ロシア・ウクライナ・ベラルーシ探訪 服部倫卓ブログ

ロシア・ウクライナ・ベラルーシを中心とした旧ソ連諸国の経済・政治情報をお届け

カテゴリ: ロシア

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 ロシア『イズベスチヤ』のこちらのインタビュー記事で、ベラルーシのM.ルィジェンコフ外相が同国の対外政策について語っているので、気になった部分だけ発言内容を以下のとおりまとておく。2022年以降、ベラルーシは相手国別の貿易額を発表しなくなっているので、大まかにでもそれに言及した箇所が、貴重と言えば貴重である。

 今日、ロシアとの貿易はベラルーシの貿易総額の65~70%に近づいている。今日のロシアとの政治的な交流は非常に強力で強固なものであり、我が国の外交政策において他のいかなる戦略的方向性もそのレベルに到達することはできない。ロシアとの文化的、人道的な結びつき、共通の歴史ゆえに、他の国家や国家グループとこのような関係を繰り返すことは不可能である。伝統的な家庭生活からスラブ的な正教の価値観に至るまで、現代のあらゆる物事に対する両国によるアプローチのメンタリティも、他のいかなる相手とも再現することは不可能である。したがって、ロシアは常に最も重要な位置を占めている。今日、我々が置かれている状況により、この関係は発展のピークにあり、相互統合の道を最大限早く進むことができる。多くの輸入代替策や革新的な開発プログラムが実施されており、両国にとって強力な経済基盤となっている。ロシア抜きで我が国経済のあらゆる分野の発展を想像することは不可能である。2020年という年は、我々の真のパートナーが誰なのか、そして誰がベラルーシを、経済的観点から、あるいは資源基盤や地政学的野心の実現という観点から、常にパートナーとして見ているのかを如実に示している。

 あらゆる制裁にもかかわらず、ベラルーシとEUの貿易額は依然として約80億ドルに及んでいる。興味深いことに、この額のほとんどは、EU内でベラルーシを批判し、反ベラルーシのレトリックを展開する急先鋒の国に属している。つまり、ベラルーシ当局の違法性を訴え、制裁を唱える一方で、商売はしているのである。というわけで、今日、ベラルーシとの貿易と経済協力への関心は存在する。EUの中核諸国が、ますます関心を示している。このことは経済関係の各種のイベントによっても裏付けられている。

  ベラルーシはBRICSのパートナー国となったが、正式メンバーになる可能性も常にある。しかし、正式なメンバーになるためには、まずこの組織の主な参加者すべてに、我が国の意図が本気であること、そしてベラルーシがこの組織に求められていることを証明する必要があるだろう。BRICSのメンバーになることは、ベラルーシの課題である。しかし、組織内を見渡し、他の人々が私たちに慣れ、私たちの加盟希望が安定していることを確認してもらうことも必要だ。そうすれば展望が見えてくるだろう。


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 上の図は、少々古いが、昨年10月にロシア紙のこちらの記事に出たグラフ。開戦後、ロシア産原油輸入の双璧となっている中国とインドの、輸入量の推移を示しており、左の紫が中国、右の赤がインドとなっていて、単位は100万t、2024年は1~8月の途中経過である。

 ことほどさように、ロシアの石油輸出ビジネスの生殺与奪の権を握るようになった中国とインドなわけだが、昨日ロイターのこちらの記事が、その両国がロシア産石油の購入を停止したと報じ、衝撃が走った。ただ、記事を読むと両国が政策的にロシア産原油の輸入を禁止したといったことではなく、米制裁等により生じた状況により輸入取引が麻痺しているということのようである。

 記事によると、米国が1月10日、ロシアの石油サプライチェーンを標的とした新たな制裁措置を発動。中国やインドの一部のバイヤーや港湾が制裁対象船を避けたため、タンカー運賃が高騰した。

 トレーダーや海運データによると、これにより米国の制裁の影響を受けていないタンカーの傭船費が急騰。これを受け、中国で売り手と買い手の間に大きな価格差が生じたため、ロシアの主要市場であるアジアにおける3月積みロシア産原油の取引は停止している。

 太平洋航路のアフラマックス・タンカーの運賃が数百万ドル高騰すると、太平洋のコズミノ港から中国向けに輸出される3月積みロシア産ESPOブレンド原油の提示価格が、DES(船渡しベース)でICEブレントに対して1バレルあたり3~5ドルのプレミアムに跳ね上がった。

 1月の米制裁に先立ち、旺盛な冬場の需要とイラン産のライバル原油の堅調な価格により、中国向けESPOブレンド原油のスポットプレミアムは1バレル2ドル近くまで上昇した。

 インドは通常、毎月中旬にロシア産原油のオファーを受けるのだが、1月には3月分のオファーをまだ受けておらず、3月着のオファー貨物量は1月と12月より減少する見込みだという。

 ロシア産原油は2024年のインドの輸入量の36%、中国の輸入量のほぼ5分の1を占めた。


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 やや紹介が遅れたが、ロシア財務省のこちらのページで、2024年のロシア連邦財政の速報値実績が発表されたので、恒例のグラフを更新しつつ、概況をお伝えする。なお、ロシア財務省のページは日本を含む外国からはアクセス不能なので、当方はVPNで接続。

 2024年のロシア連邦財政は、歳入が36兆7,070億ルーブル、歳出が40兆1,920億ルーブル、収支は3兆4,850億ルーブルの赤字(対GDP比1.7%)だった。歳入の内訳は、石油・ガス歳入が11兆1,310億ルーブル、非石油・ガス歳入が25兆5,760億ルーブルだった。

 ちなみに、2024年の当初予算では、歳入が35兆267億ルーブル、歳出が36兆6,221億ルーブル、収支は1兆5,954億ルーブルの赤字(対GDP比0.9%)に設定されていた。10%近いインフレを差し引いても、財政は想定以上に膨張したことになる。

