ロシア・ウクライナ・ベラルーシ探訪 服部倫卓ブログ

ロシア・ウクライナ・ベラルーシを中心とした旧ソ連諸国の経済・政治情報をお届け

カテゴリ: ベラルーシ

 重篤説、モスクワ病院搬送説が出ていたベラルーシの暴君ルカシェンコだったが、昨日ロシア中銀総裁のE.ナビウリナと会談した様子が公開され、ひとまずその説は打ち消された形となった。そもそも、本件のソースはV.ツェプカロ氏が発信した未確認情報だけだったわけで、終わってみれば、信憑性の低い情報に各メディアが振り回されたなという印象だ。

 上掲のツイートで示されているのが、昨日の会談の様子である。場所はお馴染みのルカシェンコ執務室であり、チャップリン作『独裁者』を彷彿とさせる地球儀が目印だ。それにしても、ナビウリナも多忙だと思うのに、なぜわざわざベラルーシに出張したのだろうか。連合国家の枠組みで、ロシアとベラルーシの中銀総裁が交互に相互訪問するような慣習があり、たまたまその訪問がルカシェンコ健在を示すためのダシに使われたような形か。

 ルカシェンコ・ナビウリナ会談における前者の発言振りは、こちらのニュースが伝えており、この中でルカシェンコはロシアとベラルーシの通貨統合の展望について語っているので、一応それを整理しておく。

 ルカシェンコいわく、単一通貨の導入は、容易ならざるプロセスである。おそらくそれは、喫緊の課題ではない。そのことについてはロシア大統領とも意見が一致している。それでも、ロシアおよびベラルーシの愛国的な人々は、しばしば本件を主張する。本日の機会に、貴方の見解をお聞きしたい。貴方は制裁の条件下でもロシアの経済、通貨問題を素早く立て直した能力の持ち主で、その手腕は広く認められている。ルカシェンコは以上のように述べた。

47

ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

214

 ほう、ベラルーシ国営ベルタ通信のサイトには、「政治」というジャンルよりも前に、「大統領」というジャンルがあるのか。ルカシェンコの動静を把握するのに便利だ。もちろん、大統領の公式HPにも、動静は出ているが。

 これらを見ると、重篤でモスクワの病院に運ばれたという未確認情報が流れる中でも、昨日5月28日に、ルカシェンコ絡みの動きはいくつか伝えらえている。

 具体的には、昨日28日、エルドアン・トルコ大統領に再選の祝電を送り、アリエフ・アゼルバイジャン大統領に独立記念日の祝電を送り、国立プレスセンターの30周年を祝い、国境警備兵の記念日を祝い、エチオピアの独立記念日を祝ったということになっている。なかなか盛沢山だ。

 むろん、これらの挨拶は事前に用意されていたテンプレ文なので、ルカシェンコが健在である証拠にはならない。エルドアンに生電話する様子がテレビででも伝えられれば別だが、実際にはモスクワでの公式行事以来、ルカシェンコが生きて動いている姿は確認されていないのだと思う。なので、もしかしたら本当にモスクワの病院に収容されているのかもしれないし、ドロズディの大統領公邸でくつろいでいるのかもしれない。

 昨日までは、土日だったので、大統領が姿を現さなくても、それほど不自然ではなかった。週が明けて、労働日になっても、ルカシェンコが何日か姿を現さないようなことがあれば、モスクワで集中治療しているかどうかは別として、少なくとも入院くらいはしているのかもという推測が成り立ちそうである。もうしばらく様子を見よう。

 ちなみに、ベラルーシ国営ベルタ通信が大統領重篤説を伝えていないのは当然として、ベラルーシの独立系メディアも、その話題に触れているケースが今のところ見当たらない。外国のメディアやSNS界隈の方が騒がしい印象である。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

m202306cover

 以前私が編集長を務めていた『ロシアNIS調査月報』、その役目を離れてからも、寄稿は続けている。このほどその6月号が発行されたので、ご紹介する。

 毎年6月号は、ロシア以外のNIS諸国を特集することになっている。今回私は、その枠内で「制裁下のベラルーシにおける基幹産業の動向」という長目のレポートを執筆した。残念ながら、ルカシェンコ健康不安説が浮上したのは、本稿を脱稿した後だったので、その話題に触れることはできなかったが、内容的に産業動向を掘り下げたものなので、まあ特に問題はないだろう。

 もう一つ、特集の枠内で、「農産物輸出めぐりウクライナ・EU間で不協和音」という短目のレポートも書いている。また、メインレポートの「2022~2023年のロシア・NIS諸国の経済トレンド」の中でも、ウクライナの部分を担当している。

 さらに、これは特集の枠外になるが、INSIDE RUSSIAと題するロシア連載で、「ワグネルの創設者プリゴジンの主張」を執筆した。

 ロシア・ウクライナ・ベラルーシは、自分が主たる研究対象と位置付ける3国なわけだが、さすがに一つの号でその全部についてレポートを書くのは、少々骨が折れた。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

 上掲動画の中で、有識者2名が、戦勝記念日に露呈したルカシェンコの健康問題についてコメントしているので、要旨をまとめておく。

 V.カルバレヴィチ(ベラルーシの政治評論家):ルカシェンコの健康問題の兆候は以前にもあったが、その時はテレビカメラに映らないことで、一般の目から隠すことができた。それに対し今回は、健康悪化と戦勝記念日という神聖な日付が一致してしまい、隠れることができなくなくなり、それゆえに今回の騒動となった。体調は悪かったが、ルカシェンコが戦勝記念日にモスクワに行かないという選択肢はなかった。モスクワに行かずにミンスクだけの式典に出たら各方面でロシアへの敵対行為と受け取られるし、両方に欠席したらそれ以上の大きな憶測を呼んだはずなので、結局モスクワに行くという無難な選択をした。

1485

 P.スヴェルドロフ(ユーロラジオ編集長):ルカシェンコの健康はベラルーシ医療を総動員して守ってきたが、歳には勝てず、病気のルカシェンコがモスクワに来ることになった。5月7日に彼の声はしわがれ、9日には足を引きずって、300メートルを歩くことがでずカートで移動した。ただ、現時点でこの問題を重大視したり、増してや彼が亡くなることを想定したりするのは時期尚早だ。他方、今回浮き彫りとなったのは、ルカシェンコは自分の行動をすべて自分では決められないという現実で、明日どこで何をするのかもロシアに指図される。プーチン自身70歳で、ルカシェンコの健康問題も承知のはずだが。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

lu

 以前も申し上げたとおり、現在ウクライナ大統領オフィス長官顧問を務めるM.ポドリャク氏は、かつてベラルーシでジャーナリストとして活躍し、ルカシェンコ体制の内幕に迫る良い仕事をしていた。私はその時代に大使館で同氏と対面したことがある。今だから言うが、外務省からとあるムネオチルドレンがベラルーシを訪問することになり、なるべく多くの面白い有識者に会いたいというので、個人的に注目していたポドリャク氏と引き合わせ、私も立ち会ったのだった。そして昨年、久し振りに同氏の名前を聞いたと思ったら、ウクライナでえらく出世していたので、驚いたわけである。

 そのポドリャク氏が、ベラルーシ系のメディアのインタビューに答えており、例のルカシェンコ重病説などについてコメントしている。考えてみれば、この人ほどベラルーシ・ウクライナ関係を的確に見ることのできる人はいないだろう。以下、発言内容を整理しておく。

