
米トランプ政権がプーチン・ロシアに接近して対ウクライナ侵攻の和平を実現しようと工作していることは良く知られているが、実はトランプ政権はルカシェンコのベラルーシにかなり食い込んでおり、こちらは政治犯の釈放という点ではかなりの成果を挙げている。その交渉役となっているのがジョン・コール(John P. Coale)という人物であり、職業外交官でもロシア・東欧専門家でもなく、トランプ氏と個人的な信頼関係を持つベテラン弁護士が特使になった形である。
本人によれば、2025年に国務省からベラルーシ行きを打診されたとき、「ベラルーシって一体どこだ?」というのが最初の反応だったという。2025年3月にウクライナ担当特使の副特使となり、その後ベラルーシとの政治犯釈放交渉に参加。11月にトランプからベラルーシ担当特使に任命された。その交渉スタイルは独特で、ユーモアによって相手との個人的関係を作ることを重視しているという。ルカシェンコとは冗談、ウォッカ、かなりくだけた会話を通じて関係を築いたとされている。実際、こちらの記事によれば、本人が今年3月に語ったところによると、最初の会談でルカシェンコが欧州の指導者への不満を語り始めた際、コールもかなり下品な表現で欧州人をけなして同調、それですっかり打ち解けたのだという。
前置きが長くなったが、今般再びコール氏がベラルーシを訪問し、ルカシェンコと会談した。本件に関し、こちらの記事で政治評論家のA.クラスコフスキー氏が論評しているので、以下要約しておく。
9月15日にベラルーシの最高権力者ルカシェンコは、ミンスクで米国のジョン・コール特使らと会談した。この席でルカシェンコは、ベラルーシには政治犯も政治的弾圧も存在しないと主張した。しかし、米国側はそうした説明を額面通りには受け取っておらず、ルカシェンコ自身も、トランプが「体制の人質」と呼ぶ政治犯を、対米交渉の取引材料として利用している。
今回の交渉の最終的な成果や釈放される政治犯の人数はまだ判明していないが、すでにベラルーシ側が得た成果が一つある。米シティバンクで凍結されている4,300万~4,400万ドルについて、コールは銀行側に凍結解除を要請し、そのための仕組みを検討していると述べた。この資金は、制裁のために凍結されていた可能性がある。
米国がこうした譲歩をする背景の一つとして、ベラルーシ産カリ肥料への関心がある。ベラルーシ産カリの米国向け輸送がすでに再開されつつあるとみられ、ルカシェンコも凍結資金の返還を求めた際、「その後でもっと重大な問題について交渉しよう」と発言している。
もう一つの交渉材料が、ベラルーシに残存している高濃縮ウランである。これはソ連時代の実験の遺産であり、核物質の拡散防止を重視する米国は、これを安全な場所へ搬出することに関心を持ち、その費用を負担する用意もあるとされる。
ルカシェンコ側にとって特に重要なのは、カリ肥料の安価な輸出ルートを回復することである。現在は制裁のためロシアの港湾を利用せざるを得ず、輸送費が高くついているため、理想的にはリトアニアのクライペーダ港経由を復活させたい。コールはミンスク入りする直前にヴィルニュスでリトアニア外相と会談しており、政治犯の受け入れだけでなくカリ肥料問題も話題になった可能性がある。米国側にとっても、カリ輸送の物流費低下にはメリットがある。
実際、リトアニア外相は5月、カリ肥料の問題をめぐって米国からリトアニア政府に圧力がかかっていることを認めていた。翌年分のカリ肥料契約の時期も近づいており、ルカシェンコの言う「もっと重大な問題」とはクライペーダ経由輸送の再開を念頭に置いたものではないかと見られる。またルカシェンコは、今年分のカリはほぼ契約済みであり、米国への試験輸送分をようやく確保したと強調することで、自国産カリの商品価値を高く見せようとしている。
政治犯についてルカシェンコは従来通り、その存在自体を認めていない。「我が国の法律には政治犯という条文はない」と主張するとともに、釈放した人数と同じだけ新たに収監することが政府の目的ではないと述べた。しかし、人権団体「ヴャスナ」の数字はこの説明に反する。コールが前回3月に訪問した際には250人が釈放されたが、それ以降、新たに224人の収監者が政治犯と認定されたほか、釈放後に政治犯だったと認定された者も138人おり、合計362人に達する。ベラルーシ反体制派や人権団体も米国側に弾圧の継続について情報提供しており、コールは訪問前に「ヴャスナ」代表でノーベル平和賞受賞者のアレシ・ビャリャツキとも会談していた。
米国との交渉ルートを維持するため、ベラルーシ当局は弾圧そのものをやめるのではなく、弾圧をより外部から見えにくい形に変えていく可能性があるのではないか。裁判情報を非公開にしたり、政治犯の家族に圧力をかけたりするほか、長期収監以外の「ハイブリッド型」の圧力を多用することが考えられる。自宅拘禁型の刑罰、高額な罰金、行政拘留、繰り返しの「予防的面談」、営業活動の妨害、職場や学校からの排除など、政権は多様な手段をすでに持っている。
結局、ルカシェンコはトランプ政権からの好意的な関心を今後も維持し、その対価として経済的利益を得たいと考えているが、米国からの「ご褒美」のために体制そのものを本格的に軟化させるつもりはないのだ。一方、トランプ政権もベラルーシを民主国家に転換することをコールに課しているわけではないだろう。それでも米国の交渉によって新たな政治犯が釈放されるのであれば、それは「可能性の技術」として評価すべきだ。
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