ロシア・ウクライナ・ベラルーシ探訪 服部倫卓ブログ

ロシア・ウクライナ・ベラルーシを中心とした旧ソ連諸国の経済・政治情報をお届け

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 橘玲氏の本は、ノンフィクションも、小説も、だいたい読むようにしている。小説で、必ずと言っていいほど登場人物がむごたらしい死に方をするのは勘弁してほしいが。

 さて、夏休みの読書が、米国論というお題になりつつあるなと感じ、米シリコンバレーの天才富豪たちに焦点を充てたこの本の存在を思い出し、Kindleで買って読んでみた。しかし、米国の国家性、地域性とはほとんど関係がなく、あくまでも「テクノ・リバタリアン」という人種についての考察であり、その彼らが米シリコンバレーという場に引き寄せられているだけであって、夏休み読書の統一テーマからは少々外れてしまった。

 Amazonから本書の紹介文をコピーさせていただくと、以下のとおり。

 アメリカのIT企業家の資産総額は上位10数名だけで1兆ドルを超え、日本のGDPの25%にも達する。いまや国家に匹敵する莫大な富と強力なテクノロジーを独占する彼らは、「究極の自由」が約束された社会――既存の国家も民主主義も超越した、数学的に正しい統治――の実現を待ち望んでいる。いわば「ハイテク自由至上主義」と呼べる哲学を信奉する彼らによって、今後の世界がどう変わりうるのか?

 ハイテク分野で活躍する天才には、極端にシステム化された知能をもつ「ハイパー・システマイザー」が多い。彼らはきわめて高い数学的・論理的能力に恵まれているが、認知的共感力に乏しい。それゆえ、幼少時代に周囲になじめず、世界を敵対的なものだと捉えるようになってしまう。イノベーションで驚異的な能力を発揮する一方、他者への痛みを理解しない。テスラのイーロン・マスク、ペイパルの創業者のピーター・ティールなどはその代表格といえる。社会とのアイデンティティ融合ができない彼らは、「テクノ・リバタリアニズム」を信奉するようになる。自由原理主義(リバタリアニズム)を、シリコンバレーで勃興するハイテクによって実現しようという思想である。

 それで、個人的に興味深いと思ったのは、本書の以下のくだりである。

 ハイパー・スステマイザーは、他者との共感をうまく構築できないのだから、アイデンティティ融合が難しい。……この現象は当事者のあいだで、「高知能の呪い」と呼ばれている。なぜ周囲のひとたちが、野球やサッカー、アメリカンフットボール(あるいはアイドル)などに熱狂するのかわからず、デートをしても相手と話がまったく合わないのなら、人生を楽しむことができるだろうか。

 確かに、米国のIT長者がスポーツチームを買収したという話は、あまり聞いたことがない。ただ、それで思ったのだが、日本の場合にはむしろ、IT長者がスポーツチームを買収したりするケースが、非常に多い。これが意味するのは、シリコンバレーのそれと違って、日本のIT長者は、特異な天才としてのハイパー・スステマイザーではないのだろう。日本の成功者は、真にイノベーションを切り開いていているというよりも、外国で開発されたIT技術を、日本の社会・経済に上手く落とし込んで儲けた人々なのだろう。それに加えて、日本の場合、特にサッカーチームは、買収するにも「冗談のように安い」という要因もあるかもしれない。


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 夏休みに読んだ本シリーズ、それもなぜか米国ものの本ばかりだが、今回は、しばらく前に買いながら時間がなくて読めなかった大島隆(著)『「断絶」のアメリカ、その境界線に住む ペンシルベニア州ヨークからの報告』(2022年、朝日新聞社)。

 2020年大統領選で注目された激戦区ペンシルべニア州の小さな町ヨークに住み始めた記者。そこで目にしたのは、お互いに交わらない人々──黒人と白人、貧富、共和党と民主党、都市と郊外。「分断」から「分離」へと深刻化したアメリカ社会の亀裂の理由を探る。

 という内容である。この本、もっと大衆受けしそうなどぎついタイトルをつけてもよさそうなところ、割と説明的なタイトルになっており、私などはそれに惹かれて興味を持った。

 本書のタイトルにある「その境界線に住む」というのは、比喩的な意味ではなく、著者がペンシルベニア州ヨーク市で低所得層・マイノリティが集中するインナーシティに住みつつ、その向こう側はもう高所得層のエリアで、実際に著者自ら断絶の境界線に住んでみたという、文字通りの意味である。

 日本の外交官にしても、大企業の駐在員にしても、そして大手マスコミの特派員にしても、治安に配慮して、一定水準以上の住宅に住むのが当たり前である。スラムのような家を選んだら、お咎めがあるのではないか。そうした中、著者の大島氏が、決して治安の良くないヨーク市内のタウンハウス(日本で言うと風呂・トイレ共同木造アパートみたいなところ)に居を構え、米社会に密着した取材活動を試みたという点に、まず敬服する。

 本書の取材時期は、2020年から2022年5月くらいまでとなっており、コロナ禍と重なるとともに、トランプがバイデンに敗れた前回の大統領選の時期を含んでいる。どんな土地であっても、定点観測には意味があると思うが、ペンシルベニア州は選挙の激戦区であり、その中でも一つの典型例であるヨークに居を構えて粘り強く取材した成果が、本書に結実している。すでに取り上げた『ヒルビリー・エレジー』以上に、トランプ現象を読み解く上での必読書と言えそうだ。


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 ロシア・ウクライナ情勢が大変だが、毎週土曜日の息抜き企画を今日もお届けする。60年前のアメリカ・ヒットチャートを振り返るシリーズ。

 さて、今週4位と赤丸急上昇中で、最終的には3位まで上がる大ヒットとなるのが、Dave Clark Five - Becauseである。当時勢いのあった英国勢の中でも、ワイルドな作風で知られた彼らだが、皮肉にもこのバラード曲が代表曲のようになっている。

