
昨日9月30日、ロシア政府が承認した連邦予算案が連邦議会に到着し、これから議会審議が始まる。それで、その件を伝える下院HPの記事を眺めていたら、興味深い写真が添えられていた。上と下に見るように、文書輸送官が鞄に入れた法案を仰々しく運び、それを議会側に手渡す様子である。今日日、法案等もすべて電子的なやり取りになっているのかと思いきや、ロシアの正式な文書輸送制度が現在も物理的に機能しているということが分かった。気になったのでちょっと情報を集めてみた。
写っている制服の人物は、服装や鞄からみて、国家フェリドイェーゲリ(政府特使・機密文書輸送)制度の職員と見られる。ロシアには現在も「Государственная фельдъегерская служба(国家フェリドイェーゲリ局、ГФС)」なるものがあるそうで、大統領府、政府、連邦議会、裁判所などの間で、「特別重要」「極秘」「秘密」その他の公用文書を物理的に配送することが法律上の任務になっている由だ。この写真で係官が持っている大きな鍵付き鞄も、文字どおり「政府から下院へ予算関係文書を届けている」場面なのだろう。
それで、これには単なるセレモニー以上の意味がありそうである。一般に公開されるロシアの連邦予算案は、「秘密」「極秘」という項目を大量に含んでおり、一般人はそれにアクセスできない。それに対し、予算を審議する議員は、「秘密」「極秘」の項目も見られるので、係官が輸送しているのはそうした項目を含んだ特別なバージョンということになる。
というわけで、係官が文書を運んでいるからといって、これをゼロックスにかけて全議員に配るということではなく、公開部分は当然電子データで処理される一方、秘密・極秘指定された付表を含む正式文書一式については、こうした政府専用の物理的配送ルートも必要になる、ということなのだろう。ГФС自身も、電子メールや衛星通信が発達しても、機密性と確実な受領を保証するため物理的配送が必要な文書が残る、と説明している。実はこの制度、かなり歴史があり、1796年に皇帝パーヴェル1世が設置したФельдъегерский корпусにまで遡るということだ。ソ連時代にはGPU/NKVD系統で機密文書を運び、現在のГФСにつながっている由。
ちなみに、ロシア予算法典第209条は、連邦予算の秘密項目(секретные статьи)は連邦議会両院の非公開会議で審議すると定めている。したがって、一般国民には公開されない数字についても、議会の審議対象にはなっている。一方、同条にはさらに、「秘密項目に関する資料は、両院の議長および両院の特別委員会のみが審査する」としている。つまり、秘密項目そのものは非公開の議会審議の対象となり、その裏付けとなる詳細資料については議長・特別委員会にアクセスを限定という二層構造になっているようだ。
ただ、下院議員は必要がある場合、国家機密へのアクセスについて一般人のような通常の身辺調査を経る必要はない。国家機密法上、議員には在任中の特別なアクセス制度があり、秘密保持義務と漏洩時の責任を負うことになる。そして実際の非公開会議は相当に厳格であり、下院規則では、携帯電話、録音機器、写真・映像機器などの持ち込み・使用は禁止され、マスコミも入れない。議員には冒頭で秘密の等級と漏洩した場合の責任が告知される。非公開会議の速記録や関係資料も、下院事務局の国家機密保護部門で秘密文書として保管され、議員が閲覧するときにも署名が必要ということだ。
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