ロシア・ウクライナ・ベラルーシ探訪 服部倫卓ブログ

ロシア・ウクライナ・ベラルーシを中心とした旧ソ連諸国の経済・政治情報をお届け

カテゴリ: サッカー・スポーツ

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 正確に言うと、この本は昨年の暮れに出てすぐに読んだので、実際には冬休みに読んだ本なのだが、当ブログで取り上げそびれていたので、「夏休みに読んだ本シリーズ」の一環として遅ればせながら取り上げる次第である。宇都宮徹壱(著)『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』 (集英社インターナショナル、2023年)である。

 日本を代表するサッカーライターの一人である宇都宮さんは、サッカーの戦術的な側面を掘り下げるよりも、サッカーを取り巻く土着的な背景や歴史などを深掘りし紡いでみせる点が持ち味である。そのために膨大な取材を積み重ね、現場主義を貫く。それは、昨今流行りのウェブメディアにおけるPV至上主義や、Xでの反応を寄せ集めただけの「コタツ記事」の対極を成す。

 そして、本著『異端のチェアマン』では、Jリーグの組織論という新しい領域に挑戦した。以下Amazonの紹介文を引用させていただく。

 開幕から20年を経て、人気低迷と経営悪化の泥沼に陥っていたJリーグ。この最悪の時期にチェアマンを引き受けた村井満は抜本的な改革に取り組むが、そこに差別・ハラスメント問題、度重なる災害、新型コロナ禍が次々追い打ちをかける。とくに新型コロナ禍においてリーグ清算さえ覚悟したという村井が、いかに事態を打開したのか。知られざる危機への対応を、多くの証言と共にドキュメンタリータッチで描き出す。

 本書は、宇都宮さんのこれまでの仕事が結実した一つの集大成であり、組織としてのJリーグ論、リーダーとしての村井満論の、決定版と言える。日本のサッカー史、スポーツ史を振り返ったりする時に、必ず参照しなければならない必読書であり、一般的な企業・組織論としても秀逸である。私も文章を書く人間の一人として、一生に一度はこんな凄い本を書いてみたいと思わされるような充実作だ。

 ただ、褒めてばかりだとつまらないので(笑)、本書を読んで若干引っ掛かった点を3点挙げて、ミニツッコミをしてみたい。

 第1は本としての編集方針に関して。宇都宮さんのアイデンティティの半分は写真家であるはずなのに、なぜか本書に掲載されている写真はごく少ない。人物が大勢登場するので、その人の写真が出ていればイメージが膨らむのに、なぜかそうなっていない。本書で文字のポイントが大きく読みやすいのは好印象だが、私としては文字は一回り小さくてもいいのでもっと写真を入れてほしかった。おそらく、著者本人にも葛藤があったのではないかと推察する。

 第2は、DAZNに関してである。DAZNは2016年、Jリーグと2017年からの10年間、合計2,000億円に及ぶ放映権契約を結んだ。それ以前のスカパー!との契約と比べると確かにビッグディールであり、「巨額契約」ともてはやされた。本書でも、この契約を勝ち取ったことが村井チェアマンの代表的な業績として扱われている。しかし、本書脱稿後に成立した契約ではあるが、我々はもう、「大谷が10年で1,000億円」という数字を知っている。DAZNの「巨額契約」は、言ってみれば、アスリート2人分である。本書の問題点というわけではないが、大谷が10年で1,000億円という数字を知ってしまった以上、Jリーグが10年で2,000億円というのは本当に望みうる最大値なのか、その価値を上げていくためにはどうしたらいいのかというのを、我々は真剣に問い続けなければならない。

 第3は、村井チェアマン退任後のJリーグという組織についてである。宇都宮さんも最近よく、現在の野々村体制のJリーグの対応振りに関し、改善の余地があるという意見を述べられている。また、村井体制を支えた人材たちが、一人また一人とJリーグ本部から去っていると聞く。ここで想起されるのは、宇都宮さんとも親しいカターレ富山の左伴社長が、本当に優れたリーダーというものは、自分なき後の体制も盤石になるようにお膳立てして去るものだというような話を述べていたことである。挑発的な言い方をすれば、自分の退任後に、Jリーグの組織が劣化してしまったとしたのなら、村井前チェアマンは本物の名君ではなかったのではないか? このあたり、ぜひ続編で論じてほしいものである。


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 昨年12月14日に開催したシンポジウム「『冬』に立ち向かうロシアと北海道のサッカー」の報告をYouTubeにアップし、アーカイブ視聴できるようにしましたので、ぜひご利用ください。まず上掲が、服部が行った「ロシア・サッカーの蹉跌 ー秋春制失敗とその他の苦悶」と題する報告です。

 そして、こちらが、新著『異端のチェアマン』も絶好調の宇都宮徹壱さんにご披露いただいた「なぜ今、Jリーグ秋春制が議論されているのか?」です。

 最後に、こちらが、BTOP北海道の矢野哲也社長にお話しいただいた「北海道サッカークラブの挑戦一秋春制とその他の課題」になります。


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 北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターでは12月14日に、生存戦略研究シンポジウム 「『冬』に立ち向かうロシアと北海道のサッカー」を開催します。センターから服部が登壇するのに加え、新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』が話題沸騰の宇都宮徹壱さん、新たにJリーグ入りを目指す新興勢力BTOP北海道の矢野哲也社長が登壇。対面のほか、リモートでも視聴できますので、こちらまでぜひお申込みください。


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 こちらの記事によれば、ロシアの代表的なオリガルヒであるB.ロテンベルグが、ロシア版のFIFA、NHLを創設しようとしているというので、一瞬驚いた。ついにスポーツの分野で、国際組織のFIFAに決定的に背を向けて独自のサッカー連盟を創設し、北米のホッケーリーグNHLにも対抗しようというのかと(むろんすでにKHLがあるが)、見出しだけ見て驚いたのである。しかし、記事を読んでみたら、テレビゲームの話だった。

 記事によると、テレビゲームの分野では、カナダ企業のEA Sportsが、FIFAシリーズ、NHLシリーズといった作品を世界的にヒットさせている。ところが、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、同社はロシアおよびベラルーシへの商品供給を停止した(並行輸入で入荷してはいるが)。

