「ナヴァリヌィ・ライブ」のこちらの動画が、本職はエコノミストであるはずのアンドレイ・ベロウソフ氏が2024年5月に国防相に就任し、その下でロシア軍はどう変わったかということを論じている。だいぶ手厳しい告発調の内容になっているが、以下で主な内容を整理しておく。
ベロウソフ氏は、モスクワ大学経済学部出身の経済学者・官僚であり、経済予測やモデル分析を専門として、2008年以降、政府内で経済発展省次官、経済発展相、大統領補佐官、第一副首相などを歴任した。国家による経済統制を重視する人物で、2014年のクリミア併合を支持し、2018年には金属・化学大手の超過利潤を国家が徴収する案を提唱したことなどが、その国家主義的な経済観の例として挙げられる。
2024年5月の国防相就任は当初かなり意外視された。しかし、2年以上経った現在から振り返ると、その狙いは明確だった。つまり、長期的な消耗戦を遂行できるよう、軍の経済・兵站・調達・技術革新を整備することである。
ショイグ時代とは異なり、軍の作戦指揮はゲラシモフ参謀総長に集中させ、ベロウソフは軍需産業、財政、兵站、装備調達、軍事施設建設などの「経営・管理」を担当する役割分担になった。副大臣にも財務省、会計検査院、大統領府などの出身者を登用し、国防省の行政・経済管理機構としての性格を強めた。つまり、ロシア軍を国家経済の中により効率的に組み込み、長期戦を可能にするためのテクノクラート登用であった。
就任直後のベロウソフは、軍病院の過密、住宅問題、官僚主義、新技術導入の遅れ、国家国防発注の問題などを率直に指摘し、「間違えることは許されるが、嘘をつくことは許されない」という原則を掲げた。そのため、腐敗と官僚主義に覆われた国防省を、経済官僚の手法によって合理化するのではないかとの期待あるいは警戒があった。しかし、ベロウソフがシステムを変えたのではなく、システムの方がベロウソフを取り込んだ。現在では「改革者」というより、既存の仕組みを維持・運営する「管理者」にすぎなくなっている。
具体例として挙げられるのが無人機である。2024年に設置された無人機技術センター「ルビコン」は、操縦者、技術者、開発者などを従来の軍組織からある程度切り離し、民間企業的な運営方式を導入した組織で、ウクライナ軍にとって非常に危険な存在に成長した。そこでベロウソフは、このモデルを拡大して本格的な無人システム部隊を構築しようとした。
しかし、この「ルビコンのスケールアップ」は失敗した。組織が大きくなるにつれ、従来のロシア軍と同じ官僚主義や調達上の問題を抱えるようになった。特に人員確保が問題となり、大学生を大々的に募集したものの、計画3万4,000人に対して確保できたのは約8,000人だった。また、前線部隊が自費やボランティア経由で調達したドローンを新設部隊が吸い上げてしまう、といった批判もある。さらに、ウクライナ側が無人機を絶えず改良しているのに対し、ロシア国防省は標準化された機種を大量発注する傾向が強く、技術革新の速度についていけていない。
それでも、ベロウソフ時代に明らかに強化された分野もある。それがウクライナ後方への長距離攻撃能力である。ミサイルの生産が増加するとともに、エラブガではシャヘド/ゲラン系無人機の生産が大幅に拡大した。さらに新型のジェット推進型「ゲラン4」「ゲラン5」などが登場し、大規模な無人機発射拠点も整備された。これは民間人へのテロだが、軍事能力についての分析部分だけを取り出せば、ロシアが長距離無人機・ミサイルを大量生産し、大規模な飽和攻撃を継続できる体制を構築したことは、ベロウソフ時代の軍事的な変化として認められる。
逆に「最大の失敗」と位置付けられるのが防空である。軍用飛行場で航空機用シェルターの建設が進んだことは評価されるものの、製油所をはじめとする重要インフラについては、国防省が十分な防空体制を整備せず、事実上、企業側に自衛を任せてきた。その結果、ウクライナ無人機による製油所、倉庫、物流施設などへの攻撃が相次いだ。移動式対無人機射撃部隊の導入も遅く、車両、機関銃、要員訓練、部隊間調整などが不足していると指摘するロシア側軍事ブロガーもいる。こうして、攻撃用無人機の大量運用能力は強化された一方、自国後方をウクライナの無人機から守る能力では立ち遅れた。