 当然のことながら、財政規模と、その赤字をもたらしている最大の要因は、国防支出であると考えられる。しかし、財務省は歳出実績の内訳を発表しなくなっているので、検証は不可能である。

 2023年と2024年の比較は下表のとおり。

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 北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターでは、2月14日(金)と17日(月)の2日に分けて、特別連続セミナー「2.24から3年を経たスラブ・ユーラシア世界」を開催します。無料、かつリモートで視聴できるので、是非ともチェックいただき、事前登録いただければ幸いです。全体では長大なプログラムですが、もちろんご関心のあるコマだけ聴いていただいても結構です。

 ロシアによるウクライナへの全面軍事侵攻開始から3年ということで、各所で色んな企画が進行していると思いますが、私どもスラブ・ユーラシア研究センターでは、しばしば語られる大国政治や戦況というよりは、地域研究拠点としての特色を生かしたプログラムを組んでみました。2月14日の第1部では、「周辺国からの視点」と題して、国末憲人「アゼルバイジャンとアルメニア ―もう一つの戦争をめぐって」、松澤祐介「中欧の小国開放経済とウクライナ戦争 ―スロバキアの『親ロシア』のコンテクスト」、六鹿茂夫「ロシアの巻き返し戦略とモルドヴァ・ルーマニア」という報告をお届け。2月17日の第2部では、「戦争で変わるロシアとウクライナ」と題し、山添博史「ロシア大国化構想から規範毀損型サバイバルへ」、田中祐真「戦時下3年間のウクライナ国内情勢」、服部倫卓「ロシア・ウクライナ経済のレジリエンス」というプログラムを組んでみました。いずれも、他では聴けない濃い報告になると思いますので、ぜひご期待ください。


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 こちらの記事によると、ロシアのA.チェクンコフ極東・北極発展相が、2024年の北極海航路の利用拡大について述べたということである。

 チェクンコフ大臣いわく、専門家にとって、北極海航路には2つの異なる次元のルートがある。比較的快適な西ルートと、チェリュースキンの乗組員が遭難し救助された氷に覆われた東ルートだ。北極海航路のうち、この難所を通る貨物輸送量は、2024年に69%増加し、トランジットは44%増加した。我々は氷を克服しつつある。

 2024年の北極海航路の貨物輸送量は合計3,790万tとなり、これまでの記録を160万t以上上回った。2024年には92回の航行が行われ、トランジット貨物は300万tを超え、2023年のほぼ1.5倍となった。


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 先日、「紅海危機という追い風で勢いを取り戻した中欧班列」という話題をお届けしたが、その補足である。

 繰り返しになるが、「中欧班列」とは、中国と欧州を結ぶコンテナ鉄道輸送サービスであり、その主要部分はカザフスタン~ロシア~ベラルーシ領を経由する。ロシアのウクライナ侵攻で、このルートのトランジット輸送はいったん下火になり、中国⇔ロシア・ベラルーシの貨物増により補われる状態が続いていたが、2023年終盤にイエメンの武装組織フーシ派の商船に対する攻撃が発生すると、東西輸送の「裏技」として再び中欧班列のトランジット輸送への需要が盛り返した。

 それで、本日は、こうした変動の前提となっている海運の動きにつき、補足的にお伝えしたい。国際的な海運のボトルネックとなりうるような難所のことを「チョークポイント」と呼ぶが、上掲のグラフはその中でも重要なパナマ運河、スエズ運河、喜望峰周りの船舶通航数を図示している。パナマ運河は、降雨不足による水位の低下で2023年終盤に利用制限が課せられ、現在はそれからの回復途上にある。問題はやはり2023年暮れから生じたスエズ運河利用の急減であり、これがまさにフーシ派問題の影響によるものである。そして、スエズ運河航行数と反比例するように、喜望峰周りが拡大し、船舶が大回りを余儀なくされていることが確認できる。

 私の集計によれば、2023年から2024年にかけて、パナマ運河は10,870隻から8,760隻へと19.4%減、スエズ運河は26,884隻から12,059隻へと55.1%減、喜望峰周りは17,862隻から29,043隻へと62.6%増だった。


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 先日、「食料品の高騰で亢進した2024年ロシア消費者物価」という話題をお届けしたが、せっかくなのでもう少し詳しく紹介することにした。食料品、非食料商品、サービスと3つのカテゴリーに分けた上で、主要品目の小売価格が2024年の1年間でどれだけ上昇したかを、下図のようにグラフ化してみた。

 こうやって見ると、全般に値上がりが目立った食料品の中でも、やはりバターの高騰が突出している。他方、卵は2023年に行き過ぎた値上がりがあった反動か、主要品目の中では唯一、2024年に値下がりした。比較的安定が続いた非食料商品の中では、ガソリンが引き続き機微な品目となっている。サービスのインフレは、選挙のみそぎが済んだことを受け、2024年7月に住宅・光熱費が一斉に引き上げられたことに起因する部分が大きい。

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 最近、ロシアの製油所がウクライナのドローン攻撃を受けることが増えてきた。ロシア経済の機能、継戦能力を見る上で重要な要因なので、主な製油所の生産能力、親会社、所在地を整理し、上掲のとおりグラフにしてみた。出所はこちら


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 私が以前編集長を務め、今も寄稿を続ける『ロシアNIS調査月報』の2025年2月号のご案内。2月号は、「ユーラシア空間におけるBRICSの現在地」と題する特集号となっております。詳しい内容とお問い合わせ・お申し込みはこちらまで。

 服部個人は今号では、いずれも特集の枠外ですが、「ロシアのアルミニウム輸出にも制裁の影が」、「2024年のロシア軍と軍需産業を振り返る」、「ウクライナ経済はロシア経済より健全?」を執筆しています。


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 こちらの記事が、ロシアからの石炭輸出の不振につき伝えているので、以下主要点をまとめておく。

 調査機関Argusのデータによれば、2024年のロシアの石炭輸出は1億9,500万tで、前年比8%減であった。オーストラリア産、コロンビア産の後塵を拝する形で、中国、韓国、トルコ向けの輸出が落ち込んだ。