 ロシアにとっても、ベラルーシにとっても、ルカシェンコの健康に多くがかかっている。クレムリンは戦争に関連し、情報、プロパガンダ、領土の提供などで、ベラルーシに期待している。ルカシェンコの健康に関するニュースは、ロシア指導部を慌てさせている。本件は、戦争のすべてのプロセス、少なくともその北部方面を、根本的に変えるものである。

 ウクライナは、ルカシェンコの健康に関する情報に関しては、中立的な立場である。ウクライナにとって肝心なのは、ベラルーシ当局がいずれかの時点で、ウクライナの戦線で現実に起きていることを、悟ることだ。なぜロシアの敗北が不可避なのか、なぜベラルーシの不適切な対外路線が自国の未来にとって重大な結果をもたらすのかを、悟ってほしい。

 (ルカシェンコが国連総会に招待されたことに関しては?)戦争の行方に大きな影響を及ぼすものではない。むろん、ウクライナとしては外交ルートを通じて不快感を示し、あらゆる法的・外交的手段でそれを阻止することになる。

 (5月9日にウクライナの特務機関がベラルーシでテロを起そうとしたと、ベラルーシ当局が非難していることに関しては?)まったくばかげている。ウクライナが戦っているのはもっぱら防衛戦争である。たとえウクライナ侵略に加担しているからといって、ウクライナが第三国でテロを起こすことはありえない。

 (ベラルーシ側が対ロシア国境の管理を強化していることに関しては?)ロシアではこれまで一貫して優位だったシラビキの権力体系が急激に弱体化しており、これから武器をもった人々が社会復帰をすると、その武器を使って不法行為を働く可能性がある。ベラルーシは、今後ロシアに到来するそのような犯罪の波を、本能的に感じ取っている。ロシアで起きようとしているのは、古典的な革命ではなく、武器を使った広範な反乱であり、ベラルーシはそれから逃れようとしている。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

1461

 ロシアも、ベラルーシも、世界的なカリ肥料の生産・輸出国となっている。ただ、ロシア統計局が今のところ肥料の生産量の発表を続けているのに対し、ベラルーシは肥料生産量の公表を止めてしまった。

 そうした中、米地質調査所が発表しているこちらの年次レポートに、2022年のベラルーシによるカリ肥料生産量の推計値が出ていたので、それを拝見しておくことにする。

 これによると、ベラルーシの塩化カリウムの採掘量は、2021年の763万tから、2022年の300万tへと、6割ほども激減したと見られるということである。

 レポートによると、2021年にEUと米国がベラルーシに対する経済制裁の一環としてベラルーシ産カリ肥料の輸入を禁止した。それを受け、2022年1月、リトアニア政府は国家安全保障上の問題を理由に、ベラルーシカリ社の唯一の海上輸出施設であるバルト海のクライペーダ港からカリを出荷することを可能にしていた鉄道輸送契約を解除した。一部のベラルーシのカリ肥料は、ロシアを経由して地域の他の国に鉄道で出荷され、年の後半にはロシアの港からも出荷されたが、2022年のベラルーシによるカリ肥料の生産と輸出は大幅に減少した、ということである。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

0020

 全般的に天然資源にそれほど恵まれていないベラルーシながら、同国の南東部では石油が産出される。ベラルーシの石油は、ロシア産のウラル原油のような重質・高硫黄ではなく、軽質で品質の良いものである。ベラルーシには2箇所の製油所があるが、両者はウラル原油の精製に特化しているので、ベラルーシは伝統的に生産した原油を全量ドイツに輸出してきた。もっと言えば、ドイツにあるロスネフチ系の製油所がそれを買い上げてきた。

 しかし、以前も報告したように、2021年12月2日に追加されたEUによる経済制裁により、ベラルーシの石油事業を担う国営ベラルーシネフチ社がEU制裁の対象になった。これにより、ベラルーシはドイツに石油が輸出できなくなった。これを受けドイツ社はただちにベラルーシからの石油輸入を停止し、2022年の契約もキャンセルした。

 ところが、こちらのインタビュー記事の中で、A.フディク天然資源・環境保護相が述べているところによると、2022年のベラルーシの原油生産は181万tとなったということである。こちらの記事によると、これは前年比4.2%増であり、過去20年で最高記録だった由だ。

 一体この181万tは、どこに向かったのだろうか? 実は、ロシアと同じく、ベラルーシも2022年の貿易統計をごく断片的にしか発表しておらず、商品別・国別の輸出状況などは闇の中である。

 ならば、一応ドイツ側の輸入統計を調べてみようかと思ったのだが、そこで奇妙な事実に気付いた。2021年まで、ベラルーシ側の統計ではドイツに原油を輸出していることになっていたのに、ドイツ側の統計ではベラルーシからの原油輸入はゼロに近かったのである。はて、これはどうしたことか? ベラルーシ産原油はドルージバ・パイプラインによりドイツまで輸送されていたので、ウラル原油と一緒くたの分類になり、ロシアからの輸入としてカウントされていたのだろうか?

 いずれにせよ、2022年にドイツがベラルーシから原油を輸入しなかったのは、確かだと思う。ならば、過去20年で最高を記録したベラルーシの原油は、どこに消えたのか。現時点で私が推測しているのは、やむをえずベラルーシ国内の製油所に回し、その分ロシアからのウラル原油の輸入を減らしたのではないか、ということだ。上述のとおり、ベラルーシの製油所はウラル原油の精製用に設計されており、ベラルーシ国産原油は良質でオーバースペックとなるものの、工程を調整すれば精製自体は可能なはずである。しかし、ドイツ向け輸出は貴重な外貨収入源だったわけで、それを失い痛いことは間違いない。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

202304

 HP更新しました。マンスリーエッセイ「MVC受賞はコメント人生の励み」です。よかったらご笑覧ください。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

1447

 このほどWedge ONLINGに、「プーチンとルカシェンコ 腐れ縁でも核兵器については……」を寄稿しました。無料でお読みになれますので、ぜひご利用ください。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

at

 ベラルーシにおける中国ブランド車Geelyの生産は、ルカシェンコが自らの夢と語った国民車プロジェクトだった。ベラルーシ国内市場は小さいので、ロシアにどれだけ輸出できるかが鍵になる事業でもある。その生産を担うベルジー社の2022年の生産動向がこちらの記事に出ていたので、取り上げておく。

 上掲記事によると、2022年のベルジーの生産は24,833台で、前年の約3万台から、17%縮小した。2022年のベラルーシ市場における全ブランドの新車販売は17,234台で、これは前年比実に63.2%減だったが、うちGeely車は4,355台であった。Geelyは、Lada3,782台、Kia1,462台、GAZ1,271台などを抑え、トップではあった。

 2022年のベルジー不振の原因は、中国側が国際的な制裁圧力を受け、第2、3四半期にベラルーシ向けのコンポーネント供給を停止したことによる。9月になりようやくコンポーネントの定期的な供給が再開された。

 なお、こちらの記事によると、2022年にロシア市場では26,694台のGeely車が販売されたということである。そのすべてがベラルーシ産とは限らず、中国から輸出されている分もあると考えられるが、いずれにせよベラルーシで生産されたGeely車の大半はロシアに出荷されているということだろう。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