もう一つ期待されたのが、従来型の巨大軍需企業と、戦争開始後に急成長した小規模な民間開発企業、いわゆる「人民軍需産業(народный ВПК)」との関係改善だった。しかし、新装備の試験、改良、正式採用などの手続きは依然として遅く、国防省の官僚主義は大きく変化していない。無人機の国家調達をめぐる刑事事件も相次いでおり、中国製品をロシア国産品として再ブランドして納入した疑いなどが出ている。また、大型輸送無人機などについては依然として前線から不足が訴えられている。
ベロウソフ就任後、ショイグ時代の国防省幹部らを対象とする汚職事件が相次いだ。だが、これをもってベロウソフが国防省の体質を根本的に改革したとは認められない。象徴的な例として、極東の第155海軍歩兵旅団向け施設建設が挙げられる。ベロウソフ自身が完成期限を指定し、遅延すれば刑事責任を問うとまで警告したにもかかわらず、工事は少なくとも1年遅れた。強い指示を出しても実際の行政執行能力が伴わないことの象徴である。
ベロウソフが就任時に掲げた「嘘をついてはいけない」という原則についても、完全に失敗した。クルスク州へのウクライナ軍侵入以降、国防省は実際の戦況と乖離した発表を繰り返し、占領していない集落を占領したと発表するなど、戦果の誇張が常態化した。同時に、国防省のメディア戦略そのものは高度化した。旗を掲げる映像、戦果を強調する動画、定型化された「勝利報道」が増える一方、兵士自身による不満や現場映像は表に出にくくなった。つまり、軍の実態を改善する以上に、軍のイメージ管理が改善された。
兵員については、契約兵への一時金や募集費用が拡大し続けている。純粋な志願者が次第に減少する中で、毎月約3万人規模の補充を維持するため、徴兵中の兵士や社会的に脆弱な人々に契約を迫るなど、半強制的な募集が広がっている。また、2022年秋に動員された兵士の大規模な復員も実現せず、むしろ契約兵へ移行させられている。公式の追加動員を避けながら人的資源を補充する「隠れた動員」である。
親戦争派のロシア軍事ブロガー(Zブロガー)の評価が変化している。ベロウソフ大臣就任当初は、腐敗したショイグ体制を新大臣が改革するとの期待が大きかった。しかし次第に、物資不足、救急キット不足、無人機部隊の混乱、虚偽的な戦果報告などへの不満が高まり、2026年になると一部では「ショイグより悪い」とまで批判されるようになった。つまり、反戦派だけでなく、戦争を支持し、ロシア軍の勝利を望む側からも「改革が実現していない」という批判が出ている。
ベロウソフの息子パーヴェルが経営するコンサルティング企業が国営・軍需関連部門と取引しており、2023年以降急速に売上・利益を拡大したことから、調査報道機関が潜在的な利益相反を指摘している。また、ベロウソフ本人についても、イタリアの別荘を所有していた可能性を示すメールが流出している。ただし、登記上の所有関係を確認できていないなど、これについては確証はない。
総じて、ベロウソフはショイグ時代の国防省を根本的に作り替える「改革者」にはならなかった。官僚主義、兵站、装備調達、技術革新、後方防空などの構造的問題は残り、「人民軍需産業」を正規の軍需システムに統合することにも成功していない。一方で、一部の問題を緩和し、軍需生産、とりわけ長距離無人機などの能力を拡大し、国防省の情報発信を強化するなど、既存システムを以前より円滑に機能させる「管理者」としては一定の役割を果たした。そして政治的には、独自の権力基盤や政治的野心を示さず、プーチンに忠実であり、ゲラシモフの作戦指揮を支える後方管理者として、長期戦を可能にすることこそがベロウソフの本質的な役割となっている。
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