ロシア・ウクライナ・ベラルーシ探訪 服部倫卓ブログ

ロシア・ウクライナ・ベラルーシを中心とした旧ソ連諸国の経済・政治情報をお届け

カテゴリ: ウクライナ

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 こちらの記事が、2022年のウクライナの天然ガス輸入状況を伝えているので、主な内容を整理しておく。

 記事によると、2022年にウクライナは欧州から15.4億立米のガスを輸入した。これはウクライナ独立後最低の数字であり、前年の25.6億立米から40%も低下した。

 これは戦争によりガス消費が月により30~50%も落ち込んだことによるものである。国内のガス生産と備蓄により、必要量が完全に賄われ、輸入が必要なくなった。また、ほぼ年間を通じて、欧州のガス価格はウクライナのそれよりもはるかに高く、このことからも輸入が不利になった。

 輸入されたガスのうち、8.6億立米が貯蔵施設に送られ、6.8億立米がパイプラインシステムに送られた。

 上図に見るとおり、2022年には、最大の輸入相手国はスロバキアとなり、前年首位だったハンガリーからの輸入量は大きく落ち込んだ。

 下図に見るとおり、2022年には輸入が高まった時期が、第1四半期と、10~11月という、2度あった。年初には、ウクライナの価格が欧州のそれより高かったので、輸入玉が国内生産と競争できた。10~11月に輸入が増えたのは、欧州のスポット価格が急落し、輸入が有利になったことと関係していた。

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 我がスラブ・ユーラシア研究センターでは、2月21~22日に、「ウクライナとロシアの生存戦略:開戦から1年を迎えて」と題するシンポジウムを開催する運びとなりました。基本的に全編英語のセッションとはなりますが、どなたも無料でリモート視聴が可能ですので、ぜひお申込みください。

 服部は、2月22日(水)9:30–11:30の経済セッションの中で、「Analyzing Russia’s Foreign Trade Performance with No Russian Official Statistics Available(公式統計が得られない中でロシアの貿易動向を分析する)」と題する報告を行います。


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 ドイツのWELT紙が、興味深い調査報道を行ったということである。元の記事はこちらだが、有料だし当方はドイツ語が読めないので、英語で内容を要約しているこちらの記事や、ロシア語のこちらの記事を利用することにする。

 ちなみに、当ブログでは以前、「ウクライナ軍はどうやって燃料を調達しているのか?」という疑問を呈したことがあったが、今回の記事でその謎がだいぶ解けた気がする。

 WELTの報道によると、ブルガリア政府の表向きの姿勢に反して、同国は早くも昨年春の段階で、ウクライナに大量の弾薬およびディーゼル燃料を供給していた。時期によっては、ウクライナ軍の弾薬ニーズの3分の1程度をカバーした。それのみならず、ウクライナ軍の戦車・車両が使うディーゼル燃料の40%近くを秘密裏に輸出していた。それは4~8月のきわめて重要な時期に当たった。

 ブルガリアはハンガリーと並んで、表向きは、EUの中では例外的にウクライナに武器・弾薬を提供していない国だった。4月末に当時のペトコフ首相がキーウを訪問したあと、武器の修理を申し出ただけで、ウクライナへの武器供与には反対するのが同国の公式的立場だった。ところが、実際には死活的な時期に、ペトコフ首相とヴァシレフ蔵相が直接かかわる形で、弾薬・燃料提供のオペレーションを手掛けていたことになる。

 ここで注目されるのは、その時点でブルガリアの石油精製は、全面的にロシア産原油を用いて行われていたことであり、しかもその時点でロシア・ルクオイル社の所有だったブルガス石油化学コンビナートがそれを担っていた。

 ブルガリアが急ピッチで生産した弾薬は、関与を非難されるのを避けるため、直接ではなく、英米が輸送費を支出する形で輸送された。ある時期の例を挙げると、弾薬を積んだ航空機が対ウクライナ国境に近いポーランドのジェシュフ空港に降り立った。

 ブルガリアからの物資供給に関しては、ウクライナのD.クレバ外相が事実を認め、ブルガリアのペトコフ、ヴァシレフも否定していない。


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 ウクライナのゼレンスキー政権で異彩を放っていたO.アレストヴィチ大統領オフィス長官顧問が辞任したということである。以前私が書いた「ロシアの侵略に立ち向かうチーム・ゼレンスキー」というレポートの中で同氏に触れた箇所を再録しておく。

