ロシア・ウクライナ・ベラルーシ探訪 服部倫卓ブログ

ロシア・ウクライナ・ベラルーシを中心とした旧ソ連諸国の経済・政治情報をお届け

カテゴリ: カザフスタン

image2028229_31_0

 ロシアから欧州方面に伸びる石油パイプライン「ドルージバ」は、上掲地図に見るとおり、ベラルーシ領で南支線と北支線に分かれる。なお、ベラルーシ領での輸送を管理しているのが、ゴメリトランスネフチ・ドルージバという会社である。こちらの記事が、ベラルーシ領の通過料金についての動きを報じているので、以下まとめておく。

 記事によると、このほどゴメリトランスネフチ・ドルージバは、ロシア側のトランスネフチと、南支線の輸送料金を2月1日から10.2%引き上げることで合意した(注:記事には明記されていないが、1t当たり188ルーブル程度になると見られる)。ベラルーシ側は夏頃には1.8倍もの値上げを要求していたが、徐々に要求を引き下げ、今回の合意に至った。

 北支線に関しては、EU側の制裁でロシア産原油の輸送は停止されており、カザフスタン産の輸送に利用されている。そして、北支線の輸送料金を43%引き上げ、1t当たり653.8ルーブルとすることをベラルーシは要求している。今後の交渉に委ねられるが、カザフ側は反発している。

 ベラルーシが頻繁に料金の値上げを要求していることから、ベラルーシ・ルートの輸送は今後伸びそうにないと、専門家らは指摘している。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

1603

 プーチン・ロシアは経済関係の大イベントを好む国なので、各大都市はそれぞれのイベントというのを持っている。ウラルの中心都市であるエカテリンブルグの場合には、「イノプロム」といって、製造業や技術革新をテーマに、展示会とフォーラムを折衷したようなイベントを、毎年夏に開催してきた。ロシア政府がかなり力を入れている行事なので、私の古巣の団体では安倍・プーチン時代にこれに参加したこともあった。

 さて、こちらのサイトに見るとおり、今年はカザフスタンのアスタナでも9月25~27日にイノプロムを開催したということである。一瞬、「国際的な制裁で、ロシアでは開催しにくくなり、代わりにカザフで開催したのか?」と思ったのだけど、今年はすでに7月に通常のイノプロムは開催済みであり、今回それに加えて初めてカザフでも開催されたということのようだ。

 こちらから拝借した下の写真のように、ロシア・カザフ・キルギスの首相が一堂に会して展示を視察したりしているのを見ていると、ソ連の紐帯もそれなりに残っているのだなということを感じる。

1602

ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

1540

 こちらの記事によると、ロシア主導のユーラシア経済連合および集団安保機構からのカザフスタンの脱退を求めるネット上の請願運動が進んでおり、投票した6.9万人のうち92%が脱退に賛成しているということである。ただ、請願を呼びかけているのは正体不明のまったく無名の人物であり、こうした匿名的な運動を過大視すべきではないと、専門家筋は指摘している。

 しかしながら、記事によれば、カザフスタンがユーラシア経済連合から恩恵を受けていないという不満の声は、同国で根強い。連合発足後、カザフの対ロシア貿易が顕著に発展しているわけではなく、カザフ側の大幅な入超が続いている。また、関税同盟であるにもかかわらず、ロシアは域内で320件もの非関税障壁を発動しており、うち100近くが対カザフであることも問題である。

 それでも、カザフの商店に並ぶ食品の3~5割がロシア産であるように、カザフの対ロシア輸入依存度は深い。カザフがユーラシア経済連合離れを進めるにしても、すぐに実現できるものではなく、長期的なプロセスになると、記事は論じている。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

1339

 こちらの記事によると、カザフスタンがロシアをはじめとするユーラシア経済連合諸国民の入国・滞在条件を厳格化するということである。戦争、動員を避けるためにロシアを逃れる向きは少なくなく、ビザ無しで行けるカザフは有望な逃避先だったはずだが、狭き門となってしまうのだろうか?

 記事によると、従来カザフにおいてユーラシア経済連合諸国の市民はビザ無しで入国した上で、最大90日まで滞在でき、それが過ぎても、いったん外国に出て入国し直せば、再び90日、という具合に更新し続けることができた。

 1月17日にカザフ政府が発表し、27日から施行される新ルールでは、ユーラシア経済連合諸国の市民がビザ無しでカザフに滞在できるのは半年間に90日までであり、でいったん外国に出ても新たな滞在期間を更新できなくなった。なお、ユーラシア以外でビザ無しでカザフに入国できる国の市民は、一度に滞在できるのは30日までであり、いったん外国に出れば半年間に計90日まで滞在できる。

 当面、ロシア市民は1月27日までにいったん外国に出て再入国すれば、そこから90日間の滞在は可能である。

 今後、ロシア市民が90日を超えてカザフに合法的に滞在するためには、一時滞在許可証を取得する必要がある。それには、親族訪問、カザフ企業での就労、療養、留学、布教活動、業務出張といった正当な理由が必要となる。

 専門家のT.ウマロフによると、今回の措置は以前から計画されていたもので、何らかの事件と関係があるものではないという。カザフ政府は、自国領土・経済が一時滞在の場となることではなく、外国人が合法的に長期滞在し国の発展に寄与してくれることを希望しているのだと、ウマロフは説明する。

 カザフ内務省の幹部によると、2022年にカザフに到来したロシア市民は290万人であり、うち40.6万人が部分動員の発表された9月だったという。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

1336

 カザフスタンの対ロシア輸出は、カザフ側の公式統計によれば、2022年1~11月で、前年同期比23.1%増となっている。この数字を信じる限り、激増という感じではないが、個別の品目によっては、極端に増えているものがあるようだ。昨年暮れに出たこちらの記事が伝えている。

 記事によると、2022年1~10月のカザフスタンの対ロシア輸出で、特に前年同期からの伸びが目立つのは、以下のような品目だという。多い順に並べてみよう。

  • ワイン:225倍
  • 床・壁のプラスチック被覆材:135倍
  • 商用車:72倍
  • コンピュータ:65倍
  • タイル:48倍
  • 洗剤等のポンプ容器:37倍
  • 電波位置測定器:24倍
  • エレベーター:22倍
  • 金属切削機械:16倍
  • 車いす:13倍
  • 置時計:8倍
  • スマートホン:7倍
  • 衛生陶器:6倍
  • エンジン:6倍
  • 外套:5倍
  • 眼鏡:4倍
  • ソフトドリンク:2倍