その頃ソ連では
1964年8月28日:ソ連最高会議議長令により、1941年に行われたヴォルガ地方のドイツ系住民に対する訴追を撤回。

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 夏休みに読んだ本シリーズ。今年の米大統領選で、トランプと組み、共和党の副大統領候補として選挙戦を戦うことになったJ.D.ヴァンス氏。その半生を綴ったのが、本書『ヒルビリー・エレジー~アメリカの繁栄から取り残された白人たち~』である。

 このヴァンス自伝は本国でベストセラーになったが、トランプが勝利した2016年大統領選との関連で注目を集めたことは間違いないだろう。トランプが強固な支持を獲得したのは、斜陽化する重工業地帯「ラストベルト」であって、ヴァンスの自伝はその中でも絶望度の高いアパラチア地方の物語である。

 ただ、今回読んでみて、『ヒルビリー・エレジー』をトランプ現象解明の解説書みたいに使おうとしても、無理があるかなと感じた。ヴァンスは、自らの境遇であるアパラチアの環境を自分なりに解明しようと考察を試みてはいるが、社会科学的な分析ではなく、あくまでも自伝である。ヴァンス自身の人間関係、直面した薬物や暴力の問題など、具体的であるがゆえに真に迫ってはくるが、正直言うと、一人の人間の人生をここまで克明に知りたいとは思わない。ヴァンスが副大統領候補になったということで、日本の大型書店でも本書が平積みで売られたりしているが、日本人が読むのには冗長すぎるなというのが、個人的な偽らざる感想である。

 本書から判断すると、ラストベルトの問題と、アパラチア地方の「ヒルビリー」の問題は、重なり合う部分は大きいにしても、イコールではないように思われる。ヒルビリー現象は、単に構造不況の問題ではあるまい。構造不況に、独特の住民気質が重なり、貧困の沼から抜け出せない現象のように思えた。そうした中で、ヴァンスは良きメンターに恵まれ、並外れた努力をした結果、沼から抜け出たのである。ヴァンスは、心がけ次第でチャンスはあると主張しているが、読んでみた偽らざる感想としては、沼からの脱出は奇跡に近いように思えた。

 トランプは、ラストベルト、つまり構造不況製造業の代表者としてヴァンスをパートナーに抜擢したような捉え方があった。しかし、本書を読んだ限り、ヴァンスはラストベルトの利益代表者というよりは、その一類型であるアパラチア現象を克服した人物のように思える。甘言を用いラストベルトで票を稼ぐトランプと、ヒルビリーの呪縛から解き放たれたヴァンスの組み合わせは、控え目に言っても「変」だなと感じた。


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 そんなわけで、申し上げるのが遅れたが、調査出張で英ロンドンにやってきた。ロシア情勢等に関し現地の有識者と意見交換をするのが主な目的である。

 ロンドンは、1998~2001年のベラルーシ駐在時代に、何度か訪れている。当時、ミンスクの娯楽や消費生活はきわめて貧弱なものだったので、たまにいくロンドンが唯一の楽しみだった。ただ、ここに来るとカネに羽が生えたように散財し、ミンスクの1カ月の生活費をロンドンでは1日で使うような感覚だった。しかし、2001年に日本に帰任して以降は、一度も英国を訪問する機会はなかった。だから、ほぼ四半世紀振りの英国となる。

 さて、今回の渡英で、とにかく気を揉んだのが、台風の影響だった。金曜、土曜くらいの時点では、台風が関東を直撃する勢いで、水曜に私の乗る羽田~ヒースロー便がまともに飛ぶとは、とても思えなかった。ところが、台風が急に西に進路を変え、しかもノロノロになったので、結果的に昨日は札幌も羽田も晴天であり、フライトは順調そのもので、何なら予定より30分くらい早くヒースローに着いてしまった。人間、ツイてない時もあれば、ツイてる時もあるものだなと、しみじみ感じた。台風の被害を受けている地域の皆さんは、引き続きどうぞお気をつけてお過ごしください。

 ところで、これまでロシアやヨーロッパに飛んできた感覚で、当然のことながら今回の羽田~ヒースロー便も西回りだろうと思っていたのだけど、実際にはアラスカ~カナダ北部~グリーンランド~アイスランドといった上空を通過し、大西洋を越えて英国に到着するルートだったので、驚いた。個人的に、大西洋を越えたのはたぶんこれが初めてだと思う。さすがにかなりの長旅だったな。


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 何かと忙しく、普段、読書をする時間がない。自分の研究に直接関係する文献に目を通すことはあるが、それは楽しんだり視野を広げたりするための読書とは似て非なるものである。そこで、8月中旬にとった夏季休暇では、読書に重点的に励もうと考えた。他方、今回のロンドン出張中、旅先ではブログを書く余裕があるとは限らないので、夏休みに読んだ本の感想を書き溜めておいて、ロンドン出張中のブログネタにしようと考えた。今日からそれをお届けするが、今回読んだ本は、くしくもすべて米国論となっている。

 まず、堀越豊裕(著)『日航機123便墜落 最後の証言』(2018年、平凡社新書)から。新刊ではないのだが、墜落事故の起きた記念日の8月12日頃に、Xで「これは決定的な名著で読むべき」といったポストを目にし、読んでみるかと思い立ったものだった。

 私にとって日航機墜落事故は、青春時代の記憶と重なっている。大学2年の時、静岡に帰省して、焼津の花火大会に出かけた。確かそれが、墜落事故の当日か、あるいは前日だったのではないかと思うのだ。他方、本書に示された上掲地図に見るとおり、日航機は焼津上空で進路を内陸に変え、惨劇へと進んでいった。なので、「自分が見たあの空に、もしかしたら墜落した日航機がいたのではないか」という気がして、それが同機に搭乗していた坂本九さんの「見上げてごらん夜の星を」のイメージとも重なり、自分の中で一つながりのものとして定着してしまっているのだ。ただ、事故が起きたその日に花火大会があったのなら、伝説として語り継がれそうだが、(昔のことなのでネット検索しても事実関係が確認しにくいとはいえ)そういう情報が見当たらないところを見ると、花火大会は事故の前日だったのかもしれない。とにかく私の中ではそういうワンセットのイメージとして出来上がってしまっているのである。