 O.アレストヴィチ顧問は、軍事情勢の分析で一目置かれている存在である。開戦後は毎日、戦況に関する会見を行っている。しかし、もともとがP.ポロシェンコ前政権でも働いた外様だ。ゼレンスキー政権入りするも、2022年1月にいったん袂を分かち、戦時下で再び政権に戻った経緯がある。それだけに、ゼレンスキー・チームとしては腫れ物に触るようなところがある。


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 こちらの記事などが、2022年のウクライナによるロシア産天然ガスの欧州向けトランジット輸送実績について伝えている。

 記事によると、ウクライナによるトランジット輸送は、2021年の416億立米から、2022年の203.5億立米へと、ほぼ半減した。ロシアは2020~2024年の輸送契約で、年間400億立米の輸送を契約していたが、2022年にはその半分ほどしか利用しなかった。同契約には、テイクorペイ条項が含まれており、これはロシアが利用の有無にかかわらず400億立米分の輸送料を全額支払う義務があることを意味する。

 というわけで、ウクライナ側はこのような立場をとっているわけだが、以前当ブログの「天然ガス輸出路の選択肢が狭まるロシア」でお伝えしたとおり、ロシアからウクライナ領に流入する2つのルートのうち、ウクライナ側が開戦後にルハンシク州経由のルートを閉鎖したという経緯があった。これによってもウクライナのトランジット量が低下したことは疑いなく、その場合にテイクorペイ条項が適用されるのかは微妙という気もする。


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 ウクライナ穀物協会のフェイスブックページに掲載された上掲画像を、興味深いと感じた。2022年7月から12月までのウクライナの穀物・植物油輸出量である。穀物年度は7月始まり/6月終わりなので、2022/23年度の上期の状況を示していることになる。

 図では、青が国連・トルコの仲介により実現した「穀物回廊」を通じた輸出で、緑がそれ以外のルートでの輸出を示している。それ以外とは、具体的には、陸路で欧州近隣国に運ぶパターンと、河川港で積み出しドナウ川を下って黒海に出るパターンであろう。

 ご覧のとおり、8月以降、穀物回廊と、それ以外が、ほぼ半々といった感じで推移している。穀物回廊ばかりが注目されていたが、それ以外のルート活用も続いていたか。これは個人的に少々意外だった。


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 今般、一般財団法人国際経済連携推進センター(CFIEC)編『ウクライナ侵攻と世界 ―岐路に立つ国際秩序』(2023年、産經新聞出版)が刊行され、その中に拙稿「2度のウクライナ危機におけるEUとNATOの要因」が載録されていますので、ご案内申し上げます。以前同センターのウェブ上で発表した論考を、加筆・修正して仕上げたものです。他にも錚々たる識者による興味深い論考が掲載されていますので、機会があればぜひお手に取ってみてください。


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 こちらのページに見るように、ロシアによる軍事侵攻開始以来、ウクライナが被ってきた物的損害に関し、集計する試みが続けられている。ウクライナ大統領オフィス、経済省、インフラ省が、キーウ経済スクールと共同で取り組んでいる作業であり、英政府の資金援助、米政府のサポートも得ている。

 今般、11月現在の最新状況が発表された。前回の発表が9月現在のデータだったから、2ヵ月に一度発表するということなのだろうか? 今回の発表によれば、11月現在の物的損害額は、判明している分だけで1,359億ドルに上っている。

 以前は見た記憶がないが、今回の発表では、上掲地図に見るように、地域別の被害件数・損害額というデータも出ている。金額では、ハルキウ州の158億ドルが最も大きい。ただし、ロシアによる占領が続いているエリアについては実際にはさらに被害が大きい可能性が高いとされており、ドネツク、ルハンシク、ヘルソン、ザポリージャ各州の数字は仮のものということだろう。


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 ロシアによるウクライナ電力インフラ破壊で、オデーサ州も大きな被害を受けたと言われている。オデーサ州と言えば、例の国連の仲介で実現した穀物輸出プロジェクトの積出港3箇所があるわけだが、インフラ破壊で港のオペレーションに打撃が及んでいないか気になったので、情報を探ってみた。

 12日付のこちらの記事によると、10日の大規模な攻撃の結果、この時点でオデーサ港はまだ操業を再開できていなかった。ピウデンヌィ港とチョルノモルシク港は再開にこぎ着けた。