 機械類などは、カザフスタンで生産されているのか疑わしいものが多い。現にスマホなどは、マレーシア、韓国、トルコ、リトアニアからの輸入が急増しており、それらがロシアに流れている形だろう。また、記事にはコカ・コーラの例が出ており、2022年夏にロシアでの生産が停止されながら、いまだにロシアでコカ・コーラを見かけるのは、ジョージアやカザフスタンから非正規に持ち込まれているからだという。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

 8月24日に日本国際問題研究所主催の「中東からみたウクライナ戦争と食糧不安・危機」という公開ウェビナーがあり、そこで「ロシア・ウクライナからみた黒海穀物輸送」という報告をさせていただいた。それに向けて作成したグラフをちょっとおすそ分けしたい。

 旧ソ連諸国の中では、ロシア・ウクライナ・カザフスタンが3大穀物輸出国となっている。そこで、それら3ヵ国の穀物輸出構造を、穀物の種類別と、相手地域別に示したグラフを作成した。データは数量ベースで、2012~2021年の平均値である。

 まず、穀物の種類別の内訳を見たのが、下図となる。ロシアとカザフスタンが小麦主体であるのに対し、ウクライナはとうもろこしが半分以上を占める。

1232a

 次に、輸出相手地域が、下図のとおり。ロシアとウクライナは、アフリカ・中近東を主力とする構造が似通っている。ただし、ウクライナはEU、APEC(具体的には中国、インドネシア、韓国等)向けも多い。なお、2014年の連合協定後も、ウクライナのEU向け穀物輸出は、関税割当によって抑制されていた。遠い外国向けが主流のロシア・ウクライナと異なり、カザフスタンはCIS(近隣の中央アジア諸国)向けが圧倒的に多い。

1232b

ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

m202209

 編集作業が終わったばかりの『ロシアNIS調査月報』2022年9-10月号の中身を、どこよりも早くご紹介。

 今号では、当研究所で7月に開催したセミナーの報告を軸に、「注目と期待を集めるカザフスタン」という特集をお届けしております。今年初めに政治危機が起きた時には、「カザフよ、お前もか」という雰囲気が漂いましたが、その後トカエフ政権は国内情勢を完全に掌握。2月下旬にロシアがウクライナへの侵攻を開始すると、トカエフ大統領率いるカザフは絶妙なバランス外交を見せ、ロシアの道連れになることを回避しました。ロシアがああなってしまった以上、この業界でカザフへの注目・期待度が高まるのは当然であり、小誌でも早速、特集という形で取り上げた次第です。

 服部個人は、「ロシアとカザフスタンが穀物輸出で不協和音」、「ロシアの侵略に立ち向かう チーム・ゼレンスキー」、「2022年第2四半期のロシア港湾貨物量」、「ウクライナ~ロシア鉄道旅ルートが戦場に」といった記事を担当。8月20日発行予定。

 なお、私・服部倫卓は2005年1月号より小誌の編集長を務めてまいりましたが、その役目は今号が最後となります。この間の会員および読者各位、そしてご寄稿いただいた皆様のご厚情にお礼を申し上げます。今後も一執筆者としては月報に貢献してまいりたいと思います。今後も変わらず月報をお引き立てのほど、お願いいたします。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

rukzze

 ちょっと用事があり、カザフスタンの穀物輸出事情に関し調べていたら、興味深いことが分かった。

 上図は、過去10年ほどのロシアとカザフスタンの穀物輸出相手地域を比較したものである。できればウクライナも加えたかったが、2ヵ国で力尽きた。

 ロシア、ウクライナは、世界的な穀物輸出国であり、エジプト、トルコといった国を中心に、アフリカおよび中近東、さらには南アジアやAPECにまで市場を拡大している。

 カザフスタンは、旧ソ連のCISにおいて、ロシア、ウクライナに次ぐ穀物輸出国だが、輸出相手はその2国とはだいぶ異なることが判明した。カザフの場合、CIS域外への輸出もなくはないが、圧倒的にCIS域内市場への輸出が多かったのである。さらに言えば、CISの中でも、ウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、キルギスという中央アジアの近隣諸国への輸出が大半を占めていることが分かった。つまりカザフが中央アジア全体の食料安全保障の鍵を握っているということである。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

ri

 今朝、「カザフスタンがユーラシア経済連合を脱退する可能性は?」というのをお届けしたが、同じ記事の中で、ロシア側の専門家、CIS研究所中央アジア部長のA.グロジン氏もコメントしているので、そちらの要旨も以下のとおり紹介する。

 ロシアにとってカザフスタンのユーラシア経済連合脱退といった事態はきわめて望ましくない。

 第1に、広大な隣国への影響力を失う。両国の国境は7,500kmもある。もしもカザフがロシアの同盟国でなくなったら、両国間に通常の国境を設けなければならず、それには10年、国家予算の3~4年分を要し、その分、宇宙開発や福祉を諦めなければならない。欧州方面に加え、南方の国防も強化しなければならない。

 第2に、ロシアはその他の中央アジア諸国に権益、軍事施設、合弁企業があり、ロシア市民が住んでいるわけだが、ロシアと同諸国がカザフによって隔絶されてしまう。ロシアは中央アジアの南の辺境を制御する可能性を失い、運輸面でのポテンシャルも脅威にさらされる。

 また、カザフがそのような動きを見せれば、ロシアと中国のパートナーシップも難しくなり、露中の経済・運輸プロジェクトが困難になる。

 さらに、カザフという販売市場を失うのも痛い。カザフに次ぐ存在としてウズベキスタンがあるにせよ、カザフは中央アジアでは世界経済により密接に統合され、経済・社会指標で他の中央アジア諸国の追随を許さない。カザフにはロシアから食料、機械、軍需など多くの商品が輸出されており、両国のエネルギーシステムは密接に繋がっている。

 カザフ経済のロシアへの依存度の方が大きいが、両者の断絶はカザフにとって悲惨なものとなり、ロシアにとっても非常にまずいことは、両者とも分かっている。今、我々が目にしているのは、ロシア指導部がカザフスタン当局を正気に戻らせようとする穏便で慎重な試みである。今のところ、カスピパイプラインコンソーシアムに関する決定は発効しておらず、カザフの石油はロシア領を通過しているが、それが止まったりすると、まったく別の状況となる(注:結局本件はひとまず解決した)。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

99

 カザフスタンとロシアの関係が微妙になっている。最大の対立点としてはロシア領を通るカスピパイプラインコンソーシアムのPLを通じたカザフ石油の輸送問題があり、その対立は今般ひとまず解消したのだが、二国間関係の緊張は続いている。

