
WSJはこのほど、ロシアで開設された国際決済サービス会社「A7」に関するかなり踏み込んだ記事を掲載した。A7を単なる「制裁回避の決済業者」ではなく、ロシア国家が後押しする、制裁下の国際決済インフラの原型として描いている。A7自身はすでにロシアの対外貿易決済の約20%、年間1,000億ドル超を扱っていると自負している。記事の要点を以下のとおりまとめておく。
A7は2024年、モルドバの銀行から約10億ドルを流出させた事件で詐欺・マネーロンダリングの有罪判決を受け、現在ロシアにいる実業家イラン・ショールと、ロシア国有のPSB(旧プロムスヴャジバンク)によって設立された。PSBは防衛産業への金融サービスを担う銀行であり、侵攻後の早い段階から欧米制裁を受け、SWIFTからも排除されている。設立当初はショル51%、PSB49%という所有構造だったが、現在は過半数株主の情報が非公開になっている。
A7の急成長を支えているのが、侵攻後に急拡大したロシア・中国間貿易である。A7の2025年の資料によれば、決済額の65%が人民元建てであり、中国への送金を4時間で処理できると宣伝している。つまりA7は、ドル・ユーロ圏から切り離されたロシア貿易を、人民元圏と結びつける決済装置として急速に成長した。
ロンドンのOpen Source Centre(OSC)の調査によれば、A7はキルギス、香港、UAEなどにフロント企業・ペーパーカンパニーを配置している。これらは一見まともなウェブサイトを持ち、現地銀行に口座を開いているが、実際にはモスクワのA7スタッフが管理している。これによってロシア企業に代わり、第三国の企業を装って国際送金を実行する。
さらにOSCによれば、銀行のコンプライアンス審査をかわすため、A7はAIを使って偽のインボイスを作成している。具体例としては、2025年3月11日、A7のキルギスのフロント企業が中国企業に約100万ドルを支払い、実際にはドローン用部品を購入したにもかかわらず、インボイス上では「自動車用ボディ研磨剤、チャイルドシートなどの自動車用品」の代金とされていた。
もう一つの柱が暗号資産。A7は2025年、ルーブルに連動するトークン「A7A5」の立ち上げを支援した。A7A5をドル連動型ステーブルコインのTetherなどと交換することによって、制裁対象商品の国際決済に利用できるとさる。Chainalysisによれば、あるA7A5交換サービスだけで22億ドル超が移動している由。しかもA7A5の取引は平日に集中し週末に急減するため、投機的な暗号資産取引というより、ロシア政府・企業による通常の国際決済手段として使われている可能性がある。
重要なのは、A7がもはや裏方に徹していないことである。当初は目立たない存在だったのが、現在はモスクワで大々的に広告を出し、中小企業や個人向けにも国際送金サービスを売り込んでいる。著名歌手フィリップ・キルコロフまで広告に起用し、「欧州の制裁に屈しないA7」というイメージを前面に出してる。
そしてプーチン自身が2025年にA7支店の開所式にオンライン参加しており、A7は明らかに国家的な後押しを受けている。現在はナイジェリアとジンバブエに海外拠点を開設し、さらに中東・中南米への展開を検討している。ショール自身も、西側金融システムは各国の決済を「スイッチ一つ」で止められる仕組みだったのに対し、A7は「制裁の影響を受けない」システムだと公言している。
したがってA7が目指しているのは、単なる「ロシア企業の海外送金代行」から一歩進んで、制裁対象国・企業を相互に結ぶロシア主導の代替国際決済ネットワークになることである。A7側は100カ国以上への決済が可能としており、幹部は将来的にSWIFTに代わる存在になる可能性まで口にしている。
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