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 こちらの記事が、ロシア農業が内需・外需の双方で苦戦していることを伝えており興味深いので、以下抄訳しておく。

 2025年のロシアは前年より穀物の収穫が良く、総収穫量(純重量)は公式推計で1.37億tに達して前年比7%増となる見込み。しかし、「たくさん獲れたのに儲からない」という状況。背景には、肥料・種子・燃料・農薬・賃料・人件費・物流費など生産コストの上昇がある一方で、国内の買い取り価格が採算ラインを大きく下回っていることがある。さらに輸出でも、世界的な豊作と競争激化によって価格が伸びず、農家も輸出業者も利幅を確保しにくい状況である。

 12月中旬時点で収穫面積の97%(約4,450万ha)が処理済みで、多くの地域で単収が前年を上回るという。輸出余力についても、約5,000万tという見方や、業界団体の5,700万~6,100万tといった強気の推計が並び、5年ぶりの高水準の収穫が世界市場への供給増につながるとされる。小麦だけでも約4,450万tを輸出できる可能性があるという。

 ところが、供給過剰が価格を押し下げた。持ち越し在庫が約1,000万tあることも、供給の厚みをさらに増やしている。具体的な国内価格としては、2025年12月5日時点で3等小麦が1t当たり14,460ルーブル(前年同月比約18%下落)、4等小麦が13,325ルーブル(同約18%下落)など、主要品目の多くが前年より大きく安い水準となっている。年末にかけては、製粉・製パン用や輸出向けにも使われる3等小麦の「引き取り(自家搬入)価格」が1t約13,600ルーブル程度まで下がり、採算確保に必要な水準を大きく下回っている。加えて、南部で不作・ヴォルガや中部で豊作という地域差が価格の地域的な揺れも生んでいる。

 内需価格の弱さには複数の要因があり、①高収穫見通しによる価格期待の低下、②ルーブル高による輸出採算の悪化、③加工業者側の需要が限定的であること、が挙げられる。こうした価格環境ではコスト増を吸収できず、生産拡大の意欲も削がれる。生産コストについては、当事者の声として「すべてが値上がりしている」とされ、種子・肥料・農薬・燃料・地代・物流費・賃金まで幅広く上昇している。コスト上昇率は10〜20%、播種に関わる総コストで約15%増という試算もある。

 採算面では、2025年夏時点で小麦生産の収益性が15%まで低下したと見られ、地域や経営規模によっては「臨界点」に近いほど採算が悪化しているという。特に乾燥しやすい南部では、春の遅霜と夏の干ばつが重なり、多くの生産者が赤字すれすれに追い込まれた。ある大手農業企業の例では、冬小麦の収量自体は前年より増えた一方で、全体の総収穫は期待を15%下回ったとも述べられる。さらに、2025年1〜8月の穀物・油糧作物生産者の税引前利益が前年同期比25%減の670億ルーブルに縮小したり、債務負担の拡大(2025年11月1日時点で買掛金等が約2.99兆ルーブル、前年比8.4%増)、農機販売の減少、老朽コンバイン比率の上昇、過去5年で約3.5万の農家が廃業したという厳しい状況も見られ、特に小規模・中規模農家の打撃が大きい。

 輸出も万能薬になっていない。2025/2026シーズンのロシア小麦輸出価格は、国内供給の厚さと世界市場での競争によって抑えられてい。ロシアだけでなく、オーストラリア、カナダ、アルゼンチンなど主要輸出国も豊作で、国際市場は供給増に傾いている。国際穀物理事会の見通しとして、世界の小麦増産の主役はロシア・EU・カナダで、世界の穀物貿易量は2025~2026年に4億9,340万t(前シーズン比1.4%増)に達する。価格面では、輸出相場が1t当たり228〜230ドル程度で、年末時点でタンパク質12.5%小麦のFOB価格が225〜230ドルに落ち着いた。これは米国産(236ドル)やフランス産(228ドル)と比べ競争力はあるが、輸出業者の利幅は縮む。好況だった2021〜2022年頃はFOBで300〜320ドルに達し、2022年には需給逼迫や物流混乱で350〜380ドルに跳ね上がった局面もあったわけで、現状は最良期より25〜35%安い。国内価格と輸出価格の差(輸出ディスカウント)が縮小し、場合によってはほぼ消えたため、輸出しても思うように儲からない。

