
こちらの記事で、エレーナ・コネヴァという社会学者が、9月の選挙戦を前にしたロシア社会の状況、とりわけ野党「ヤブロコ」への支持の意味合いなどについて論じているので、以下でコネヴァの発言要旨を整理しておく。
最高裁前に若者を中心に数百人が集まったことを、ヤブロコという政党自体への支持拡大と解釈すべきではない。人々は長い間、公の場で政治的意思を表明できず、「台所=私的空間」に引きこもってきた。今回重要なのは人数の絶対的な多さではなく、そうした人々が私的空間から公共空間へ出てきたこと。現時点でもヤブロコは、今週末に選挙が行われれば約6%を得て、5%阻止条項を突破できた可能性がある。もし5週間の選挙運動が認められていれば、15~20%まで伸びる可能性すらあった。その背景にはヤブロコ人気ではなく、即時停戦を求める層が5,000万~6,000万人存在するという社会状況がある。ヤブロコは突然人気政党になったのではなく、行き場を失っていた巨大な「戦争を終わらせてほしい」という需要の受け皿になりかけたのだ。
若者のヤブロコ支持も「党への支持」ではない。従来のヤブロコ支持層は、むしろ中高年の都市インテリ層だった。ところが最高裁前に集まったのは高校生、大学生など非常に若い人々だった。若者がヤブロコ支持者になったというより、自由・平和・自己表現を求める若者にとって、たまたまヤブロコがそれを表現できる政治的チャンネルになった。したがって現在の潜在的支持層には、①50~60代以上の伝統的ヤブロコ支持者と、②30歳未満の若者という、かなり異質な2つのグループが共存する。
ロシアの世論調査ではしばしば、ロシア軍を支持する/ロシアの敗北を望まない/戦争開始を必ずしも否定しない/しかし和平交渉や停戦を望むという、一見矛盾した回答が現れる。以前は「パラドックス」と思えていたものの、現在は見方を変えた。2025年秋以降、戦争が一般市民の日常生活の中に「物質化」してきたからだ。それまで市民は日常生活の中に逃げ込むことで戦争から距離を置けた。しかし戦争がその日常そのものを破壊し始めた。その結果、「戦争目的には一定の理解がある」「ロシアの敗北は望まない」「軍には連帯する」が、それでも「これ以上戦争を続けるための個人的コストは負担したくない」という態度が成立する。
戦争被害への反応も、「ウクライナをもっと攻撃しろ」が中心ではない。燃料危機などを受けて「もっとウクライナを攻撃しろ」という世論が強まっているとの指摘があるが、我々の社会調査では確認できない。反応としては、多い順に、1.国民を守れない中央政府への批判、2.ガソリン供給を確保できない地方政府への批判、3.「なぜ防空システムが機能しないのか」という疑問、その後になって初めて、4.ウクライナへの報復攻撃要求が出てくる。つまり、戦争が身近になるほど好戦的になるのではなく、むしろ「政府は何をやっているのか」という統治能力への不満に転化している。
ただし、「戦争をやめてほしい」から「反政府運動」へは直結しない。数百万人規模の人々がヤブロコに投票する準備があったところに、国家が事実上「和平という選択肢は認めない」と通告した。それでも、それによって人々が自動的に急進化するわけではない。戦争疲れは、無気力、政治離れ、日常生活への不満、国外移住など、さまざまな方向へ流れる可能性がある。大規模な政治行動が起きるためには、少なくとも、①行動しても最低限の安全が保障されること、②政治的な「機会の窓」が開くこと、③運動を組織する人物が存在すること、④人々がその組織者を信頼すること、⑤行動すれば何らかの結果を得られるという期待があることが必要。かつてのB.ナジェージジンの大統領選出馬や、今回のヤブロコが一時的な「機会の窓」だった。しかし現在のロシアではこれらの条件が揃っていないため、潜在的不満は巨大でも、大規模抗議運動にはならない。
9月下院選では「抗議」よりも棄権・票の移動として現れる可能性がある。9月選挙を契機とした街頭抗議は予想できない。むしろ注目すべきは、投票率の低下と、与党「統一ロシア」の支持低下。ExtremeScanの測定では統一ロシアに投票するという回答はすでに24%まで低下しており、さらに下がる可能性がある。一方、ヤブロコに向かうはずだった抗議票の一部は「新しい人々」や共産党に流れる可能性がある。共産党はすでに14%程度あり、統一ロシアとの差が縮まれば、政権にとって政治的に好ましくないシグナルになる。もっとも、中央選管が最終的にどのような公式数字を発表するかは別問題であるが。
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