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 経済学者のI.リプシツ氏が、こちらのインタビュー記事で、燃料危機がロシア経済に及ぼす影響について論じているので、以下発言要旨を整理しておく。

 ガソリン・軽油輸出規制によってロシア財政が損失を受けることは間違いないが、その規模は簡単には計算できない。国内販売が増えれば付加価値税や物品税の収入は変化するが、一方でホルムズ海峡情勢などを背景に原油価格が上昇すれば原油輸出収入は増える、という相反する要因があるためだ。むしろ重要なのは、ロシアは現在、自国の石油収入を自らコントロールできない状況に陥っているという点だ。製油所が稼働できるかどうかはウクライナのドローン攻撃次第。原油価格は世界市場や主要産油国が決める。つまり、戦争によってロシアの「石油主権」は大きく制約されてしまったのである。

 政府は、製油所が壊れても修理すれば元に戻るという説明を続けているが、それは疑問視される。高額な設備を修理しても、数週間後に再びドローン攻撃を受け、再度破壊される可能性が高いからだ。その結果、石油会社は修理投資を控えるようになり、被害を受けた製油所は復旧されず、ロシア全体の精製能力が恒久的に縮小していく危険性がある。さらに石油会社は、国内精製向けだった原油を輸出へ振り向け始めていると推測され、その意味でも今回の危機は短期的ではなく長期化する。

 農業への影響は非常に深刻となる。燃料不足の影響は収穫だけでなく、冬作物の播種にも及ぶ。特に、大手アグロホールディングでも燃料備蓄はあと10~15日程度。小規模農家には備蓄がほとんどない。コンバインには100リットル程度しか給油できず、それでは数時間しか作業できない。その結果、 農機が十分に稼働できず、収穫物を畑から運び出すトラックも不足し、今年は収穫量の10~20%が畑に取り残される可能性がある。

 ロシアは世界最大級の穀物輸出国だが、穀物輸出は国家財政を支えるほど大きな産業ではない。それでも、農家は大きな打撃を受け、生産縮小が起き、国内の食料危機につながる可能性がある。さらに、カザフスタンはロシアへのガソリン供給に消極的で、中国もガソリン輸出を制限しているため、燃料輸入にも期待しにくい。

 インフレが物流を通じて拡大することになる。燃料価格の上昇は単純な輸送費増では終わらない。食品は、農場、保管施設、食品工場、卸・小売と何段階もトラック輸送される。したがって、各段階で輸送費が上昇するため、最終価格は単純計算以上に押し上げられる。その結果、現在約5%のインフレ率は7~9%程度まで上昇し、中銀は政策金利を18~19%程度へ再引き上げすることになり、高金利で企業活動がさらに停滞し、生産縮小・失業増加につながるという悪循環に向かう。

 ロシア国民が実感している「体感インフレ」は年率約15%であり、統計局公表値(約5%)を大きく上回っている。仮に家計の半分を食費が占めるとすれば、食品価格上昇だけで家計の実質購買力は約7.5%低下し、国民生活の悪化は避けられない。


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