4月12日のエントリーで触れたが、ロシアのプーチン首相は4月11日、連邦議会向けに前年の政府活動報告を行った。その演説のなかに、以下のようなくだりがある。
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開発のための諸制度は、数千という企業にとっての本物のビジネス・エレベーターの役割を果たさなければならない。早くも2012年から、「ロシア輸出信用保険庁」が、ハイテク製品を世界市場を輸出しようとする中小企業に支援を提供することになる。2020年までにはハイテク輸出を少なくとも2倍に伸ばし、GDPに占めるハイテク・知的部門の比率を1.5倍に伸ばさなければならない。
2013年には、国が出資している企業のプログラムだけでも、イノベーションに対する内需が1.5兆ルーブルにまで高まる。国は、技術開発、死活的に重要なセクターの支援に、直接的に資金を拠出する。それはまず何よりも、工作機械、発動機、新素材、医薬品、航空・造船業である。
……肝心なのは、イノベーションをビジネスにとって得になるようにすることである。我々は、ロシア企業と世界の主要メーカーとのハイテク連合を引き続き支援する。特に重視するのは、フルサイクル生産の形成、とりわけ重要な開発センターの設置、まさにロシア領で技術開発が行われることである。外国投資を誘致する際に我々が主たる条件とするものの一つは、現地化、60~70%までの設備がロシア領内で生産されることに加え、技術センター、設計および技術開発センターが設置されることである。工業発展をリードする区画、地域・生産コンプレクスの形成を奨励する。向こう数年間で、機械生産、医薬品からナノテク、エレクトロニクスまで、20~30のこうした拠点的なクラスターが誕生するだろう。
近代化の資源となるものの一つが、国防発注である。ご存じのとおり、陸・海軍の再装備、軍需産業の近代化のために、向こう10年間で約23兆ルーブルを割り当てる。我が国の軍需および民需企業、研究センターおよび主要大学が、大口を発注を受けることになる。間違いが生じないように、政府調達のルールを厳格化する。3年、5年、長い場合には7年といった長期的な国防契約の慣行へと移行する。
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以上のとおり、プーチンは発言している。ここには、プーチンが現在推進しようとしている経済政策の基本的な発想がよく表れている。すなわち、主として国防発注を通じて、ロシアのハイテク産業を振興し、もってロシア経済を高度化・多角化して行こうという姿勢である。言わば、プーチン流の軍事ケインズ主義と言えよう。
それに関連して、こちらのサイトに出ている、プーチン報告に関する論評が興味深い。上掲のように演説の中でプーチンは工作機械、発動機、新素材、医薬品、航空・造船業を「死活的に重要なセクター」の代表例として挙げているわけだが、この論評によれば、これは現政権が過去数年掲げてきた戦略重要分野と微妙に異なり、宇宙と原子力が抜け落ちている、というのである。
確かに、メドヴェージェフ大統領の近代化政策において重要5分野とされていたのは、①エネルギー効率・省エネ、②核技術、③宇宙技術(とりわけテレコム、ナビゲーション分野)、④医療技術および医薬品、⑤ICTであり、これがイノベーションセンター「スコルコヴォ」の対象分野にもなっていた。大統領と首相が入れ替わろうとするこのタイミングで、プーチンが若干ニュアンスの異なる発言を示したことは、新政権下で方針転換がなされようとしている兆候とも受け取れ、とりわけ軍需部門へのより一層のシフトを示唆しているのかもしれない。
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