 場合によっては、カザフがロシア主導のユーラシア経済連合から脱退するような可能性がありうるのか? こちらの記事の中でカザフ側のT.ウメタリエヴァという政治評論家がその問題について論評しているので、以下のとおり発言要旨をまとめておく。

 現在のところ、カザフスタンはロシアとの善隣関係を維持したく、ユーラシア経済連合から脱退することはまずありえない。そのことはカザフの国益に適っている。仮に脱退といった決定があるとすれば、それは市民の間でそうした声が高まった時だろう。トカエフ大統領は世論を非常に重視している。彼にとっては国内での政治的な力を高めることが必要である。現在は脱退といったことはないにしても、将来的に関係がさらに悪化すれば、中期的にはそうなってもおかしくない。経済的にはマイナスでも、社会からの支持ゆえに、政治的なメリットの方が上回る。カザフ社会では、ロシアとの問題が生じると、ユーラシア経済連合、CIS集団安保から脱退すべきかということが、いの一番に論議の的となる。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

20220130

 先日のブログですでに触れましたが、日本貿易振興機構・アジア経済研究所に所属し、カザフスタンを中心とする中央アジア研究で活躍してきた岡奈津子さんが、急逝されたとのことです。改めて、HPに「さようなら岡奈津子さん」という小文を掲載しました。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

 中央アジア、特にカザフスタンの研究で活躍し、我が国における第一人者だった岡奈津子さんが急逝されたとのことです。つい1ヵ月ほど前に連絡をとりあった時には変わった様子はなかったので、信じられない思いです。

 岡さんと言えば、中央アジアの民衆のひだに分け入ったような研究スタイルを持ち味とし、特に2019年に上梓された『〈賄賂〉のある暮らし:市場経済化後のカザフスタン』(白水社、2019年)は大きな評価を獲得しました。

 以前当ブログに掲載した紹介文を再掲載させていただきます。心よりご冥福をお祈りいたします。

51GgBUods6L._SX342_BO1,204,203,200_

 これはとんでもない本が出た。カザフスタンだけでなく、ロシア・ユーラシア諸国にかかわる者全員にとっての、必読書と断言できる。岡奈津子『〈賄賂〉のある暮らし:市場経済化後のカザフスタン』(白水社、2019年)である。Amazonから内容紹介を拝借すれば、以下のとおり。

 ソ連崩壊後、独立して計画経済から市場経済に移行したカザフスタン。国のありかたや人びとの生活はどのような変化を遂げたのだろうか。独立前からカザフ人のあいだにみられる特徴のひとつに「コネ」がある。そして、市場経済移行後に生活のなかに蔓延しているのが、このコネクションを活用して流れる「賄賂」である。経済発展がこれまでの人びとの関係性を変え、社会に大きなひずみが生じているのだ。本書は、市場経済下、警察、教育、医療、ビジネス活動など、あらゆる側面に浸透している「賄賂」を切り口に現在のカザフスタンをみていく。賄賂は多かれ少なかれ世界中の国々でみられる現象だが、独立後のカザフスタンは、それが深刻な社会問題を生み出している典型的な国のひとつである。ここから見えてくるのは、人びとの価値観の変容だけでなく、ほんとうの「豊かさ」を支える社会経済システムとはどのようなものかという問題だ。豊かさを追い求めた、この30年の軌跡。

 この本を読んで、「自分が今まで見てきたつもりでいたカザフスタンは、何だったのか?」と、愕然とさせられた。自分が断片的にでも知っているつもりでいた、公式的な存在としてのカザフスタンという国とは別に、まるでパラレルワールドのように、もう一つのカザフスタンが存在したのだ。そして、どうも、そちらのカザフスタンの方が、本物のようなのである。

 本書は、カザフスタンおよび旧ソ連全般の地域研究を縦糸、政治・経済・社会学的な腐敗論を横糸とし、その両方の関心に見事に応えるものとなっている。カザフという国を知るための本であるのはもちろん(他の旧ソ連諸国のヒントも)、カザフそのものに興味がなくても、腐敗、途上国・新興国の社会、移行経済などについて大いに考えさせられる。2,420円と、この種の本としては手頃な価格でもあり、ぜひご一読をお勧めしたい。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

4

 多忙なので、カザフスタン情勢の急変に対応できないが、以前、ウクライナ、ベラルーシ、キルギスの政変比較表を作ったことがあったので、それにカザフを加えて更新してみた。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

76

 こちらの記事が、ウズベキスタン外交の急展開につき伝えている。

 これによると、12月6日にウズベキスタンのミルジヨエフ大統領とカザフスタンのトカエフ大統領が、両国の「連合関係」に関する宣言に調印した。従来両国の関係は「戦略的パートナーシップ」というものだったが、そのレベルが引き上げられたことを意味するという。

 同時に両国間で一連の文書が調印され、これが両国関係に新たなインパクトを与えることが期待されている。両大統領は、二国間の貿易額をまずは50億ドルに、さらには100億ドルに高めることでも合意した。

 ちなみに、これに先立っては、ミルジヨエフ大統領がロシアを訪問してプーチン大統領と会談、18の文書が結ばれた。12月2日にはウズベキスタンのクチカロフ副首相が第2回ユーラシア会議に出席して、「ウズベキスタン政府はユーラシア経済連合加盟に向けて大掛かりな準備作業を進めている」と発言した。また、ウズベキスタンのユーラシア開発銀行加盟も間近だという。

 以上が、記事のあらましである。従来、旧ソ連空間における再統合が進まない大きな要因としてカリモフ時代のウズベキスタンの独自路線と、ウズベキスタンとカザフスタンのライバル関係というものがあったと思う。それが、ウズベキスタンとカザフスタンが「連合関係」を宣言するとは、隔世の感がある。ちなみにこの場合の「連合関係」はロシア語でсоюзническе отношенияであり、連邦とも同盟ともちょっと違うだろうから、やはり「連合」くらいが訳語としていいと、個人的には思う。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

1

 ロシア最大の地場自動車メーカーAvtoVAZは、カザフスタンの自動車販売会社BIPEK-Autoと「アジア・アフト」という合弁企業を設立し、自社ブランド車の「ラーダ」をカザフスタン・ウスチカメノゴルスクの工場で現地生産してきた。その効果で、ラーダは近年、カザフの乗用車販売市場をリードする存在となってきた。

