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 商工中金経済研究所から発行されている『商工ジャーナル』という月刊誌がある。このほど、その「観天望気」というコーナーで、年1回の連載を開始することになり、7月1日に発行される7月号にその第1回を寄稿した。

 第1回は、「経済制裁と貿易戦争の横行する世界」と題し、ここ数年の世界経済がすっかり制裁と貿易戦争によって撹乱されていることを憂う内容だった。そして、そんな世界の中で見られる例外的現象を紹介するという意味合いで、末尾をこんな風に結んでしまっていた。

 ジョージアは、2008年8月にロシアとの軍事衝突に直面した。ジョージアは国土の一部を実質的に喪失し、両国の外交関係は今もって断絶したままである。しかし、両国の経済関係は、2013年から正常化している。今や、両国首都間を多くの直行便が飛び、ロシア人観光客が急増して、ジョージアは世界で最も急成長している観光立国となっている。

 言わば、名を捨て実を取ったジョージア。案外その方が、安全保障上の問題の解決にも近道なのではないか。

 旧ソ連地域の情勢に関心をお持ちの方であれば、この記述がここ数日間で完全に陳腐化したことをご存知であろう。6月20日にジョージアの首都トビリシでキリスト教東方正教会の議員連盟会合が開催され、その際にロシアの議員が議長席に座りロシア語で発言してしまった。悪いことに、S.ガヴリロフというその議員は、2008年のジョージア・ロシア戦争で重要な役割を担った人物だった。これにジョージアの野党議員が反発しただけでなく、議会の外では市民の抗議デモが発生し、いつしかそれは反政府デモの意味合いを強めた。トビリシが騒乱状態となったことを理由に、ロシア当局は22日、ロシアからの航空機をジョージアに乗り入れることを7月8日から禁止すると発表。また、ロシア消費者庁は24日、ジョージア産ワインに品質上の問題を発見したとして、輸入規制を強化することを発表した。

 観光とワインは、ジョージアがロシアに経済的に依存している2本柱である。それを制限することは、実質的に経済制裁の発動に他ならない。私がコラムで書いたことは、吹き飛んでしまった。

 文章を書くことは恥をかくことであり、増してや国際情勢を対象としていれば、書いたものがすぐ古くなってしまうということは、よくある。しかし、『商工ジャーナル』の「観天望気」は、大所高所の議論を披露してほしいとの注文だったので、私なりに工夫を凝らし、ジョージアの話も括目すべき新潮流として取り上げたつもりだった。それが裏目に出て、連載1回目に、出た瞬間に古びている文章を書いてしまうとは。ここ何年か続いていたトレンドが、よりによって私のコラムが脱稿した直後に、ひっくり返ってしまうとは。ジョージア情勢の急変自体が個人的にショックだったが、自分自身の間の悪さが重なり、絶望的な気持ちになってしまう。


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