 さて、本書『日航機123便墜落 最後の証言』が、なぜ米国論になるのかというと、米運輸安全委員会、ボーイング社の幹部といった米国側の関係者への聞き取り取材が、本書の中核を成しているからである。それによって、事故の真相に迫るとともに、航空事故をめぐる日米の文化差を浮き彫りにしている点が、本書のハイライトである。なお、タイトルに「最後の証言」とあるのは、米国側の関係者も物故したりだいぶ高齢になったりして、今回著者が試みた取材がおそらく最後のチャンスだったという意味である。

 さて、日航機墜落の原因に関し、定説となっているのは圧力隔壁の破損であり、それを引き起こしたのは米ボーイング社の修理ミスだったというものであり、著者もそれを受け入れている。こうした場合、日本であればボーイングが記者会見をして平謝りに頭を下げ、マスコミや世間は大バッシングを浴びせ、当事者は酷い場合には自殺に追い込まれたりする。しかし、米国での反応はまったく異なるというのが、本書を読んで私が最も強く印象付けられた点だった。

 日本では、結果的に多数の死者を出したのだから、ボーイングやその修理担当者は業務上過失致死に問う流れになるだろう。それに対し、米国では悪意、犯意がない限り、罪には問われない。むしろ、悪意のない過失は積極的に免責し、その代わり起きた問題をすべて明らかにして、今後の事故防止に繋げようというのが、米航空業界の常識なのだという。この文化差が原因で、日航機墜落事件でも、日米間の齟齬が生じたようだ。

 著者が米国流の責任の取り方に共感しているのは、文面から伝わってくる。ただ、それでは航空産業における責任追及に関し、日本は米国流を取り入れるべきと著者が主張しているかというと、必ずしもそうではないという点が興味深かった。

 そんなわけで、ふとしたきっかけで読んでみた本であったが、確かに新書ながら決定版と言える手応えの一冊であった。


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 プーチン政権に批判的なモスクワタイムズのこちらの記事が、ロシアが武器輸出契約をかなりの規模で破棄していることを伝えているので、以下要旨をまとめておく。

 ロシアの国防企業を束ねる国営コングロマリット「ロステック」のS.チェメゾフ社長は、ウクライナでの戦争に武器が優先的に送られるため、ロシアの防衛産業は外国の顧客に武器を供給する契約をかなり破棄していると認めた。

 チェメゾフは、「輸出が減っている理由は、周知のものである。すべてを前線のため、勝利のために、だ。海外パートナー向けには、未納入分が蓄積されている」と述べた。チェメゾフによると、ロシア製兵器の輸出向け供給は、順番待ちの状態だという。

 チェメゾフによると、廃棄された契約は過去1年間で50億~100億ドルに達する可能性がある。したがって、2024年の時点で、輸出契約残高は600億ドルという記録的な数字に達している。なお、2023年5月にはロシア連邦軍事技術協力局のD.シュガエフ局長は、輸出受注残高を500億~550億ドルと見積もっていた。

 2023年5月、アルメニア当局はロシア製兵器の供給契約の中断を発表した。サファリャン外務次官は、アルメニアがすでに代金を支払った武器を受け取っていないなどと訴えた。

 2023年3月、ロシアはインドとのS-400トライアンフ対空ミサイルシステムの供給契約を破棄したと報じられた。武器輸出公団2018年に54億ドルで5セットの契約を結び、2024年末までに引き渡すことを約束した。しかし、戦争と制裁によってその計画は中断された。インド空軍高官によると、ロシア側はインドに遅れを「文書で通知した」という。

 ストックホルム国際平和研究所によると、2019~2023年のロシアの武器輸出は、その前の5年間に比べ53%減少した。その結果、世界武器供給国ランキングでロシアは2位から3位に後退し、世界シェアは11%に縮小した。1位は依然として米国で、その輸出は17%増加し、世界の武器市場におけるシェアは42%に達した。第2位はフランスで、5年間で輸出を47%増加させた。


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 ロシアは世界一のダイヤモンド産出国であり、同国のアルロサ社が世界全体のだいたい3分の1くらいを生産している。こうして、天然ダイヤモンドの採掘ではチャンピオンとなってきたロシアだが、近年は中国などで合成ダイヤモンドの生産が拡大してきた。ロシア・タス通信のこちらの記事が、ダイヤモンド業界は合成ダイヤの脅威を過小評価していたのではないかとの専門家のコメントを紹介している。

 まず、「フィナム」社のアナリスト、A.カラチェフ氏いわく、現在生じているダイヤモンド価格の下落は、ダイヤモンドに対する世界的な需要の低下に加え、消費者の嗜好が世代交代とともに変化していることに起因している。今の若い人たちは、あまり高級志向ではなく、プレゼントや婚約指輪への支出を惜しみ、合成ダイヤモンドの購入で我慢する用意がある。ダイヤモンド業界は合成ダイヤモンドがもたらす脅威を明らかに過小評価し、効果的な対策を講じることができなかった。合成ダイヤモンドの生産コストは低下し、生産量は増加している。

 もう一人、BKSインベストメントワールドの専門家、M.セレズニョフ氏いわく、デビアス社とペトラ・ダイヤモンド社は最近のプレスリリースの中で、中国の景気減速、米国における合成ダイヤの人気の高まり、高金利による需要の減少を指摘している。中国と米国が世界のダイヤモンド宝飾品需要の65%以上を占めていることは重要だ。天然ダイヤ業界には長期的なリスクがある。天然ダイヤモンドの生産量は毎年1~2%減少すると予想されるが、需要はもっと早く減少すると思われる。新しい世代は物質的なものよりも感動を好み、合成ダイヤモンドへの関心が高まっている。