 一部の採炭企業、たとえばクズバスラズレズウーゴリなどは、輸出の低迷を、電力消費増で需要が高まっている内需で補おうとした。そうしたこともあり、2024年のロシアの石炭生産量は4億3,870万tで、前年から0.2%減っただけだった。

 輸出の不振の原因となっているのは、対ロシア経済制裁、鉄道インフラの問題、世界市場における価格低迷である。

 ロシアの石炭産業の状況は、鉄道の問題によって悪化した。機関車と運転手の不足により、ロシア北西部と南部の港を経由する積み出しが減少した。この原因でロシア企業が2024年下半期に輸出できなかった石炭は、300万t以上に上った。

 また、ロシア鉄道の東部管区(シベリア鉄道とバム鉄道)の近代化工事により、極東の港への輸送が制限された。その結果、2024年のロシア鉄道の輸送量は過去15年間で最低となり、合計11億8,000万tに留まった。うち石炭は3億3,140万tで、前年比5%減となった。

 さらに、2024年初頭、ロシアの石炭会社は、OTECOターミナルでの積出料金をめぐる紛争により、黒海最大の石炭輸出港であるタマニ港経由の出荷停止を余儀なくされ、これによる輸出減も250万tに上った。


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 こちらのページに見るとおり、2024年12月のロシア消費者物価がロシア統計局より発表され、それにより2024年通年のインフレ率も明らかになったので、早速恒例のグラフを更新しつつご紹介したい。

 2024年12月のロシア消費者物価は、前月比1.32%増、前年同月比9.52%増だった。ここにきて食料商品の値上がりが顕著になっており、12月には前月比で2.60%もの上昇を示した。

 ゆえに、下図のとおり、カテゴリー別の物価動向を示すと、年末にかけて緑・点線の食料商品が急上昇を描いている。おそらく庶民の肌感覚ではもっと高騰している印象ではないか。

 余力があったら後日より詳しく取り上げるかもしれないが、今日のところはこのへんで。

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 以前、「いまだ先進国市場にもはびこるロシア産アルミニウム」と題し、上図とともに、アルミニウムは先進国がロシアからの輸入を断ち切るのが難しい分野だとお伝えしたことがある。それでも、こちらの記事によると、目下EUは取りまとめを進めている第16次対ロシア制裁パッケージにおいて、ロシアからのアルミニウム地金の輸入禁止を検討しているということである。

 記事によると、EU諸国は、侵攻3周年の機会を捉え、2月に第16次制限パッケージを採択する意向。欧州委員会は14日、EU諸国と非公式会合を開き、近々発表されるパッケージの詳細について協議した。ある情報筋は、アルミニウム輸入禁止措置は段階的に導入されるだろうとしている。EUのうち10カ国が昨年暮れの書簡で、アルミニウムなどの金属を含むロシアの貿易に対するさらなる制裁を提案していた経緯がある。

 これまでのところEUは、ワイヤー、チューブ、箔を含むアルミニウム製品の輸入を禁止している。これらは、輸送、包装、建設産業で使用される金属で、EUの輸入の15%弱に相当する。鉄鋼よりも大幅に軽いアルミニウムは、現在、電気自動車の幅広い部品に使用されている。EUによるロシア産アルミニウム地金の輸入量は、禁止はされていないにもかかわらず、過去2年間で減少している。2024年1~10月にEUがロシアから輸入したアルミ地金は13万t強で、総輸入量220万tの約6%にあたる。2023年と2022年の同時期はそれぞれ11%と19%だった。EUと米国の企業は、UAE、バーレーンを含む中東からの代替供給を求める競争を引き起こす可能性がある。この地域は2024年には世界供給の9%ほどを生産している。


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 時々参照するロシア自然独占問題研究所のこちらのページに、ロシア鉄道による2024年の貨物輸送動向の資料が出ていたので、取り上げることにする。なお、貨物輸送の統計には、①重量、②重量×距離という2種類があり、今回は主に①の数字を見ている。

 この資料によると、①重量で見た2024年のロシア鉄道の輸送量は、前年比4.1%減だった。なお、②重量×距離では4.3%減だった。

 上図は、2022~2024年の月別の輸送量推移を示しており、グレーが2022年、青が2023年、赤が2024年である。2024年は年間を通して過去2年の水準を下回っており、特に下半期に落ち込みが目立った。

 さらに、個別品目の輸送量も出ている。2024年に輸送量が好調だったのは穀物、肥料くらいで、その他は石炭、金属など、軒並み輸送量が低迷している。


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 いつも思うことだけど、中国という国は政治的にはアレだが、経済統計が出るのが早いのは、経済をやっている私のような人間にとっての好感度が高い。先日、「遅れ馳せながら中欧班列のHPを発見」というエントリーでお伝えしたとおり、このHPの統計コーナーに中欧班列の輸送データが毎月掲載されており、早くも2024年通年のデータが発表されたので、それを使って上図を更新してみた。

 改めて説明すると、中欧班列というのは中国と欧州を鉄道コンテナ列車で結ぶ輸送プロジェクトであり、習近平政権の一帯一路の旗艦的位置付けになっている。主要ルートは、カザフスタン~ロシア~ベラルーシ領を通過するものである。上図に見るとおり、その列車本数、輸送コンテナ量は、一貫して増え続けている。

 しかし、内実は見かけの印象とは異なる。2022年にウクライナでの戦争が起きると、EU企業は侵略国ロシアと、その同盟国ベラルーシを通過する輸送スキームを敬遠するようになった。そうして生じた顧客離れにもかかわらず、2022年、2023年も中欧班列が拡大を続けたのは、中国⇔ロシア・ベラルーシ輸送が急拡大したからである。ロシア・ベラルーシは、地理的には一応欧州ということで、中国鉄道はその分も中欧班列の実績に加えているのである。