 こうした中、ロシアのSMP Eスポーツ社は、今後3年以内にサッカーおよびホッケーゲームを開発し、行く行くはEA SportsのFIFAシリーズ、NHLシリーズに取って代わるような存在になることを目指しているという。このほど同社のG.グヌトフ社長がインタビューで語った。なお、同社は7月14日に設立されたばかりで、B.ロテンベルグが100%保有している。ロテンベルグはSMPレーシングというレースゲーム開発の別会社も保有している。


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 ロシアのサッカーがUEFAから出場禁止処分を受け、ロシアとしては友好国の多いアジアのAFCに転籍すべきではないかと議論されていた問題。結局、12月30日に開催されたロシア・サッカー協会の実行委員会の会合の結果、結論は持ち越しとなった。

 本件につき、こちらの記事に見るように、会合後に協会のA.ジューコフ会長が会見に応じているので、以下ジューコフ会長の発言要旨を整理しておく。ざっくり言うと、当然のことながらUEFAに残って大会に参加できる可能性があるのなら、その方が望ましいのは言うまでもなく、ギリギリまでUEFAとの妥協の余地を探りたい、ということだろう。また、仮にAFCに転籍したとしても、当面の最大の関心事である2026年W杯のアジア大陸予選に出場できる保証はないという認識もあるようだ。

 本日の会合の結論として、作業部会を設置し、そこに3人の代表を送ってほしいと、UEFAに提案することになった。同様にFIFA、IOCにも代表者を出すよう提案する。

 作業部会の目的は、情勢を見極め、クラブおよび代表が国際大会に復帰できるよう、打開策を練ることである。作業部会は新年休暇が明け次第早急に設けたい。3月末までに打開策の工程表を策定したい。作業部会設置につきUEFAとは大筋で合意している。

 本日の会合では、即座にUEFAを脱退し転籍すべきだとの提案もなされたが、作業部会を設置してUEFAと交渉することで多数の支持が得られ、この決定に反対する向きはなかった。

 代表のV.カルピン監督の意見も考慮された。監督の立場は、どんな形にせよ試合をしたいというものであり、協会の決定もなるべく早く競技に復帰することを旨としている。

 我々はUEFAと交渉し、合意も達成しつつあるが、FIFAに問い合わせると何も分からないという反応である。作業部会はこのプロセスを加速することになる。これが機能しないと分かったら、やり方を変えるまでだ。

 クラブに関して言えば、過半数がアジアへの転籍を支持しており、それは変わっていない。

 (アジアへの転籍の可能性はなくなったのか?)作業部会を設けようとしているところであり、我々の課題はなるべく早く代表およびクラブが国際大会に参加できるようにすることである。早期のUEFA大会復帰を探っているが、それが不可能なことが判明すれば、転籍が浮上してくる。

 FIFA、IOCには、作業部会参加の打診をまだ行ってはいないが、確実に応じてくれるだろう。アジアへの移籍の問題が検討されているというわけではなく、公式国際大会への復帰を模索しているということである。

 (なぜもっと前に作業部会設置が提起されなかったのか?)それは5~6ヵ月前には不可能だった。対話を試みたが、作業部会といった話まではできなかった。その後、状況がかなり変わった。政治がサッカーに影響を及ぼすべきではなく、ロシア・サッカー協会にとり政治は別物である。

 (UEFAは、ロシア協会を失いかねないと悟って、建設的な対話に乗り出したということか?)そういう見方は正しくない。半年前も、1週間前も、UEFAがロシア協会を失いたくないと思っていることに変わりはない。ロシアと決別したいのなら、そういう決定を下していたはずである。UEFA、サッカー関係者は、ロシアとの関係を維持したいと思っている。

 (協会の最優先課題は、2026年のW杯予選にロシア代表が参加することではないか?)最優先課題は、なるべく早く公式国際大会に復帰することである。むろん、2026W杯に出ることは大事であり、それゆえに解決策を見出さねばならない。具体的にいつまでに国際大会に復帰すべきかは難しい問題で、実行委員によっても見解は異なるが、私は2026年W杯予選出場を課題とは捉えている。ただ、W杯は唯一の国際大会ではなく、クラブもあれば、育成年代もあれば、女子代表もある。

 アジアへの転籍は可能かもしれないが、そうした場合にも、W杯アジア予選に出場できる保証はなく、決められるのはFIFAだけである。

 AFCはロシアを受け入れると言ってくれており、文書で確認されているわけではないが、信じない根拠はない。クラブレベルでもアジアの大会に参加する可能性はあるが、その場合でも、2023年に実現するかは疑問である。


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 甘いと言われるかもしれないけど、2018年サッカーワールドカップ・ロシア大会を眺めていて、ロシアは、多々問題はあれ、世界に開かれた良い国に変わっていくんじゃないかという期待を抱いたんだよ。それから4年で、こんなことになってしまうとは、思いもしなかった。

 それで、前回大会開催国のロシア、今回のカタール大会は、欧州予選のプレーオフ進出を決めながら、ウクライナ侵攻によるペナルティで無条件失格となり、カタール大会には出場していない。ただ、当然ロシアにも熱心なサッカーファンはおり、日本などとも同じように、そういうマニアは国内サッカーよりも欧州に目を向けていたりする。彼らにとっては、ロシアが出る・出ないに関係なく、W杯はがっつり観たい大会だろう。なので、ロシア国内で今回のカタール大会のテレビ放映がどうなっているのかが気になった。

 それに関しては、こちらの記事などが説明してくれている。結論から言えば、«Матч ТВ»というロシアの代表的なスポーツ専門局が、全64試合を無料中継するということである。

 ただし、記事によると、なぜかグループステージの3試合目のみ、«Матч ТВ»では録画放送となり、生中継は«Матч! Страна»という別チャンネルが担当する由である。

 それから、記事によると、今回のW杯と並行して、ロシアでは国内カップ戦が実施され、«Матч ТВ»はその放映も担当するということである。何ともわびさびのある話だ。


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 週刊エコノミストのサイトに、「ウクライナ最強キーウのサッカーチーム 戦争に屈しない『伝説の試合』」というコラムを寄稿しました。タイトル含め、編集側の意向で変えたところが若干ありますが、よかったらご笑覧ください。紙の雑誌版のエコノミストにも載るようです。


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 最近得た情報で、ちょっとばかり嬉しい驚きだったのが、サッカーのウクライナ・プレミアリーグが、戦乱にもかかわらず、2022/23シーズンを開催することになったという話である。こちらの記事などが伝えている。以下、情報を総合し、事実関係を整理しておく。