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 こちらの記事が、ベラルーシと中国が自由貿易協定(FTA)を締結という見出しを掲げていて、驚いた。ベラルーシはロシア主導の経済同盟「ユーラシア経済連合」の一員であり、関税政策は同連合に委譲しているので、自国の判断で勝手に第三国とFTAを締結することなどできないからである。ところが、記事を読んでみると、これは商品ではなくサービス・投資分野のFTAということであり、それならば原理的に可能ではある。以下記事を抄訳しておく。

 ベラルーシと中国は、サービスと投資の自由貿易圏に関する協定を締結する。調印は、中国の李強首相がミンスクを公式訪問する際に行われる。最高権力者のルカシェンコによると、今回の訪問中に、両国は重要な分野における将来のパートナーシップの計画を強化する文書に署名する予定である。

 「そのうちのひとつは、間違いなく歴史的と呼べるもので、サービスと投資のための自由貿易圏の設立に関する合意だ。ベラルーシは、中国がこのような協定を結んだユーラシア経済連合で最初の国になる」と、ルカシェンコは発言した。

 ルカシェンコによれば、透明で予測可能なルールができるおかげで、ベラルーシの対中サービス輸出は今後5年間で少なくとも12~15%増加し、中国によるベラルーシへの投資は少なくとも30%増加するという。

 会談の中で、両国が「科学・技術・イノベーション協力年」(2024~2025年)を開始することが発表された。その成果は、両政府が最先端の分野で協力関係を発展させるためのロードマップになると確信していると、ルカシェンコは述べた。

 ルカシェンコはさらに、2030年までの中期的な両政府の中核的な課題を明確にし、ベラルーシに中国の技術が大量に流入することを実現することを提案する、ベラルーシの発展は、技術、イノベーション、質の高い人的資源に基づく中国の新たな生産力というコンセプトと連動していると指摘した。

 ルカシェンコによると、過去17年間に中国の支援を受けて、50億ドル以上に相当する27の戦略的産業プロジェクトがベラルーシで実施された。 30億ドルに相当する15の新たな戦略的投資プロジェクトが、中国のパートナーとともに積極的に検討されている、という。


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 HP更新しました。マンスリーエッセイ「1983年から2024年へ ナベサダとのランデブー」です。仕事とは何の関係もない道楽話で恐縮ですが、よかったらご笑覧ください。


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 私が以前編集長を務め、今も寄稿を続ける『ロシアNIS調査月報』の2024年9-10月合併号のご案内。9-10月号は、「ウクライナ復興と企業の役割」と題する特集号となっております。詳しい内容とお問い合わせ・お申し込みはこちらまで。

 服部は今回は、特集に合わせて、「ウクライナ自活の鍵を握る黒海穀物輸出」、「再建の賛否分かれるカホフカダム」を執筆しました。また、特集の枠外では「軍需主導の成長が続くロシアの鉱工業生産」という記事を書いています。


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 ロシア・ウクライナ情勢が大変だが、毎週土曜日の息抜き企画を今日もお届けする。60年前のアメリカ・ヒットチャートを振り返るシリーズ。

 さて、前にも書いたと思うが、1960年代半ばのモータウン黄金時代にあっても、私はとりわけエディー・ホーランドの作品が好きで、とりわけ今週88位にランク入りしてきたEddie Holland - Candy to Meが大のお気に入りなのである。大ヒット曲というわけではないが、個人的なフェイバリットだ。

その頃ソ連では
1964年8月28日:ロシア共和国クイブィシェフ州のスタヴロポリ市が、トリヤッチ市に改名される。物故したイタリア共産党の指導者の名にちなんだもの。

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 ロシア唯一の戦車工場として知られているのが、ウラル地方のスヴェルドロフスク州ニジニタギル市に所在する「ウラルヴァゴンザヴォード(ウラル鉄道車両工場)」である。鉄道車両工場と称してはいるが、軍需生産の方がずっと大きいと見られる。こちらの記事が、同社の大幅な賃上げについて伝えている。

 記事によると、ウラルヴァゴンザヴォードでは8月1日付で、全職員の賃金を28%引き上げた。2024年に入って2度目の賃上げとなる。ただし、幹部職員はその対象とはならない。同社の広報部がこのほど発表した。


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 ロシアの大ガス産地であるヤマル半島を起点に、モンゴルを通って、中国に到達するというルートを描くガスパイプライン「シベリアの力2」構想。これまでは、ロシアが熱心に働きかけ、モンゴルもノリノリで、一人中国が渋るという構図で捉えられていた。しかし、こちらの記事が伝えるように、このほど香港のThe South China Morning Postが、モンゴルが同プロジェクトから離脱する動きを見せていると報じ、話題となっている。

 記事によると、このほどモンゴルは2028年までの発展計画の草案を起草したが、そこにはシベリアの力2の存在は盛り込まれていない、ということである。香港紙ではモンゴル元高官の発言を引いて、背景につき論じている、ということだ。ただ、上記記事は全体としてモンゴル離脱論を吟味している。

 これに対し、こちらの記事によれば、ロシア外務省のM.ザハロヴァ報道官は、シベリアの力2プロジェクトは高い準備段階にあり、中国と供給価格・量につき合意し関連契約が結ばれた後にただちに実現することになるとコメントした。


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 ロシア国営通信社の記事でウクライナ情勢をフォローするのはあまり適切でないが、こちらの記事が気になったので以下のとおり抄訳しておく。私は目下EUは無条件にウクライナからの全商品に対する輸入障壁を時限的に撤廃していると理解していたのだが、食品については関税割当(一定量までは無税で輸入できるが上限を超えると関税が課せられる仕組み)が復活したようで、この記事ははちみつのそれについて主に伝えている。

 欧州委員会は、割当量を超過したため、ウクライナからEUへのはちみつの無税輸入を停止した。欧州委員会では、2024年1月1日からのはちみつの輸入量が、2024年6月6日に採択された修正優遇措置(ATM)に規定されていた枠(44,417.56t)を超えたとしている。委員会によると、割当量を超えた時点で無税優遇措置は自動的に停止される。そして、2024年8月21日から2025年6月5日までの対ウクライナはちみつ輸入は、DCFTAに規定された割当量と関税の範囲内で、すなわち2016年以降の通常の体制で行われることになる。