33

 今般、ルカシェンコが中国に出向いて、ベラルーシと中国の関係につき改めて考えてみたのだが、つらつらと思いを巡らせていたところ、昔ミンスクに台湾通商代表部があったなということをふと思い出した。台湾は、ほとんどの場合、外国に大使館を開設できないので、その代わりに経済・文化代表部を置いており、それがベラルーシにもあったということだ。しかも、日本大使館が入居していたのと同じビルに台湾代表部があったので、我々にも身近な存在だった。天皇誕生日レセプションとかに呼んだかな? それはちょっと覚えていない。いずれにしても、あれは今でもあるのだろうか?と思い立ち、ちょっと調べてみたのである。

 そうしたところ、こちらの記事が目に留まった。結論から言えば、ミンスクにあった台湾代表部は2006年に消滅してしまったということのようである。

 記事によると、台湾は当時、国連および世界保健機関への加盟を目指し国際社会に働きかけていた。台湾としては、諸外国が台湾の国際機関加盟を支援してくれないまでも、少なくとも反対はしないということが重要だった。ところが、ベラルーシは中国と完全に歩調を合わせ、台湾の国連・WHO加盟に明確に反対をした。これが主原因となり、台湾はベラルーシとの協力に見切りをつけ、ミンスクにおける代表部も閉鎖した。以後、その業務はモスクワにある在ロシア台湾代表部によって引き継がれたと、記事は伝えている。

 もう2006年の時点で、ルカシェンコは北京べったりだったわけだ。今般の首脳会談後、ルカシェンコ側が「いかなる形の『台湾独立』にも反対する」と中国に最大限同調してみせたのも、道理という他はない。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

 先日、こちらのサイトで、クレムリンによるベラルーシ併合の秘密文書を入手したとするスクープ記事が発表され、一部で多少話題になった。ロシアが2030年までにベラルーシを取り込むことを目論んでいるとの内容である。プーチンが築こうとしている大ロシア建設計画の一環と位置付けられている。

 ベラルーシ併合プランを取りまとめたのはD.コザクを中心としたロシア大統領府で、そこにFSB、SVR、GRUなどのシラビキ系のインテリジェンス要員も加わり、詳細なロードマップを作り上げた、という。「ロシア連邦にとってのベラルーシ方面での戦略的目標」と題され、2030年までにベラルーシをロシア国家に取り組むためのやることリストになっているという。

 ただ、記事では下に見るようなロードマップが描かれているのだが、個人的には、これまでロシア・ベラルーシの連合国家の「連合プログラム」の枠内で推進されてきた統合プランに沿ったものだと感じる。驚くような新内容は見て取れない。

 また、私が見るところ、クレムリンがベラルーシの独立国家としてのステータスまで奪おうとしているかというと、やや疑問である。ベラルーシは、やせても枯れても、国連の原加盟国である。国連総会でロシア非難決議を採択する際に、反対してくれる世界で数少ない同盟国だ。ベラルーシをがんじがらめに縛って、ロシアの意のままに動かしたいという思惑は当然あるが、独立国家という体まで奪ってしまうことはないと、個人的には見ている。

ruby

ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

e6e87127e23ed743d1b31

 2020年のベラルーシの脱ルカシェンコ運動の際に思わぬ形で野党統一リーダーの役回りを演じたS.チハノフスカヤは、最近では他の民主派陣営から「武力でルカシェンコ政権を倒すために立ち上がるべきだ」「お前は外国で演説するだけ」などと批判され、すっかり求心力を失っている。

 2020年の時に私は、ウクライナと違って、ベラルーシでは「ルカシェンコなき親ロシア路線というのも可能」ということを指摘した。現に、こちらに見るとおり、チハノフスカヤも当時は、ロシアとの連合国家の破棄を主張する急進野党とは一線を画し、ロシアとの関係は現状維持という姿勢だった。

 しかし、今般ミュンヘン安全保障会議に出席したチハノフスカヤは、テレグラムチャンネルにおいて、ベラルーシがロシアとの連合国家、集団安保機構条約から離脱すべきだとの声明を、2月19日付で発表した。内容は以下のとおりとなっている。

  1. ベラルーシはロシアとの連合国家から離脱する。2022年2月24日以降、ロシアとのパートナーシップに展望は見いだせなくなった。2020年ベラルーシ大統領選後にルカシェンコ体制とロシアの間で結ばれたすべての協定は、無効と見なされるべきだ。ロシアとのすべての経済取り決めは、ベラルーシの国益に沿って見直されなければならない。
  2. ベラルーシは集団安保機構条約およびロシアとの軍事同盟から離脱する。我が国は侵略国と同じ軍事同盟に属すわけにはいかない。現時点でロシアはベラルーシでハイブリッド占領を実施している。
  3. ベラルーシは、その他の隣国、とりわけウクライナ、ポーランド、バルト諸国との関係を正常化し、広範な地域協力を開始する。
  4. ベラルーシは欧州諸機構およびEU加盟諸国との協力拡大を志向することになる。ベラルーシは欧州評議会に加盟する。EUとの長期的な協力戦略を策定する。
  5. ベラルーシは、再び暴君政治に陥ることのないような新憲法を採択する。民主的諸機関を構築し、権力の濫用を排除する。

 その上でチハノフスカヤは、「これらを達成するには、国際的な支援が必要である。民主的で独立したベラルーシのための国際的連帯を形成することを呼びかける」と結んでいる。

 興味深いのは、チハノフスカヤが、やはりロシア主導の経済同盟であるユーラシア経済連合から脱退するとは言っていないことである。また、EUと協力すると言いつつ、加盟目標は掲げておらず、連合協定についても言及がない。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

1369

 武田信玄に始まり(知らんけど)、海なし国の絶対君主は、海への出口を欲しがるものである。こちらの記事が、ベラルーシの独裁者ルカシェンコが、ロシア大サンクトペテルブルグ港の一部を成す「ブロンカ」という港を手に入れそうだということを伝えている(位置は上掲地図参照)。

 記事によると、2022年9月、ロシアとベラルーシが、ベラルーシ貨物のロシア港湾ターミナルにおけるトランジット輸送で合意していた経緯がある。2023年1月にルカシェンコは関係者に、ロシアにおけるベラルーシ港湾の建設を加速するよう指示していた。

 ロシア外務省第2CIS諸国局のA.ポリシチューク局長は、「現在、ブロンカ港複合施設をベラルーシの所有権に移転する問題が検討されている。同時に、ロシアの北西および南部港湾における有利なトランジット条件が提供される」と語った。

 2022年にベラルーシはロシアの海港を通じて350万tの石油製品、300万tのカリ肥料を輸出し、それ以外にも鉄道で輸送されたものもあった。ブロンカ港の現在の処理能力は年間320万tだが、2,070万tへの拡張が想定されている。

 ベラルーシ貨物のロシア領トランジットに関する協定は、2022年9月に結ばれた。ただ、ルカシェンコは2022年2月の時点で、ブロンカ港でベラルーシの自前の港湾の建設を開始する意向を示していた。R.ゴロウチェンコ首相によれば、ベラルーシは肥料、木材、コンテナに至るすべての貨物をロシア経由とする意向である。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

shema22

 昨晩出演したテレビ番組で、「ベラルーシ版のワグネルか?」ということで注目を浴び始めている民間軍事会社「ガルドセルヴィス(ООО “ГардСервис”)」について訊かれることになったので、ちょっと調べてみた。以下、自分なりに整理しておくことにする。

 結論から言えば、現時点ではガルドセルヴィスの存在は過大視すべきものではなさそうな気がする。なお、正確に言うと、ガルドセルヴィスは、民間軍事会社ではなく、「銃器携行を許可された民間警備会社」である。

