
やや古いが、今般、T.メシコヴァ・V.イゾトフ・O.デミトキナ・Yu.コフネル「変わりゆく地政学的文脈の中のユーラシア経済連合:国際協力の優先事項」『ロシア諸民族友好大学紀要:政治学』(2019, Vol.21, No.1, 7-33)という論文に目を通した(上掲画像は違う号なので悪しからず)。内容を忘れないように、私なりの注目点を以下のとおりメモしておく。著者らは直接的な政策担当者ではないが、ロシアのエリート層のリベラル派の考え方を反映した内容と考えていいと思う。
- この論文では、CIS域内だけでなく、域外も含め、ありとあらゆる国際機構、地域統合、政策枠組みとの連携が検討されている。あまりに多くのものが挙げられ、総花的に過ぎると思われるほどである。しかし、不思議なことに、ユーラシア経済連合とCIS集団安保機構の連携ということは、一切語られていない。両者は加盟国がほぼオーバーラップしており、西側のEUとNATOのようにいわば対をなす存在と言えるわけだが、なぜかそういう観点は語られていない。
- 一部に、CIS自由貿易協定を廃止して、まだユーラシア経済連合に加盟していないCIS諸国に連合加盟を迫ろうという発想があることに関し、この論文ではそれは誤ったアプローチで、それはロシアがこれまで表明してきた立場と矛盾するし、かえってそれらの国々を欧州や中国との接近に向かわせてしまう恐れがあると指摘している。あくまでもソフトパワーで行こうというのがこの論文の立場。
- 論文によれば、当面の目標として、すでにユーラシア経済連合のオブザーバーになっているモルドバに加えて、2024年までにタジキスタンとウズベキスタンをオブザーバーとして迎え入れたい(注:ただし、その後の内政の風向きの変化で、モルドバは自らのオブザーバーとしての地位に疑問を呈し始め、ウズベキスタンはすでに実際にオブザーバーになったが)。その上で、2030年までにモルドバ、タジキスタン、ウズベキスタンを正式な加盟国として迎え入れたい。
- この論文では、さすがに、ウクライナをユーラシア経済連合の正式加盟国やオブザーバーにしたいということは語られていない。というか、「ウクライナ危機」という語が一度出てくるだけで、それ以外はウクライナという具体的な国名が一切登場しない。
- この論文によれば、EUとの関係では、総合的かつ深甚な通商・経済パートナーシップの協定(非対称的なFTA、経済部門別および部門横断的な協力関係)を目指す。EUとユーラシア諸国で多くの問題を解決しなければならないことを考えれば、想定される協定は広範なものとなる。商品・サービスの貿易、資本・労働の移動、ビザなし、インフラ開発、知的所有権の保護等々。
- 論文によると、課題となるのは、ユーラシア経済連合、EU、東方パートナーシップ諸国の3者間で、新たなイニシアティブを立ち上げることである。それにより、EUとユーラシア経済連合の共存・協力に関し、新たな構想を示すことが促され、そのことはロシアの利益に資する。
ロシア・ウクライナ情勢が憂慮されますが、それに関する最新情報の発信や軍事的な分析は詳しい方にお任せし、私のブログでは自分の調査研究テーマに関する情報発信を地味に続けます。何卒ご了承ください。
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