
こちらの記事で、A.グロンスキーという心理療法士が、ロシア社会に広がる「ストレス」をテーマに論じている。中心的なメッセージは、「ロシア人がストレスを感じていることは確かだが、その原因は人によって大きく異なる。にもかかわらず、自分と同じ理由で皆が苦しんでいると思い込む『偽りのコンセンサス』に陥ってはならない」という点にある。意識高い系の「ノーヴァヤ・ガゼータ」読者に、皆が同じ考えだと思わない方がいいと忠告している。以下、記事の要旨をまとめておく。
ロシア社会では近年、緊張感が高まっていることは明らかだが、その背景は一様ではない。前線近くの住民はドローン攻撃や避難施設不足を心配し、大都市住民はガソリン販売規制に不満を抱く一方、内陸部ではそうした問題がほとんど意識されていない。さらに、公務員、中小企業経営者、住宅ローンを抱える会社員など、立場によってストレスの源泉は全く異なる。
多くのロシア人にとってストレスの中心は政治ではなく生活である。2025年の全ロ世論調査センターの調査では、ストレス要因の首位は家族や健康(57%)、次いで仕事(30%)、家計(22%)であり、「戦争(СВО)」を挙げた人は7%、「権力や司法の横暴」は5%に過ぎなかった。レヴァダ・センターの調査でも、64%が精神状態は「平穏」と答え、15%は「非常に良好」と回答した。不安や恐怖を感じているのは主として生活水準が悪化した層や、「国は間違った方向へ進んでいる」と考える人々だった。
興味深いことに、「自分は自由だと感じるか」という質問には、2024年には80%が肯定的に回答し、2026年でも73%が「自由だ」と答えている。他方で、2026年の別調査では64.7%が「今は政権に反対することを口にしない方がよい」と答えており、「自由だと感じる」ことと「自由に発言できる」と考えることが必ずしも一致していないという、ロシア社会特有のねじれも浮かび上がる。一方で、不満が全くないわけではない。2025年末の調査では最大の不安要因は物価上昇(58%)であり、「戦争・対西側対立・制裁」は31%だった。裁判所への不信や官僚の横暴、民主的自由の制限を挙げる割合は数%にとどまった。
しかし2026年になると変化も見え始める。「SVOにはもううんざりだ」と答えた人は52%に達し、67%が「日常生活には不便が多すぎる」と回答した。さらにインターネット遮断が頻発し、77%が通信障害を経験、55%がTelegramやWhatsAppの規制に反対していた。国民の不満は政治理念というよりも、生活上の不便や利便性の低下に強く結び付いている。
そのうえで著者は、自ら「ノーヴァヤ・ガゼータ」の読者269人を対象に独自アンケートを実施した。結果は一般世論と著しく異なり、人権状況(83%)、戦争そのもの(89%)、国家の行為に対する道徳的苦悩(76%)が最大のストレス要因となった。また、自由に発言できないこと(51%)、将来設計ができないこと(53%)、周囲の無関心(50%)、戦争をめぐる友人・家族との対立(42%)も大きな心理的負担として挙げられた。
こうした違いを踏まえ、「ノーヴァヤ・ガゼータ」の読者は自分たちの価値観や苦悩を社会全体も共有していると思い込みがちだが、それは「偽りのコンセンサス」である。社会には異なるストレスを抱えた多様な集団が存在し、自分の周囲だけを見て「皆も同じように考えている」と判断すると、現実を見誤る危険がある。
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