 こうして、中国⇔EUのトランジット輸送路としてはいったん斜陽化し、どちらかと言うと中露貿易の輸送手段になりかけていた中欧班列だったが、2023年暮れからまた様相が変わる。イエメンの武装組織フーシ派による商船への攻撃が発生し、東西の大動脈だった紅海・スエズ運河が麻痺、中国⇔EU輸送の裏技として、再び中欧班列の利用が拡大に転じたのだった。


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 Wedge ONLINEに、「<ロシア経済 2025年に臨界点は来るか?>プーチンも語る『ミサイルかバターか』の問題、ロシア政府の2024年経済10大ニュースから見える“実態”」と題する論考を寄稿しました。無料でお読みになれますので、ぜひご利用ください。タイトルが長いですが(笑)、編集部が付けてくれたものなので、悪しからず。


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 ロシアの石油大手ルクオイルは、ブルガリアでビジネスを展開してきた。ブルガスに製油所を有するほか、ガソリンスタンド、石油貯蔵所、船舶・航空機向けの燃料供給を手掛けてきた。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻後の事業環境の悪化を受け、ブルガリア・ビジネスを手放す方針を、1年ほど前に表明していた。そう言えば、以前に「ウクライナに燃料を供給していたのはブルガリアだった」などという話題もあった。

 されで、今般伝えられたこちらの記事によると、カザフスタンの国営企業であるカザムナイガスが、ブルガス製油所買収の競売に参加する招待を受けているということである。カズムナイガス側では、我が社はブルガリアの隣国であるルーマニアでも2箇所の製油所に出資しており、ブルガリアの製油所を加えれば、国際エネルギー市場におけるプレゼンスが強化されるとして、前向きな姿勢を示しているということだ。


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 ウクライナ系メディアのこちらの記事が、米戦争研究所の情報等にもとづき、ロシア軍は戦線での装甲戦闘車両の損耗が激しいので、節約するようになっていると伝えている。

 記事によると、2024年にウクライナ軍は、ロシア軍の戦車3,000両、装甲車両9,000両を破壊するか、損害を与えた。それゆえ、ロシア軍が戦車・装甲車両の戦闘での使用を縮小せざるをえない場面が、非常に増えている。

 ウクライナ軍情報筋によると、ロシア軍はクラホフスキーなどの戦場で歩兵による攻撃に切り替えている。装甲車は歩兵部隊の火力支援としてのみ使用されている。

 ロシア軍が装甲車両日投入を縮小している理由として、戦争研究所は3点を挙げている。①装備備蓄の減少:ロシア国防総省保有のソ連製装甲車の備蓄は大幅に減少しており、ロシア軍は残存車両の節約を余儀なくされている。②再装備の難しさ:ロシア軍は装備品の補充という問題に直面している。これは、ロシアが失われた装備に代わる十分な新型戦闘車両を保有していないことが原因である。③機械化攻撃にとって不利な条件:クラホヴォやポクロフスクといった大都市近郊での攻撃は、ロシアが過去に戦った野原と比べ、装甲車両の使用にとって不利である。

 ウクライナの中佐が『ニューヨーク・タイムズ』紙に寄せたコメントによると、ロシア軍はウクライナ東部での攻撃に電動スクーターやバイク、全地形対応車を使うことが増えているという。これは、装甲車の損失を補おうとするクレムリンの試みの一環である。このような車両は装甲車よりも安価で入手しやすいが、戦闘において同等の効果を発揮することはできない。

 戦争研究所によると、ロシアが開戦前に保有していた装甲車両のうち、2024年末現在で残っているのは、戦車の47%、歩兵戦闘車両の52%、装甲輸送車両の45%に留まる。

 アナリストたちは、2024年に9,000両近くの装甲戦闘車両が失われたことは、戦争開始後2022~2023年の年間損失量の3倍に相当すると指摘している。このため、ロシアが2025年にこのような損失を許容できる可能性は低い。「このレベルの損失はロシアの再装備能力を超えており、ロシア軍はもはや現在の年間装備損失率を維持することはできないだろう」と戦争研究所の報告書は述べている。


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 ウクライナのルハンシク州、ドネツク州、ザポリージャ州、ヘルソン州を占領している(全領域ではない)ロシアは、2023年春に、占領地の鉄道を統合する形で、連邦国家一体企業「ノヴォロシア鉄道」=ФГУП "Железные дороги Новороссии"なるものを創設した。上の地図は、しばらく前に出たこちらの記事が、ロシア本土のロストフ、タガンロク、ドネツク州のマリウポリ、ザポリージャ州のベルジャンスク、メリトポリ、そしてクリミアのジャンコイを結ぶ新線の建設を始めたというニュースを伝えた時のものである。

 そして今般、こちらの記事が、ノヴォロシア鉄道が復興計画をまとめたということを伝えた。自称「ドネツク人民共和国」のD.プシーリン首長が明らかにした。

 プシーリンいわく、鉄道サービスに関しては、列車を運行するための準備はすべて整っている。オペレーションが可能になり次第、直ちに運行させる。戦線が前進するのに応じて、鉄道インフラを監査し、段階的に復旧させている。さらに、ノヴォロシヤ鉄道会社は、デバルツェヴォ、ヤシノヴァタヤ、イロヴァイスク、ヴォルノヴァハといったハブ駅を考慮した2025年から2030年にかけての復旧プログラムを策定している。実際の鉄道運行は、ドンバスとノヴォロシアの領域ですでに行われており、ロシア全体の鉄道網に接続する可能性もある。プシーリンは以上のように述べた。


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 欧州最大の原発であるザポリージャ原発は、今般のロシアによる全面軍事侵攻が始まって以来、ロシア側の支配下にある。原発の1号機が稼働開始したのは1984年12月だったので、原発はロシアによる占領という異常な状況下で、このほど稼働40周年を迎えた。

 それで、ウクライナ統治下では原発は「エネルゴアトム」によって経営されていたが、ロシア占領下ではロスアトムの子会社である株式会社「ザポロジエ原発操業機構」=АО «Эксплуатирующая организация Запорожской АЭС»によって管理されているということである。

