクライナ財界ではかなり著名な実業家である、ヘンナジー・ブトケヴィチ(Геннадій Буткевич)。ブトケヴィチ氏は、ウクライナ最大級のスーパーマーケットチェーンであるATB(АТБ)の共同創業者・共同オーナー。ATBは全国に1,000店以上を展開するディスカウントスーパーで、戦時下でも事業を維持してきたウクライナ小売業の巨人。加えて、自ら設立した BGV Group Management を通じて、鉱業(ベリリウムなどレアメタル)、エネルギー、不動産開発、など幅広い事業を展開している。特にじとーみる州のペルジャンシク・ベリリウム鉱床の開発は、ウクライナの戦略鉱物政策とも関わる重要案件。2021年にBGV Groupを通じてFCポリッシャを買収。もともとクラブは市の管理下にあったが、資金難から発展が難しく、ジトーミル市長らの働きかけを受けてブトケヴィチ氏が本格的なオーナーとなった。買収前からクラブバスや設備などを支援しており、その延長線上でクラブ経営に乗り出した形ということだ。


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 BBCのロシア支局が、こちらの記事で、2022年に起きたバルト海底天然ガスパイプライン「ノルドストリーム1・2」の爆破事件に関するドイツ検察の見解を伝えているので、以下のとおり抄訳しておく。

 ドイツ連邦検察は、ノルドストリームの爆破事件に関与した疑いで逮捕されたウクライナ人について、「ウクライナの国家機関」の指示を受けて行動していたとの見方を示した。同人は、ドイツ刑法の複数の条項に加え、民間インフラへの攻撃という戦争犯罪の容疑でも起訴されている。

 ドイツ連邦検察の発表によれば、2022年当時、セルゲイ・K(ドイツでは公式発表で氏名はイニシャル表記となるが、報道では以前、セルゲイ・クズネツォフという氏名が伝えられていた)はウクライナ軍の将校だった。ロシアによる全面侵攻開始後、彼は「他の軍人ら」とともに、「ノルドストリーム1」と「ノルドストリーム2」を爆破する計画を立案した。その目的は、ガス供給を妨害し、ロシアからガス輸出収入を奪うことにあったという。検察は、セルゲイ・Kが「ウクライナの国家機関の命令」に基づいて行動していたと主張している。

 彼には、爆発物の使用、施設の破壊、公共サービスの機能妨害というドイツ刑法上の3つの罪に加え、国際法犯罪法典に基づく「民間インフラへの攻撃」という戦争犯罪の容疑もかけられている。

 セルゲイ・Kのイタリア人弁護士ニコラ・カネストリーニは、検察が依頼人を戦争犯罪で起訴したことについて、「今回初めて、問題とされる行為が武力紛争、すなわち戦争という文脈の中で行われたものだと検察自身が認めたことになる」と述べた。

 検察の見立てでは、セルゲイ・Kは職業ダイバー、ヨットの船長、爆発物の専門家から成るグループを組織した。2022年9月4日、彼は偽造されたウクライナ旅券を使ってポーランドからドイツへ入国し、その後、仲介者が偽造書類を用いて借りた帆船に共犯者らとともに乗り込んだ。

 検察によれば、このグループは9月22日まで、デンマーク領ボーンホルム島沖のガスパイプラインに爆発装置を設置していた。そして同年9月26日、これらの装置が爆発し、その結果、「ノルドストリーム1」と「ノルドストリーム2」の双方が損傷した。

 検察はさらに、爆破事件以前には、「ノルドストリーム1」はドイツのエネルギー生産に必要な年間天然ガス需要のおよそ半分を輸送していたと指摘している。


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 Wedge ONLINEに、「『心』を狙われたウクライナがロシアの『経済』を殴る構図へ…ドローン戦が泥沼化、宗教戦争の様相にも」という論考を寄稿しましたので、ぜひご覧ください。ドローン戦に関し、独自の視点から考察してみたものです。


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 「ウクライナのドローン大攻勢を支える『遺産』と『革新』」と題するエキスパートトピを書きましたので、よかったらご利用ください。


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 私が以前編集長を務め、今も寄稿を続ける『ロシアNIS調査月報』の2026年7月号のご案内。今号は「制裁下で進むロシア貿易の新常態」と題する特集号となっております。詳しい内容とお問い合わせ・お申し込みはこちらまで。

 今号では、私は貿易特集に合わせて「ロシア輸出産業・企業の動向 ―石炭・鉄鋼・非鉄・肥料・ダイヤ」というレポートを書き、また特集の枠外で「労働力の輸出国から不足国に転換するウクライナ」という連載記事を書いております。


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 正直私は知らなかったのだが、ウクライナ出身で現在は英在住のアリョーナ・フリウコという女性の政治評論家がいるそうである。こちらの記事で、同氏がロシア・ウクライナ戦争とそれをめぐる諸問題についてのインタビューに答えているので、以下発言要旨を整理しておく。

 ウクライナによる製油所・石油インフラ攻撃は、すでにロシアの石油収入に目に見える打撃を与えている。2026年5月だけでロシアの石油収入は計画比7.1億ドル減少し、月間計画を10%下回った。 モスクワやサンクトペテルブルグ周辺にまで及ぶ長距離攻撃能力は、ロシアの戦争遂行能力を徐々に削いでいる。