 しかし、こちらの記事によると、現在そのビジネスがピンチに立っているということなので、要点だけ以下のとおりまとめておく。

 2021年1~5月の販売台数を見ると、ラーダは2,573台で、これはブランド別で5位であった。前年同期比、52%も減少している。ラーダは前年同期にはトップだったのだが。AvtoVAZの販売が低下したのは、過去5年で初めてのことである。

 それに対し、カザフの販売市場で躍進しているのが、ウズベキスタンのメーカーであるウズアフトサノアト社である。同社の供給するシボレー車が、2021年1~5月にはカザフ市場でトップに立った。

 AvtoVAZは、カザフ当局がウズアフトサノアト社を優遇していると、不満を表明している。

 危機の発端は、AvtoVAZを現地生産している組立工場アジア・アフトの問題だった。2019年末以降、カザフスタン産業・インフラ開発省は、アジア・アフトとの工業アセンブリー契約を解除した状態にある。その上で政府は工場に対し、1,740億テンゲ(約296億ルーブル)を国庫に返納するよう要求している。同省は「アジア・アフトは、政府が与えた特典に対応して組立工程を近代化・拡大する義務を果たしていない」と工場側を非難している。

 2021年3月初旬、アジア・アフトは生産を完全に停止し、数千人を回顧した。

 ロシア産業・商業省では、事態に関心を寄せ注視している、としている。そして、ロシア産業・商業省はカザフスタン産業・インフラ開発省とともに、AvtoVAZに新しいカザフ・パートナーが見付かったということを明らかにした。それが、コスタナイに工場を有するAllur Autoであり、カザフにおけるラーダ車の現地生産はウスチカメノゴルスクからコスタナイに移転する見通しとなった。

 ただし、Allur Auto社のサリアルカアフトプロム工場は新興工場であり、現状シボレーや中国JAC車を生産しており、AvtoVAZ車を生産する充分な余力があるかは未知数という指摘もある。

 専門家のS.ブルガザリエフ氏は、AvtoVAZがCIS圏内で販売を拡大する能力は年々低下していると指摘する。時間が経つにつれ、ロシアの自動車メーカーは海外市場での地位を失っていくだろう。AvtoVAZは一定レベルの近代的・技術的レベルを有するが、競合他社はより優れた商品を消費者に提供しているからだ、という。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

kmid

 欧米がベラルーシに制裁を決定したことに対し、ベラルーシは対抗制裁を打ち出そうとしているわけだが、先日ベラルーシのI.ペトリシェンコ副首相は、ベラルーシのほかロシアやカザフスタンなど全5ヵ国から成るユーラシア経済連合が共同で対抗制裁を策定しているところだと発言した。

 これを受け、こちらのサイトに見るように、カザフスタン外務省が反発を示した。6月5日付のプレスリリースで、その事実を否定したものである。

 プレスリリースいわく、ユーラシア経済連合は、もっぱら経済統合組織である。我が国はユーラシア統合機関に、それにそぐわない機能を与えることは受け入れられないという立場を、伝統的に示してきた。第三国の制裁措置に対する対抗措置を講ずるといったことは、ユーラシア経済連合条約の管轄外に属する。我が国は、西側の制裁は主として政治的な動機に基づくものであり、ユーラシア経済連合全体ではなく一部の国に適用されているとの認識に立脚する。カザフスタンは、他国による制裁に対抗してユーラシア経済連合が「連帯した措置」を講ずる交渉など、一切行っていない。ユーラシア統合のパートナー諸国との作業において、ありうるのは、制裁が加盟諸国の社会・経済情勢にに及ぼし得る否定的な影響を防止するための共同行動に限られる。

 というわけで、当然のことながら、相当迷惑そうなカザフスタンであった。ベラルーシがロシアやカザフといった虎の威を借りようという作戦は失敗のようだ。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

hr

 こちらのサイトに、ロシアに代わる石油供給源を模索したベラルーシが、カザフスタンに白羽の矢を立てながら、ロシアの妨害で実現しなかった経緯をまとめた記事が出ているので(I.ザハルキン署名)、以下のとおり要旨をまとめておく。

 2020年に入ってもベラルーシとロシアの石油供給に関する合意がまとまらず、ベラルーシにとっては困難な時期となった。ベラルーシが代替の石油供給源を模索する中で、カザフスタンからの輸入という案が浮上した。ただし、過去数年、その案は何度が出ていたが、その都度実現には至らなかった経緯がある。

 これまでベラルーシが代替供給源の候補国として挙げた国には、米国、アゼルバイジャン、中東諸国、そしてカザフスタンがあった。カザフの石油は、実際に入荷したこともある。2016年8月から2017年6月にかけて、ベラルーシはカザフから10万8,600tの石油、総額3,370万ドルを輸入した。その輸入には、ロシアからの輸入と比べて、480万ドルの追加費用がかり、しかも輸送ルートもきわめて複雑になった。にもかかわらず2019年5月にルカシェンコ大統領はカザフとの新たな交渉を開始した。

 2019年秋にはベルネフチェヒムのV.シゾフ副総裁が、石油輸入に関するカザフスタンとの政府間協定が合意間近だと発言した。ベラルーシは原油だけでなく加工が可能な石油製品(軽油、重油)も輸入したい意向を示し、輸入量は年間100万~350万tになるとされた。その後の情報によれば、あとは技術的な問題、特にロシアが自国領でのトランジットを認めるかという点だけだと発表された。

 しかし、その後本件は一切の進展がない。本年初めにベラルーシがロシアの石油会社(複数)と厳しく対立し、ノルウェー、アゼルバイジャン、サウジアラビア、さらには米国からの購入に走った時でさえ、カザフの石油にはアクセスできなかった。

 本年の初めに明らかになったのは、ロシア同様、カザフスタンもベラルーシに値引きをするつもりはないということだった。2月にカザフのN.ノガエフ・エネルギー相は、ベラルーシへの石油供給が可能になるのは商業的な条件においてのみであり、値引きは一切なしで、カザフ企業に有利な場合だけであると発言した。さらにK.トレバエフ副首相は、価格に輸出関税が上乗せされた場合のみ供給の用意があると述べた。しかも、カザフ側にはベラルーシへの不信感が頭をもたげ、カザフの原料を用いてベラルーシの製油所で生産された石油製品は国内市場への供給に限定し、輸出はされないという保証をベラルーシ側に求めた。

 ただ、専門家によれば、これらの問題がカザフスタンからベラルーシへの供給の主たる障害になったわけではない。ベラルーシ側は、価格を含め、カザフのすべての条件を飲むつもりだった。ところが、以前と同様、今回も、両国は最大の問題を解決できなかったのである。ロシアが、自国領の石油パイプラインを通じてカザフからベラルーシに石油を運ぶことを、認めようとしない問題だ。