 そして、その副社長であり、かつ原発の所長を務めているのが、ユーリー・チェルニチュークという人物である。こちらにその経歴が出ているが、ロシア側が派遣したわけではなく、元からウクライナの原子力業界で働いていた人物であり、近年はザポリージャ原発で幹部を務めていたところ、ロシア軍がやってきて、それに協力することにし、2022年11月に現職に就いたようだ。原子力コラボラトゥールといったところか。

 それで、今般TASSのこちらの記事で、ザポリージャ原発40周年を受けたチェルニチューク所長のインタビューが掲載された。あまり詳しく取り上げる余裕はないが、現時点では6つある原子炉のすべてが停止しているところ、2025年には一部でも再稼働にこぎ着けたく、そうなれば「ノヴォロシア」、ドンバス、クリミアの電力需要を全面的に賄えるようになる、といったことを述べている。


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 かつてのソ連/ロシアには「対外経済銀行」というのがあり、近年ではそれが国営の開発機構となり、略称をとってVEB.RFという名称になっている。こちらの記事によると、このほどM.ミシュスチン首相がVEB.RFのI.シュヴァロフ総裁と会談し、国内6箇所の空港の新規建設事業への協力を要請したということである。

 6箇所とは具体的には、ロシア南部の主要都市クラスノダル、ガス王国として知られるヤマル・ネネツ自治管区のサレハルド、シベリアの奥地ゴルノアルタイスク、ウラル地方の製鉄都市マグニトゴルスク、西シベリアの代表都市オムスク、そして北カフカスの保養地アルフィズだという。

 私はプーチン路線のことを、「大砲もバターも、そして、コンクリートも人も」と呼んでいるのだが、果たして無茶な戦争を続けるプーチン・ロシアに、空港6箇所の新規建設という芸当は可能なのだろうか?


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 こちらの記事が、2024年の販売動向を踏まえ、2025年にロシアの乗用車販売市場がどうなるかについての見通しを示しているので、以下で主要部分の要旨を紹介することにする。なお、上図は記事に添付されていた2024年1~11月の主要モデル販売台数の図。

 2024年1~11月のロシアの乗用車販売市場は前年比54.1%増となっており、2023年の62%増に続く成長となった。しかし、2025年には、輸入業者やメーカーはより控えめな販売を予想している。これは、一般的な経済成長の鈍化と、自動車市場特有の要因の両方に起因している。後者は具体的には、リサイクル税の引き上げ、物流コストの上昇、そしてもちろんルーブル安である。にもかかわらず、現時点でロシアでは自動車に対する駆け込み需要は生じておらず、逆に市場に在庫過剰の兆候が見られる。輸入業者は販売促進のため、値引きや販促キャンペーンを実施せざるを得なくなるので、消費者にとっては悪くない。

 2024年4月1日以降、ロシアはユーラシア経済連合加盟国を経由して自動車を輸入する際の規則を厳格化した。これまでは、自動車を購入し、たとえばキルギスに持ち込み、現地の規則に従って通関させ、比較的少額の関税を支払ってロシアに輸入することが可能だった。しかし、4月1日以降、この抜け道は塞がれた。専門家によると、2022年から2023年にかけてはそうした「代替」輸入車が輸入車の35~37%を占めていたのに対し、2024年1~11月の時点ではすでに23%まで減少している。

 2025年の市場成長は期待できない。専門家のA.モジェンコフは、「2025年の総販売台数は2024年に比べて減少すると思う。高い金利とリサイクル税が、購入者にとっての購入価格を上昇させることになる。2025年の販売台数は130万~140万台になるのはずだ」との考えを示している。Avtostat社のS.ウダロフも、2024年の販売台数は158万~159万台だったが、2025年には基礎シナリオでは10%減の143万台、ネガティブシナリオでは20%減の127万台となるだろうと述べている。Avtostatによると、自動車市場は2024年末からすでに減速し始めていたという。


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 Ria Novostiのこちらのページに、I.アルクスニスという記者の執筆で、2024年の10の主要な結果という記事が出ている。ロシア国営通信社の記事につき、あくまでもプーチン体制の世界観によれば、ということになるが、そういうものとして認識しておけば一応参考にはなるので、以下箇条書きで整理しておく。

  1. 「特別軍事作戦」でロシアが主導権を奪い返す。
  2. 2020年の憲法修正を受け、3月の大統領選でプーチン氏が再選。
  3. 3月1日、国家のエリート養成プログラム「英雄たちの時代」が始動。
  4. 11月21日、極超音速中距離弾道ミサイル「オレシュニク」でウクライナのユジマシ工場を攻撃。
  5. 欧米からの圧迫を受けロシア国家・国民の結束が高まる。
  6. ロシア経済は4%に迫る成長を達成も、ひずみも顕著に。
  7. 3月22日にクロックスシティでテロ発生、その他にもウクライナがテロを仕掛ける。
  8. 10月にカザンでBIRICSサミット、欧米によるロシア孤立化の試みが失敗。
  9. 世界的にリベラリズムが危機に直面する。
  10. ガザ、シリアをめぐり中東の危機続く。

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 こちらの記事が、2024年のロシア冶金産業の生産動向を論じている。そのうち、鉄鋼業は21世紀初頭以来、最悪の1年に終わりそうということである。実は有料レポートへの誘導記事なのだが、有料版を買う余裕はないので、以下チラ見せ記事の要旨を紹介する。

 2024年は、ロシア冶金産業にとって、21世紀初頭以来最悪の年となるかもしれない。これは第3四半期の指標によって示されており、第4四半期にも改善は期待できない。

 ロシア統計局によると、2024年1~9月期の粗鋼生産量は前年同期比5.9%減の5,380万tとなり、過去7年間で最低の水準となった。完成鋼材の生産は6.2%減の4,530万tだった。しかも、鉄鋼生産は四半期を追うごとに悪化した。第1四半期は前年同期比1.5%減、第2四半期は4.4%減、第3四半期は11.6%減だった。