  • 2022/23シーズンは、今年8月23日に開幕する。この日は火曜日で平日だが、「ウクライナ国旗の日」という国民的記念日なので、それに合わせた。
  • 参加クラブは16チームで、2回戦総当たり。
  • 会場は、必ずしもそれぞれのクラブのホームタウンではなく、比較的安全な首都キーウ(たぶん4スタジアム)、西部リヴィウ(たぶん3スタジアム)などが中心となる。
  • UEFAチャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグに参戦するクラブに関しては、国内リーグのプレミアのゲームを国外で開催することもありうる。
  • 現時点では、試合は無観客になる予定。空襲警報が鳴ったら、ただちに試合を中止し、選手・スタッフの安全を確保する。

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20220331c

 HP更新しました。マンスリーエッセイ「激戦地ハルキフは『アゾフ大隊』揺籃の地」です。よかったらご笑覧ください。


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 ロシア・ウクライナ情勢が大変だが、関係あるようなないような、超マニアックなサッカーの話で恐縮。

 ウクライナ独立後、同国のサッカープレミアリーグでは、ほぼすべてのシーズンで、ディナモ・キエフかシャフタール・ドネツクが優勝している。1位になれなかった方のチームがだいたい2位である。完全な二強体制というわけである。

 だが、一度だけ、独立後初の1992シーズンに、二強以外のチームが優勝したことがある。それが、クリミアの中心都市を本拠とするタヴリヤ・シンフェロポリだったのである。もっとも、1992シーズンは、A・B2つのグループに分かれて総当たりを行い、両グループの1位同士が一発勝負で優勝決定戦を戦う方式だったので、番狂わせが起こりやすかったのかもしれない。

 時代は下り、ウクライナ危機と同時進行した2013/14シーズンのウクライナ・プレミアリーグにも、タヴリヤ・シンフェロポリは参戦していた。しかし、ロシアによるクリミア併合という事態を受け、タヴリヤは法律的にはいったん解散し、クラブ名をTSKタヴリヤに変更した上でロシアのクラブとして登記し直し、2014/15シーズンからはロシアの国内リーグに参戦した(トップリーグではなく、上から3番目のカテゴリーだったが)。ただ、クリミアをロシア国内リーグに組み込むと、UEFAやFIFAから制裁を受ける可能性があったので、ロシア・サッカー協会は方針転換してクリミアは別扱いとし、クリミア独自のサッカーリーグを組織、タヴリヤもそこを戦いの場とすることになったわけである。

 さて、以上の話は個人的に把握していたのだが、今般意外な新事実を知った。ウクライナ側としても、名門タヴリヤを失うのは忍び難かったらしく、2015年9月にウクライナ南部のヘルソン市を拠点にタヴリヤを再興する動きが始まった。ただし、スタジアム建設用地の調整が上手く行かず、代わりにヘルソン州のマリャニフカ村というところを一時的な本拠地として定め(あくまでもクリミアを奪還するまでの一時的な本拠)、まずはアマチュアリーグから、2017年夏からはプロチームとして再スタートを図った。このFCタヴリヤ、現在はウクライナ2部リーグ(上から3番目のカテゴリー)のBブロックに所属している。現在の順位表は以下のとおりである。

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 もちろん、ロシア側のTSKタヴリヤは、シンフェロポリを拠点に存続しており、クリミアリーグへの参戦を続けている。現在の順位表が以下のとおりである。

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 というわけで、名門タヴリヤ・シンフェロポリ、ウクライナとロシアに分裂した格好になっていることを、今般初めて知った。冒頭に掲げたエンブレム、上がウクライナ側、下がロシア側である。なんなら、サッカーの試合でどちらが本家のタヴリヤか決着をつけたらどうか(すぐそういう麻雀劇画のようなことを言う)。


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 先日、UEFAフットサル選手権がアムステルダムで開催され、2月5日の準決勝でウクライナとロシアが対戦した。UEFAでは2014年以来、サッカーの試合でロシアとウクライナが対決することを基本的に回避しており(代表レベルも、クラブレベルも)、予選リーグの組み合わせなどでは両者が同組にならないように配慮している。しかし、お互いに決勝トーナメントに勝ち上がったりすれば、どこかでぶつかる可能性もある。まあ、普通のサッカーではロシア・ウクライナとも最強豪というわけではないので、今まで対戦はなかったようなのだが、実はロシア・ウクライナともフットサルでは世界屈指の強国であり、ついに今回の欧州フットサル選手権の準決勝でぶつかることになったというわけである。

 結果から言えば、この試合にロシアは3:2で勝利し、決勝に進んだものの、ポルトガルに敗れ準優勝となった。ロシアに屈したウクライナは、3位決定戦でもスペインに敗れ、4位に終わった。

 ハイライト動画などで見る限り、ロシアとウクライナの準決勝は好ゲームで、両国の国家対立を反映して選手たちが乱闘を起すでもなく、試合そのものは好印象だった。

 試合の最大の山場は、残り1分10秒というところでロシアがペナ内でファウルを犯し、ウクライナにPKが与えられたものの、これをロシアのゴレイロ、D.プチロフが見事な反応でストップした場面だった。

 さて、試合そのものというよりも、コート外に視点を移すと、準決勝ではロシアのサポーターもそれなりにいたが、ウクライナのそれの方が数で大幅に優ったということである。会場がアムステルダムということで、ウクライナが西欧に多くの労働移民を送り出していることが関係しているのかもしれないし、また昨今の政治情勢ゆえウクライナ人の方が応援に力が入ったということかもしれない。ロシア代表にとっては実質アウェーの環境だったようだ。

 こちらのインタビュー記事の中で、ロシア側のA.ニヤゾフ選手がインタビューに答えており、「我々にとって敵の観客がこれだけたくさんいたことは、ロシアチームをかえってタフにしてくれた。我々は、絶対に勝たなければならないということを、より一層確信した」ということを述べている。

 こちらの記事によると、準決勝でウクライナ側のサポーターがロシア代表に対して政治的な内容で民族的憎悪を煽り、とりわけロシア市民の殺害を求めるような攻撃的な言葉を唱えたととして、ロシア・サッカー協会がUEFAに問題を提起し、UEFAが本件に関し事実確認を行うことになった。

