ロシアの経済政策において焦点の一つとなるモノゴーラド(企業城下町)問題につき、こちらのサイトに興味深いコラムが掲載されているので、その要旨を以下のとおり整理しておく。イルクーツク州に人口1.4万人のバイカリスクという街があり、そこにバイカリスク紙パルプ・コンビナートという工場があって、その工場をめぐる動きがモチーフとなっている。執筆者は政治評論家のV.ヴイジュトヴィチ氏。
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バイカリスク紙パルプ・コンビナートの職員らは、プーチンに公開書簡を送った。コンビナートの旧オーナー、バゾヴィ・エレメント社のO.デリパスカは、2年前にコンビナートの給料遅配問題を解決するため、1.5億ルーブルを会社に貸し付けていたが、デリパスカがその返還を求めていることに関し職員らは、デリパスカは2009年に会社を見捨てバイカリスク市を破局寸前に追い込んだ、もしも融資返済を求められたらバイカリスクは再び破局的状況となる、国はコンビナートを放置することはないとする貴殿(プーチン)の発言は心強いがデリパスカはそれを理解していないようだ、本件は手動方式で解決してほしいと、書簡の中で訴えている。つまり、2009年にレニングラード州ピカリョヴォで、やはりデリパスカの所有する城下町企業3社が停止した際に、プーチンが直々に介入して瞬く間に給与遅配問題を解決した、その奇跡の再現を求めているのである。
ただ、バイカリスクの労働者は、落胆することになるかもしれない。プーチン大統領の3期目においては、政権は「手動統治」に訴えるのはなるべく少なくし、非常事態の際にとどめようと努めている。新政府の課題は、制度的な統治を、なるべく最大限に効果的にすることである。
バイカリスクのようなモノゴーラドはロシアに450以上存在し、現代発展研究所によればそのうち少なくとも100都市の状況が企業閉鎖、失業増大、賃金遅配などで予断を許さない。ただ、政府も、州知事も、企業を操業停止から救い、すべての失業者に職を提供できるわけではないし、経営者の社会的責任を問うのも酷である。経済は客観的な法則に従って動くものであり、特定の個人によって左右されるのではない。知事の解任をちらつかせたところで、既存の中核企業に取って代わるような投資家を連れてくることは、できるはずがない。いかに経営者が社会的責任に忠実でも、市場経済に反するような決定を下すことは、1~2度なら可能かもしれないが、常に行うのは無理である。
ここで問わなければならないのは、ピカリョヴォやバイカリスクのように、不穏な企業城下町が出てくるたびに、政治の責任、経営者の責任といった議論がすぐに始まることである。その一方で、いわゆる庶民の自らの境遇に対する責任ということが問われることは、まずない。ちなみに、ピカリョヴォの際に、レヴァダ・センターが世論調査を行ったところ、ピカリョヴォ問題が大規模な抗議に繋がった原因に関し、28%が経営者の無責任が原因、19%が経済危機という客観情勢が原因、13%がロシア政府に責任があると答えていた。
バイカリスクの職員たちは、プーチンに直訴する前に、労働者としての利益を擁護するために、自ら何かをしたのだろうか? 独立労組を作るとか、操業縮小・賃金カット・大量解雇といった事態の際に自らの権利を保証するような書面上・法的な約束をオーナーから取り付けるとか、自らの力で何かを試みたのだろうか? 残念ながら、彼らにはそれは望めず、彼らは単なる庇護の対象なのである。彼らのイメージでは、国家と市民の関係は、パートナーというよりも、家父長主義的なものにすぎないのだ。
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