 2023年は、制裁や外部環境の悪化にもかかわらず、内需によりプラスを達成することができた。それに対し、2024年は内需・外需を問わず、販売が完全に不振となった。

 輸出の難しさは明らかであり、当初から期待はされていなかった。欧米市場は制裁措置のためにロシア製品に対して実質的に閉じられており、さらに中国市場の飽和状態で世界に中国製鉄鋼製品が溢れ出している。

 他方、内需の不況は鉄鋼メーカーにとり誤算だった。例年はロシア経済の牽引車となる建設部門の伸びが、2024年には減速した。2024年1~9月の建設業の伸びはわずか2.5%だったが、2022年と2023年にはその3倍の伸び率を記録していた。RIA Ratingとセヴェルスターリによると、2024年1~9月の国内鉄鋼消費量は前年同期比2.8%減の3,410万tで、第3四半期の減少率は9.5%にも達した。中でも75%以上を占める建設部門では、第3四半期の鉄鋼消費が9.8%減の830万tに留まった。通年では、ロシア国内の鉄鋼消費量は前年同期比5~7%減少すると予想される。

 鉄鋼需要の減少は、中銀の金融引き締めと住宅ローン優遇融資制度の縮小の直接的な結果であった。さらに、2024年初めには、高速道路M-12を含む多くの主要インフラ・プロジェクトの実施が一時的に中断された。こうしたことから、建設工事の伸び率は鈍化し始めたのだった。

 また、鋼管需要の周期的な減少も状況を悪化させ、1~9月の鋼管生産量は4.4%減の957万tとなった。ただ、昨年の実績が記録的なものだったため、そのベース効果で減少した面もある。それでも、ガスプロムの投資が7%減少し、幹線パイプラインの建設が減少したことも影響を与えた。結局、石油・ガスパイプライン用大口径パイプの生産量は、1~9月に前年同期比14%減少した。

 鉄鋼業の業績が極端に悪かったのに対し、非鉄金属の業績はかなり改善された。ロシア統計局によると、基本的貴金属およびその他の非鉄金属の生産、核燃料生産(OKVED 24.4)は、1~9月に前年同期比3.1%増加した。とりわけ、銀、金、アルミニウム地金、鉛、コバルトの生産が増加した。一方、亜鉛の生産量は大幅に減少した。未加工のチタン、マグネシウムおよびその合金の生産量も減少した。

 非鉄冶金の成長は、機械製造企業による内需と、より良好な外需に牽引された。西側諸国への輸出の減少は、東方への供給によって部分的に補われた。

 ロシアの非鉄金属産業全体では、1~9月に生産が0.6%減少した。通年でも状況に大きな変化はないと予想され、したがって、2024年通年では冶金産業全体で約1〜2%の減産となろう。その際に、鉄鋼生産は少なくとも7~8%減少すると見られる。


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 先日お伝えしたように、12月16日に毎年恒例のロシア国防省拡大幹部会議が開催され、プーチン大統領の演説、ベロウソフ国防相の報告などがあった。それで、今般改めて国防省の当該ページを良く見たら、国防相の報告がPDFのプレゼン資料として掲載されていることに気付いた。いくつか使えそうなグラフが掲載されており、ロシアの主張に同調しないまでも、公式見解を知るのには役立ちそうなので、改めてこれを取り上げる。ただ、ロシア国防省HPは外国からはアクセスできず、VPNを介してアクセスする他ない。

 まず、上図には、ロシアの連邦財政に占める「国防費」の割合がマゼンタ色の棒で、国防費の対GDP比が折れ線グラフで示されている。2024年の対GDP比が5.5%の見通しであるという数字は、個人的に初めて見た。

 以下のスライドでは、ロシアが「ルガンスク人民共和国」、「ドネツク人民共和国」、ザポロジエ州、ヘルソン州の領域の何%を占領しているか、2024年の四半期ごとにどれだけの領土を占領したか、そして下段にはウクライナ軍が戦争開始以来どれだけの人員と軍用機器を失ったかが示されている。人的喪失は死者ではなく死傷者のはずである。

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 下図の左は、ロシア軍に入隊する契約数を示しており、2023年は42.4万人だったのに対し、2024年は12月16日時点で42.7万人となりほぼ予定数を満たしたことを描いている。

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 最後に、下図の左は、各兵器の供給が2022年から2024年にかけてどれだけ増えたかを示しているが、これに関しては先日すでにお伝えした。

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 「ロシア経済を9つのグラフで読み解く」という記事が目に留まった。少々ありきたりなグラフも多かったが、ロシア企業は高金利にもかかわらず借入を増やしているというくだりには興味を覚えた。

 記事によれば、「企業や消費者向け融資の増加は、インフレのもうひとつの促進要因である。2桁の金利にもかかわらず、企業は借入を続けている。2024年1~10月に、ロシアの企業借入残高(債券を含む)は16.4%増加した。これを考慮し、中央銀行は銀行部門の企業向け融資の伸び率予測を上方修正した」とある。

 ただ、私の理解によれば、上図は、ロシアの経済主体が借り入れている融資全体ではなく、優遇融資だけを示しているはずである。棒グラフは下から、中小企業、農業企業、その他企業、住宅ローンを示しており、とりわけ紫色の優遇住宅ローンの残高が大きいことがお分かりいただけるであろう(ロシアには、幼い子供のいる家庭は6%、極東住民は2%で住宅ローンが借りられる優遇制度がある)。折れ線グラフは、黒が優遇融資残高の対GDP比、赤は優遇融資が融資残高全体に占める比率である。こういうグラフは個人的に初めて見たので興味深かった。


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 取り上げるのが遅れたが、こちらのサイトに見るとおり(日本からは接続不能だが)、12月16日に、毎年恒例のロシア国防省拡大幹部会議が開催されたということである。こちらに見るように、プーチン大統領も出席した。以下では、ベロウソフ国防相が2024年の国防産業の成果について述べた部分のみ、抄訳しておく。なお、上図はその内容を図表化したもので、こちらのニュースから拝借。