 14日付のこちらの記事によると、12月5日から11日にかけての1週間で、オデーサ州の3港から65.7万tの農産物が積み出されたが、これは前の週に比べて22%減であった。積込を行った船は19隻で、前の週より4隻少なかった。12月5~11日の輸送が低下したのは、例によってボスポラス海峡でロシアが検査を遅らせていることに加え、電力インフラの攻撃への影響も生じた。なお、穀物回廊が開かれてから、8月1日~12月11日の累計での輸出量は、1,370万tとなっている。


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 ウクライナは、ロシア軍により製鉄所を占領・破壊されたり、製品輸出の窓口である港を封鎖されたりして、鉄鋼業は壊滅状態のはずである。ただ、もしかしたら、それによって鉄鉱石が余り、鉄鉱石の輸出は堅調だったりするかもしれない。今のところ鉄鉱石産地はロシアに占領されていないし、穀物と違って陸路でEUに輸出されるパターンもあるからだ。そう思って、情報を探ってみたところ、こちらの記事に見るように、実は鉄鉱石の輸出も激減しているということである。

 記事によると、2022年10月のウクライナの鉄鉱石輸出は、107万tだった。前年同月に比べると、数量ベースで70.9%、金額ベースで72.4%、縮小している。

 ロシアによる侵攻前までは、海路による中国向け輸出が、最大の販路だった。しかし、侵攻後に中国向けが運べなくなったことから、1~10月累計では、スロバキアが19.2%、ポーランドが16.7%、チェコが16.2%と、近隣のEU諸国が主要市場となった。

 増大する貨物に、ウクライナ鉄道も、国境通過ポイントも、処理し切れなくなっている。新たな輸送路を使おうとすると、輸送費は2倍にも高まる。その結果、鉄鉱石の価格は下落し、ウクライナの鉄鉱石鉱山は全面操業停止か生産の縮小を余儀なくされている。

 こうしたことから業界ではゼレンスキー大統領に、鉄鋼・鉄鉱石輸出のために港湾封鎖の解除を実現するよう求めている。業界の声明では、輸出の再開により、少なくとも毎月6億ドルの輸出収入が挙がり、少なくとも月50億グリブナの税収がもたらされるとされている。


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 最近私がかかわった刊行物のご案内。

 このほど発行された『現代用語の基礎知識 2023』の巻頭企画として、ロシア・ウクライナ情勢が取り上げられており、その中で私が「対ロ経済制裁とロシア経済の今後」という小文を書いています。小泉悠さんの「地政学的大変動の時代を迎えるユーラシア」、廣瀬陽子さんの「旧ソ連の未承認国家とこれからの世界」もあるので、ファンの方は要チェック。なお、現代用語は創刊75周年とのこと。

 もうひとつ、ユーラシア研究所から出ている『ロシア・ユーラシアの社会』2022年9-10月号に、私の「ウクライナとベラルーシ ―運命を異にした兄弟国」というテキストが出ています。これは、昨年の12月にやったシンポジウム「ソ連解体後の30年」での講演内容をまとめたもので、ゆえにその後のロシアのウクライナ侵攻には触れていませんが、ウクライナ・ベラルーシを比較検討したものとしてそれなりに意味はあると思うので、ご関心の向きはぜひ。


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 こちらなどが伝えているとおり、ウクライナ政府は11月6日、一連の戦略重要企業を戦時に限り一時的に国防省の傘下に置くことを決めた。以下で企業ごとに見ていくことにしよう。

 まず、モトルシチ社。ザポリージャに所在するエンジン工場であり、かつてロシア製ヘリコプターも全面的に同社のエンジンを搭載していたことで知られる。2014年以降はロシアへの供給は停止されていたはずだったのだが、第三国を経由してロシアへの供給が続いていたことが先日発覚し、社長のV.ボフスラエフ氏が国家反逆罪のかどで逮捕されるという衝撃の出来事があった。あろうことか2月24日以降もロシアとの協力は続いていた由であり、ロシアではなくウクライナ軍と協力させるために、今回の措置は妥当だろう。

 次に、ザポリジトランスフォルマトル社。やはりザポリージャに所在し、上掲画像のとおり、変電所等の電力設備を生産している。ロシアの攻撃で電力インフラが破壊されているところなので、その関係で国防省管理ということになったのだろう。

 自動車メーカーのアフトクルアズ社。ポルタヴァ州クレメンチュークに所在する軍用車等の大型自動車のメーカー。確か、以前クレメンチュークのショッピングセンターが空爆された際に、同工場の誤爆ではないかと、話題になったことがあったように思う。

 ウクルナフタ社は、国営ナフトガス社の傘下にあるが、I.コロモイスキーのプリヴァト財閥も一部出資している石油・ガス採掘、加工、石油製品販売の会社である。国防省の管理下に置くのは、軍が使うガソリン、軽油などを確保する目的か。