 試合そのものがほぼ平穏に実施されたことを受け、こちらの記事によると、ロシアの元代表選手のA.モストヴォイは、「試合前は緊張もあったが、選手たちは立派だった。彼らに関して言えば、挑発などはなかった。もちろん、フットサルとフルサッカーは違うが、いずれにしても喜ばしい。フルサッカーでも近いうちに両国の対戦が見られると嬉しい」とコメントした。スポーツキャスターのD.グベルニエフも、「スポーツが前面に出たことが喜ばしい。こういう試合はどんどんやるべきで、フルサッカーでもスパルタク・モスクワとディナモ・キエフの対戦、代表同士の対戦があって然るべきだ」と述べている。

 一方、こちらの記事では、同じロシアのスポーツ関係者でも、D.エゴロフという記者は、今回の準決勝におけるウクライナ側サポーターの態度で裏付けられたように、両国のサッカーの対戦は世界にとって危険をもたらすだけであり、全面的に禁止すべきだと主張している。


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 FIFAワールドカップ・ロシア大会が終わり、後掲の書籍原稿を書き終えてからというもの、個人的に、ロシアのサッカー事情をフォローするモチベ(もっと言えば海外サッカー全般への関心)が著しく低下した。まあ、そうは言いながらも、ロシアの国内サッカー事情は、一応気にはなっている。

 そうした中、経済週刊誌『エクスペルト』2022年2月7-13日号(No.6)に、気になる話が出ていたので、以下要点を紹介したい。

 記事によると、今般ロシアのサッカーに、「ファンID」というものが導入された。昨年12月に法律が成立し、6月1日に施行されることになっている。その費用として、今年の国家予算には7.7億ルーブルが計上されている。今後、観客、記者、運営者など、あらゆる関係者は、試合に訪れる際に必ずファンIDを携行しなければならない。IDは国家行政ポータルサイトで取得できる。IDがなければチケットも購入できない。ID導入の目的は、スタジアムの安全確保であるとされている。

 ところが、この措置にロシアプレミアリーグのビッグクラブのサポーターグループが反発を示し、試合観戦のボイコットを表明した(ただし、現在ロシアプレミアリーグは冬季中断中で2月下旬再開予定)。彼らは、ファンIDにより個人情報が悪用されることを懸念している。また、IDの発行が拒否されたような場合に、その根拠が示されないなど、運用が恣意的なものになる見通しであることを問題視している。

 そこで、まずスパルタクのサポーターグループが観戦ボイコットを決め、しばらくしてからゼニト、ディナモ、ロコモティヴ、CSKAのサポーターも続き、現在その数は13クラブのサポーターグループに上っている。ロシアプレミアリーグ、ロシアカップ、欧州カップ戦の国内試合のスタジアム観戦を拒否するものである。面白いことに、政界からも、共産党リーダーのG.ジュガノフ氏のように、サポーターに同調する向きもある。

 ボイコットが現実のものとなれば、それでなくてもコロナで観客が激減しているロシアサッカーが、さらに寂しいものになる恐れが大きい。他方、政策担当者は、サポーターたちは遠からずスタジアムに戻ってくるだろうと楽観している。また、ロシアのサッカーで収益に占める入場料収入は決して大きくなく、スポンサーや国家財政が支えている部分の方が大きいので、サポーターがボイコットしても経営的にはそれほど痛手にならないという側面もある。


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 個人的に今般初めて知ったのだが、今ロシアのモスクワで、ビーチサッカーのワールドカップを開催しているそうである。そして、地元ロシア代表はもちろん、日本代表も出場しているということである。

 そして、この大会のこと自体、個人的には初耳だったのだが、さらにこちらの記事などが伝えるところによると、大会で事件が起きたということである。実はベラルーシ代表も出場しており、8月22日、ルジニキ・スタジアムで、スイスとの一戦が行われた。その際に、観客席でベラルーシ人2名がベラルーシの民族旗である白・赤・白の旗を掲出し、ロシアの警察に逮捕されたということだ。行政刑罰法典第20条第31項「スポーツ競技開催時の観客のルール違反」に問われたということらしい。


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 個人的にオリンピックはサッカー以外一切観ていないので事情に疎いが、ベラルーシ情勢に関連して、たとえばメダルを獲ったベラルーシ人選手が白赤白旗を掲げてみせるとか、何か事件が起きるかもしれないという関心は抱いていた。

 そうしたところ、陸上のK.チマノフスカヤ選手の問題が勃発し、国際的に注目を浴びている。安直に朝日の記事を引用させていただくと(この記事では名前がベラルーシ語読みになっているが)、

 東京五輪陸上の女子200メートル予選に出場を予定していたベラルーシのクリスツィナ・ツィマノウスカヤ選手が同日、コーチを批判したとしてチームを外され、帰国させられそうになったと報じた。羽田空港で帰国便への搭乗を拒否し、警察に保護されたという。
 ロイター通信によると、ツィマノウスカヤ選手はSNSで「(5日の)女子1600メートルリレー予選の参加に必要なドーピング検査を複数の選手が十分に行わなかったことで出場資格を得られず、自身がリレーメンバーに入れられた」とコーチ陣の不手際を批判した。すると1日、コーチ陣から荷物をまとめるよう指示され、空港に連れて行かれたという。ツィマノウスカヤ選手はロイター通信に「ベラルーシには帰らない」と話しているという。

 それに関連して、以下のようなツイートが目に留まり、呆れ果てた。ルカシェンコは、「彼女(チマノフスカヤ)はメダルを獲ったのか? 獲ってはいない。私は選手たちが東京に向かう前に、『メダルなしで帰国したら、逮捕する』と警告しておいた。私は約束は常に果たす男だ」と述べたということである。メダルを獲るも何も、出場できなかったということだと思うのだが…。

 とまあ、以上のようなことを書いたところ、知人からの指摘により、くだんの「パノラマ」というサイトは、日本の虚構新聞のような冗談サイトであることが判明した。サイトの下の方に、良く見ると、そういう説明がある。したがって、上で引用したルカシェンコ発言も、実際にそのように発言した事実はないということになる。サイトの素性も知らず、お騒がせしてしまい、申し訳ない。以後気を付けます。自分の失敗の記録として、このブログは残しておきます。


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 全ロシア世論調査センターのこちらのページに、7月16日にロシアで実施された東京五輪についての意識調査結果が出ている。ドーピング問題で国としての参加が認められなかったこともあってか、総じて関心度は低いようだ。