 2024年には、2022年と比較して(注:2023年ではないので注意)、戦車(新車および廃戦車の再生)の供給は7倍に増加した。歩兵戦闘車と装甲兵員輸送車は3倍、無人航空機は23倍、砲弾は22倍となった。

 これだけの数量があれば、特に需要の高い種類の弾薬や武器、装備品の納入が滞ることは実質的にない。260品目のうち、納入が遅れたのはわずか4品目だ。

 とはいえ、2025年と2026年の武器・装備・弾薬供給の持続可能性を確保するためには、多くの追加措置を講じる必要がある。

 製造サイクルが12カ月から16カ月である兵器を2026年に供給するためには、今月中に契約を締結する必要がある。それ以外の兵器については、遅くとも2025年の第2四半期の初めまでに契約を締結する必要がある。

 大統領の指示に従い、兵器契約を透明性のある価格フォーミュラに切り替える。固定価格での連続製品の供給に関する長期契約の締結を確保する。

 大統領令に従い、国家発注の一環として、特定の種類の武器・装備品の調達に関する新たな柔軟なメカニズムの導入を完了する。これにより、調達期間が数カ月から1~2週間に短縮される。

 この大統領令に関する細則の採択が遅れていることは問題である。年末までに確実に採択する必要がある。


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 私が以前編集長を務め、今も寄稿を続ける『ロシアNIS調査月報』の2025年1月号のご案内。1月号は、「トランプ政権復活で注目される米ロ関係の行方」と題する特集号となっております。詳しい内容とお問い合わせ・お申し込みはこちらまで。

 服部個人は、今号では、特集の枠内で「ロシアの肥料輸出は好調を維持 ―米国も輸入を継続」を、枠外で「軍事偏重を余儀なくされるウクライナ国家予算」を執筆しています。また、表紙の写真も担当しました。11月に米出張に出かけた際に撮影した国連本部の写真です。


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 以前からウラジオストクにロシア科学アカデミー極東研究所というのがあったのだけれど、そこが2022年7月にロシア科学アカデミー中国・現代アジア研究所に改名されたというのを、今般初めて知った。今のロシアを反映して、どうも半分くらいの部局は中国関係のようで、そうした実情に合わせて組織名自体に中国を入れることにしたようである。

 それで、こちらの記事で、その中国・現代アジア研究所のK.ババエフ所長が、いわゆる「東方シフト」の2024年の成果につき論じているので、以下で抄訳しておく。

 2024年は、ロシアの外交政策における「東方シフト」の流れが勢いを増し、大きな成功を収めた年となった。ロシアは今年ようやく、アジアのベクトルが政治的にも経済的にも具体的な配当をもたらしてくれることを完全に理解したようだ。加えて、ロシアの西側国境に新たな鉄のカーテンが出現してからの3年間で、ロシアの実業家、官僚、学者、文化人はすでにアジアの同僚との仕事の複雑さを学び、比較的新しい環境にうまく対応することができるようになった。2022年には、何十もの企業や部署が中国・現代アジア研究所を訪れ、中国、インド、ベトナム、インドネシアの同僚とのコミュニケーション方法についてのセミナーやブリーフィングを求めた。今日では、そのようなパニック的な依頼は少なくなっている。

 新たな習得が実を結んだ。2024年のロシア対外政策は、東と南で多くの重要な突破口を開くことに成功し、2020年代における主要課題である大ユーラシア・パートナーシップの形成に向けた努力を強化した。

 その中で最も重要な役割を果たしたのが、カザンで開催されたBRICSサミットであり、22カ国の首脳を含む36カ国の代表団が一堂に会した。サミットの実質的な結果(その有無については議論の余地がある)にかかわらず、ロシアはグローバルサウスにおける影響力の増大と、世界の多数派のリーダーの一人としてのイメージを自信をもって示した。カザンのサミットは、首脳の数という点ではロシア史上最大のイベントであり、その主要なメッセージは、世界の舞台でロシア国家を孤立させようとする努力が明らかに失敗した西側諸国に向けられた。

 トランプ次期大統領はBRICSが独自の共通通貨を導入すれば100%の関税を課すと脅しており、米国がBRICSを重要なライバルと見なし始めたことは明らかだ。

 二国間レベルでは、ロシアはインドとの関係で大きな進展を遂げ、7月にはモディ首相がモスクワを訪問した。インドは、南アジアにおける最大のエネルギー・パートナーとなっており、インドとの接近は、ロシアの最も野心的なユーラシア・プロジェクトのひとつである南北輸送回廊の成功のための基盤となっている。インドは今後も多方面にわたる外交政策を試みるだろうが、同国にとって主要なベクトルのひとつがロシアであることは、今日否定できない事実である。

 習近平、モディといったアジア主要国の指導者との個人的な関係構築は、明らかにプーチンの外交戦略の流れになりつつあり、アジア文化の特質を考慮して、かなりうまく選択されている。例えば、ウズベキスタンの専門家によれば、ロシアとウズベキスタンの首脳間の良好な関係が、ウズベキスタンの親欧米派が反対していたロスアトム・プロジェクトを選択する主な論拠になったという。

 ロシアはASEAN諸国との関係をダイナミックに築き続けており、ベトナム、インドネシア、タイ、マレーシアの4カ国がBRICSの新たなパートナーに加わったことは、ロシアの東南アジアへの政治的な躍進を象徴している。

 イランのペゼシュキアン新大統領とも信頼できるコンタクトが確立されている。ロシアとイランの包括的パートナーシップ条約は調印の準備が整っており、両国にとって、西側諸国と対峙するための努力の強化がまたひとつ確認されることになる。国防の要素も含むこの条約の調印が遅れているのは、ウクライナ問題をめぐるロシアと米国の今後の交渉に関係している可能性があるが、近い将来、何らかの形で条約が調印され、イランがモスクワの実質的な同盟国となることは明らかである。