 最後に、ウクルタトナフタは、要するにクレメンチューク製油所のことである。最近までウクライナで唯一稼働している製油所だったが、今般の戦争で4月にロシアから爆撃を受け、以降は生産は行われていないはずである。


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 今の状況でどこまで意味があるかは微妙という気もするが、ウクライナ政府が2022年、2023年の経済見通しを修正したという情報がこちらに出ていたので、チェックしておくことにする。

 記事によると、2023年国家予算の第2読会審議に向け、経済パラメーターが見直され、ロシアによるエネルギーインフラの破壊が考慮に入れられた。ただ現在のところウクライナ経済省は、インフラ破壊がGDPに及ぼす影響は限定的で一時的であると見ている。10月10~11日の攻撃後、電力の生産も消費もすぐに回復し、また経済がエネルギー多消費型から他のセクターへのシフトを見せているからという。

 8月31日の経済省の予測では、2022年の実質GDP成長率がマイナス33.2%とされていた。それが、今回の10月29日の予測では、マイナス32.0%へと、わずかながら上方修正されている。

 その一方で、2023年については、前回の4.6%の予測が、今回は3.2%へと下方修正された。安全保障上の高いリスクが続き、重要インフラへの攻撃が継続される恐れを考慮したものという。


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 ウクライナ・ウニアン通信のこちらの記事によると、ロシアがウクライナの占領地から穀物を収奪し売りさばいているスキームに関し、FTが報じたということである。ただ、FTの記事は有料で個人的に読めないので、ウニアン記事にもとづき以下骨子を整理する。

 ロシアは、ウクライナの占領地で盗んだ穀物を、書類を偽造し、船舶の航行データを操作して違法に販売している。FT記者が調査を行い、ロシアがザポリジャー州の占領地で盗んだ穀物を取引する際の怪しげなスキームの一つを明らかにした。

 FTが調べた文書は、2,675tの小麦の出荷ルートを追跡したもので、衛星画像、運送業者のデータ、配送状況、トルコ北部での船舶の監視、業者へのインタビューによって確認された。このロットは小さいものだが、違法取引の仕組みや、ロシアの様々な機関が連携して民間企業や船舶を隠蔽している実態を知ることができる。

 盗まれた穀物を取引するために、ロシアは5月に「国営穀物オペレーター」という会社を設立し、その代表がN.ブセルという実業家であることが明らかになった。しかし、この会社はウクライナでもロシアでも登記されていない。その使命は、占領地から穀物を盗み出し、輸出用に転売することだ。収益は、ロシアの占領軍を支援するために使われた。穀物の買い手は、ロシア、トルコ、シリア、イランなどにいる。

 8月13日、占領当局はベルジャンスク港経由で2,675tの小麦の輸出を許可する文書に署名した。この穀物が安全で、衛生基準に適合し、適切に処理されていることを購入希望者に納得してもらうために、市当局は多くの産地証明書を作成した。穀物の販売者は前出の国営穀物オペレーターと明記されており、また穀物はザポリージャ州から来たことが明記されている。

 ロシアはシリア船籍のパウエル号を使って盗んだ穀物を運んでいた。パウエル号自体は、おそらく架空の英国籍会社Pawell Shippingに属していると思われる。しかし、そのような登記上の住所には、実際にそのような会社は存在しない。

 占領地の港で荷を積む船はほとんどなく、それは制裁につながる可能性があるからだ。しかし、パウェルのようなシリア船籍の船舶は、占領下のウクライナ港にしばしば寄港し、直接シリアに貨物を届けることも少なくない。

 パウエル号は、ウクライナ占領地に到着する前から、その足取りを偽装していた。同船のAISトランスポンダー(位置情報を他の船舶に送信する装置)によると、同船は7月31日にケルチ海峡に到着し、停泊していたとのこと。しかし、8月10日の夕方、トランスポンダーをオフにし、レーダーから姿を消した。

 パウエル号が再びケルチ海峡に姿を現したのは、ベルジャンスクで穀物を積み込んだとする当初の文書から2日後の8月15日であった。だが、その際に、ベルジャンスクではなく、ケルチ海峡のカフカス港(ロシア連邦クラスノダル地方)で穀物が積み込まれたことを記した2枚目の文書が作成された。穀物の産地は、ザポリージヤ州ではなく、ロシアのトリアッティであることが示された。穀物の販売主も、ロシアの実業家I.ポジダエフのジオス社に変更された。ポジダエフ自身は、この穀物がウクライナの占領地と関係があることを否定しており、それを確認する文書一式を持っていると主張している。しかし、その文書を記者に提供することは拒否した。