 EUのウクライナからの農産物無関税輸入制度は2022年春に打ち出され、2023年に延長され、2024年6月5日には再び大々的に1年間延長された。しかし、農民の抗議運動からの圧力を受け、ブリュッセルはこの文書に、ロシアによる侵攻前の平均輸入量に基づく量的制限を盛り込み、それを超えると関税は自動的に復活することになった。早くもその2週間後の6月19日には、オート麦と穀物挽割り、さらにトウモロコシに対する関税が、そして7月2日には砂糖と卵に対する関税が復活していた。


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 いつも不思議に思うのだが、ウクライナの組織は、公式ウェブサイトでなく、フェイスブックページで有益な情報を発信する傾向があるのではないかと思う。私が以前から統計データを利用していたウクライナ港湾管理局などは、公式HPにはほとんど見るべき情報が載らない。それに対し、フェイスブックページには、貨物輸送動向などの最新情報が定期的に掲載される。

 今般も、そのFBページに、興味深い図解資料が出たので、それを紹介してみたい。まず上図は、ロシアによる全面軍事侵攻開始後に、ウクライナの食料を黒海の港から運び出せなくなり、それを見かねた国連とトルコの仲介で、ロシア、ウクライナ、国連、トルコによる合意「黒海穀物イニシアティブ」が成立し、その下で行われた大オデーサ港からの食料輸出量の月別推移を示している。2022年9月から、合意が有効だった2023年7月16日まで。

 ところが、ロシアは黒海穀物イニシアティブに様々な難癖をつけ、2023年7月に合意を葬ってしまった。ただ、その頃には、ウクライナの執拗なドローン攻撃で損害を受けたロシアは黒海艦隊をあらかた東方のノヴォロシースク方面に退避させており、黒海西方ではロシア軍の脅威が低下した。それを受け、ウクライナは独自に黒海西岸沿いを進む輸出回廊を開設した。下図は2023年9月16日~2024年8月16日の輸送量だが、黒海穀物イニシアティブが有効だった時期より輸送量は拡大しており、しかも以前のように食料(図で黄色い部分)だけでなく、鉄鉱石・鉄鋼などその他の貨物(グレーの部分)も運べるようになった、というわけである。

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 こちらの記事によると、ロシア政府はこのほど、ガソリンの輸出を年内は禁止することを決めたということである。

 本件は、2024年8月13日付のロシア連邦政府決定により決められた。2024年9月1日から12月31日までのガソリン輸出が禁止される。「この決定は、季節的な需要や製油所の定期修理が続く中、燃料市場の安定した状況を維持するために下された」と声明は述べている。

 この制限は、ユーラシア経済連合諸国を含む国際政府間協定にもとづく供給、国民が個人使用目的で輸出する燃料、国際人道援助のために輸出する燃料には適用されない。

 ロシアでは2024年3月1日から8月31日まで、ガソリンの輸出が一時的に禁止されている。 ただ、5月20日から7月末までは、国内市場のガソリン余りと石油精製量の減少を防ぐため、禁止措置は停止されていた。

 ロシアが最初に石油製品輸出禁止措置を導入したのは、2023年秋のことで、自動車燃料の国内価格安定に寄与した。ガソリンと軽油の輸出が2023年9月21日から禁止され、ガソリンの禁輸措置は11月17日に、軽油の禁輸措置は11月22日に解除された。


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 これはしばらく前の動きになるが、見落としていたので、遅れ馳せながら取り上げる。モルドバの親露派の野党勢力がしばらく前に「パベーダ(勝利)」という政党連合を結成していたが、こちらなどが伝えるところによると、10月20日投票の大統領選に向け、8月2日にV.ボリャ氏が大統領候補として擁立されたということである。

 上掲記事によれば、ボリャ氏は記者会見で、ロシア語を公用語に戻すこと、CISおよびユーラシア経済連合との関係を立て直すこと、後者に関してはいずれ加盟を目指すことを公約に挙げた。

 ロシア語版ウィキペディアによれば、ボリャ氏は1982年10月27日モスクワ生まれの41歳。元ラグビー・モルドバ代表という異色の経歴を持つ。職業上の専門は法律で、様々な企業・組織で働いた後、2014年にモルドバ議会議員に当選して政治家に転身。2014~2023年は社会主義者党に、2023年以降は再生党に属した。

 正直言うと、ボリャ氏は個人的に聞いたことのない人物だった。モルドバ大統領選は40歳以上でないと出馬できないので、ぎりぎりそれを満たす年齢のボリャ氏に白羽の矢が立ったのかという感もなきにしもあらず。


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 ロシア・ウクライナ情勢が大変だが、毎週土曜日の息抜き企画を今日もお届けする。60年前のアメリカ・ヒットチャートを振り返るシリーズ。

 この週、モータウンの女性トリオ、シュープリームスがチャートのトップに上り詰めた。Supremes - Where Did Our Love Goが、1位に輝いたものである。1964年のHot 100では、ビートルズが1位から5位を独占する伝説的な週もあったが、シュープリームスがこの曲を皮切りに5曲連続で1位を獲得するというのも、良く知られた伝説である。

その頃ソ連では
1964年8月21日:ソ連とかかわりが深かったイタリア共産党の指導者、パルミーロ・トリアッティ氏が死去。

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 こちらの記事によると、ロシアなど5ヵ国で形成するユーラシア経済連合と、モンゴルが、暫定自由貿易協定(FTA)を締結する可能性があるということである。

 記事によると、ユーラシア経済連合とモンゴルは、自由貿易に関する暫定協定締結の問題を解決し、その調印は12月に予定されている。ロシア天然資源環境省のトップであり、ロシア・モンゴル政府間委員会の共同議長であるA.コズロフ氏が、モンゴルのロブサンナムスライ・オユーンエルデネ首相との会談後に発表した。