 ガルドセルヴィスの発祥については、こちらの記事が詳しい。上掲の図もそこから拝借した。当初は2019年11月に「ベルセキュリティグループ」という名称で設立された。その後、有限会社「ガルドセルヴィス」と名前を変え、元軍人のYe.チャノフが社長を務めている。

 上図が描く構図は複雑だが、要するにガルドセルヴィスはV.シェイマン氏による一連のプロジェクトの一環と理解すれば充分だろう。シェイマンというのは、ロシアで言えばN.パトルシェフに相当するくらいのルカシェンコ体制の重鎮なのだが、シェイマンは金庫番という役割を併せ持っているのが特徴的で、大統領官房を通じてベラルーシ国内の利権を独占してきた。その代表的なものが不動産で、ベラルーシでは主立ったビルはだいたい大統領官房の持ち物と相場が決まっている。私の見るところ、おそらくはその延長上のような形で、ビル警備会社として、ガルドセルヴィスが設立されたのではないか(ガードサービスというくらいだから)。

 こちらに見るとおり、2020年6月18日付の大統領令により、ガルドセルヴィスは警備専業の会社として承認され、同時に銃器携行を認められた。これは、多くの指摘があるように、同年8月の大統領選を見据えて、いったん事が生じたら、同社の警備員をルカシェンコを守るために投入する布石だったと考えられる。

 そして、ガルドセルヴィスの最近の動きに関しては、こちらの記事が詳しい。これは、S.チハノフスカヤ率いる「移行内閣」で軍事・安全保障を担当するV.サハシチクが、ベラルーシの軍事関係者からの聞き取りにもとづき、記者に語った内容である。それによると、ガルドセルヴィスの警備員たちは2022年夏から、ベラルーシ国内の複数の訓練場で軍事訓練を受け、すでに数ヵ月が経過した。最近その数が増大しつつあり、すでに1,000名以上を数える。元軍事・治安関係者が入隊している。彼らは、ワグネルの指揮下で、破壊・偵察・襲撃に投入される可能性がある。プーチンはガルドセルヴィスに多額の投資を行っている。昨夏にはガルドセルヴィス警備員の養成のためにワグネルの専門家がミンスクを訪れた。警備員たちには報酬約3,700ユーロでの「出張」が約束されたという話もある。ガルドセルヴィスに入れるのは選ばれた者だけで、一定のバックグラウンドが必要である。

 というわけで、「ベラルーシ版ワグネル」ことガルドセルヴィスが、ウクライナの戦線に投入される可能性も、まったくないとは言い切れないのかもしれない。もしかしたら、プーチンからの参戦要求が強まり、ルカシェンコが妥協案として、正規軍は無理だが民間会社なら、といった落とし所を提案した可能性も、なくはない。ただ、個人的に気になるのは、当該の情報が、チハノフスカヤの「移行内閣」筋からしか出てきていないことである。同派としては、当然政治的な思惑から情報発信をするはずであり、全面的に鵜呑みにはできないという気がする。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

000

 こちらの記事が伝えるとおり、ベラルーシが史上初めて、ロシアとの貿易で黒字を記録することになりそうということである。ただし、商品だけでなくサービスも含んだ貿易である。

 ルカシェンコ主宰の会議でR.ゴロフチェンコ首相が報告したところによると、2022年1~11月のベラルーシ・ロシアの商品・サービス貿易は往復で450億ドルという記録的な水準に達し、通年では500億ドル超えが確実。しかも、史上初めて、ロシアとの貿易で出超を記録することになる。2022年、対ロ商品貿易は数量でも金額でも増大した。ベラルーシの頭痛の種は対ロ貿易の恒常的な赤字で、年によっては赤字が70億ドルにも上ったことがあったと、首相は発言した。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

8

 昨日の話の続きのようになるが、ロシアが貿易統計を発表しなくなったので、貿易相手国のデータからその動向を探ってみようというシリーズ。昨日のEUに続き、今度はベラルーシの対ロシア輸出入動向をグラフにまとめてみた。

 実は、これに関してはちょっとしたいきさつがある。ロシアが国際的に孤立し貿易面でも四面楚歌となる中で、小粒とはいえ、同盟国ベラルーシの存在は貴重である。実際、ベラルーシは開戦後、ロシアへの輸出を拡大している様子が見て取れた。ところが、おそらくロシアからの「指導」が入ったのだと思うが、7月分からベラルーシ統計局はロシアとの貿易額を発表しなくなってしまったのである。個人的にこれには弱った。

 そこで今般、一計を案じ、ベラルーシの対ロシア輸出入額を自分で推計してみることにした。というのも、ベラルーシは依然として、「対CISの輸出入額」というデータは発表している。ベラルーシの対CIS貿易の大部分は対ロシア貿易であり、開戦後にベラルーシの対ウクライナ貿易が途絶えた今となっては、特にそうである(注:ロシアやベラルーシは貿易統計上、依然としてウクライナをCIS国として扱っている)。3~6月の実績からすると、ベラルーシの対CIS輸出の90.7%はロシア向けであり、対CIS輸入の98.0%はロシアからであった。この割合は毎月ほとんど変わらないので、今後もベラルーシの対CIS輸出に0.907をかければだいたい対ロシア輸出額になり、対CIS輸入に0.980をかければだいたい対ロシア輸入額になるだろうと判断した。というわけで、上図の7月以降は、そうした試算によって導き出した対ロシア輸出入額の推計値ということになる。

 さて、上図に見るとおり、ベラルーシの対ロ輸入はだいたい横這いに近く、これは石油・ガスを割安な固定価格で輸入している要因によるものだろう。一方、開戦後に、対ロ輸出は顕著に伸びている。ただ、ベラルーシの場合は、ロシアと同様に米欧日からの制裁を食らっているので、ベラルーシを経由して禁制品がロシアに流れているといったことはあまりなさそうだ。むしろ、ベラルーシ企業が頑張って、ロシア市場に生じた空白を埋めていることの表れだろう。ベラルーシの対ロ貿易は伝統的に入超と相場が決まっているが、過去半年ほどは異変が生じている。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

IMG_20221110_172733645

 最近私がかかわった刊行物のご案内。

 このほど発行された『現代用語の基礎知識 2023』の巻頭企画として、ロシア・ウクライナ情勢が取り上げられており、その中で私が「対ロ経済制裁とロシア経済の今後」という小文を書いています。小泉悠さんの「地政学的大変動の時代を迎えるユーラシア」、廣瀬陽子さんの「旧ソ連の未承認国家とこれからの世界」もあるので、ファンの方は要チェック。なお、現代用語は創刊75周年とのこと。

 もうひとつ、ユーラシア研究所から出ている『ロシア・ユーラシアの社会』2022年9-10月号に、私の「ウクライナとベラルーシ ―運命を異にした兄弟国」というテキストが出ています。これは、昨年の12月にやったシンポジウム「ソ連解体後の30年」での講演内容をまとめたもので、ゆえにその後のロシアのウクライナ侵攻には触れていませんが、ウクライナ・ベラルーシを比較検討したものとしてそれなりに意味はあると思うので、ご関心の向きはぜひ。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

11polk1-5-gunhy

 ウクライナでの戦争が始まってから、プーチン・ロシアからの圧力にもかかわらず、ベラルーシ軍を戦闘には参加させないというのが、独裁者ルカシェンコの一貫した姿勢だった。