 まず、東京五輪が開催されることについての認識を尋ねたところ、良く知っている:28%、多少聞いたことがあるが良く知らない:49%、初耳である:22%、回答困難:1%だった。一般的にスポーツに対しては男性の関心度の方が高いものだが、上表に見るとおり、この調査でもそういう傾向になっている。また、年齢層が高いほど東京五輪の認知度が高く、若い世代にとってはオワコン化している現実が浮き彫りとなる。

 次に、テレビで東京五輪の中継を観るつもりがあるかどうかを尋ねたところ、多くの種目をじっくり観るつもり:15%、ロシア選手が活躍しそうな種目だけを観るつもり:10%、自分が興味のある種目だけを観るつもり:36%、観ない:38%、回答困難:1%という結果となった。

 五輪を観るつもりの回答者に、どんな種目かを尋ねたところ、陸上:33%、水泳:31%、体操:23%、サッカー:15%、バレーボール:14%、アーティスティックスイミング:9%、競歩・マラソン:9%、レスリング:9%などが上位に挙がった。


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 こちらのサイトに、来年に延期となったサッカーのユーロ2020の組み合わせと日程が出ていたので、シェアさせていただく。

 大会は、2021年6月11日から7月11日にかけて開催される。周知のとおり、今大会から、一国での集中開催ではなく、複数の国での分散開催になった。一時期、コロナ禍の影響でロシア一国での集中開催に変更か?といった噂が流れて、個人的には色めき立ったのだが、その話はなくなったようだ。ロシアではサンクトペテルブルグが開催都市になっている。

 さて、私の関係国で本大会に出場するのは、ロシアとウクライナだけである。アゼルバイジャンのバクーでも試合が開かれるが、アゼルバイジャン代表は出場しない。

 ロシアはB組に入り、ベルギー、デンマーク、フィンランドと同居。ロシアはベルギーと同じ組になることがやたらに多く、またかよと思ってしまう。一方、ウクライナはC組で、オランダ、オーストリア、北マケドニアと一緒だ。

 来年のユーロでは、ロシア、ウクライナとも、グループステージを勝ち上がって決勝トーナメントに進出できる可能性は、そこそこあると思う(グループ3位のチームもかなり救済されるし)。近年は、ウクライナ情勢に配慮して、ロシアとウクライナは国際Aマッチで対戦しないよう配慮されてきた。その配慮によるものかどうかは知らないが、来年のユーロでも、たぶん相当勝ち進まないと、ロシアとウクライナが対決することはないようだ。いつの日か普通の隣国同士になった両国がサッカーで戦うところを見てみたいものである。


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20201122a

 HP更新しました。マンスリーエッセイ「ロシアのサッカーを追いかけた10年間」です。

 このほど刊行された福田宏・後藤絵美(編)『グローバル関係学 第5巻 「みえない関係性」をみせる』(岩波書店、2020年)で、「サッカーを通じて見るロシアの国家と社会 ―2018年のワールドカップを契機として」という論考を発表しました。思えば、私が「ロシアとサッカー」というテーマを追い始めたのは、ちょうど10年前のことでした。FIFAが2010年12月2日、2018年のFIFAワールドカップ(W杯)をロシアで開催することを決定したことを受けたものでした。今回のエッセイでは、10年目の節目にこのテーマを集大成する論考を発表できた感慨を綴っております。


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 ベラルーシ情勢が混沌とする中でも、ベラルーシ・サッカーの国内リーグ戦は通常どおり開催されている。上の動画に見るように、首都ミンスク市でも然りのようだ。

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 そうした中、9月12日に、ベラルーシのサッカー選手93人が、当局により国民に暴力が振るわれていることを非難し、直ちに停止することを訴える動画を発表した。ベラルーシ国内リーグ、外国リーグでプレーするベラルーシ人プレーヤーたちであり、代表選手も含まれている。彼らは次のように訴えている。

 私たちはもっぱら、良心、我が国で起きていることすべてに耐えられないという思いから、行動している。私たちは、犠牲になった人々の肉親にお悔やみを申し上げ、被害を受け、屈辱を受け、酷く殴打され、障害を負うこととなった人々すべてへの支援を申し上げる。そして、暴力を停止するよう、訴える。私たちは、そして全国民は、憲法に明記された権利と自由を持つ。何人も、拷問、残酷、非人道的、または品位を傷つけるような扱いや罰を受けてはならない。人権に勝る権利はない。私たちは真実、正義、自由を支持する。私たちは暴力に反対する。


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 HP更新しました。マンスリーエッセイ「橋本拳人が急いでロシアに渡ったわけ」です。よかったらご笑覧ください。


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 こちらの記事によれば、サッカーのロシア・プレミアリーグでは、7月5日の第26節でゼニト・サンクトペテルブルグがクラスノダルに勝利し、2019/20シーズンの優勝を決めた。ゼニトのプレミア優勝は、2007年、2010年、2011/12年、2014/15年、2018/19年に次ぐものであり、ソ連時代の1984年にもソ連チャンピオンになっている。

 久し振りにロシアリーグの順位表を見たが、まだ6試合も残した中での優勝決定か。今シーズンは、スペインを除いて、欧州主要リーグで首位のチームが独走し、早々と優勝を決めてしまうところが多いが、ロシアもそのトレンドに乗ってみましたといったところか。順位表を見ると、全般にモスクワ勢が奮わないシーズンだったと言えそうだ。

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 個人的には、ロシアを中心とした国際的なアイスホッケーリーグ「KHL」には注目し期待しているのだが、どうも聞こえてくるのは(直近のコロナ危機を別としても)景気の悪い話が多い。こちらの記事が、ベラルーシのディナモ・ミンスクの経営難につき伝えている。

 記事によると、これまでディナモ・ミンスクではカリ肥料の独占企業「ベラルーシカリ」がスポンサーを務めてきたが、契約が2019年で終了し、新たな契約は結ばれていない。その結果、選手への給与未払いが発生し、一部のプレーヤーはすでにチームを去った。ディナモは、このほど終了した2019/20シーズンでは、全チームの中で最低の成績を収めた。こうしたことから、ディナモ・ミンスクがKHLを脱退するのではないかとの噂がささやかれていた。しかし、ディナモ・ミンスクのD.バスコフ社長は、脱退は検討しておらず、来シーズンもKHLに参戦するために必要な書類を揃えリーグに提出した旨を明らかにした。給与の未払いも近く解消するとしている。


