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 夏休みに読んだ本シリーズ。今年の米大統領選で、トランプと組み、共和党の副大統領候補として選挙戦を戦うことになったJ.D.ヴァンス氏。その半生を綴ったのが、本書『ヒルビリー・エレジー~アメリカの繁栄から取り残された白人たち~』である。

 このヴァンス自伝は本国でベストセラーになったが、トランプが勝利した2016年大統領選との関連で注目を集めたことは間違いないだろう。トランプが強固な支持を獲得したのは、斜陽化する重工業地帯「ラストベルト」であって、ヴァンスの自伝はその中でも絶望度の高いアパラチア地方の物語である。

 ただ、今回読んでみて、『ヒルビリー・エレジー』をトランプ現象解明の解説書みたいに使おうとしても、無理があるかなと感じた。ヴァンスは、自らの境遇であるアパラチアの環境を自分なりに解明しようと考察を試みてはいるが、社会科学的な分析ではなく、あくまでも自伝である。ヴァンス自身の人間関係、直面した薬物や暴力の問題など、具体的であるがゆえに真に迫ってはくるが、正直言うと、一人の人間の人生をここまで克明に知りたいとは思わない。ヴァンスが副大統領候補になったということで、日本の大型書店でも本書が平積みで売られたりしているが、日本人が読むのには冗長すぎるなというのが、個人的な偽らざる感想である。

 本書から判断すると、ラストベルトの問題と、アパラチア地方の「ヒルビリー」の問題は、重なり合う部分は大きいにしても、イコールではないように思われる。ヒルビリー現象は、単に構造不況の問題ではあるまい。構造不況に、独特の住民気質が重なり、貧困の沼から抜け出せない現象のように思えた。そうした中で、ヴァンスは良きメンターに恵まれ、並外れた努力をした結果、沼から抜け出たのである。ヴァンスは、心がけ次第でチャンスはあると主張しているが、読んでみた偽らざる感想としては、沼からの脱出は奇跡に近いように思えた。

 トランプは、ラストベルト、つまり構造不況製造業の代表者としてヴァンスをパートナーに抜擢したような捉え方があった。しかし、本書を読んだ限り、ヴァンスはラストベルトの利益代表者というよりは、その一類型であるアパラチア現象を克服した人物のように思える。甘言を用いラストベルトで票を稼ぐトランプと、ヒルビリーの呪縛から解き放たれたヴァンスの組み合わせは、控え目に言っても「変」だなと感じた。


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