 ベラルーシの政治評論家V.カルバレヴィチ氏がこちらのコラムの中で、実は秘められた重要なポイントがあることを指摘しているので、以下要旨をまとめておく。それは、ベラルーシ人の義勇軍部隊である「カリノフスキー連隊」がウクライナ側に付いて参戦していることにかかわっている。

 S.チハノフスカヤはV.ゼレンスキー・ウクライナ大統領に同盟の結成を提案したが、ウクライナは反応を示していない。

 その一方で、ウクライナ最高会議の一部の議員は、チハノフスカヤのチームではなく、カリノフスキー連隊を、ベラルーシの民主勢力の正式な代表して扱うことを主張し、すでに具体的な行動で示している。実際、最高会議議員らと会談したカリノフスキー連隊のV.カバンチューク副司令官は、政治綱領の骨格を示すなど政治的な意欲を示し、チハノフスカヤ派への不信を表明した。ルカシェンコ追放後に、自由な選挙を実施するなどとしている。その後連隊代表者はリトアニア国会の幹部とも対面した。

 かくして、カリノフスキー連隊は単なる政治主体ではなく、ベラルーシ民主派の新たな中心的存在の地位をうかがうこととなった。それにはいくつかの要因がある。

 まず、多くの指摘があるように、ベラルーシの反体制派の中では過激主義が優勢になり、ベラルーシにおける政権の武力転覆を志向するようになっている。チハノフスカヤの「合同移行内閣」には、軍事・治安の出身者が2名入ったが、もしも武闘路線を採るのであれば、そのシナリオを理論的だけでも実現しうる組織が前面に出る必要がある。ウクライナで戦争が始まったことにより、ウクライナ軍側のベラルーシ人義勇軍という、それに該当する組織が生まれたわけである。

 もう一つ、チハノフスカヤに対する主な批判は、言葉を発するだけでなく、行動すべきというものである。そうした観点から、ウクライナで戦っているベラルーシ人義勇兵は好対照である。前線で戦い(すでに10名ほどが戦没)、ウクライナで勝利したあかつきには、ベラルーシを解放すると公約している。カリノフスキー連隊が、ウクライナでロシアに勝利を挙げた上でベラルーシへの解放進軍を行うと表明したことは、大きな反響を呼んだ。

 こうして、カリノフスキー連隊の株は上がり、民主派のメディアで大きく取り上げられている。また、ウクライナのエリートの一部からも支持されている。

 存在感を増したカリノフスキー連隊につき、ベラルーシの体制側は主たる敵と位置付けている。ルカシェンコは何度もそれについて言及し、非常に警戒している旨を述べている。KGBのI.テルテリ長官も10月17日にミンスク・トラクター工場で発言した際に、憂慮を示した。

 ベラルーシの政権当局は、2つのシナリオにつき危険視している。ロシア軍が負けること、そしてベラルーシ義勇兵がウクライナからベラルーシ領に攻め入ることだ。彼らはその両方とも現実の脅威と見ている。

 テルテリ長官は、「100から300人の武装集団が、ベラルーシの治安部隊に損失を与え、ミンスクに進撃する」と警告した。100~300人であれば、気にするほどの規模ではないはずなのだが…。それだけ、2020年の民主化運動で、体制側がトラウマを引きずっているということである。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

1258

 10日になって、ルカシェンコが「ベラルーシ・ロシア共同の地域合同軍を設ける」と発言したものだから、「すわ、ついにベラルーシも対ウクライナ戦争に参戦か」と驚かれた方も多かったと思う。

 結論から言えば、現時点でルカシェンコがベラルーシ軍をウクライナ戦線に投入すると決断したと考えるのは、早計であろう。背景として、「地域合同軍」なるものを理解しておく必要がある。

 まず、指摘しておきたいのは、「地域合同軍=региональная группировка войск(РГВ)」なるものは、1999年12月にロシアとベラルーシが調印した連合国家創設条約により打ち出された枠組みということである。

 1999年の条約の段階では、そういうものが設けられうることが示されただけだった。それが、多少なりとも肉付けされたのが、2021年11月4日調印の「連合国家軍事ドクトリン」においてであった。

 個人的に、この軍事ドクトリンについては当時から注目していたが、当初その具体的なテキストが公表されず、機微な内容ゆえにずっと伏せられたままなのだろうかといぶかっていた。しかし、今般のことがあったので、改めて確認したところ、軍事ドクトリンは今年に入り(おそらく2月頃に)公表されていたことが判明した。こちらのサイトからアクセスできる。

 ドクトリンが調印された2021年11月と言えば、プーチンはすでにウクライナ軍事侵攻を決断し、ベラルーシ領を攻撃拠点として利用する腹積もりだったはずである。そういうタイミングでロシア・ベラルーシ共同の軍事ドクトリンを策定し(というかルカシェンコに飲ませ)、しばらく伏せておいて、ベラルーシ経由ウクライナ侵略というシナリオが周知のものとなったタイミングでテキストを公表したことになる。

 さて、そんなわけで個人的には連合国家軍事ドクトリンのテキストに初めて目を通すことができた。「地域合同軍」に関しては第5条で定義が示されており、以下のような説明がある。

 ベラルーシ共和国とロシア連邦の地域合同軍とは、地域において可能性のある侵略を撃退するために、平時において配備されるか軍事的脅威増大時に(直接的な侵略の脅威がある時期に)展開されるベラルーシ軍およびロシア連邦軍の指揮・実働部隊のことであり、また単一の構想および計画にもとづいて適用が計画される両国によるその他の軍事的組織のことである。

 とまあ、これだけを読んでも、どのように運用されるのか、具体的なことまでは分からない。ただ、第39条を読むと、「軍事的脅威増大時には(直接的な侵略の脅威がある時期には)、地域合同軍の合同司令部が形成される」とされており、このあたりを根拠に、地域合同軍に参加したベラルーシ部隊が実質的にロシアの指揮下に入りルカシェンコの頭越しに対ウクライナ戦争に駆り出されるのではないかとの懸念を示すベラルーシ専門家もいる。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

1009

 ノーベル平和賞の話の続きだが、ベラルーシに関しては、人権擁護団体「春」のA.ベリャツキー氏が受賞したというよりも、やはり最有力候補とされていたS.チハノフスカヤが受賞できなかったという側面に注目してしまう。

 その一因として、最近チハノフスカヤがベラルーシの野党陣営の中でもやや孤立気味だったという点があったかと思う。今の状況でチハノフスカヤ個人にノーベル平和賞を与えたら、他の陣営からやっかみを抱かれ、ベラルーシ野党の分裂がより一層深刻化するかもしれなかったからだ。そのあたりの背景を知る手がかりとして、8月の少々古いものだが、こちらの記事の要点を以下整理しておく。

 このほどリトアニアのヴィルニュスで「新しいベラルーシ」というフォーラムが開催され、ベラルーシ民主派のリーダーたちが今後の協力に向け足並みを揃えることを目指した。それに至るまでの数か月間、会議の参加者たちは、チハノフスカヤを厳しく批判し、彼女が勝手に物事を決めるとか、あるいは無意味な外国行脚ばかり続けていると指摘していた。

 チハノフスカヤに対する主たる批判の一つは、一部の論者たちがベラルーシの現状からの脱却には力に訴えるしかないと考えているなかで、チハノフスカヤが断固たる行動に出ないという点である。今回のフォーラムへの出席を拒否した活動家もいた。ベラルーシ人民戦線を率いる古参のZ.ポズニャクも、フォーラムはまったくの無意味だと切り捨てた。