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 今般、調べものをしていて知ったのだが、ハンドボールの世界では、東欧諸国が参加する国際的なリーグ、「バルトリーグ」というものが存在する由である。年によって変動があるようだが、最新の2019/2020シーズンには、バルト3国のエストニア・ラトビア・リトアニア勢を中心に、フィンランド、ベラルーシ(SKAミンスク)、ウクライナ(ザポリージャ)のチームも参加している。ウクライナ南部のザポリージャも加わっているなら、バルト・黒海リーグにした方がいいような気がしないでもないが。個人的に、こういう国をまたいだリーグ戦というものに興味を持っているので、バルトハンドボールリーグの存在を知り認識を新たにした次第である。

 バルトハンドボールリーグは秋から春にかけて行われるシーズンのようで、本来であればこの時期が佳境である。しかし、こちらに見るとおり、リーグの本部では4月6日、新型コロナウイルスの国際的な感染拡大にかんがみ、今シーズンを終了させることを決定した。現在の順位表にもとづいて最終順位を決定することはせず、今季については戦績を残さないということである。

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 この週末に開幕したベラルーシのサッカーリーグは、今日の世界ではきわめて稀なことに、観客を入れて普通に開催されている。個人的にFBやツイッターで、「皆でベラルーシリーグを観よう!」と呼び掛けたりしたのだが、どうやって観たらいいのかというごもっともな声を想定し、上に開幕節の一つであるシャフチョール・ソリゴルスクVSトルペドBelAZのダイジェスト動画を貼っておく。なるほど、客入りの悪さは気になるが、確かに普通に観客を入れている。こうやって見ると、ベラルーシのサッカーリーグというのも、それなりにヨーロッパのプロのサッカーリーグらしくなってきたという気がする。それと、この対戦は、ベラルーシカリとBelAZという、ベラルーシを代表する国営大企業同士のダービーマッチという萌えポイントもある。世界屈指のカリ塩鉱脈と、世界最大のダンプカーの対決だ。

 さて、このサッカーの話でも象徴的なように、西欧も、旧ソ連圏も、どちらも厳戒態勢になる中で、その狭間に位置するベラルーシが、なぜ一人だけのんびり構えているのかというのは、なかなか不思議である。ちなみに、ベラルーシは何もしていないのに、周りの国がすべて国境を封鎖してしまったものだから、結果的にベラルーシも周辺国との往来が閉ざされた格好になっている。

 いみじくも、こちらの記事が、ルカシェンコ大統領の思考と行動について論じている。かいつまんで言うと、次のようなことだという。ルカシェンコにとってみれば、国のトップは国家そのもので、秩序こそ肝要であり、国家指導者がパニックを見せるなどもってのほか。ルカシェンコは自らが作り上げてきた安定神話の囚人となっており、長年にわたりベラルーシは世界の荒波の中の安定の孤島であるとしてきた。リーマンショックの時でさえ、ベラルーシには危機はないとうそぶいた。現在もそれを繰り返し、「世界はコロナウイルスのせいで正気を失っている」と称しているのである。また、ルカシェンコはソ連崩壊、カラー革命、リーマンショックなど、すべて誰かの陰謀のせいにする。鳥インフルエンザの時には、製薬会社の陰謀だと指摘した。しかし、こうした姿勢をとり続けることは、ルカシェンコにとってリスキーでもある。もしもベラルーシ国内でコロナウイルスの犠牲者が急増するようなことがあったら、自分が非難されるからである。一方、ロシアが国境を封鎖したことについてルカシェンコが憤慨したのは、それにより「連合国家」などというものが存在しないことが白日の下にさらされてしまったからである。ベラルーシは長年にわたりロシアの特別な同盟国を自任してきたわけだが、ロシアはカザフスタンやアゼルバイジャンとの国境は封鎖していないのに、ベラルーシとの国境は閉じてしまった。かつて対ロシア国境開放に立ち会ったことを拠り所にしているルカシェンコにとって、「国境封鎖」という言葉は屈辱的である。しかも、事前通告なしに。むろん、経済的損失も生じる。ルカシェンコは、周囲で生じている変化に適時に対応することができず、残された唯一可能なことは憤慨することだけだったのだ。


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 もはやコロナ感染の主戦場はヨーロッパへと移り、欧州蹴球界も無観客へ、そして試合の開催自体を延期・中止へと、急激に舵を切っている。「ところで、ロシア・プレミアリーグはどうなってるのかな?」と思ってチェックしてみたところ、この週末も元気に開催しているようである。上に見るのは、昨日のアフマト・グロズヌィVSディナモ・モスクワ戦の模様。

 ご覧のとおり、バッチリ観客を入れて開催している。惜しむらくは、スタジアムも素晴らしいところなのに、集客がせいぜい数千程度と見られることか。目下最下位のアフマトは、残留争い佳境なのにな。

 いずれにしても、世界の主要リーグで、ロシアのようにいまだに普通に試合をしているところは、もはや稀だ。ロシア・プレミアリーグとしては、退屈で死にそうな世界のサッカーファンに向けて、アピールするチャンスなのではないか。

 それから、最近ロシアのサッカー事情を良くフォローしてなかったので、ロシア・プレミアリーグでもVARが導入されているということを、この動画で初めて知った。

 3月15日追記:残念ながら、その後の情報によると、本日15日のソチVSクラスノダル戦は、クラスノダル地方行政府の方針にもとづき、無観客で開催されることが決まったそうである。さらに、3月17日にロシア・プレミアリーグの総会が開かれ、その場でリーグ戦の中断が決定される可能性があるということである。


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 先日伝えられたこちらの記事によると、スポーツ動画配信サービスのDAZNは近く世界の200程度の国(!)で新たにサービスインする予定であり、ロシアでも今年5月末までに利用できるようになるという。ただし、新たな進出国では当面、英語によるボクシング放送だけが視聴可能となる。今回決まったロシア進出はあくまでも最低限のローンチであり、本格的なロシア進出と言えるようになるには、現地のニーズを踏まえたより広範なコンテンツが必要で、またロシア語の実況を付けることも不可欠である。

 なお、記事によると、ロシアでスポーツ番組のネット配信を手掛けている既存の業者には、ヤンデックス(2019年9月にコンチネンタルホッケーリーグの3年間の放映権を獲得)、Okko(2019年4月にイングランドプレミアリーグの3年間の放映権を獲得)、Ivi(2019年10月にロシアプレミアリーグ、CL、ELの放映権をガスプロムメディアから買収)、Megogo(イタリア、スペインのサッカーリーグを中継)がある。

