ずっと気になっていたテーマであるが、良い機会なので、ここでまとめておく。このところ躍進著しいロシア・ダゲスタン共和国のサッカークラブ「アンジ・マハチカラ」が、かねてから噂されていたとおり、名将として知られ、ロシア代表を指揮したこともあるフース・ヒディンク氏を、監督として迎えることが決まった。本件に関しては日本語でも、こちらの記事などで情報を得ることができるので、私としては側面的な情報を補足したい。
ダゲスタン共和国というのは、ロシアの北カフカス地域に所在する一連の民族共和国のなかでも、とりわけ人口が多く、また複雑な民族事情を抱えたところである。そもそも「ダゲスタン人」という単一の民族があるわけではなく、「ダゲスタン諸民族」と呼ばれる少数民族の集合体によって住民が形成されている。アンジ・マハチカラというサッカークラブの歴史は比較的新しく、ソ連末期の1991年に設立されたそうである。個人的に「アンジ」という言葉の意味が気になっていたが(どうしてもストーンズの歌を連想してしまう)、今回調べたところ、クムク語(ダゲスタン諸民族の一つであるクムク人の言葉)で「真珠」という意味であり、マハチカラ市の地がかつてクムク語でそう呼ばれていたことから付けられたということである。アンジ・マハチカラはその後ロシア・プロサッカーリーグの1部および2部をさまよっていたが、近年急速に力を付け、2009年に1部で優勝し、2010年シーズンからロシア・プレミアリーグに参戦している。
そして、2011年1月に、大富豪として知られ、ダゲスタン共和国の古都デルベントの出身であるスレイマン・ケリモフ氏がアンジ・マハチカラのオーナーとなった。ケリモフ氏の人物像に関し、日本語で得られる情報でおそらく一番優れているのは、私が編集している雑誌に掲載した坂口泉「不死身の大富豪スレイマン・ケリモフ」『ロシアNIS調査月報』(2007年8月号)だと思うので、機会があったら参照していただきたい。私のHPでも先日、ロシア・コーナーのNo.0167で関連情報をお伝えした。ただし、ロシア紙に掲載された情報によると、正確に言うとケリモフはアンジを買収したのではなく、クラブの維持費およびインフラ整備費を負担することと引き換えに、アンジの株100%を無償で譲渡されたのだという。それまで、アンジの株の49.9%をダグネフチェプロドゥクト社(マゴメドフ・ダゲスタン共和国大統領が当時のオーナー)が、別の49.9%を家電量販チェーン「エルドラド」の共同オーナーの1人ヤコヴレフが保有していたが、100%をケリモフが無償で取得することになった。その代りケリモフは、選手のサラリーや新規獲得などに毎年3,000万~5,000万ドルを、さらにインフラ整備に2億ドルを投資することを約束したという。アンジは4万人収容のFIFA基準を満たす新スタジアムの建設を計画している。