 8月9日にチハノフスカヤは「合同移行内閣」の発足を宣言し、民主勢力を糾合すると称したが、専門家たちはこれにより本質的に何かが変わるわけではないと、懐疑的である。

 フォーラムの席でチハノフスカヤは、いがみ合うのを止め、共通の計画の下に団結しようと訴えた。

 しかし、チハノフスカヤに対しては、2年前は彼女を支持した活動家からも、何度か批判が寄せられた。野党政治家のV.ポロコピエフ、ヤンカ・クパーラ劇場の元支配人P.ラトゥシコ、大統領選出馬を試みたV.ツェプカロとその妻ヴェロニカらである。

 チハノフスカヤに対しては特に、ルカシェンコ体制がロシアのウクライナ侵略を実質的に手助けしているのに、この戦争に対して無為無策であるという批判が寄せられている。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

ales-rbxgl

 昨晩はノーベル平和賞が発表されるということで、個人的にはマスコミ対応待機の状態だった。ベラルーシのチハノフスカヤ、ロシアのナワリヌイ、ウクライナのゼレンスキーらが有力候補に挙がっており、彼らが受賞したら、コメントを寄せるという予約を受けていたからだ。ところが、蓋を開けてみると、対象国は的中したが、受賞した個人・団体が違っていた。そのため、だいぶバタバタしたが、3社ほどにどうにかコメントを寄せた。

 さて、個人としてノーベル平和賞を受賞したのが、ベラルーシのA.ベリャツキー氏である(これはロシア語読みで、ベラルーシ語読みではA.ビャリャツキとなる)。この人物は、16年前にすでにノーベル平和賞にノミネートされており、実は個人的には当時から「ベリャツキーが獲ったらコメント」という待機をマスコミから要請されていたのである。そのあたりのいきさつについては、以前エッセイにしたためたことがあったので、よかったらご笑覧いただきたい。

 今読むと、15年前のエッセイは、だいぶシニカルな筆致になっている。また、ルカシェンコ体制の弊害、ベラルーシの民主化の問題は、国際平和とあまり関係ないのではないかという認識は、甘かったかもしれない。まあ、実際に十数年前までは、ベラルーシ情勢にもまだ牧歌的なところがあり、その影響はあくまでもベラルーシという小さな共同体の中に限られた。しかし、その強権体制が行き着いた先が、ウクライナ侵略拠点をプーチン・ロシアに提供することだったわけで、まさに強権政治が平和を棄損したわけである。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

komm-04

 こちらの記事が、ベラルーシが主力のカリ肥料輸出を思うようにできなくなり、財政が窮地に陥っているということを論じているので、以下要旨をまとめておく。

 EUは2021年にベラルーシのカリ肥料を輸入禁止としたが、それは一部品目だけだった。ノルウェーのYara社は、ベラルーシカリ社の製品10~15%を買い上げて世界市場に転売していたが、同社が世論に押されてようやくその取引を停止したのは今年の初めだった。

 しかし、ここに来てようやく、ベラルーシのカリ輸出は大きな障害に直面している。従来、リトアニアのクライペーダ港がベラルーシ産カリの大部分を積み出していたが、リトアニアはその業務を拒絶した。ルカシェンコ体制は、難民騒動などで近隣諸国との敵対政策を採ってきたわけだが、プランBはないことが判明した。他方、ウクライナ当局はオデーサ港での積出を拒否し、ロシアの港にはキャパシティに余裕がなかった。

 戦争が始まると、EUはベラルーシからのカリのトランジット輸送を禁止し、米財務省は販社であるベラルーシカリ会社を制裁リストに加えるなど、その姿勢を鮮明にした。

 ベラルーシのゴロフチェンコ首相は6月3日、ベラルーシ産のカリはアフリカ、南米、中国などのアジアにシフトしており、自然発生的な輸出多角化が生じていると発言。ルカシェンコは6月17日、今年カリの輸出量は減るかもしれないが価格が上昇しているので金額面での喪失はないと強調した。だが、実際はどうだろうか?

 EUと米国の新たな制裁を受け、3月にルカシェンコはカリ輸出に関する大統領令に署名したが、うち2項目は機密扱いとなった。その後、ルカシェンコは武器輸出公団ベルスペツヴネシテフニカのA.スクラガ総裁をベラルーシカリ会社の新社長に任命、どうにかして制裁を回避したいとの思いをのぞかせた。

 それ以降、輸出実績は機密扱いとなっている。しかし、断片的な情報から、激減したことは間違いない。ベラルーシ産のカリはブラジル、インド、中国などが主な販路だが、その輸出はどうなっているだろうか。

 5月にベラルーシの駐ブラジル大使は地元紙に、双方が供給再開に向けて努力していると述べた。

 2月に報じられたところによると、インドは、ベラルーシが具体的な輸出ルートを明示するまで、輸入契約にサインしようとしなかったという。その後、本件の合意は伝えられていない。

 7月になりベラルーシの駐中国大使が、ベラルーシの対中国輸出に占める資源の比率が減り、カリ肥料が35%、食料品およびその他の商品が65%になっていると発言したが、それがどの期間のデータ化は明らかにせず、2月以降も中国向け肥料輸出が続けられているかは不明のままである。以前は中国向け輸出のかなりの部分がカリ肥料であった。

 リトアニアにトランジットを阻まれたベラルーシ当局は、あわててロシア指導部に輸出の支援を要請した。サンクトペテルブルグの近くにベラルーシの港を作る構想が浮上したが、完成には少なくとも数年、数億ドルを要し、資金源は不明である。

 ベラルーシカリは、輸出激減を受け、鉱山の改修作業に着手した。これがベラルーシの財政にどう影響するだろうか。

 1ヵ月ほど前、ベラルーシのテレビは、ベラルーシがロシアの港を通じたカリ積出を開始したと報じた。ただ、2023年末までに200万tを積み出す契約とされたものの、制裁前にベラルーシは年間1,100万~1,200万tを輸出していたのである。また、コメルサント紙によると、ベラルーシはロシアの港からカリを輸出する際に、国際価格から30~50%値引きして輸出しているという。

 その間に、ライバルたちはベラルーシのシェアを奪っており、それにはロシアも含まれる。EUはロシア産品の輸送への制裁で肥料を例外とし、米国もロシア産肥料のオペレーションについては制限を撤廃するライセンスを発給している。プーチンもブラジル大統領との電話会談で、「ブラジルの農家にロシアの肥料を途切れることなく供給する義務を果たすことを約束する」と確約した。

 2018~2020年の好調時には、ベラルーシカリは財政に年10億ドル以上を納入していた。最大の項目は輸出関税の7億ドルで、それは共和国予算に納入された。利潤税の支払いも約1億ドルに上り、これは主にミンスク州の地方財政に納入された。

 好調時のこの納税額はGDPの1.7%に相当する。統合財政はGDPの30%程度である。つまり、ベラルーシカリの直接的な納税が、統合財政歳入の5.7%ほどを占めていた。職員の所得税、取引相手との関係なども考慮すると、ベラルーシカリはがもたらす納税は少なくともGDPの2.5%、統合財政の8.3%に上った。また、ベラルーシカリ職員の賃金は平均よりも高く、「国民社会保護基金」への貢献も見逃せない。

