ロシア・ウクライナ・ベラルーシ探訪 服部倫卓ブログ

ロシア・ウクライナ・ベラルーシを中心とした旧ソ連諸国の経済・政治情報をお届け

タグ:石油

hr

 こちらのサイトに、ロシアに代わる石油供給源を模索したベラルーシが、カザフスタンに白羽の矢を立てながら、ロシアの妨害で実現しなかった経緯をまとめた記事が出ているので(I.ザハルキン署名)、以下のとおり要旨をまとめておく。

 2020年に入ってもベラルーシとロシアの石油供給に関する合意がまとまらず、ベラルーシにとっては困難な時期となった。ベラルーシが代替の石油供給源を模索する中で、カザフスタンからの輸入という案が浮上した。ただし、過去数年、その案は何度が出ていたが、その都度実現には至らなかった経緯がある。

 これまでベラルーシが代替供給源の候補国として挙げた国には、米国、アゼルバイジャン、中東諸国、そしてカザフスタンがあった。カザフの石油は、実際に入荷したこともある。2016年8月から2017年6月にかけて、ベラルーシはカザフから10万8,600tの石油、総額3,370万ドルを輸入した。その輸入には、ロシアからの輸入と比べて、480万ドルの追加費用がかり、しかも輸送ルートもきわめて複雑になった。にもかかわらず2019年5月にルカシェンコ大統領はカザフとの新たな交渉を開始した。

 2019年秋にはベルネフチェヒムのV.シゾフ副総裁が、石油輸入に関するカザフスタンとの政府間協定が合意間近だと発言した。ベラルーシは原油だけでなく加工が可能な石油製品(軽油、重油)も輸入したい意向を示し、輸入量は年間100万~350万tになるとされた。その後の情報によれば、あとは技術的な問題、特にロシアが自国領でのトランジットを認めるかという点だけだと発表された。

 しかし、その後本件は一切の進展がない。本年初めにベラルーシがロシアの石油会社(複数)と厳しく対立し、ノルウェー、アゼルバイジャン、サウジアラビア、さらには米国からの購入に走った時でさえ、カザフの石油にはアクセスできなかった。

 本年の初めに明らかになったのは、ロシア同様、カザフスタンもベラルーシに値引きをするつもりはないということだった。2月にカザフのN.ノガエフ・エネルギー相は、ベラルーシへの石油供給が可能になるのは商業的な条件においてのみであり、値引きは一切なしで、カザフ企業に有利な場合だけであると発言した。さらにK.トレバエフ副首相は、価格に輸出関税が上乗せされた場合のみ供給の用意があると述べた。しかも、カザフ側にはベラルーシへの不信感が頭をもたげ、カザフの原料を用いてベラルーシの製油所で生産された石油製品は国内市場への供給に限定し、輸出はされないという保証をベラルーシ側に求めた。

 ただ、専門家によれば、これらの問題がカザフスタンからベラルーシへの供給の主たる障害になったわけではない。ベラルーシ側は、価格を含め、カザフのすべての条件を飲むつもりだった。ところが、以前と同様、今回も、両国は最大の問題を解決できなかったのである。ロシアが、自国領の石油パイプラインを通じてカザフからベラルーシに石油を運ぶことを、認めようとしない問題だ。

 それでも、両国は交渉らしきものは続けているようであり、7月のユーラシア経済連合の政府間会合でベラルーシのR. ゴロフチェンコ首相は、以前両国が結んだ政府間協定はもう実現可能であると発言した。

 関連して興味深いのは、書類の上では2020年上半期にカザフスタンの石油はすでにベラルーシに入荷したことになっている点である。輸入統計には、37.6万tの輸入が記録されていた。ただ、それがいつなのか、誰が取引したのかはいまだに不明である。しかも、後に統計局はこのデータを削除し、実際に取引があったのかどうかは、迷宮入りした。

