
こちらに見るとおり、プーチン・ロシア大統領が8月24日に署名した大統領令により、重要インフラ企業は自らドローン防御努力義務を負うことととなり、防御や復旧を怠った企業は一時的な国家管理下に置かれることになった。この決定の、何が問題か? こちらの記事で、ボリス・グロゾフスキーという識者が論じているので、以下要旨をまとめておく。
大統領令で問題なのは、ウクライナ軍の攻撃を受けた重要施設について、所有者による防護措置が不十分、攻撃後の復旧が遅いと政府が判断すれば、企業・資産を「一時的国家管理(временное государственное управление)」に移せる点だ。形式上は所有権そのものを直ちに没収するわけではない。しかし国家管理下に置かれれば、所有者は経営権を行使できなくなり、最終的には資産が安値で別の所有者に売却される可能性もある。Danone、Carlsberg、Rolfなどの前例がある。
国土・企業を外国からの攻撃から守るのは本来国家・軍の仕事である。にもかかわらず、政府が、「攻撃されたのは企業が十分に自衛しなかったからだ」と責任を企業側へ転嫁しようとしている。企業が自費で機関銃を持つ警備要員を配置したり、対ドローン防護設備を設置したりしていても、結果的に攻撃を受ければ「防護が不十分だった」と判断できる。そして、それを理由に国家管理に移すことが可能になる。これは、1990年代のマフィアによる「みかじめ料」のようなものであり、「お前は自分を守れない。だから俺たちがお前の会社を取る」という構図である。
深刻なのは、何をもって「十分な防護」とするのか、基準が明文化されていないことだ。また、攻撃後どれくらいの期間で復旧すれば十分なのかも明確でない。さらに、国家管理の対象は攻撃された工場や倉庫だけではなく、その企業や所有者が保有する株式などを含めた広範な資産に及び得る。「重要インフラ」の範囲自体も明確なリストがなく、「安全保障、経済安定、国民生活に特別な重要性を持つ施設」という広い定義なので、中小企業以外ならかなり広範囲に適用できる余地がある。しかも一時的国家管理を裁判によって解除することはできず、解除できるのは政府自身だとしている。この裁量の大きさが、汚職や恣意的な企業接収の余地を生むことになる。
戦争開始以降に国家による接収の対象となった企業資産は6.5兆ルーブル超に達し、そのうち2025年だけで800社以上、金額ではほぼ半分を占めたと。これまでには、外国企業、汚職案件、「過激派」認定された所有者など、それなりの名目が必要だった。しかし今回の大統領令によって、従来の法的口実に当てはまらない企業についても「防護が不十分」という新たな入口ができた。
もう一つ重要なのが、財政との関係。戦費不足に直面する政府が企業に、対ドローン設備の設置、警備、場合によっては防空手段への支出まで負担させようとしている。しかし企業側が求めてきた税制優遇、たとえば防護設備投資を物品税から控除したり、費用の半分を補償したりする案には、政府は応じていない。そのため、企業にしてみれば、①税金を払う、②戦争によって必要になった自衛設備も自費で買う、③それでも攻撃されたら「防護不足」を理由に会社を取り上げられる、という三重苦の状態である。これは単なる「所有権問題」ではなく、戦争コストを国家財政から企業部門へ転嫁する仕組みでもある。
しかも、企業が自衛しようにも、対ドローン設備自体が十分ではない。企業が対ドローン設備業者を訴えるケースがすでにあり、ノヴォクイビシェフスク製油所などでは設備を設置しても攻撃を防げなかった。ある業者は中国製部品の不足で納期を何度も延期し、ニジネカムスクの石油精製施設を守るはずだった業者は、なんと姿を消してしまった。つまり企業側からすれば、「自衛しろ」ということで防護設備を買う、しかし技術的に防ぎ切れない、攻撃される、結果「防護が不十分だった」と国家に認定されるという理不尽な構造になり得る。
従来の企業接収では、検察庁、捜査委員会、FSB、内務省などが重要な役割を果たしてきた一方、国防省は財産再分配にはそれほど深く関与してこなかった。しかし「企業の対ドローン防護が十分か」を判断するには軍事的専門知識が必要です。そのため今後は国防省が接収プロセスに関与する余地が大きくなると予想される。そして実際、国有化済みだった極東の複数のセメント工場、総額800億ルーブル相当が国防省へ移管されたことが知られている。
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