Klepach

 ロシアにアンドレイ・クレパッチ氏という著名なエコノミストがおり、田畑伸一郎先生のつてで、私なども以前モスクワでの面談に参加させていただいたこともあった。最近このクレパッチ氏に起きた事件につき、FTのこちらの記事が伝えているので、以下抄訳しておく。

 ロシア最大級の国営金融機関の一つでチーフエコノミストを務めていた人物が、ロシアはウクライナとの「消耗戦」に敗れ、戦争による経済的打撃が重大な危機を引き起こすと警告したと報じられた後、解任された。

 元経済発展次官のクレパッチは、今年初めに行った発言がロシア語メディアで報じられた後、国営開発会社VEBでの職を解かれた。

 このニュースを最初に報じた国外拠点のロシア独立系メディア「ザ・ベル」によると、クレパッチの解任は、プーチン大統領の元経済担当側近トップであるI.シュヴァロフに対する「上層部からの電話」を受けたものだった。

 プーチンによるウクライナ侵攻が5年目に入る中、クレムリンがエリート層内部の異論を一切容認しない姿勢が、改めて示された。ロシアの有力実業家、経済官僚、エコノミストの多くは、内々には戦争に批判的だが、公然と戦争に反対したり、職を辞したりした者はごくわずかである。

 クレパッチが5月の会議で行った発言は、金曜日にモスクワ・タイムズが報じ、その後ロシア・メディアで広く引用された。著名人が公の場で語ったものとしては異例に率直な内容だったが、2022年の開戦後数カ月の時点からエリート層の間で広く共有されてきた懸念を反映したものでもあった。

 「われわれは後れを取っている。世界における技術・経済競争で負けつつある。中国や米国に対してだけでなく、いくつかの点ではウクライナに対してさえそうだ」とクレパッチは述べた。「この消耗戦で、われわれが競争に勝つことはない。われわれは、向こうではすべてが崩壊するという幻想を抱いている。だが、崩壊していないし、今後もしない。われわれのコストは増大している。」

 クレパッチによれば、2023年と2024年には戦争による好況が生じたものの、それが投資の大幅な削減と工業の景気後退に取って代わられ、ロシア経済は今年、縮小し始めた。その一因を中央銀行の高金利に求められる。

 ウクライナ戦争はすでに第二次世界大戦よりも長く続いており、今のところ終わりは見えない。双方とも、互いの経済に対するものを含め、攻撃を激化させている。ウクライナ軍による我が国の港湾、石油・ガス、化学、物流インフラへの攻撃による損失は増大しており、すでにロシア経済の成長にとって無視できないマクロ経済上の障害となりつつあると、クレパッチは指摘する。

 クレパッチは、経済的苦境と西側による制裁強化が、「誰も予想していない時に社会的危機」を引き起こすだろうと述べ、それを1917年のロシア革命や1991年のソ連崩壊になぞらえた。「ロシアが崩壊することはないと思うが、社会的危機が起きることはほぼ確実だと思っている。我が国の経済が崩壊することはないだろうが、後進性は一層深まり、それに伴うあらゆる結果が生じるだろう。」

 中央銀行は、現在14%の高金利を通じてインフレとの闘いを優先する姿勢を崩しておらず、そのため企業やクレパッチのようなエコノミストから、広範な反発の標的となっている。

 VEBはクレパッチの解任についてコメントしなかった。ロシア紙ヴェードモスチは、ある「知人」の話として、彼の「国の経済的・政治的発展に関する個人的で厳しい評価は、いかなる意味でも国営企業の立場と受け取られるべきではない」と伝えた。同紙は別の人物の話として、2014年以来VEBのチーフエコノミストを務めてきたクレパッチは、同社での職務とは別に、長年にわたり「フリーランスの分析活動」に従事していたとも伝えた。


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