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 1ヵ月ほど前の動きだが、こちらに見るとおり、ロシア肥料生産者協会のA.グリエフ会長(自身はフォスアグロ社の経営者)が、V.プーチン大統領との会談の席で、過去10年のロシア肥料産業の目覚ましい成長について報告したということである。以下、グリエフ会長の発言要旨を整理しておく。

 過去10年で全種類合計の肥料の生産量は40%拡大し、5,500万tに達した。生産量で米国、インドを抜き、中国に次ぐ世界2位の生産者となっている。過去10年の世界における肥料増産の3分の1はロシアが担った。

 10年間で、窒素肥料の生産は約50%増、リン酸肥料は約55%増、カリ肥料は約30%増だった。

 むろん優先しているのは内需で(注:国内市場をないがしろにして輸出にいそしむのか?という批判が寄せられがちなので、こういう言い方になる)、全面的な自給に成功している。10年で国内供給量は2.5倍に伸び、1,320万tに達した。2021年7月、エネルギー価格、そしてそれに連れて肥料の価格も高騰していた中で、ロシアの肥料業界は国内供給の価格を固定することを自主的に決め、その結果、輸出価格の上昇が国内価格に跳ね返らないという成果を生んだ。2023年第1四半期の時点でも、ロシア国内価格は国際価格よりも、硝酸アンモニウムで40%、尿素で15%安くなっている。

 輸出量という観点では、現時点でロシアは世界最大である。全世界の輸出の約20%占める。もっとも、2021年には3,700万~3,800万tに達した輸出量が、制裁および輸出オペレーションの困難により、2022年には若干低下することになった。2022年の輸出は前年比で15%低下した。

 過去10年の増産は、大規模投資の賜物である。2013年に新たな投資サイクルが始まり、1.8兆ルーブルが投下された。この間、業界は税金だけでも6,000億ルーブルを納め、2022年にも2,000億ルーブルという過去最高額を納税した。

 ロシアの21地域に36社があり、11万人が働いている。2022年には業界平均で16%の賃上げがあり、我がフォスアグロ社が最高の22%の賃上げ率だった。

 (窒素肥料は天然ガスを原料に生産されるが)肥料産業の天然ガス消費は年間200億立米となっている。ロシアは天然ガス輸出の5分の1ほどを窒素肥料という形で行っている格好である。

 「特別投資契約(специальный инвестиционный контракт=СПИК)」、「競争力向上法人プログラム(корпоративная программа повышения конкурентоспособности=КППК)」、「投資保護・奨励契約(соглашение о защите и поощрении капиталовложений=СЗПК)」といった政府の支援策に感謝している。

 2022年には制裁で輸出が低迷した。船舶の保険、決済、SWIFT制裁などとともに、2022年3月に欧州諸国がロシアの全肥料メーカーに導入した制裁があり、夏には米国もそれに続いた。ロシアの肥料輸出の70%は途上国、グローバルサウス向けである。(つまりロシアの肥料をそれほど必要としていない国が導入した制裁の結果、途上国が苦しんだということか?というプーチンの問いに応じ)まったくそのとおり。欧州ではガス価格の高騰により肥料生産が大幅減となったが、彼らは農家に補助金を渡し、他の市場から肥料を輸入している。それは本来、中南米、アフリカ、アジアに向かうはずだった肥料である。その結果、世界の施肥量は2022年に10%低下した。収穫は下がり、値段は上がることになる。

 「黒海穀物イニシアティブ」は、ロシアの肥料輸出に関しては、何ら機能しなかった。ロシアの対外資産の凍結解除、アンモニアの販売再開、ロシア船舶の保険・再保険の制限解除、ロシア船舶の入港禁止解除、ロシアへの農業機械・スペアパーツ・メンテナンスサービスの供給禁止解除はまだ行われていない。これは肥料業界だけでなく、カリ塩、リン鉱石の採掘企業にもかかわる。

 現在港のキャパシティを計2,000万t拡張する建設プロジェクトが実施中で、ウスチルガ、ナホトカ、タマニ、ラヴナ、テムリュク、カフカス港などで進んでいる。液体肥料輸出、アンモニア輸出はバルト海経由で行われてきたが、現在その解決に取り組んでおり、政府が工程表を策定した。


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