 今日、唯一確かなことは、ベラルーシカリの財政への貢献が大幅に低下していることだ。しかし、規模はどの程度なのか、すでに深刻な予算上の問題が生じているのか、統計の隠蔽により、それらを知ることはできない。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

minsk-moskva

 最近ロシアやウクライナのことが忙しくてベラルーシのことを追えていなかったが、同国が直面している難局が解決したわけではない。とりわけ、「連合国家」という枠組みを通じてベラルーシ支配を強化しようとしているプーチン・ロシアとの関係はどうなるのか? こちらの記事に出ている、ベラルーシの政治評論家P.ウソフ氏の見解を以下のとおりまとめておく。

 「連合国家」を通じたロシアの目的は最初から、完全な政治支配の確立、ロシアが主導権を握る超国家機関の創設、より深く構造化された政治組織を形成することである。つまり、ソ連時代の統治方式の要素への回帰である。経済統合に主眼はなく、支配の結果にすぎない。

 ロシアの優先課題は、旧ソ連諸国への戦略的影響力を確立することであり、この目標を達成する上で、経済はそれほど重要な意味を持たない。モスクワが主導権を握るので、ベラルーシは非常に不利な立場に立たされている。

 ロシアの全地政学的パワーはウクライナ戦争に集中しているが、それが終われば、クレムリンは次にベラルーシをどうするか決めるだろう。ベラルーシはロシアが戦争を始めるための踏み台として機能しているのだから、統合プロセスや対等性を語るのは馬鹿げている。

 2月24日の開戦後も、ベラルーシ・ロシア関係に本質的な変化はない。形式的にも、新しい文書への署名などがないので、同様である。クレムリンの目的は、ベラルーシを戦略的資源として利用することである。この点では、連合国家の本質と内容は変化している。一方では、ベラルーシはロシアの文化的、情報的課題に支配された植民地として認識されるようになった。他方では、ベラルーシは戦略的資源と認識されるようになり、ベラルーシの主権・国益を損なう形で利用されている。

 ベラルーシは、以前のルカシェンコ体制では政治主体だったが、それが、ロシアの政治的意思を推進するための単なる客体へと変質している。ベラルーシの主体性はなく、ロシアの利益がベラルーシに押し付けられるのみである。

 「国民投票を実施してベラルーシをロシア連邦に組み入れよう」という、馬鹿げた、しかし至極もっともな発言が頻繁に聞かれるようになった。ロシア下院のトルストイ議員はすでにそう明言しており、今後そうした提案はどんどん増えていくだろう。乗っ取りと領土奪取のプロセスが始まる。

 ロシアがとりうるアプローチは、2つ考えられる。第1に、ソ連をモデルとして「連合国家」を創設し、そこに他の非承認国家を加えることである。しかし、このプロセスには抵抗が伴う。カザフスタンのトカエフ大統領も、自称ドネツクおよびルガンスク人民共和国の承認を拒否した。

 そして、第2の帝国的シナリオも考えられる。住民投票などの正式な手続きを踏まずとも、押さえるべきものはすべて吸収し、ロシアに併合するというものである。今ウクライナで進んでいるように、領土を奪い、拡大し、国家を破壊することである。ロシアは「ウクライナ問題」を解決しており、「カザフ問題」が焦点になってくる。

 ベラルーシにとっては、どちらのシナリオも、ベラルーシという国家が破壊され、ロシアの植民地状態に陥ることを意味し、悲劇的である。このような脅威は、ロシアが地政学的な存在として滅びでもしない限り、存在し続けるだろう。

 そして、ルカシェンコはクレムリンに対抗する術を持たない。このような状況で、モスクワと距離を置こうとすれば、ルカシェンコは引きずり降ろされる。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

re

 ロシアが自分で貿易統計を発表しなくなったので、困ったものだが、かくなる上は、貿易相手国側の数字から埋めていくしかない。

 こちらの記事で、主要国による4月までの月別対ロシア輸出額という数字が出ていたので、それを表に整理してみた。中国の圧倒的トップは変わらないが、その中国にしてもさすがにロシアへの輸出を急減させている。そうした中、ベラルーシだけが対ロシア輸出で「健闘」しているという構図である。

 なお、上の表を見ると、日本がロシアにとって第5位の輸入相手国のように思えてしまうが、この資料では米国、イタリア、フランスといった主要国が省略されているので、日本が何位なのかは分からない。

 ロシアの輸入相手国では、1位中国、2位ドイツというのがもう10年以上続いてきたが、下図に見るとおり、直近ではベラルーシがドイツを追い抜いている。

150

ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

mp

 最近で一番ビックリした話を披露させていただく。

 ロシアの『エクスペルト』誌を読んでいたら、ウクライナ・ゼレンスキー政権の主要幹部を紹介したくだりがあり、その中でミハイル・ポドリャクという人物が挙げられていた。記事によると、大統領府長官顧問として政権の中核に位置するポドリャク氏は、政治コンサルタントで元ジャーナリストであり、かつてはベラルーシで反体制メディアで働いたこともあって、それゆえにウクライナに追放された。ゼレンスキーの下で頭角を現し、現在では対ロシア和平交渉で枢要な役割を果たしている、とある。

 待てよ、ミハイル・ポドリャク……どこかで聞いたことがあるような。そうか、あの男ではないか。私がベラルーシ駐在時代に、インタビューをし、非常に印象深かったので、そのくだりをエッセイにしたこともある、あの男だ。まさか、あいつが、現在、ウクライナ・ロシア関係の、もっと言えば人類の命運も握っていたとは。なお、当然のことながら先方は私との面談のことなど忘れていると思うが、便宜的に「旧知の人物」というタイトルを付けさせていただいた。

 確かに、和平交渉の一連の写真を改めて見てみたら、そこには確かにポドリャク氏の姿があった。下の写真で握手をしている左側の人間が、ポドリャク氏である。この写真は、ベラルーシを舞台に行われた初期の交渉のはずだが、まさか本人もこんな形でルカシェンコの国に舞い戻ることになるとは、思ってもみなかっただろう。

460

 というわけで、2004年に書いたエッセイを以下で再録するので、よかったらご笑覧ください。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ
続きを読む

61071775_303

 なんだかんだで、現在までのところルカシェンコのベラルーシは、ロシアの対ウクライナ戦争への参戦を回避し続けている(領土を進撃拠点としてロシア軍に提供したことは看過できないが)。ベラルーシ軍はそれほど規模は大きくないとはいえ、もしベラルーシ軍が合流してロシア軍が厚みを増していたら、キーウ攻防戦の状況も多少変わったかもしれない。

 はっきり言って、「この戦争に加わりたくない」というのは、独裁者ルカシェンコと、ベラルーシの一般国民との、唯一と言っていい共通項だろう。それだけ、「戦争だけは勘弁」という意識が、ベラルーシ国民には染み付いている。

 そのあたりの事情につき、こちらの記事の中で、ロシアとベラルーシの有識者たちがコメントしている。ここではそのうちベラルーシ側の2名のコメントを以下のとおり抄訳しておく。