 2つ目の書類一式を揃えたパウエル号はトルコに向かい、9月3日にサムスン港に到着した。ウクライナから盗んだ穀物をアゼルバイジャンの実業家A.アスガロフに売ろうと試みたが、同氏は「信頼性のない契約には手を出さない」として断った。

 その後、同船はトランスポンダーを再びオフにし、数週間後に黒海の東部に再び現れたが、積荷はもう積まれていなかった。最終目的地となったのが、ジョージアとの国境に近いトルコのホパ港である。ポジダエフは、トルコで売ったこと以外は、誰が買ったのか回答を拒否した。

 10月には、ロシアが2022年中にウクライナの占領地から180万tに上る穀物を輸出する可能性があることが判明した。もしこれが実現すれば、ロシアは6億ドルの収入を得ることになる。


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 ロシアの妨害により、ウクライナの穀物輸出の先行きに、再び暗雲が垂れ込めてきた。そこで、とりあえずこれまでの輸送実績を整理してみることにしたい。まとまった情報としては、こちらの記事の中に出ていた図解資料が有益だったので、それを拝見してみることにする。

 これによると、2022年8月1日から10月20日までの実績で、809万tの農産物を積んだ363隻がウクライナの黒海港湾を出港した。行き先は、世界38ヵ国となっている。ただし、先日ウクライナ当局が指摘したように、ロシアが円滑な輸送を妨害している現実があり、363隻がすべて順調に目的地に向かっているわけではないだろう。

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 目的地の内訳は、上図のとおりである。アジアが172隻(320万t)、欧州が148隻(390万t)、アフリカが43隻(100万t)となっている。

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 最後に、貨物の内訳が、上図のとおり。とうもろこし341.1万t、小麦235.4万t、なたね60.3万t、ひまわり油54.1万t、ひまわり搾りかす48.0万t、大麦40.3万t、大豆13.7万t、ひまわりの種8.7万tとなっている。


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 ウクライナでの戦争が始まってから、プーチン・ロシアからの圧力にもかかわらず、ベラルーシ軍を戦闘には参加させないというのが、独裁者ルカシェンコの一貫した姿勢だった。

 ベラルーシの政治評論家V.カルバレヴィチ氏がこちらのコラムの中で、実は秘められた重要なポイントがあることを指摘しているので、以下要旨をまとめておく。それは、ベラルーシ人の義勇軍部隊である「カリノフスキー連隊」がウクライナ側に付いて参戦していることにかかわっている。

 S.チハノフスカヤはV.ゼレンスキー・ウクライナ大統領に同盟の結成を提案したが、ウクライナは反応を示していない。

 その一方で、ウクライナ最高会議の一部の議員は、チハノフスカヤのチームではなく、カリノフスキー連隊を、ベラルーシの民主勢力の正式な代表して扱うことを主張し、すでに具体的な行動で示している。実際、最高会議議員らと会談したカリノフスキー連隊のV.カバンチューク副司令官は、政治綱領の骨格を示すなど政治的な意欲を示し、チハノフスカヤ派への不信を表明した。ルカシェンコ追放後に、自由な選挙を実施するなどとしている。その後連隊代表者はリトアニア国会の幹部とも対面した。

 かくして、カリノフスキー連隊は単なる政治主体ではなく、ベラルーシ民主派の新たな中心的存在の地位をうかがうこととなった。それにはいくつかの要因がある。

 まず、多くの指摘があるように、ベラルーシの反体制派の中では過激主義が優勢になり、ベラルーシにおける政権の武力転覆を志向するようになっている。チハノフスカヤの「合同移行内閣」には、軍事・治安の出身者が2名入ったが、もしも武闘路線を採るのであれば、そのシナリオを理論的だけでも実現しうる組織が前面に出る必要がある。ウクライナで戦争が始まったことにより、ウクライナ軍側のベラルーシ人義勇軍という、それに該当する組織が生まれたわけである。

 もう一つ、チハノフスカヤに対する主な批判は、言葉を発するだけでなく、行動すべきというものである。そうした観点から、ウクライナで戦っているベラルーシ人義勇兵は好対照である。前線で戦い(すでに10名ほどが戦没)、ウクライナで勝利したあかつきには、ベラルーシを解放すると公約している。カリノフスキー連隊が、ウクライナでロシアに勝利を挙げた上でベラルーシへの解放進軍を行うと表明したことは、大きな反響を呼んだ。