 それでも、両国は交渉らしきものは続けているようであり、7月のユーラシア経済連合の政府間会合でベラルーシのR. ゴロフチェンコ首相は、以前両国が結んだ政府間協定はもう実現可能であると発言した。

 関連して興味深いのは、書類の上では2020年上半期にカザフスタンの石油はすでにベラルーシに入荷したことになっている点である。輸入統計には、37.6万tの輸入が記録されていた。ただ、それがいつなのか、誰が取引したのかはいまだに不明である。しかも、後に統計局はこのデータを削除し、実際に取引があったのかどうかは、迷宮入りした。

 ここ数ヵ月の動きが物語っているのは、カザフ石油の輸入というはすでにほぼ意味を失っており、その今後はベラルーシ指導部のプロジェクトの域を出ないということである。

 現時点ではすでに、カザフの石油を本当に必要ではなくなっている。1~5月にベラルーシは500.7万tの石油を9億483万ドルで輸入した。そのうちロシア以外の代替石油は20%ほどであり、それも第1四半期にロシア石油がほぼ入荷しなかったから生じたものである。6月にはもう、ベラルーシはロシアの石油を100万t輸入し、これは最適な分量である。

 2019年秋に結ばれた2020年のベラルーシとロシアの需給バランス指標によれば、第3四半期にはさらに575万t(注:多すぎないか?)がロシアから輸入されることになっている。最近ベラルーシで取り沙汰されている代替石油はアゼルバイジャンと米国のものだけである。アゼルバイジャンについては、計画された100万tのうち、タンカー6隻分の50万tが入荷する。米国については、8万~8.5万tずつの入荷が2回あり、2度目は8月上旬の予定である。米国からの調達は、経済というより、政治的な動機だろう。これら以外の輸入はすべて、価格および輸送面で有利なロシアから行う予定である。現に、4~5月の1t当たりの価格を見ると、ロシアが109ドル、アゼルバイジャンが239ドルとなっている。

 他方、カザフ石油を輸入する場合のルートの問題は、相変わらず未解決である。多くの専門家が指摘するのは、カザフは石油を輸出する上でロシア、カスピ・パイプライン・コンソーシアムおよびアストラハン~サマラのパイプラインに高度に依存しているという点だ。カザフは年間1,500万tほどをロシア経由で輸出している。輸出先は多岐にわたるので、ベラルーシへの輸出も可能に思える。しかし、そのためにはロシアがカザフ石油により多くのキャパを割り当てることになり、一見大した問題ではないように思えるものの、現実にはロシアはそれを拒む。ロシアとしては、カザフの石油をトランジットして2億~3億ドル程度の料金をとるよりも、ベラルーシに直接石油を売った方が国益にかなうからである。

 一方、カザフとしては、ベラルーシとの小口の取引のために、ロシアと対立することは避けたい。ロシアを迂回して輸送するルートとして、しばしばオデッサ経由が候補に挙がるが(注:ロシアを避けるとするとカザフ~カスピ海をフェリー~アゼルバイジャン~ジョージア~黒海をフェリー~オデッサ州のユジネ港~オデッサ・ブロディパイプライン~ベラルーシというルートだろう)、これはあまりにコスト高でベラルーシが受け入れられない。

 結局のところ、カザフからベラルーシへの石油供給の問題が近い将来に解決する可能性はない。机上でも不可能であり、増してや以前表明された計画を実現するのは不可能である。したがってカザフからの輸入という構想は今のところ、単にベラルーシがロシアのパートナーを苛立たせようという試み以上のものではない。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

54

 こちらの記事が伝えるところによると、カザフスタン最大のテンギス油田では、作業員の新型コロナウイルス感染の拡大で、採掘が停止される恐れがあるという。同国の医療担当高官A.エスマガンベトフがこのほど明らかにした。

 カザフスタン全体の感染確認が6,969人であるところ、テンギスでは935人の感染者が確認されている。テンギスでは現在、政府委員会が感染者数低下に向けた活動を行っているが、もしも思うように感染者が減らないと、テンギスシェヴルオイル社による採掘停止が不可避になる。すでに、同社の作業のうち不要不急に属するものについては、従事する人数を一時的に減らして対応している。テンギスシェヴルオイルでは当初、年産2,900万tだった生産能力を段階的に1,200万t高める拡張を計画していたが、油価下落を受けこの4月に3億ドル投資を来年に延期していた経緯がある。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

da

 昨年、カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領が退陣を表明し、トカエフ上院議長が大統領に就任するとともに、ヌルスルタンの娘のダリガ・ナザルバエヴァが上院議長に就任した。カザフでは大統領が任期前に退任すると上院議長が自動的に大統領に就任するという仕組みなので、ダリガの上院議長就任は、将来的な大統領就任への布石かという見方もあった。

 ところが、こちらなどが伝えているとおり、昨日5月2日付のトカエフ大統領の大統領令により、ダリガの議員資格が停止された。トカエフ大統領は、ダリガの上院議長としての貢献に感謝するといったいかにもテンプレ的なコメントを発表している。

 これは、何を意味するのだろうか? 一説によると、こちらなどに見るように、先日ダリガが政府のコロナ対策をかなり厳しく批判する場面があり、それが今回の決定の引き金になったのではないかという見方もあるようだ。ただ、依然として最高権力者のヌルスルタン・ナザルバエフ初代大統領の了解なしにそんな決定を下せるはずもなく、どう理解すればいいのか個人的に分からない。続報を待ちたいと思う。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

430

 GLOBE+に、「ユーラシア経済連合創設から5年 目指したEUには遠く及ばず」を寄稿しました。

 ユーラシア経済連合が、2020年1月1日をもって、設立から5周年を迎えました。ただ、そう聞いても、何の話かピンとくる人は少ないかもしれません。ユーラシア経済連合は、日本の一般の方には、ほとんど知られていないでしょう。ロシアのプーチン政権は当初、EUに比肩するような経済同盟を形成するという意欲を見せていました。しかし、加盟国は思うように広がらず、経済統合の成果は限定的です。その一方で、発足から5年の今頃になって、ユーラシア経済連合に接近する国も現れています。そんなわけで、今回は5歳の誕生日を迎えたばかりのユーラシア経済連合について語ってみました。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

AAHT5iW

 既報のとおり、価格で折り合いがつかず、ベラルーシがロシアから石油を輸入する契約が結べないままとなっている。ベラルーシはロシア以外の供給源を模索しているわけだが、こちらの記事が、そのうちカザフスタンからの調達の試みについて論じている。

