
このほど、こんな本が出ることになった。照井希衣著『ベラルーシ獄中留学記』(小学館)というものである。
旧ソ連での撮り鉄活動に傾倒した「私」は、2024年12月、新たな”被写体”を求め、ヨーロッパ最後の独裁国家・ベラルーシへ向かった。撮り鉄活動は警察沙汰になってしまう。取り調べのさなか、迷惑をかけまいと友人との連絡を隠そうとしたことが仇となり、「私」は拘束され、そして投獄された。孤独の中、獄中でロシア語を学びながら「私」は考える。自身の性同一性障害のこと、父親との関係、そして人生について―― 200 日にわたる獄中”留学”記。ノンフィクション・エッセイです。
ここだけの話だが、私はこの本の監修を引き受けた。ただ、編集側より、名前を出しても、出さなくてもいいと言われたので、熟慮の末、出さないことにした。もうベラルーシには10年以上行けていないが、もしかしたら、私自身そのうちベラルーシ渡航を試みる機会もあるかもしれない。その時に、この本の監修者として名が刻まれていたら、入国を拒否されたり現地で嫌がらせを受けるリスクはいくばくかでも高まるだろう。最初はそうしたことも含め「覚悟」をして監修を引き受けたつもりだったが、名前を出さなくてもいいというのであれば、ここは実利的に対応しておこうかと、最終的に判断した。
著者の照井希衣さんは「海外撮り鉄」であり、旧ソ連圏自体には必ずしも詳しいわけではない。というか、現地事情を知らない著者が、投獄という逆境を逆手に取り、獄中でベラルーシという国やロシア語を学んでいくというのが、この本のストーリーである。
そうでありながら、この本は旧ソ連圏に精通した皆さんにとっても、興味深く読め、学ぶところが多いだろう。今日、ロシアやベラルーシに渡航すること自体は難しくなく、実際に普通に行って何のトラブルもなく帰ってこられる人が大半だろう。しかし、本人も気付かぬうちに、実は塀の上を歩くきわどい状況になっていることがある。そして、ちょっと足を踏み外しただけで、塀の向こう側に転げ落ちてしまう。日本人にありがちな性善説的な発想で、「鉄道を撮って見付かれば多少は怒られたりするかもしれないが、趣味で撮っていることを説明すれば許してくれるはずだ」などとタカをくくるのは、禁物だ。現地当局は、少しでも疑うべき点があれば、徹底的に取り締まろうとする。そして、いったんその餌食になれば、先方にとっては貴重な外交カード、「飯のタネ」に化ける、というわけである。この恐ろしいメカニズムを、実際の体験者が綴ったのが、本書である。
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