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 フランスが突然、ロシアの富豪アリシェル・ウスマノフ(上掲写真)をEUの個人制裁リストから外すよう求め始めたことが、様々な憶測を呼んでいる。こちらの記事が、一連の動きを整理しているので、以下で要約しておく。

 EUでは、2022年2月以降に導入された対ロ制裁のうち、個人・法人約3,000件を対象とする制裁リストを半年ごとに全会一致で更新している。ところが今回、フランスがロシアの富豪アリシェル・ウスマノフの除外を求め、以前から同様の要求をしていたスロバキアに同調したため、更新手続きが停滞した。フランス外務省は理由について、複数の国際的パートナーから指摘された「国家安全保障上の問題」が生じたため検討している、とだけ説明し、具体的内容については「機密の協議」であるとして明らかにしていない。

 報道によれば、9月15日に予定されていた制裁リスト更新を前にフランスがウスマノフの除外を要求し、EU各国は結論を1週間先送りした。スロバキアは夏以来ウスマノフの除外を求めている一方、多くの加盟国は依然として反対している。またルクセンブルクは、ウスマノフを除外するのであればロシアの富豪ミハイル・フリードマンも除外すべきだとの立場を示している。

 フランスの動きの背景としてFTなどが報じているのが、アゼルバイジャンで拘束・収監されているフランス人の釈放問題である。フランスがウスマノフへの制裁解除と引き換えに、アゼルバイジャン側からフランス人の釈放を引き出そうとしている可能性があるという。Le Mondeも、ウスマノフへの措置を緩和すれば「世界のどこかで収監されている少なくとも一人のフランス国民」が釈放される可能性があるとのウクライナ筋の話を紹介している。

 とりわけフランス政府が懸念しているのが、フランス人実業家マルタン・ライアンのケースである。ライアンはアゼルバイジャンでスパイ罪に問われ、2026年7月末に控訴審で懲役10年を言い渡されたが、本人は容疑を否認している。フランス外務省は即時釈放を要求している。このほか、フランス企業Saurの中東担当幹部アナス・デラズも、ロシアの富豪ファルハド・アフメドフから賄賂を受け取ったとして2025年11月に懲役12年を言い渡されている。

 そもそも現在の仏・アゼルバイジャン関係はきわめて悪化している。フランス外務省は、アゼルバイジャンではフランス人が「恣意的に拘束」される危険があるとして、緊急の場合を除いて渡航しないよう勧告している。ただしフランス外務省は、アゼルバイジャンで恣意的に拘束されているフランス人が具体的に何人いるのかについても回答を避けている。

 フランスの姿勢は他のEU加盟国から強い反発を招いている。Euronewsによれば、加盟国の間には「巨大な苛立ち」があり、あるEU外交官は、フランスの動機はむしろ「主として経済的理由」ではないかとの疑念も示している。ただし記事には、この「経済的理由」が具体的に何を指すのかについての説明はない。

 とりわけ問題視されているのは、EUの対ロ制裁を、第三国に拘束されたEU市民を取り戻すための交渉材料として使う前例を作ってしまうことである。FTによれば、これまでにもロシアとの囚人交換や、裁判で勝訴した人物、モスクワと距離を置いた人物などを制裁対象から外した例はあった。またハンガリーやスロバキアの政治的要求による除外も存在した。しかし、囚人釈放と対ロ制裁解除を直接結びつけるのは今回が初めてになるという。ある欧州外交官は、これでは「ロシアだけでなく、欧州人を投獄する側にも褒美を与える」ことになると批判している。

 Le Mondeが引用するブリュッセルの外交筋も、こうした前例が生まれれば、「EU市民を人質に取れば何でも可能になる」という危険なメッセージを世界に発することになると警告している。つまり、二国間問題を解決するためにEU共通の対ロ制裁を取引材料にすること自体が問題視されている。

 ウスマノフはウズベキスタン生まれの73歳のロシア人実業家で、鉱業や通信事業で財産を築き、Forbesによる推定資産は約140億ドル。EUはプーチン大統領との「特に緊密な関係」などを理由に制裁対象としてきたが、ウスマノフ本人は制裁の根拠を争い、欧州の裁判所で複数の訴訟を起こしている。

 なお、制裁リストをめぐる政治的な取引自体は初めてではない。ハンガリーは以前から更新への拒否権行使をちらつかせており、2025年3月にはスロバキアとともに、ウスマノフの姉妹グリバホル・イスマイロヴァを制裁対象から外すことに成功している。


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