
ロシア入国を禁止されてしまった中村逸郎先生へのお見舞い企画として、私が過去に書いた先生の著作の書評を再録するシリーズ。2回目の本日は、『虚栄の帝国ロシア ―闇に消える「黒い」外国人たち』(岩波書店、2007年)を取り上げる。
最近ロシアで外国人労働者を見かけることが本当に多くなった。そうしたなか、周辺諸国からロシアに押し寄せる出稼ぎ労働者に焦点を充て、この問題を通じて「内なる帝国」としてのプーチンのロシアに迫ろうとしているのが、本書『虚栄の帝国ロシア』である。
一体ロシアにはどれくらいの数の外国人労働者がいて、民族別の内訳はどうなっているのか? こうした点について、信頼できる情報はなかなか得られない。それもそのはずで、ロシアで働いている外国人の9割以上は不法就労者だという。本書では、まず第1章において、現地の報道などにもとづき、この問題を定量的に整理し、全体像を描くことを試みており、有益である。
だが、本書の真骨頂は、現地での徹底したフィールドワークにある。著者は、「黒い労働者」、すなわち中央アジアやコーカサスをはじめとする旧ソ連諸国からロシアに仕事を求めてやってくる出稼ぎ労働者たちに密着し、その実態を明らかにしていく。それのみならず、「黒い労働者」を使用する側のロシア人にも長期取材を試み、その本音とからくりをあぶり出しているのだ。いつものことながら、著者の独自の着眼点と、それをとことんまで突き詰める仕事振りには、敬服せざるをえない。
このように徹底した取材・調査の結果浮かび上がる外国人労働者の実態、ロシア社会の病理は、実にショッキングである。と同時に、タジク人と、キルギス人と、モルドバ人で、誰が一番働き者かといった興味深い話題もちりばめられており、教えられるところが多い。
そして、こうした研究結果にもとづき著者は、プーチン政権が「旧ソ連構成国のなかで、いわばロシアを突出させ、そこに周辺国の労働力を吸収しようと」しており、「そのような政策をとおして、ロシアの旧ソ連圏にたいする支配力を確立することをめざし」ていると主張する。「プーチン政権はロシア国内において周辺民族を収奪する内なる帝国を打ち立てようとしている」と結論付けている。
ただ、評者は個人的に、この主張は刮目に値するものの、やや一面的ではないかと感じた。私見によれば、人口減・労働力不足に直面しているロシアに、石油ブームが到来したら、誰が大統領でどんな政策をとろうとも、周辺の貧困国から出稼ぎ労働者が集まるのは必然である。結果的に「内なる帝国」を思わせるような構図が生じているのはそのとおりだし、現実に起きている人権問題は看過できないが、その原因をもっぱらプーチンの政策に帰することには慎重であるべきではないか。
このように、個人的には若干引っかるところもあったが、迫真のルポルタージュとしての本書の価値は、いささかも減じるものではない。秀逸なロシア論、そしてNIS諸国論として、ぜひ一読をお勧めする。
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