 記事によると、ベラルーシの国営コンツェルン「ベルネフチェヒム」から、カザフスタンのエネルギー省に石油供給の打診がすでに届いている。1月20日に両者が交渉を行う予定であり、カザフ側は条件が折り合えば供給の用意があるとしている。

 しかし、専門家らは懐疑的な見方を示す。AMarketsのA.デエフの指摘によれば、ベラルーシは国内市場を満たすのに600万tの、輸出向け石油精製のために1,200万~1,800万tが必要である。この量は、ウクライナ、ポーランド、カザフスタンが揃って供給をしてようやく可能となる分量である。カザフの石油はロシア領のパイプライン(アティラウ~サマラ)を経由してベラルーシに供給されることになる。しかし、BKSブローカーのN.アヴァキャンによれば、そのためにはロシアのトランスネフチとの交渉が必要であり、ロシアは2025年にユーラシア経済連合の共通石油・石油製品市場が発足するまでは、そうした輸送に応じることはありそうもない。しかも、カザフの石油はロシアよりも割高となり、これは経済的には無意味であり、むしろロシアとの政治的な駆け引きである。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

202002

 編集作業が終わったばかりの『ロシアNIS調査月報』2020年2月号の中身をご紹介。今号ではカザフスタンのセミナー報告を軸に、「中央アジアはどこまで変わるか」と題する特集をお届けしております。ナザルバエフ大統領が大統領の座から去ったカザフスタン、ミルジヨエフ大統領の下で改革開放路線を打ち出したウズベキスタンと、中央アジアの2大国が転換期を迎えていますので、そのあたりをとらえようという趣旨です。なお、アゼルバイジャンは厳密には中央アジアに含まれませんが、両者には近似性が見て取れるので、同国の記事も特集の一環に位置付けました。

 服部自身は、特集の枠内では「ウズベキスタンがロシアに接近 ―ユーラシア経済連合加盟も検討―」を執筆するとともに、岡奈津子著『〈賄賂〉のある暮らし:市場経済化後のカザフスタン』の書評を担当。特集の枠外では、「ゼレンスキーとプーチンの直接対決」を執筆しております。発行日は1月20日ですが、今回はお届けが2~3日遅れるかもしれません。すみません。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

images

 カザフスタンの対中国国境の地点に、「ホルゴス-東の門」という経済特区がある。中国との国境協力を主眼に設けられた特区であり(中国領の側にも対応するホルゴス国境施設があるが)、中国から鉄道で来たコンテナ貨物が1,435mmの標準軌から1,520の広軌の台車に積み替えられる一大拠点ともなっている。

 このほど、A.スマグロフ「国際協力拡大の枠内での『ホルゴス-東の門』特区ドライポートの発展展望」『科学の諸問題』(2016年No.4)という論文を見付けた。こちらのサイトからダウンロードできる。ごく短い論文であり、ホルゴスについての情報は他でも色んな形で得られるとは思うが、こういう風に論文形式になっていると、こちらも自分の論文に引用しやすいというメリットがあり、助かる。

 それで、この論文の中に、カザフ側のホルゴスへの中国による投資に関する情報が出ており、個人的にこの件はこれまで未確認だったので、有益だった。論文によれば、2015年9月、カザフスタンと中国は、ホルゴス経済特区と連雲港市における上海協力機構国際ロジスティックゾーンの諸プロジェクトを共同で発展させるための戦略的協力関係に関する協定を締結した。この協定では、中国がホルゴス特区への資金供給として6億ドルの直接投資を行うことがうたわれていた。この協定は全面的に、中国によって表明されたシルクロード経済ベルトの一環として位置付けられた。ただし、協定は大枠を定めたものであり、現在のところ、それを実行する具体的な措置についての情報は伝えられていない、とされている。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

safe_image

 こちらの記事が、中国主導の一帯一路がカザフスタン経済にもたらす効果について論じているので、気になった部分だけメモしておく。

 カザフスタンのナザルバエフ初代大統領は、「中国の一帯一路政策のお陰で、我が国は海への出口を擁する国家となったわけで、我々は一帯一路を支持している」と発言している。カザフスタンと中国は、2008年に西欧~中国西部の輸送回廊の発展に関するメモランダムに調印し、2015年には両国首脳間で一帯一路の枠内での協力に関する条約に調印している。カザフ側は2014年末に策定した2015~2019年のインフラ発展プログラム「ヌルルィ・ジョル」で、一帯一路の枠内で実施されるプロジェクトとのすり合わせを図っていた。

 輸送回廊の中核となるのは、カザフスタンおよびロシア領を通る鉄道および幹線道路である。そのカザフスタン・中国区画は、2016年に完成し、カザフのホルゴスから、中国のウルムチに伸び、最終的には黄海に面した連雲港にまで至る。自動車道路の延長は3,425kmで、「2019年ユーラシア経済連合輸送回廊報告書」によれば、遅くとも2020年には完全に稼働することになっている。

 カザフスタンでの建設は完成に近付いている。対ロシア国境のマルトゥク村から、アクトベ、キジルオルダを通るシムケントまでの区画は、完全に完成した。タラス~アルマトイ間もほぼ完成し、アルマトイから対中国境までは作業が完了しつつある。さらに、カザフはこの間、2,500kmの鉄道を新規建設し、幹線となるアルマトイ~シュ間は複線となった。

 2018年にはベトナム~中国~カザフスタン~欧州という大陸間鉄道ルートが開設され、ハノイからカザフを経由してドイツのデュイスブルクに1,686のコンテナが輸送された。その逆の物流も機能しており、カザフの生産者は中国やベトナムの港湾へのアクセスを得ることになった。ナザルバエフが、我が国は海への出口を確保したと述べたのは、このことである。

 カザフスタンの対中国境に位置する「ホルゴス・東の門」も、中国の資金援助を受けて建設されたものである。ただ、ホルゴスの優遇的な関税規則の結果、2013~2017年にホルゴスを通ってきた輸入貨物のうち、関税の対象となっているのは45%だけであり、特に中国との貿易では60~90%が密輸という問題が生じている。

 カザフスタンの野党は、カザフの土地を中国に売り渡すことへの抗議行動を行っているが、それはコップの中の嵐のようなものである。真の焦点は、中国に対する債務である。ただ、中央アジアの他の国と比べると、カザフの状況は恵まれており、中国からの流入資金の60%は融資ではなく直接投資である。また、カザフの対外債務に占める対中の比率は、2013年には10.6%だったが、2018年10月1日では7.4%と、かえって低下している。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