 ところで、個人的にはこの記事を読んで初めて知ったのだが、DAZNを保有しているのは、旧ソ連に非常に馴染みのあるレオナルド・ブラヴァトニク氏のアクセス・インダストリーズ社であるということである。同氏および同社については、以前当ブログでも、「ロシア系ファンドがワーナー・ミュージックを保有?」というエントリーで言及したことがあった。してみると、今回のDAZNによるロシア進出は、ブラヴァトニク氏の旧ソ連里帰り投資のようなものとも言えようか。

 個人的な関心事は、ロシアでDAZNがサービスインしたあかつきに、たとえばロシアに出張に出かけて、彼の地で私が日本のJリーグを見られるのか、という点に尽きる。あるいは、日本に居ながらにして、ロシアのサッカー・プレミアリーグやコンチネンタルホッケーリーグが観られるようになれば、それも歓迎だ。しかし、おそらくそうはならないだろう。想像するに、ロシアのDAZNを観るためには、日本とは別に、ロシアでもユーザー登録し料金を払わなければいけないのではないか。そして、ロシア国内でどんな番組を観られるかは、ロシアDAZNのマーケティング次第であろう。ロシアDAZNのコンテンツとして、将来的に日本のJリーグが加わる可能性もなくはないだろうが、仮にそうなっても、全試合になるか、ライブでやってくれるかなど疑問は尽きない。

 まあ、VPNだな、結論として。


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 サッカーのナショナルチームには、「サムライブルー」のように、ニックネームがついていることが多い。今まであまり考えたことがなかったが、ロシア代表にはどんなニックネームがあるのか? ちょっと調べたところ、結論から言えば、今のところこれといったニックネームはないらしい(アイスホッケーならКрасная Машина (The Red Machine)という立派なのがあるのだが)。

 こちらのサイトでは、「ロシア代表にニックネームをつけるとしたら、どんなものがいいと思いますか?」というネット投票の結果が示されている。その結果、最多は「メドヴェージ(熊たち)」の37.1%、2位は「ザビヴァキ」(ザビヴァカは2018年のW杯でマスコットになったハイイロオオカミ)の34.2%と続いた。


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 ロシアの「全ロシア世論調査センター」が、ロシア国民のサッカーへの関心度を継続的に調査しており、その結果については当ブログでも過去に取り上げたことがあったと思う。2020年にユーロ(ヨーロッパ選手権)が控えているということで、同センターでは2019年12月に定番のサッカー意識調査を行った。その調査結果が、こちらのページに出ている。

 今回の設問はユーロに関するものが多いのだが、ここでは一般的なサッカー関心度のデータを過去に遡って時系列的に見てみよう。いつも申し上げることだが、ロシア国民のサッカー熱は決して高いものではなく、しかも趨勢的に低下している。上のグラフで、2019年6月には関心度が高まっており、これは2018年のワールドカップが大会としてもロシア代表としても成功したことから、サッカーについてのポジティブな意識が国民の間で若干高まったことを示していよう。しかし、その効果は長続きしなかったのか、最新の2019年12月の調査では、関心度がほぼW杯前の水準に戻ってしまっている。

 今後のこのデータの動向、2020年ユーロにおけるロシアの戦いぶり、そしてそれがロシア国民のサッカー意識に及ぼす影響を、引き続き注視したい。


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 ちょっとこの週末にロシアのサッカーのことを調べた関係で、昨日に引き続き、サッカーの話題である。

 サッカー・ワールドカップのロシア大会で、サランスクという開催都市があったのを、憶えておられる方も多いだろう。というか、日本の初戦が行われたところだったので、実際に行ったという方もおられるかもしれない。そのサランスクに建てられたモルドヴィア・アレーナが、大変なことになっていると、今般遅れ馳せながら知った。

 モルドヴィア・アレーナは、W杯終了後は、地元のFCモルドヴィアが本拠地として使用するはずだった。実際、FCモルドヴィアはW杯後の2018/19シーズンには、モルドヴィア・アレーナでホームゲームを戦った。しかし、スタジアムのキャパシティが44,400人であるところ、2018/19シーズンの1試合当たり観客数は10,300人に留まった。新スタジアムの使用料金が高く、それでいて集客は伸びなかったことから、クラブからスタジアムへの未払いが生じ、債務は4,040万ルーブルまで膨らんだ。2019/20シーズンに入ると、FCモルドヴィアはモルドヴィア・アレーナの使用を取り止め、元々あった古い「スタルト・スタジアム」で試合を行うようになった。最近では、FCモルドヴィアの観客数は1,000人を割り込むことが多く、そもそもが二部暮らしということもあって、スタルト・スタジアムくらいが逆に丁度良いのである。

 それでは、モルドヴィア・アレーナがまったく活用されていないかというと、実はそういうわけでもない。2019/20シーズンには、別の街のクラブであるFCタンボフが、モルドヴィア・アレーナでホームゲームを開催しているからである。FCタンボフには地元にスパルタク・スタジアムというホームグラウンドがあるのだが、ここは二部およびプレミアの開催条件は満たしておらず、2017年から2020年にかけて改修工事が実施されている。その間、FCタンボフは比較的近場の街でホームゲームを戦う流浪生活を余儀なくされ、プレミア初挑戦となっている2019/20シーズンには、モルドヴィア・アレーナを会場にしているというわけである。しかし、「近場」とは言っても、上掲の地図に見るように、タンボフからサランスクは道路では400km以上あり、5時間以上を要する(鉄道だとさらに不便になる)。

 まあ、FCタンボフの家なき子問題は、地元スタジアムの改修が完了すれば、解決するのだろう。問題は、その後のモルドヴィア・アレーナの活用だ。モルドヴィア・アレーナをはじめ、W杯に向けて建設された地方のスタジアムは、当初は連邦の所有だったが、地域の所有に移されることが当初から決まっていた。そして、モルドヴィア・アレーナも、2020年1月1日からモルドヴィア共和国の所有に移管された。これは、今後はモルドヴィア共和国当局が自ら、スタジアムを経営して、その維持費を捻出しなければならないことを意味する。