 両代表団はウランバートルで会談した。コズロフ大臣は、ロシアとモンゴルは貿易取引の拡大を含む関係強化に取り組んでいると指摘した。「例えば、モンゴルの伝統的な輸出品がロシア市場にアクセスするための有利な条件を作り出すために、ユーラシア経済連合とモンゴルとの間で暫定的な自由貿易協定を締結することが検討されている。12月にユーラシア経済評議会の最高会議で協定に署名する予定である」と述べた。

 コズロフ大臣は、ロシア・モンゴル・中国の経済回廊を作るプロジェクトも調整中であると付け加えた。つまり、3国の港と鉄道の接続である。

 コズロフ大臣によると、2024年のここまでのロシアとモンゴル間の貿易高は、2023年の同時期と比べて21%増加した。ロシアはモンゴルに鉱物製品、食品、化学工業製品、設備、車両を輸出している。輸入は主に蛍石である。地下資源の利用が両国間の重要な協力分野になっている。例えば、現在、国境地帯における共同開発の有望な資源のリストが形成されつつあると、コズロフ大臣は述べた。


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 毎月、ロシア消費者物価のグラフをお目にかけているが、最近はそれほど大きな動きがなく、面白みに欠けていた。しかし、今般ロシア統計局から発表された2024年7月の消費者物価には、久々にダイナミックな動きがあった。公共料金の引き上げがあったからである。

 ロシアでは、住宅・公営事業と称する家庭向けの公共料金が、本来は半年に一度見直される。しかし、露骨な選挙対策(+戦争批判回避策?)で、2022年12月に引き上げられたのを最後に、その後はずっと据え置きだったのである。それを、今回7月の値上げで一気に調整したので、7月にサービスを中心に物価が上がるのは当然だった。本来、ロシアで夏はデフレの季節なのだが。

 結果、7月の消費者物価は、前月比1.14%増、前年末比5.06%増、前年同月比9.13%増だった。単月の1.14%というインフレ率は、2022年4月以来の高さである。

 下図を見ても、7月にサービスが大きく伸びた様子がお分かりいただけるであろう。なお、7月の各種家庭用サービス料金の引き上げは、ごみ処理が6.99%、上水道が11.32%、下水道が11.18%、給湯が10.87%、暖房が(夏は使わないとはいえ)10.23%、都市ガスが9.37%、電気が8.89%、などとなっている。

 どこぞやのシンクタンクが、「ロシア政府は、欧州市場での天然ガス輸出不振を受け、減収を埋め合わせるために国内ガス料金を値上げした」などと的外れなコメントをしていたが、都市ガスの値上げは他の公共料金と足並みを揃えたもので、それほど突出していないことがお分かりいただけるであろう。個人的には、天然ガスによる外貨収入の獲得と、国民向けガス供給は、まったく次元の異なる事柄であり、前者の不振を後者で埋め合わせるという発想は、ロシア当局にはないと思う。

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 少々風変りな話題であるが、こちらの記事によると、中国とロシア北部のアルハンゲリスク間に、「北極エクスプレスNo.1」という貨物船が就航したということである。

 記事によると、北極海航路を用いた北極エクスプレスNo.1の第1便が、6,600海里の距離を乗り越えて、このほど中国からアルハンゲリスクに到着した。自動車部品、家電、消費財など約500のコンテナを積んでいた。折り返しで、アルハンゲリスクから中国向けには、紙、厚紙、パルプ、木材などが輸送される。

 第1船の到着セレモニーには、アルハンゲリスク州のA.アルスフィエフ副知事、中国の駐露大使顧問、在ロシア中国企業同盟の会長、NewNew Shipping Lineの社長などが出席した。

 2週間後には2隻が到着する予定で、そこには計700~800のコンテナが積載されている見通しである。特筆すべきことに、ロシア中央部とのシームレスなロジスティクスが実現し、ロシア中央部から運ばれた商品に、地元の木材・製紙商品が加わり、中国に出荷されることになる。これにより、ロシア・中国間の貨物輸送が迅速化・最適化されることになると、アルハンゲリスク州では説明している。


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 こちらの記事が、ロシアのアルミニウム輸出動向について伝えているので、以下抄訳しておく。

 ロシアは引き続きアジア諸国へのアルミ輸出を増加させ、米国や欧州に輸出されていた一部を置き換えている。2024年上半期、ロシアは韓国へのアルミ輸出量を前年同期比約20%増の15.5万tに増やし、韓国への3大アルミ供給国としての地位を盤石にした。輸出額は1.2倍増の3.7億ドルだった。韓国のアルミ需要は製造業の活況により旺盛となっている。

 ロシアから韓国へのアルミ輸出は数量でも金額でも、半期ベースで2012年以来最高となった。その結果、韓国への3大アルミ輸出国は、オーストラリア28.8%、ロシア19.2%、インド15.5%となり、ロシアがインドを抜いた。

 他方、中国税関のデータによると、2024年1~5月にロシアは15億ドル相当のアルミニウム地金を中国に出荷しており、これは2023年の全出荷量の半分以上である。

 アジア諸国へのアルミニウム輸出の増加により、米国や欧州に輸出されていた一部を置き換えることが可能になる。2023年3月、米国はロシアのアルミニウムに障壁関税を課し、2024年4月には英国とともにロシアからのアルミニウム、銅、ニッケルの輸入を禁止した。ロンドン金属取引所とシカゴ商品取引所でのロシア産金属の取引も禁止されている。EUは、ロシア産金属を禁輸にはしていないが、その議論は始まっている。

 ルサールはアルミニウムのほとんどを輸出用に供給している。2023年の販売額は122億ドルで、うちロシア国内販売は34億ドルだった。ロシア・アルミニウム協会は2023年12月、ロシア国内市場でさばけるアルミは4分の1以下であるとしていた。