 Radio Free Europe/Radio Libertyによる上掲の動画が、中央アジア諸国の中国に対する債務の問題を取り上げている。旧社会主義圏の自由化を唱道する同機関なので、「中央アジア諸国にとって、欧米や国際金融機関と異なり、民主化や人権といった条件を付けない中国からの資金調達は手っ取り早い。その代わり中国は中国の設備や労働力の利用といった経済的条件を付けるのだ」といったことを指摘している。国別の債務額などは以下のとおりだという。

  • カザフスタンの中国に対する国家債務は123億ドル。中国はカザフに50以上の工場を建設している。カザフの石油生産の20%は中国系企業によるもの。
  • キルギスの中国諸銀行に対する国家債務は17億ドル。債務の40%以上が中国に対するもの。
  • タジキスタンの中国に対する国家債務は12億ドル。対外債務の48%強が中国に対するもの。金鉱山の80%以上が中国資本参加企業により採掘されている。
  • ウズベキスタンの中国に対する国家債務は78億ドル。
  • トルクメニスタンの詳細は不明だが、大規模なガルクィヌィシ天然ガス鉱床の開発のためにトルクメニスタンが中国から調達した融資は8億ドルに上る。トルクメン産のガスの90%は中国に供給されているが、その価格は世界価格の3分の1となっており、これによってトルクメンは債務を支払っている。

ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

2019-12-04-Kaz

 こちらのサイトで、アネット・ボアという専門家が、カザフスタンの対外政策、とりわけウズベキスタンを中心とした中央アジア諸国への働きかけについて論じているので、要旨を以下のとおり整理しておく。

 ナザルバエフがカザフスタンの大統領職から退き、後任がトカエフとなって、この間の注目すべき動きとして、中央アジア域内の協力関係が拡大していること、カザフの新体制が地域対話を改善しようとしていることが挙げられる。

 カザフは長らく、中央アジア固有のプレーヤーというよりも、ロシアと中央アジアを取り持つユーラシア国家としての自意識を形成してきた。しかし、2017年以降、それまで弱かった中央アジアの周辺国との協力関係強化を模索するようになった。それは多分に、ウズベキスタンという大きな市場の自由化の賜物だったが、それ以外の要因もある。

 その要因の一つは、カザフがロシアの対応を新植民地主義的なものと見なすようになっていることである。その一例がロシア主導のユーラシア経済連合であり、カザフはその実態に満足しておらず、この経済同盟に強固に縛り付けられることは望んでいない。モスクワから適度に距離を置くためにも、カザフは中央アジアの地域的な枠組みに関心を示すようになっている。

 石油依存を軽減する狙いもあり、カザフはユーラシア統合における運輸・テレコム・投資のハブになることを目論んでいる。中央アジアにおける輸送のリードタイムは世界の他地域に比べて大きいので、カザフのこの路線は中央アジア域内貿易を活性化する効果がある。

 さらに、カザフにおける人口トレンド、教育の民族主義的な方向へのシフトにより、同国指導部は中央アジア全体との紐帯を重視するようになっている。ウズベキスタンでミルジョエフ大統領が誕生し、カザフ側は両国の地理的近接性、経済的補完性、文化・歴史の繋がりなどをより意識するようになった模様である。

 また、中央アジアでは、孤立主義的なトルクメニスタンもある程度含め、域内貿易はお互いにとって利益であるという認識が広がっている。ロシアの抱える経済的問題を考えれば、なおさらである。カザフ・ウズベク関係が強化されるにつれ、中央アジア全体の域内協力が動き出し、2018年には中央アジア域内貿易が前年比35%増加した。

 ただし、カザフもウズベクも、中央アジア・レベルでの統合、機構化の議論はないとしている。以前の試みはロシアによって横取りされ、中央アジア独自の調整機構はできなかったという教訓があるのだろう。

 カザフもウズベクも、健全な競争が、外国投資の獲得など、両国経済のためになるという認識である。ただし、カザフの民間専門家の中には、ウズベクの台頭を、カザフから投資を奪ってしまうものとして、潜在的な脅威と見なす向きもある。ウズベク側はすでに一回政権交代を経験したという意味で有利なのに対し、カザフにはナザルバエフが完全に姿を消したらどうなるか分からないというハンデがある。ウズベクの人口はカザフの1.3倍で、製造業も一定の発展を見ており、安全保障面においては地域のリーダーである。その代わり、ウズベクのGDPはカザフの3分の1であり、キャッチアップ過程にある。

 カザフの貿易全体に占める中央アジア諸国のシェアは5%以下であり、ロシア、中国、欧州などの取引とは比べ物にならない。したがって、カザフは今後も、中央アジア地域のリーダーというよりは、グローバルなプレーヤーとしての立ち位置を重視し続けるだろう。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

5

 ロシア・ベラルーシ・カザフスタンによる関税同盟が成立した当初は(その後5ヵ国によるユーラシア経済連合に発展)、ロシアの自動車メーカー(外資系も含む)がその枠組みに乗ってカザフスタンやベラルーシへの輸出を強化するという現象が見られた。しかし、こちらこちらの記事によると、ここに来て、カザフやベラルーシの新興自動車工場からロシアへの輸出という逆転現象も目立ってきているということである。

 ロシアAvtoVAZのカザフにおけるパートナーとなっているのが、アジアアフト社である。アジアアフトは、現在はカザフ国内市場向けのセミノックダウン生産だけを行っているが、ウスチカメノゴルスクにおける一貫生産工場の建設を2021年に完了することになっている。新工場の第1ラインの生産能力は年産6万台で、一部をカザフ国内市場に、一部をロシアを含むユーラシア経済連合諸国に供給する。

 AvtoVAZとカザフ側のビペクアフト・アジアアフトは数年前に契約を結び、AvtoVAZのシベリアおよびウラル連邦管区におけるディーラー網の経営権を後者が取得した。両社による合弁企業が2014年に設立されており、それと引き換えにAvtoVAZはカザフ市場へのアクセスを得た。現在のところビペクアフト・アジアアフトはシベリアとウラルのディーラーでロシアのトリヤッチおよびイジェフスクで生産されたラーダ社を販売しているものの、新工場が完成したらシベリアおよびウラルへの輸送が格段に楽になる。カザフ側は新工場からロシア極東への供給にも興味を示している。