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 ロシア内陸部の街ペルミについてコラムを書こうとしていて、情報を収集してみたところ、驚いたことがある。なんと、同市を拠点とするサッカークラブ「アムカル・ペルミ」が、私の知らないうちに消滅していたのである。ロシアのサッカー事情に関心を持つ人間として、気付くのが遅すぎたが、当該の決定が下されたのは、ロシア・ワールドカップの最中だったとのことなので、あの大フィーバーの中で、アムカル消滅というローカルニュースが埋没してしまった形であろう。

 ことの次第は、こういったことだったらしい。アムカル・ペルミはプレミアリーグ参戦を続ける中堅クラブだったが、2010年代の半ばに経営が悪化し、債務が膨らんだ。2015/2016シーズン開幕を前にして、選手が大量流出したりもした。2017/2018シーズンでプレミア13位となったアムカルは、2部のタンボフとの入れ替え戦に回ったが、それに勝利し、成績上は残留を勝ち取った。しかし、2018年6月13日にロシアサッカー協会の会合が開催され、アムカルが膨大な期限超過債務を抱え、今後の支出に関する保証も行わないことを理由に、2018/2019シーズンにプレミアに参戦する権利を剥奪した。クラブのG.シロフ社長は2部での戦いを拒否し、6月18日にクラブ解散の方針を宣言した。7月10日には経営陣と設立発起人の合同会合で、解散が正式に決定された。11月6日にはシロフ旧社長の訴えをペルミ地方の商事裁判所が受け入れ、クラブの破産が認定された。こうして、アムカルはプロクラブチームとしては消滅し、現在はアムカルという名前のジュニアチームだけが存在している状態となっている。なお、2011年からアムカルの社長を務め、今回のクラブ解散を一方的に決めてしまったG.シロフという人物は、地元化学工業界の名士であり、ウラルヒム傘下の「無機肥料」社の社長、シブール社の現地代表、連邦上院議員などを歴任した。

 以上のような顛末だったということらしい。これは、我が国の横浜フリューゲルスの消滅と同じで、サポーター(アムカルの場合、どれくらい存在するのかというところが微妙ではあるが)の思いなどは一切無視し、幹部が財務問題を理由に2部参戦すらも拒否して、完全にチームをなくしてしまうという極端な決定を一握りの内輪だけで決めてしまったというパターンである。


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 こちらに、サッカーの国際移籍市場の動向と、そこにおいてロシアが占めるポジションに関する記事が出ている。以下、記事の要点を整理しておく。

 ロシアのサッカーが選手獲得に費やす費用は、2010年代の初頭に急増した。2012/13シーズンに、ロシア・プレミアリーグは選手獲得に3.3億ユーロを投じ、ドイツ、スペイン、フランスのリーグを抜いた。2013/14シーズンも3.2億ユーロだった。かくして、ゼニトではフッキとヴィツェルが、アンジではエトーとロベカルがプレーするリーグとなり、外国からロシア・リーグへの関心も高まった。

 しかし、その後、ウクライナ危機、経済危機が起こり、スターたちはロシアを去り、新規の選手獲得は最小限となった。それが、2019年になってロシア・プレミアリーグの選手獲得は再び活気付き、2.4億ドルが投じられた。しかし、専門家たちは、サッカーは経済の一部であり、経済危機の影響が消え去ったなどということはありえないという。実際、現時点で巨額を投じているのは上位の一部のクラブだけである。もしもサッカー界全体が活気付いているなら、プレミア下位のクラブも資金を投じるはずだが、そうはなっていない。スパルタク、クラスノダル、ディナモ、ゼニトの4クラブだけで、移籍金総額の4分の3を占めている。

 なお、ロシア・プレミアリーグ所属クラブの選手の市場価値は、以下のとおりとなっている(額は100万ユーロ)。

  1. ゼニト・サンクトペテルブルグ:201.4
  2. クラスノダル:148.5
  3. CSKAモスクワ:135.2
  4. ロコモティヴ・モスクワ:133.1
  5. スパルタク・モスクワ:93.4
  6. ディナモ・モスクワ:69.5
  7. ルビン・カザン:41.1
  8. アフマト・グロズヌィ:40.3
  9. ロストフ:33.9
  10. アルセナル・トゥーラ:33.5
  11. ソチ:28.9
  12. ウラル・エカテリンブルグ:25.2
  13. オレンブルグ:21.5
  14. ウファ:21.0
  15. クルィリヤ・ソヴェトフ・サマラ:18.9
  16. タンボフ:12.2

 この夏の移籍市場で最も目立ったのは、3年振りにUEFAチャンピオンズリーグに出場し、資金もガスプロムの支援で潤沢なゼニトだった。ゼニトは過去数年の不景気の時期も例外的に積極的な補強を行ってはきたが。ゼニトは、オレンブルグのリーダーだったA.ストルミンを獲得した。最初はストルミンはルビンに移籍すると言われていたが、オレンブルグのスポンサーはガスプロムの子会社であり、天の声が振ってきて、移籍先がゼニトに変わったという。ゼニトはさらに、ロコモティヴのミランチューク兄弟に4,500万ユーロでオファーを出したが、ロコ側が引き留めに成功した。

 その一方でゼニトは、余剰人員をFCソチに売却することに成功した。FCソチのような新興クラブが1,200万ユーロを出したのは異例だが、ソチのスポンサーもまたガスプロムの子会社だというのがミソである。

 この夏の市場で、最大の移籍は、ゼニトが4,000万ユーロでマルコムを獲得したことであった。この額はかつてゼニトがフッキやヴィツェルを獲得した額と同じであり、だからこそ「ロシアのサッカーは危機を乗り越えた」という言説も語られた。しかし、この間、西欧のマーケットはさらに拡大を遂げた。フッキやヴィツェルはクラブでも代表でもリーダーの本物だったが、マルコムはバルセロナの控えにすぎず、まだ目立った活躍はしていない。西欧のビッグクラブは様々な分野のスポンサーを獲得し、新規市場開拓にも余念がないが、ロシアは相も変わらず国営企業、国家財政だけが頼りである。唯一、西欧のクラブと平等な収入源は欧州カップ戦だが、そこで勝てなくなっているという問題がある。

 ある有識者は、次のように指摘する。マルコムの4,000万ユーロは現在の市場では適正だが、問題は今日のロシアで30億ルーブルもの資金を1人のサッカー選手に費やすのが適切かということだ。ガスプロムの支配株は国家に属しており、これは実質的にゼニトの資金の一部は血税ということである。国民の所得水準が低下している中で、こうした支出は社会に対する不道徳ではないのだろうか。

 


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