 極東においては、北朝鮮が新たな同盟国となった。11月に批准された包括的パートナーシップ条約は、25年前には実質的に存在しなかった両国関係を、本格的な軍事・政治同盟へと変貌させた。日米韓の軍事的パートナーシップの「トライアングル」を受け、この条約は事実上、ロシア・中国・北朝鮮の対称的なトライアングルを形成し、逆説的にも、朝鮮半島の安全保障と軍縮という長年の懸案から取り除いている。核保有大国による直接的な法的保証により、今や朝鮮半島の安全保障も現存する兵器も脅かされることはなくなった。

 アジアにおけるロシアの主要なパートナーである中国との関係も、緩やかではあるが大きく進展している。2024年には、ロシアから中国への渡航者数は2.5倍になると予想されている。中国はビジネスマンと観光客の双方にとって、急速に主要な訪問先となりつつあり、UAE、エジプト、タイを抜き、トルコに急速に追いつきつつある。一方、中国からのインバウンド観光客の訪問は、1年間で7倍もの伸びを示している。ビザの順番待ち、支払い問題、言語や文化の壁を見事に乗り越え、ロシア人と中国人は急ピッチで距離を縮め、ビジネスを行い、パートナーシップを築き、お互いを研究し続けている。つまり、「東方シフト」と戦略的パートナーシップは、政治、ビジネス、文化、スポーツだけでなく、私たちの心のなかでも具体化しつつあるのだ。


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 最近ロシアの経済・社会で一番問題となっているバターの不足・高騰につき、ちょっと考えてみた。

 まず、基礎的な指標として、ロシアにおける各種基礎商品の輸入依存度をまとめた表を、上掲のとおりお目にかける。これを見てお分かりのとおり、総じて自給率が高いロシアながら、牛肉、乳製品という「牛さん関係」は輸入依存度が高く、3割前後に上っている。ただ、乳製品などはベラルーシから輸入している分が多く、その場合には実質的に国内生産と言って差し支えない(?)。

 なお、上表は2021年で更新が止まってしまっているが、確認したところ、ロシア統計局は2022年以降の当該指標を発表しなくなったようだ。食料安全保障にかかわる機微なデータということなのだろう。

 他方、ロシアは以前、EU諸国からかなりバターをはじめとする乳製品を輸入していた。しかし、2014年のクリミア併合で、欧米がロシアに経済制裁を科すと、ロシアはそれへの対抗制裁として欧米からの主要食品の輸入を禁止した。EUからのバターの輸入も止まり、ロシアはベラルーシと南米から輸入してしのいできたが、従来の主要供給国を切り捨てたことで、バターの輸入条件は悪化していたと言えるだろう。世界的にもバターは価格が上昇しているし、今般のようにルーブル安が加われば、ロシア国内市場が不安定化しやすい条件が整ってしまったのだろう。

 別の問題として、ロシアの場合、主要食品の自給率が一見高くても、それを生産するのに必要な原料や資材等を輸入に依存しているパターンがある。バターの場合は、7割が国産ということになっているが、原料となる生乳はかなり輸入している。したがって、国際的に生乳が不足したり価格上昇したりすれば、ルーブル安のロシアは苦しい。

 なお、先日テレビに出演した際に、「ロシアはバターの消費量が多いのか?」と訊かれ、さしたる根拠もなく「もちろんです」と答えてしまったのだが、その後改めてデータを確認してみた。こちらのサイトによると、ロシアにおける国民一人当たりの年間バター消費量は2.74kgで、世界36位ということだ。世界平均の1.55kg、日本の0.67kgよりはもちろん多いけれど、割と平凡な数字という気はする。他の私の関係国では、ベラルーシが4.44kgで18位、アゼルバイジャンが3.93kgで20位、モルドバが2.91kgで31位だった。


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 プーチンが12月19日に行った大規模記者会見・国民対話につき、もう1点だけコメント。プーチン5期目の目玉政策として、高速鉄道網の整備というのがあったはずである。いわばそのロシア版新幹線計画については、何か言及があっただろうか?

 結論から言うと、あまり本格的な言及はなかった。唯一、チェチェンのテレビ局「ヴァイナフ」のR.ヴェセラエヴァが、モスクワからソチ(具体的にはそのアドレルという地区)まで建設が決まっている高速鉄道路線を、チェチェン共和国の首都グロズヌィ、ダゲスタン共和国のマハチカラまで延伸するのはどうかという問題提起を行い、それに対しプーチンがコメントした場面があった。

 この問題提起に関し、プーチンは否定はせず、本プロジェクトの優先課題はソチ中心部からアドレル地区への渋滞解消(特に休暇時期)であるが、その問題を解決したあかつきには、次の段階としてグロズヌィ、マハチカラ延伸を検討することはありうるという考えを示した。

 それで、アドレルだのグロズヌィだのマハチカラだの言われても、善良な市民の皆さんは位置関係が分からないだろうから、ネット上で地図を拾ってきて、上掲のとおり転載させていただいた。ただ、緑の線の終点がアドレルではなくソチとなっているが、だいたい同じようなものだとご理解いただきたい。それで、ソチ/アドレルからグロズヌィ方面へ延ばすのは山岳地帯ゆえに不可能だろうと個人的に思ったのだが、やはり地図によればクラスノダルから分岐するような形でグロズヌィ方面に延びる路線が描かれている。まあ、ありうるとすればそんなルートだろう。なお、こちらの記事によれば、プーチン発言後、R.スタロヴォイト運輸相も、将来的な計画として、グロズヌィおよびマハチカラへの延伸も実現可能であると発言した。

 新幹線計画全体に関して言えば、まずパイロット・プロジェクトと位置付けられるモスクワ~サンクトペテルブルク路線を開通させるのが最優先課題である。しかし、その資金計画がなかなか決まらず、苛立ったプーチンが先日、内閣に急ぐよう指示する場面があった。具体的な進捗がないのに、また風呂敷を広げてみせたというのが、今回の北カフカス延伸話だったという印象である。


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