 一方、ベラルーシにおいては、ミンスク州ボリソフ近郊にベラルーシ中国合弁のベルジー社による新工場が建設され、すでに年産6万台が可能であり、12万台への拡張計画もある。現時点では、セダンのEmgrand 7、クロスオーバーのEmgrand X7、そしてクロスオーバーのAtlasという3モデルが生産されている。前2者が旧モデルなのに対し、AtlasはVolvoの協力も得て開発した最新鋭モデルである(中国の吉利汽車(Geely)は2010年にVolvoを買収している)。ベルジーは2019年1~10月にロシア市場で7,260台を販売し、前年同期比213%増であった。

 専門家のS.イファノフは、アジアアフトおよびベルジーは合計でロシア市場の5%を占めることが可能であるとの見方を示す。それに対し、ロシア経済発展省の自動車部門の顧問であるS.ブルガズリエフは、両社がロシア市場でロシア工場の製品に太刀打ちするのは難しいだろうと、懐疑的な見方を示した。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

51GgBUods6L._SX342_BO1,204,203,200_

 これはとんでもない本が出た。カザフスタンだけでなく、ロシア・ユーラシア諸国にかかわる者全員にとっての、必読書と断言できる。岡奈津子『〈賄賂〉のある暮らし:市場経済化後のカザフスタン』(白水社、2019年)である。Amazonから内容紹介を拝借すれば、以下のとおり。

 ソ連崩壊後、独立して計画経済から市場経済に移行したカザフスタン。国のありかたや人びとの生活はどのような変化を遂げたのだろうか。独立前からカザフ人のあいだにみられる特徴のひとつに「コネ」がある。そして、市場経済移行後に生活のなかに蔓延しているのが、このコネクションを活用して流れる「賄賂」である。経済発展がこれまでの人びとの関係性を変え、社会に大きなひずみが生じているのだ。本書は、市場経済下、警察、教育、医療、ビジネス活動など、あらゆる側面に浸透している「賄賂」を切り口に現在のカザフスタンをみていく。賄賂は多かれ少なかれ世界中の国々でみられる現象だが、独立後のカザフスタンは、それが深刻な社会問題を生み出している典型的な国のひとつである。ここから見えてくるのは、人びとの価値観の変容だけでなく、ほんとうの「豊かさ」を支える社会経済システムとはどのようなものかという問題だ。豊かさを追い求めた、この30年の軌跡。

 この本を読んで、「自分が今まで見てきたつもりでいたカザフスタンは、何だったのか?」と、愕然とさせられた。自分が断片的にでも知っているつもりでいた、公式的な存在としてのカザフスタンという国とは別に、まるでパラレルワールドのように、もう一つのカザフスタンが存在したのだ。そして、どうも、そちらのカザフスタンの方が、本物のようなのである。

 本書は、カザフスタンおよび旧ソ連全般の地域研究を縦糸、政治・経済・社会学的な腐敗論を横糸とし、その両方の関心に見事に応えるものとなっている。カザフという国を知るための本であるのはもちろん(他の旧ソ連諸国のヒントも)、カザフそのものに興味がなくても、腐敗、途上国・新興国の社会、移行経済などについて大いに考えさせられる。2,420円と、この種の本としては手頃な価格でもあり、ぜひご一読をお勧めしたい。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

image38070099_6d1481fa75770495b4bf44ea23b4a4b2

 カザフスタンとウズベキスタンは、中央アジアの盟主の座を争うような間柄であり、大々的に対立しているわけではないが、波長の合わない時代が長く続いてきた。しかし、ウズベキスタンでカリモフ大統領が死去してから3年が経過しようとしており、同国は経済面で改革開放に着手するなど、だいぶ風向きが変わってきたのであろう。カザフスタンとの関係拡大にも、より前向きになっているのかもしれない。

 こちらのニュースが、そんな両国関係の拡大、とりわけ交通・観光分野での協力について伝えている。駐カザフ・ウズベク大使がインタビューに応じたということであり、その内容を伝える記事である。

 大使いわく、特に観光面での協力について述べておきたい。両国への観光客の流入を数倍に拡大するような観光クラスターの形成を提起したい。シルクロードの歴史を学ぶためにウズベクを訪れたような人々が、カザフも訪れるようにすれば、シルクロードについてのより完全な理解が得られるだろう。その逆も然りである。ロシアには「黄金の環」というものがあるが、ウズベクとカザフは共同で「黄金の正方形」とでもいうべき観光ルートの整備を検討している。現在ヌルスルタン~タシケント間にはそれぞれ週6本の直行便が運行されており、アルマトィ~タシケント間では10本に上る。鉄道でもタシケント~アルマトィ~ヌルスルタン列車が開設され、バスもある。両国は経済面で相互補完的で、共同で中央アジア全域の協力な経済空間を形成できる。大使は以上のように語った。

 なお、大使が言った「黄金の正方形」というのは、1930年代から1940年代にかけてイラクで活動したイラク王国陸軍の4人の将校からなる集団「黄金の方陣」から名をとったものと思われる。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

4-4

 目下、ロシア・NIS諸国のサービス貿易について調査しているところなのだけど、統計データを整理していて、カザフスタンが意外に旅行サービスの輸出(つまり外国人観光客のインバウンド収入)が多いことに気付いた。中央アジア諸国の中で、ウズベキスタンがシルクロード・ロマンをかきたてる古代遺跡の宝庫であるのに対し、カザフスタンはお世辞にも一般受けする観光資源が豊富とは言いがたいイメージがある。それなのに、観光サービス輸出額を見ると、カザフの方がウズベクより上になっているのである。

 こちらのサイトの情報によると、当時大統領だったナザルバエフの2018年10月の演説では、国民の福祉を向上させるために、インバウンドおよび国内旅行を発達させるよう、政府に指示したということである。このサイトでは、それを受けて、カザフ観光庁のR.クゼンバエフ長官が、同国観光業の概況につき語っている。長官によれば、2018年にはカザフのインバウンド観光客数が10%、国内旅行客数が5%成長した。インバウンド観光客は849万人に上った。カザフスタンを訪れている外国人観光客が特に増えているのは、UAE、インド、マレーシア、香港、ポーランド、韓国、米国などである。

 以上が政府系サイトの伝えるあらましであるが、「UAE、インド、マレーシア、香港、ポーランド、韓国、米国」という国の顔触れが随分バラバラだなと思ったら、これは2018年の増加率の順に列挙しただけであり、絶対数の順ではないようだ。現実には、カザフスタンを訪れる外国人はロシアおよび近隣の中央アジア諸国からが多いようで、観光というよりは何らかの用事があって訪問するパターンが多いのではないか。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

↑このページのトップヘ