 ここ数ヵ月の動きが物語っているのは、カザフ石油の輸入というはすでにほぼ意味を失っており、その今後はベラルーシ指導部のプロジェクトの域を出ないということである。

 現時点ではすでに、カザフの石油を本当に必要ではなくなっている。1~5月にベラルーシは500.7万tの石油を9億483万ドルで輸入した。そのうちロシア以外の代替石油は20%ほどであり、それも第1四半期にロシア石油がほぼ入荷しなかったから生じたものである。6月にはもう、ベラルーシはロシアの石油を100万t輸入し、これは最適な分量である。

 2019年秋に結ばれた2020年のベラルーシとロシアの需給バランス指標によれば、第3四半期にはさらに575万t(注:多すぎないか?)がロシアから輸入されることになっている。最近ベラルーシで取り沙汰されている代替石油はアゼルバイジャンと米国のものだけである。アゼルバイジャンについては、計画された100万tのうち、タンカー6隻分の50万tが入荷する。米国については、8万~8.5万tずつの入荷が2回あり、2度目は8月上旬の予定である。米国からの調達は、経済というより、政治的な動機だろう。これら以外の輸入はすべて、価格および輸送面で有利なロシアから行う予定である。現に、4~5月の1t当たりの価格を見ると、ロシアが109ドル、アゼルバイジャンが239ドルとなっている。

 他方、カザフ石油を輸入する場合のルートの問題は、相変わらず未解決である。多くの専門家が指摘するのは、カザフは石油を輸出する上でロシア、カスピ・パイプライン・コンソーシアムおよびアストラハン~サマラのパイプラインに高度に依存しているという点だ。カザフは年間1,500万tほどをロシア経由で輸出している。輸出先は多岐にわたるので、ベラルーシへの輸出も可能に思える。しかし、そのためにはロシアがカザフ石油により多くのキャパを割り当てることになり、一見大した問題ではないように思えるものの、現実にはロシアはそれを拒む。ロシアとしては、カザフの石油をトランジットして2億~3億ドル程度の料金をとるよりも、ベラルーシに直接石油を売った方が国益にかなうからである。

 一方、カザフとしては、ベラルーシとの小口の取引のために、ロシアと対立することは避けたい。ロシアを迂回して輸送するルートとして、しばしばオデッサ経由が候補に挙がるが(注:ロシアを避けるとするとカザフ~カスピ海をフェリー~アゼルバイジャン~ジョージア~黒海をフェリー~オデッサ州のユジネ港~オデッサ・ブロディパイプライン~ベラルーシというルートだろう)、これはあまりにコスト高でベラルーシが受け入れられない。

 結局のところ、カザフからベラルーシへの石油供給の問題が近い将来に解決する可能性はない。机上でも不可能であり、増してや以前表明された計画を実現するのは不可能である。したがってカザフからの輸入という構想は今のところ、単にベラルーシがロシアのパートナーを苛立たせようという試み以上のものではない。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

530

 GLOBE+に、「ロシア、今度こそちゃんと石油減産するってよ」を寄稿しました。

 4月12日に成立したOPEC+の歴史的な減産合意が効き始め、石油価格は4月下旬以降は回復傾向にあります。このように威力を発揮している4月の減産合意ですが、近年OPEC+の枠組みで達成された減産合意としては、2016年、2018年に次いで今回が3回目です。ただ、最新の減産合意は、過去2回のそれと比べて、ロシアにとっての意味合いがまったく異なります。そして、それはOPEC+合意全体の実効性を左右する要因です。そこで今回のコラムでは、石油の生産量を調整する上でのロシア国内の問題を考えてみました。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

rube

 ロシア・ベラルーシの経済成長率を、石油価格と対比しつつ示すこの図は、時々更新しているのだけれど、2019年の数字が出揃ったので、それを反映して最新版を作成した。見づらかったら拡大表示してください。

 ロシアの経済成長率が油価とほぼ連動しているのはご存じの方も多いだろうが、実はベラルーシも同じである。ベラルーシでは、ロシアから原油を輸入して、それを石油製品に加工し、欧州市場等に輸出することが、最大の稼ぎ口だからである。それに加え、ロシアへの経済依存度が高いために、ロシアが油価に翻弄され、さらにそのロシアにベラルーシが翻弄されるという作用も生じる。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

↑このページのトップヘ