 2023年、韓国はルサールにとって中国に次ぐ販売高の海外市場となった。前年比では、ルサールの韓国での売上は0.6%増の11.9億ドル、中国での売上は2.5倍の28億ドル、欧州・米国での売上は40%減の35億ドルであった。 市場関係者は、ロシアから中国へのアルミニウム輸出は、中国の友好的な態度と市場規模から、さらに伸びると予想している。

 AlCircleでは、2023年の韓国の国民一人当たりのアルミ需要は、自動車および電気産業のニーズに牽引され、世界で最も高かったと指摘している。


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0812

 先日、ロシア税関より、2024年上半期の通関統計が発表された。しかし、現時点でロシア税関は、①ごく大掴みな商品分類、②大陸別の貿易額しか発表していない。ウクライナ侵攻後の激変が如実に表れているのは②の方なので、個人的に作成を続けているグラフを更新して、上図のとおりお目にかける。

 上図から、ロシアがヨーロッパと貿易関係を疎遠にし、アジアに傾斜していることは、一目瞭然である。もっとも、一口にアジアと言っても、中国やインドのようなロシアにとっての友好国もあれば、日韓のようなロシアにとっての非友好国たる先進国もあれば、カザフスタンのようなロシアの経済統合パートナーもある。現状でロシアは、中国、インド、トルコといった一部のアジア新興国向けにだけ、輸出を伸ばしている形だろう。また、ヨーロッパの方はほぼほぼEUとイコールではあるが、ここにはロシアがますます関係を深めているベラルーシのような国もある。大陸別の数字は、ないよりはマシだが、このような様々なニュアンスを捨象してしまうことになる。

 2024年のロシアの商品貿易は、輸出が2,071億ドル(前年同期比04%減)、輸入が1,304億ドル(前年同期比8.1%減)と、低迷気味であった。大陸別に見ると、欧州との輸出入は引き続き激減し、アジアへのシフトが続いたが、実は上半期に最も好調だったのはアフリカとの輸出入だった。

 商品別に見ると、主力の鉱物製品の輸出は伸びたものの、食品、金属、機械の輸出が不振であった。輸入はすべての項目で落ち込んだ。


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66

 ウクライナによる越境攻撃が注目を集めているロシアのクルスク州には、クルスク原発が所在している。その現状につき、こちらの記事が伝えているので、以下抄訳しておく。なお、現地では既存のクルスク原発の代替となるクルスク第2原発の建設が進められているところだった。

 クルスク原発では、第2原発2号機の建設現場の人員を一時的に削減したが、原発自体は通常モードで運転している。ロスアトムによれば、施設に残っている専門家たちは、スケジュールに従って作業している。ロシア型加圧水型原子炉-TOIを備えた発電ユニットの建設を実現するためのすべてのシステムは正常に機能している。

 既存のクルスク原発では、3号機と4号機が運転中であり、1号機と2号機は無発電運転中である。

 ウクライナ軍越境攻撃後のクルスク州の状況により、8月9日に連邦非常事態体制がクルスク州に導入された。この体制は、ロシア全土から部隊と手段を集めること、市民への支払いのために連邦予算から資金を配分することを可能にする。

 クルスク原発はクルチャトフ市郊外に位置する。同原発は、ロシア国内で同程度の容量を持つ上位4原発のうちの1つであり、ロシア統一エネルギーシステムの最も重要なベースロードである。主としてロシア中央連邦管区の19地域をカバーする中央電力システムに供給される。黒土地域の全発電所の設備容量に占めるクルスク原発のシェアは50%強である。エネルギー分野におけるロシア連邦の地域計画スキームに従い、新型の新しいロシア型加圧水型原子炉-TOI(最適化情報化世代III+型)を備えた代替となる発電所、クルスク第2原発の建設が開始されていた。建設中の2基の合計設備容量は約251万kWである。


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 ロシア・ウクライナ情勢が大変だが、毎週土曜日の息抜き企画を今日もお届けする。60年前のアメリカ・ヒットチャートを振り返るシリーズ。

 さて、今週1位にDean Martin - Everybody Loves Somebodyとあるが、個人的にはすぐメロディーが浮かばなかった。YouTubeで再生してみたら、あああの曲かと思い出したが。元々はフランク・シナトラのあまり売れなかった持ち歌らしいが、シナトラ所有のリプリーズ・レコード所属のディーン・マーチンに歌わせて、上手くリサイクルできた形か。

その頃ソ連では
1964年8月9日:ソ連国際連合代表部、7月25日に米州機構加盟国外相会議で採択された反キューバの諸決定に関するソ連政府の声明を国連安全保障理事会議長に送付。

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 こちらの記事によると、ウクライナのT.カチカ経済次官(通商代表)が、2024年上半期のウクライナの貿易動向につき語ったということなので、それを整理しておく。

 カチカ次官によれば、2024年上半期のウクライナの商品輸出額は195億ドルであり、これはかなり低い数字であり、外貨収入は今のところ芳しくない。他方、上半期の輸入額は330億ドルだった。かくして、上半期の貿易収支は135億ドルの赤字で、毎月20億ドル強の赤字を出していることになる。これは通商代表を務める私にとっては悪い実績だ。貿易をバランスさせることが重要であり、赤字を避けつつ、貿易を拡大するようにしたい。カチカ次官は以上のように述べた。


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0808

 意味があるのかないのか良く分からないが、ロシア財務省から毎月発表される連邦財政の執行状況をもとにグラフを更新する作業を続けており、こちらに見るとおり今般7月までの数字が出たので、上掲のとおりグラフを更新した。グラフはクリック・タップで拡大。まあ、あまり目立った変動はなく、7月には単月で若干赤字になった程度である。

 1~7月の累計では、歳入が19.7兆ルーブル(うち石油・ガス歳入が6.8兆ルーブル、非石油・ガス歳入が13.0兆ルーブル)、歳出が21.1兆ルーブル、収支は1.4兆ルーブルの赤字で対GDP比0.7%だった。