 G.コルシュノフ(「新思考センター」分析家、ベラルーシ科学アカデミー社会学研究所元所長):ロシアとベラルーシで、大祖国戦争の歴史・記憶が共通だというのは、大きな間違い。「200年の共通の歴史」というのはイデオロギー的には都合が良いが、両国民の歴史観は異なる。ベラルーシ側では、ロシア化の歴史、ベラルーシの土地の征服の歴史として受け取られる。大祖国戦争についての認識も同様である。ロシアの場合は、国土のヨーロッパ部しか戦場にならず、ロシア国民にとっては戦争とは前線+銃後である。一方、ベラルーシ国民にとって戦争とは占領で、死は多くの人にとって現実の脅威であった。ベラルーシ国民にとって戦争とは黒と白ではなく、すべてが黒。それが浮き彫りとなるのが戦勝記念日で、過去5~7年ロシアではそれが勝利の日で、今後も再現可能とイメージされるのに対し、ベラルーシでは「もう二度と繰り返さない」という思いになる。

 A.カザケヴィチ(ベラルーシの政治評論家):ロシア国民にとっての戦争のイメージは、何よりまず精神的高揚、武器、国家の勝利であるのに対し、ベラルーシ国民にとっては、多数の犠牲者、占領、災厄を伴う悲劇である。また、ロシア国民は自国を帝国とイメージし、周辺国に影響力を行使し世界の運命を決める存在だと思っている。ゆえに、ロシア国民は自国が対外的、軍事的な積極策をとることを好感する。過去十数年、国民はジョージア、ウクライナ、シリアでの戦争に反対しておらず、むしろ戦争への反対は屈服と受け止められてきた。また、ロシアでは多くの問題にもかかわらず何だかんだで政権は過半数の有権者をコントロールしており、ゆえに政権の政策への支持が得やすいのに対し、ベラルーシでは政治危機が収束しておらず、政権を支持しているのは3分の1以下である。ロシアでは体制が情報空間をコントロール下に置いているのに対し、ベラルーシでは国営マスコミは25~35%の人にしか見られていない。ベラルーシでも、ロシアのナラティブが浸透はしているが、それでも独立系メディアが力を保っている。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

Chatham

 何が困ると言って、ベラルーシで世論調査の類がほとんど行われず、民意がどこにあるのかが掴めないのは非常に困る。そうした中、2020年8月の大統領選後、英チャタムハウスが不自由な中でも時々ベラルーシで世論調査らしきものをやってくれているのは、助かる。

 それで、こちらのサイトに見るとおり、ロシアによるウクライナ侵略を受け、チャタムハウスでは3月5~14日にベラルーシ国民896人を対象に本件に関する意識調査を行い、それをベラルーシの社会構造に応じて補正、その結果を発表した。

 色んな設問があるが、やはり一番注目されるのは、ベラルーシ自身がこの紛争に関しどのようなスタンスをとるべきかという問いだろう。その結果を示したのが、上図となる。日本語にすれば、以下のとおりとなっている。対ウクライナ戦争にロシア側に付いて参戦することを支持するのは3%だけとなっている。

  • ロシアの行動を支持するが、ベラルーシ自身は紛争には関与しない:28%
  • 完全な中立を表明し、外国の軍隊はすべてベラルーシから撤収させる:25%
  • ロシアの行動を非難するが、ベラルーシ自身は紛争には関与しない:15%
  • ウクライナを支持するが、ベラルーシ自身は紛争には関与しない:4%
  • ロシア側に付いて紛争に関与する:3%
  • ウクライナを非難するが、ベラルーシ自身は紛争には関与しない:2%
  • ウクライナ側に付いて紛争に関与する:1%
  • 分からない:21%

ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

1076

 よく予想を外すこの私だけど、「ベラルーシのルカシェンコはロシアからの参戦要求に抵抗を示すだろう」という予想だけは、今のところ当たっている。ただ、クレムリンのこちらのページに見るように(超久し振りにクレムリンのページに接続できた)、昨日ルカシェンコがモスクワを訪問しプーチンと会談した。ここに出ているやりとりによれば、ルカシェンコはロシアのウクライナでの行動を支持し、また集団安保およびユーラシア経済連合の首脳会合を1ヵ月後くらいにモスクワで開いて結束を図ろうと提案した、といったことが話されているが、ベラルーシ軍の参戦については具体的なことが話されたのだろうか?

 そうした中、こちらの日本語記事のコピーで恐縮だが、

 ウクライナ空軍は、ロシアの軍用機が11日、ベラルーシの飛行場から離陸し、ウクライナ領空を通過した後、ベラルーシのコパニを襲撃したとの情報を、国境警備当局が現地時間午後2時30分(日本時間午後9時30分)に入手したと発表した。

 ウクライナ空軍はオンライン声明で「これは挑発行為であり、ベラルーシ共和国軍をウクライナとの紛争に巻き込むことが目的だ」と強く批判。同じ作戦でベラルーシの他の2地域も標的にされたという。

 国境警備当局は声明で「ウクライナ軍はベラルーシ共和国に対する攻撃行為を計画していないし、する予定もないと正式に宣言する」とした。

 要するに、ウクライナ軍機がベラルーシを攻撃したと見せかけて、それへの反撃としてベラルーシを対ウクライナ戦争に参加させよという工作だったわけか。

 深読みすれば、ロシア軍の仕業であることはすぐに分かるはずであり、これはむしろ、関ケ原で徳川家康が小早川秀秋の陣地に大筒を放って参戦を促したように(史実かどうかは知らないが)、ルカシェンコに腹をくくらせるためにベラルーシの村を襲った、なんてことも考えてしまう。

 なお、ベラルーシの地名マニアのこの私だが、コパニ村というのは聞いたことがなかったので、地図で位置を確認してみた。それが上掲画像であり、ゴメリ州レチツァ市の郊外にある。力点は後ろにあって、正確な読み方はコパーニであり、ゆえにベラルーシ語読みではカパーニ。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

euus

 エネルギー自給率がきわめて低いベラルーシだが、実は一定量の石油を産出する(年産170万t程度)。南東部のゴメリ州レチツァあたりに旅行すると、油井の風景が見られ、私も見たことがある。

 それで、従来ベラルーシは、国内で採れた石油を、ほぼ全量ドイツに輸出してきた。国内に製油所があるのに、精製に回さず、原油のまま輸出していたのは、その方が経済的に得だからである。ベラルーシの製油所はロシアのウラルブレンドという重質・重硫黄の原油の精製に特化している。ベラルーシ産はより軽い良質の原油で、国内の製油所にはオーバースペックであり、ドイツに輸出した方が儲かるわけである。なお、ドイツと言っても、具体的にはドイツにあるロシア・ロスネフチ系の会社が買い上げているのであるが。

 ところが、ルカシェンコ体制にとって困ったことに、昨年12月2日に追加されたEUによる経済制裁により、ベラルーシの石油事業を担う国営ベラルーシネフチ社がEU制裁の対象になった。これにより、ベラルーシはドイツに石油が輸出できなくなった。こちらの記事などが、これを受けドイツ社はただちにベラルーシからの石油輸入を停止し、2022年の契約もキャンセルされたと伝えている。

 これによるベラルーシへの打撃については、こちらの記事が詳しい。これによると、ドイツに輸出していた石油を国内の製油所に回すことは技術的には可能である。しかし、それにより7,140万ドルの輸出収入と、1億ドル近い輸出関税収入が失われる。その分、ロシアからの石油輸入を減らすことは可能だ。だが、2020年には、ベラルーシは自国産の高品質石油を1t当たり282ドルで輸出し、ロシアからウラルブレンドを240ドルで輸入、1t当たり42ドル分の利得を得てきたわけだが、今後はそれが失われる。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ

↑このページのトップヘ