 物流と競争の制約も重い。アジアや南米市場では、世界的な供給増と物流費の高さがロシア産の競争力を制限する中で、輸出業者は中東・アフリカなど伝統的な買い手により注力することになる。需要面では、トルコ、イラン、パキスタン、バングラデシュ、エジプトなどが今季の小麦調達を増やしており、一定の追い風もある。ロシア産小麦はエジプト輸入の80%、モロッコの40%、アルジェリアの35%を占め、サハラ以南アフリカ向けが43%増の600万tに伸びたことは販路多角化の成功例。ただし、輸出業者側も「高金利の資金調達」「為替・決済リスク」「低い利幅」という三重苦の中で、量よりも取引の質と収益性、すなわち調達から港湾、物流までのサービス品質が重要になっている。

 今後については、2026年半ば頃に在庫が減って旧穀の圧力が弱まり、2026/2027の収穫見通しが形成されてくるにつれて価格が上向く可能性があるという見立てがある。他方、悲観シナリオとして、世界供給がさらに増え、ルーブル高も進めば、2026年のFOB価格は220〜230ドルへ小幅下落する可能性もある。輸出採算の悪化が進めば、規制強化なども絡んで輸出余力そのものが損なわれかねず、政府支援策としては農業向け金利を1〜5%水準に抑えること、被害農家の税支払い猶予・再編、肥料や燃料、種子のコスト補填などが考えられる。

 こうした「穀物が儲からない」現実は作付け構造を変えつつある。2025年12月初め時点の冬作(秋播き)の播種面積は約1,980万haで前年並みだが、内訳では穀物が前年差で20万ha減ったという。逆に、冬作の菜種は約6万ha増え、前年より8%増とされる。数年前から続く傾向として、小麦などの伝統的穀物よりも採算の良い油糧作物、トウモロコシ、工芸作物の比率が上がっており、2026年もこの構造転換が続くと見られる。機関予測として、小麦の作付面積は2,690万haから2,630万haへ縮小し、平均単収も3.3t/haから3.2t/haに下がる一方、ヒマワリ・大豆・菜種は過去最大の作付になる、という見通しがある。ただし、油糧作物の拡大には輪作上の制約や加工能力不足というボトルネックがあり、どこまでも増やせるわけではない。

 気象リスクも大きい。今季最大のリスクとして暖冬が挙げられ、積雪不足や早すぎる生育の進行、害虫増などが冬作物の一部枯死につながれば、春播きへの切り替えが増え、結果として油糧作物へのシフトがさらに強まる可能性がある。2026/2027シーズンの小麦収穫は8,380万〜8,800万tと予測され、2025/2026の8,850万tから減る見通しで、これも低採算に反応した農家の行動の結果だと位置づけられる。

 最後に、2026年に向けた市場環境として、国内価格は供給過多に加え、2026年2〜6月に輸出割当(クオータ)2,000万トンが導入されることで、さらに圧力を受ける可能性がある。輸出量が制度的に抑えられれば国内に滞留しやすくなり、価格が上がりにくいからだ。こうした中で、農業企業は販路の多角化(輸出先の見直し、地域間販売、買い手のタイプ分散)を迫られている。また、輸出だけでなく国内のトレーディングが収益機会になり得るとして、加工工場が「後払い・受け入れ時の品質評価」を望むのに対し、農家は「前払い・出荷時の品質(書類)基準」を望むため、その間を埋めて資金繰り・物流・品質リスクを引き受けられるトレーダーが仲介者として価値を持つ。


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