 こうして、カリノフスキー連隊の株は上がり、民主派のメディアで大きく取り上げられている。また、ウクライナのエリートの一部からも支持されている。

 存在感を増したカリノフスキー連隊につき、ベラルーシの体制側は主たる敵と位置付けている。ルカシェンコは何度もそれについて言及し、非常に警戒している旨を述べている。KGBのI.テルテリ長官も10月17日にミンスク・トラクター工場で発言した際に、憂慮を示した。

 ベラルーシの政権当局は、2つのシナリオにつき危険視している。ロシア軍が負けること、そしてベラルーシ義勇兵がウクライナからベラルーシ領に攻め入ることだ。彼らはその両方とも現実の脅威と見ている。

 テルテリ長官は、「100から300人の武装集団が、ベラルーシの治安部隊に損失を与え、ミンスクに進撃する」と警告した。100~300人であれば、気にするほどの規模ではないはずなのだが…。それだけ、2020年の民主化運動で、体制側がトラウマを引きずっているということである。


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 ウクライナの電力インフラがロシアによる攻撃を受け、40%以上が破壊されたと言われている。インフラと同時に気になるのは、ウクライナの火力発電所で燃料となっている石炭の供給に問題はないのかということである。

 ウクライナはもともと、鉄鋼業に用いられる原料炭は不足気味で、不足分を輸入で補っていた。それに対し、発電に用いられる一般炭は自給ができ、輸出も可能だったのだが、2014年にドンバス炭田が自称ドネツク、ルガンスク人民共和国の支配下に入ると、一般炭の炭鉱の大部分を失い、一般炭も輸入せざるをえなくなった。そして、今年2月の侵攻開始前まで、原料炭も、一般炭も、ロシアがウクライナへの最大の輸出国だったのである。

 現に、こちらの記事に見るように、2022年1~9月のウクライナの石炭輸入相手国で、39.2%を占め首位になっているのが、他ならぬロシアである。これは、すべて侵攻開始前の供給によるものだ。現在、ウクライナはロシアとの貿易を全面的に停止しているので、どこからどうやって石炭を調達しているのか、気になるところだ。

 7月のこちらの記事によると、ウクライナでは今年に入って鉄鋼業用の原料炭の輸出が記録的な伸びを示したという。これは、マリウポリの2つの巨大製鉄所が消滅したため、原料炭の国内需要が減ったからだろう。そして、穀物と違って、ウクライナの鉄鉱石の輸出先では陸路でEUというパターンが多いので、輸出が促されたのだろう。

 ところが、こちらの記事によると、9月になり、ウクライナ政府が一般炭に続いて原料炭の輸出も禁止する措置を講じたようである。冬の電力・暖房需要を見越して一般炭の輸出を禁止していたわけだが、どうも原料炭と偽って一般炭を輸出しようとする不正が起きていたらしく、その可能性を絶つために原料炭も禁止ということになったらしい。ゆえに、ウクライナではこれから余剰の原料炭も発電所に投入するということになるようである。


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 プーチン・ロシアがウクライナの電力インフラに攻撃を加えたことにより、当初は、電力インフラの30%が破壊されたと伝えられた。電力インフラと言っても、発電所、変電所、送電網と色々あるわけで、30%と言われてもどう計算するのか良く分からないが、とにかく電力供給量が30%程度低下する程度の損害状況だったということである。

 19日付のこちらの記事によれば、首都キーウの場合、市民が30%の節電をしてくれれば、計画停電だけで済み、強制的な停電は発生しない。しかし、実際にはキエフ市民の節電は7%に留まっているということである。

 しかも、その後のこちらの記事によれば、ウクライナの電力インフラ破壊はさらに広がり、インフラの40%が深刻な損害を受けた状態になったという。言うまでもなく、ロシアの攻撃はまだ続く恐れがあり、これ以上損害が広がると、市民の節電で乗り切るのは、難しくなりそうである。

 ちなみに、こちらの記事によれば、V.クリチコ・キーウ市長は、10月20日から首都の集中暖房が開始されると発表した。市長によると、人々がヒーターやエアコンで電力を使わないようにという考慮もあり、暖房開始に踏み切ったということである。


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 地域研究コンソーシアム(JCAS)という組織があり、10月20日にそこの主催で「第2回JCAS『地域の総合知』シンポジウム『ロシアのウクライナ侵攻と地域研究:複眼的な視点からの再検討』」という催しが開かれることになりました。