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URA

 中国と欧州間を鉄道コンテナ輸送で結ぶ「中欧班列」に関しては、このブログで何度も取り上げてきた。ウクライナ戦争で欧州の顧客がロシア・ベラルーシ領経由のルートを敬遠し、中国⇔欧州間のトランジット輸送は低下したものの、中国⇔ロシア間の貨物が増加しているため、中欧班列全体としては貨物量が維持されているというのが、全体像だった。ただし、昨年暮れから中東情勢に関連して海上運賃が高騰に転じており、中欧班列の競争力が高まったため、中国⇔欧州間のトランジット輸送も盛り返しつつある。

 上図は、ユーラシア鉄道アライアンス(カザフスタン・ロシア・ベラルーシによる合弁企業)による中国⇔欧州間のトランジット輸送量の月別推移であり、そのあたりの動向が見て取れるはずである。ちなみに、2024年上半期には18万9,036TEUがトランジット輸送され(前年比57.5%増)、うち西航が16万2,858TEU(104.4%増)、東航が2万5,168TEU(35.1%減)であった。

 さて、関連して、こちらのサイトでA.ベズボロドフという専門家が中欧班列のトランジット輸送の動向につき論じているので、以下抄訳しておく。

 中欧班列輸送量の急成長は2023年9月に始まり、2024年3月にはすでに取扱量が10万TEUを超えた。ベラルーシの中国向け肥料輸出のコンテナ輸送が、このようなダイナミックな成長の主な原動力となっている。肥料のコンテナ輸送は3月にピークを迎え(3万8,000TEU)、過去2ヵ月は一貫して高水準(3万6,000TEU)を維持している。さらに、ロシアを経由する中国⇔欧州間の鉄道輸送は、特に主にカザフスタンとベラルーシを経由する最短ルートでの輸送は、紅海での緊張の高まりを受け、今年も積極的に利用されている。

 国の交通システムにおけるトランジットの役割を公平に評価するためには、トランジットとは何か、なぜそれが必要なのかを原則的に定義する必要がある。トランジットとは、余剰能力を必要とする他者に販売することである。特別軍事作戦開始後、制裁はトランジットそのものは対象としなかったが、それでもトランジットは減少した。まず第一に、ロシアが余剰能力を売却することが不可能になったことが挙げられる。ロシア鉄道東部管区の大規模な再開発、物流全体の変化、西から東への転換、総じて物流システム全体の再構築が見られる。ユーラシア諸国⇔中国間の輸送も含む中欧班列の輸送量は、2024年通年でに合計120万~130万TEUに達するだろう。これは2021年の記録を更新することになるが、ベラルーシの肥料の中国向け割引輸送が主な役割を果たすこのようなトランジットからの収入は、中国⇔EUという従来のトランジットからの収入よりも少ない。

 ロシア鉄道東部管区の近代化が完了すれば、ロシア鉄道とロシアの運行各社が得た技術と能力をどのように活用するかという問題が生じる。新たな市場を開拓するという課題も生じるだろう。今日、日本と韓国の対EU貿易全体は、年間200万TEUである。ワニノにバム鉄道用のターミナルをゼロから建設し、シベリア鉄道やバムにアクセスできる沿海地方の港をいくつか拡張すれば、3年以内にこの量のほとんどすべてをロシアの鉄道に誘致することが可能になる。技術的にはすでに準備は整っており、EUの補助金を得ようと躍起になっているポーランドでさえ、過去数年間、ロシアを通過する中国製品の主要ゲートウェイであったマラシェヴィツェ国境鉄道の拡張に予算を割り当てている。しかし、結果を出すためには、政治的な正常化が必要であることは言うまでもない。

 政治家たちは、交通というのは国家にとって非常に有利な事業であると理解している。一方で、トランジットにはそれなりの準備が必要だ。自国内で質の高い輸送サービスの選択肢をすべて提供する能力が100%なければ、トランジットサービスを売ることはできない。

 旧ソ連の領域でトランジット・サービスを提供できるのは、コンテナ輸送と鉄道管理の能力をそれなりに持っている2カ国、ロシアとカザフスタンだけである。それ以外の国々は、トルコ、アゼルバイジャンからトルクメニスタン、アルメニアに至るまで、いくらトランジットに従事する用意があると宣言しても、残念ながら、最も基本的な責務である自国企業のための安価な物流を提供することすらまだできない。


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 ロイターがこちらで伝えているとおり、S&Pは8月2日、ウクライナの信用格付けを「選択的デフォルト(債務不履行)」に引き下げた。ウクライナが大規模な債務再編の最終段階に着手する中、外国債券の支払いを期日に行わなかったことを受けたもの。3,400万ドル相当の利払いが、1日に期限を迎えた。10日間の支払猶予期間内であるものの、ゼレンスキー大統領が債務再編が完了するまで債務返済停止を可能にする法律に署名したことを踏まえ、支払いが行われる可能性はほぼないとS&Pは判断した。S&Pは債務再編が実施されれば、ウクライナの格付けをいったんデフォルトに引き下げた上で、新たな条件などに応じてCCCかBに引き上げる可能性があるとしている。2022年のロシアによる侵攻前はウクライナの格付けはBだった。

 さて、ウクライナ債務問題の全体像を分かりやすく示したような図解資料などがないかと思って探したのだが、見付かったのはロシア・タス通信のこちらの図解資料くらいだった。ウクライナ事情をロシアメディアでフォローするのはあまりよろしくないが、まあ差し当たりこれを参照しておくことにする。

 この資料は主に上図のとおりウクライナの国家債務残高の対GDP比の推移を見たものである。2024年5月31日現在で債務残高は1,431.5億ドルであり、対GDP比は94%となっている。ただし、意外にも、ロシアによる全面軍事侵攻が始まって以降、激増したという感じにはなっていない。債務残高の内訳は、対外債務が1,027.5億ドル、対内債務が404億ドルである。

 債権者の主な内訳は下に見るとおり。なお、私の理解によれば、ここに米国の名が登場しないのは、米国の対ウクライナ支援が融資ではなく無償援助だからだろう。

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