 米イラン間の緊張が収まれば、ワシントンの関心は再びウクライナに向かうだろう。ホルムズ海峡正常化で原油価格が下落すれば、ロシアの戦費調達能力も低下する。ただ、最近の米国は親ウクライナ的でも中立的でもなく、むしろロシア寄りの姿勢すら見せている。

 ロシア軍は戦場で戦術的に劣勢にあり、春季攻勢は事実上失敗した。Starlink利用制限やウクライナの中距離攻撃能力がロシア軍の計画を狂わせた。ロシアは地上戦で成果が出ないため、民間人へのテロ攻撃を強化してウクライナの士気をくじこうとしている。

 ウクライナの弱点は防空能力である。パトリオット迎撃ミサイルの供給国は限られており、米国在庫も中東情勢で消耗している。ウクライナには将来的に、自国製の「安価なパトリオット」を開発できる可能性がある。

 ロシアのエリート層には、戦争への満足感はない。しかし、軍需経済から利益を得ており、体制転覆に向かうほどの不満もない。反戦感情は徐々に育つだろうが、独裁国家なので時間がかかる。いずれ異論が形成されるのは不可避だが、いつ誰かがプーチンを排除するかは分からない。

 ウクライナは防衛している側であり、戦争を止めるかどうかを決める立場ではない。戦争を終わらせられる唯一の主体は侵略者であるロシア。欧州は当初米国任せだったが、米国の後退により主導的役割を果たそうとしている。欧州が米国のように領土放棄をウクライナに迫るべきではない。

 戦争後、制裁解除やエネルギー収入回復が進めば、ロシアがさらに大胆になる可能性がある。ロシアの目的はバルト三国占領そのものよりも、「NATOは実際には機能しない」ことを証明することかもしれない。NATO諸国はロシアとの直接戦争を恐れており、その弱さをクレムリンは試そうとしている。NATOが機能しないと示されれば、中国も勢いづき、第三次世界大戦の危険が高まる恐れがある。

 ベラルーシのルカシェンコがゼレンスキーに融和的な姿勢を見せたのは、自立した指導者としての立場を演出しようとしているため。ウクライナによる攻撃を恐れている面もある。しかし、こうした東西間のバランス外交は従来からの常套手段であり、信用すべきではない。

 考えられる停戦の姿は、東部に厳格な停戦ラインを設ける、英仏を中心とする西側部隊をウクライナに駐留させる、強力に武装したウクライナを維持する、ロシアの脅威は次世代にも続くと覚悟するというもので、「公正で永続的な平和」は現状の西側指導者の下では困難。

 プーチン・ゼレンスキー会談が動き出すのは、プーチンが行き詰まった時。プーチンが軍事的にこれ以上得るものがなくなり、欧米を揺さぶる余地も失われ、ウクライナ優勢が長期間続く、そのような状況になって初めてプーチンはゼレンスキーとの直接会談に応じるだろう。また、今年の冬はウクライナのインフラが傷んでいるため厳しい季節になるが、ロシア側にとっても厳しい冬になる。


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 「クリミアに『歴史』が戻ってきた」と題するエキスパートトピを書きましたので、ご利用ください。


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 ベラルーシ出身の政治評論家V.カルバレヴィチ氏が、こちらのコラムでウクライナ・ベラルーシ関係について論じているので、以下のとおり要旨を整理しておく。

 今回のゼレンスキーの最後通牒的な発言の背景にあるのは、ウクライナが自信を深め、ベラルーシをロシア・ベラルーシ軍事同盟の「弱い環」と見なすようになり、中立を装うミンスクに対し代償を求め始めたことにある。つまり、最近ベラルーシ側が何か新しい挑発をしたからではなく、戦争4年目を経て、ウクライナの対ベラルーシ姿勢が変化したのだ。

 ベラルーシ軍は参戦せず、当国からのミサイル発射も2022年秋以降は行われていない。ベラルーシはその一方で軍需産業や石油製品供給で利益を得た。また、ルカシェンコは「平和の保証人」というイメージを国内で確立した。戦争のマイナスはロシアが負い、ベラルーシは利益を享受してきた。今回のゼレンスキーの圧力は、この比較的快適な状況を壊すものである。

 もしルカシェンコが、ドローン中継設備を撤去したり、軍需支援や燃料供給を縮小するなら、ロシアから裏切りと受け取られる。一方、何もしなければ、ウクライナのドローン攻撃を受ける危険がある。したがって、「良い手が存在しない」という、チェスでいうツークツヴァンクの状態にある。

 もしウクライナがベラルーシ国内を攻撃した場合、ロシアは再びベラルーシからのミサイル攻撃を再開するかもしれず、ベラルーシとロシアは一体化した軍事陣営になる。ベラルーシ主権はさらに失われる。西側諸国も戦争の欧州接近を歓迎しない。ベラルーシ反体制派への弾圧も激化する。このように、ウクライナ側にも利益があるとは限らない。

 ゼレンスキーの要求は曖昧に書かれている。20日の発言は19日よりもトーンダウンしている。ウクライナもリスクを理解している。したがって、当面は心理的圧力と見るべきだ。


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 「キーウ・ペチェールシク修道院への攻撃に見る『救いのなさ』」というエキスパートトピを書きましたので、よかったらご覧ください。


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