 このシンポジウムは、「レクチャー動画」の事前配信と、オンラインでの一般公開ディスカッションの組み合わせにより実施されます。私もシンポジウムに登壇することとなり、私の事前動画「ロシア・ウクライナ戦争で地域研究者が陥ったジレンマ」もアップされているので、よかったらご笑覧ください。ロシア・ウクライナ情勢そのものではなく、この戦争が始まって以来、自分が感じているモヤモヤを語ったものです。


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ua2022

 こちらの記事が伝えているとおり、ウクライナの農業関連情報機関APK-Informがこのほど、2022年のウクライナの穀物収穫見通しを更新したということなので、それを見ておくことにしよう。

 APK-Informでは、2022年の穀物収穫見通しを、上図のとおり5,410万~5,570万tとしている。いかんせん、前年が8,568万tという史上最高の豊作だったので、それと比べれば、戦時下の今年の収穫は3分の1ほど落ち込むことになる。小麦が1,900万t、大麦が550万t、とうもろこしが3,000万tという見通しである。

 ちなみに、ウクライナ政府は、2023年も減産が続き、4,500万tレベルにまで落ち込むと見ている。


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 イスタンブール合意が成立して、ウクライナの穀物輸出が再開されてから、2ヵ月ほどが経った。こちらの記事がその進捗状況について伝えているので、図解資料とともに、その要点を見ておくことにする。なお、元データを発表したのはウクライナ・インフラ省だが、残念ながら試みた限りではサイトがアクセス不能となっている。

 記事によると、8月に170万tが、9月に380万tが積み出され、これまでに計550万tの農産物(注:穀物およびひまわりの種がほとんどと思われる)の積出に成功した。

 3つの港が活用されており、計241隻を港から送り出した。内訳は、チョルノモルシク(旧イリリウシク)港が111隻で210万t、オデーサ港が74隻で150万t、ピウデンヌィ(旧ユジネ)港が56隻で190万tとなっている。すでに235隻は目的港に着き荷卸しに着手している。

 241隻の目的地別内訳は、113隻がアジア、95隻が欧州、33隻がアフリカ(うち17隻がエジプト)となっている。

 とうもろこしの58%は欧州に向かい、小麦の70%はアフリカ、アジアに向かった。


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 このニュースを理解するためには、まずソ連時代に建設されたとあるパイプラインのことを知る必要がある。本件に関しては以前、「ロシアとウクライナにまたがる『世界最長の化学品パイプライン』の謎を解く」というコラムを書いた。ロシア沿ヴォルガ地方のサマラ州トリヤッチ市から、ウクライナ・オデーサ州のピウデンヌィ(ユジネ)港に至る、全長2,471kmに及ぶアンモニアパイプラインが存在する(上図参照)。ソ連崩壊後も、途切れることなくアンモニアの輸送が続けられてきた。ところが、2月24日のロシアによる軍事侵攻開始後、パイプラインの起点に当たる窒素肥料大手トリヤッチアゾト社は、パイプラインを通じたアンモニアの輸出を停止した。ついでに言うと、アンモニアは天然ガスをもとに生産され、窒素肥料の前段となる。

 そして、こちらの記事によると、このほどゼレンスキー・ウクライナ大統領はロイターとのインタビューで、ウクライナ領を経由するロシア産アンモニアの輸出は、ウクライナ兵の捕虜が解放される条件においてのみ認めるとの考えを示した。

 この提案に対し、ロシアのD.ペスコフ大統領報道官は、人間とアンモニアを同列に扱うのかと、否定的に反応した。

 これに先立ち国連は、ウラルヒム(注:トリヤッチアゾトではないのか?)の生産したアンモニアをパイプラインのロシア領部分で対ウクライナ国境まで輸送し、その地点でトレーダのTrammo社が買い上げる(注:その後はTrammo社の貨物としてパイプラインのウクライナ部分でピウデンヌィ港まで運ぶということだろう)というスキームを提案していた。

 国連は肥料価格を引き下げるとともに、穀物輸出に関するイスタンブール合意へのロシアのコミットを確かなものとするために、ロシアとウクライナにアンモニア輸送に関する合意を形成するよう提案しており、国連関係者によれば両国とも前向きな姿勢だという。この合意が成立すれば、ロシア産アンモニアがピウデンヌィ港からウクライナ産穀物と同じスキームで輸出でき、輸送量は200万t、現在の相場で24億ドルに上る。

