ベラルーシという国についてはしばしば、「なぜあんな酷い独裁者なのに、国民が立ち上がらないのか?」という疑問が外部から呈される。ベラルーシの民間シンクタンク「独立社会・経済・政治研究所(IISEPS)」から、最新の2011年12月の世論調査結果を盛り込んだニュースレターが届いたので、そのあたりのところを改めてつらつらと考えている。
2011年はベラルーシにとって、経済危機の年だった。IISEPSの調査でも、「2011年はベラルーシにとって前の年よりも困難だった」と答えた回答者が74.7%に上っており、これはリーマンショックの時期よりもはるかに高い比率である。
その結果、2010年12月の大統領選の時点では53%あった国民のルカシェンコ大統領に対する支持率は、2011年9月には20.5%へと急落した。これは、これまでで最も低い支持率である。ただ、外貨交換の制限措置を解除したことなどで、国民の生活が多少安定に向かい、支持率も2011年12月には24.9%まで持ち直している。
さて、今回、私が注目したのが、IISEPSの世論調査のなかにある「貴方は自分のことを現政権に対する反対派(opposition)だと思うか?」という設問である。その回答を時系列的に跡付けてみると、下図のようになる。ルカシェンコの支持率が底に下がった2011年9月ですら、現政権に対して自覚的に反対している向きは、3割弱にすぎなかった。自分を「反対派」だと自覚するということは、ルカシェンコ政権のあり方やその政策路線に対し原則的に同意していないということを意味していると考えていいだろう。逆に言えば、経済危機で市民の生活が悪化すれば、当然多くの国民は不満を抱き、ルカシェンコの支持率が下がったりはするが、そうした批判の声は原則的というよりも流動的なものであり、社会・経済状況が改善すればルカシェンコの支持率もある程度持ち直すし、増してや多くの国民がルカシェンコ体制の打倒のために自ら立ち上がるようなことは考えにくい、ということにならざるをえない。
もう一つ特徴的なのは、現政権への支持が低下しても、それが野党への支持にはまったく結び付かないという事実である。大統領を信頼するという回答者は、2010年12月の55.0%から、2011年の9月には24.5%に落ち込んだ。しかし、野党を信頼するという回答者は同じ時期に、16.3%から12.3%へと、こちらも落ち込んでいるのである。というわけで、現時点では、現体制に取って代わる受け皿が存在しないなかで、時々の社会・経済情勢に応じて、現政権の支持率が単に上がったり下がったりしているだけという状況である。