 2月24日の軍事侵攻開始後、トリヤッチアゾトはアンモニア輸出を停止した。ただ、同社によれば、同社のアンモニア生産は、国内需要を満たし、尿素および尿素ホルムアルデヒド濃縮物を生産するのに充分な水準を継続している。同社では鉄道輸送により顧客へのアンモニア供給義務を全面的に履行している、という。


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 こちらの記事の内容、図解資料は、興味深い。これによると、東方経済フォーラムでプーチンは、イスタンブール合意によってウクライナから積み出された穀物は、大部分がトルコとEU諸国に向かっており、食料を切実に必要としている途上国には80隻の運搬船のうち2隻しか向かわなかったと発言したということである。その上でプーチンは、ロシアとしてウクライナからの穀物その他の食料の積出を制限することも検討するかもしれないと発言している。

 そこで、Meduzaが、ウクライナを出港した穀物船が実際にどこに向かったかを、図にしてみたということである(上掲参照)。

 それによると、88隻のうち、トルコに向かったのが32隻、EUが30隻、その他が25隻、不明が1隻だった。その他の内訳は、エジプト6、中国3、韓国3、イスラエル3、インド3、イラン2、イエメン1、スーダン1、ソマリア1、ジブチ1、レバノン1ということである。


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 これは8月27日の動きだと思われるが、こちらの記事などが伝えるところによると、ロシアのS.キリエンコ大統領府第一副長官が、ウクライナのロシア占領地域でロシア編入に関する住民投票が実施された場合の「見通し」を述べたということである。

 キリエンコによると、決定は住民たち自身が決めるものであり、ロシアは住民投票が行われていかなる結果が出たとしても、それを尊重する。もっとも、自分はドンバスおよびヘルソン、ザポリージャ地域における住民の意向を知っており、意識調査結果なども見ており、住民投票における決定は大差となろう。

 すなわち、ドネツク人民共和国とルハンシク人民共和国では、意識調査で、91~92%の回答者がロシアへの編入に賛成すると回答している。ヘルソンおよびザポリージャの地域では、意識調査での賛成率は約75~77%だが、毎週調査をするたびにその比率は増えている。

 以上がキリエンコ第一副長官の発言であった。現実を反映しているとはとても思えないが、一応記録しておくことにした次第。


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 8月24日に日本国際問題研究所主催の「中東からみたウクライナ戦争と食糧不安・危機」という公開ウェビナーがあり、そこで「ロシア・ウクライナからみた黒海穀物輸送」という報告をさせていただいた。それに向けて作成したグラフをちょっとおすそ分けしたい。

 旧ソ連諸国の中では、ロシア・ウクライナ・カザフスタンが3大穀物輸出国となっている。そこで、それら3ヵ国の穀物輸出構造を、穀物の種類別と、相手地域別に示したグラフを作成した。データは数量ベースで、2012~2021年の平均値である。

 まず、穀物の種類別の内訳を見たのが、下図となる。ロシアとカザフスタンが小麦主体であるのに対し、ウクライナはとうもろこしが半分以上を占める。

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 次に、輸出相手地域が、下図のとおり。ロシアとウクライナは、アフリカ・中近東を主力とする構造が似通っている。ただし、ウクライナはEU、APEC(具体的には中国、インドネシア、韓国等)向けも多い。なお、2014年の連合協定後も、ウクライナのEU向け穀物輸出は、関税割当によって抑制されていた。遠い外国向けが主流のロシア・ウクライナと異なり、カザフスタンはCIS(近隣の中央アジア諸国)向けが圧倒的に多い。

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 8月6日付と少々古くなってしまったが、こちらの記事がイスタンブール合意後のウクライナ穀物輸出の可能性につき論じているので、以下要点を整理しておく。

 業界団体「ウクライナ・アグリビジネス・クラブ」のR.スラステン専務理事によると、オデーサ州港湾の封鎖解除により、月量約400万tの穀物および採油用作物の輸出が可能になる。すでに試みられていたドナウ川河川港および欧州方面陸路の輸送路と合わせると、月660万tが輸送できる。

 昨年収穫されながら港に滞貨していた作物は1,500万~1,800万tである。一方、今年は7,000万tが収穫されると予想され、うち1,500万~2,000万tが内需向けとなり、輸出できるのは5,000万~5,500万tとなる。昨年と今年を合わせて、7,000万tほどということになる。毎月600万tを積み出すことができれば、12ヵ月でそれらをさばくことができる。

 しかし、外国の船主がウクライナの港に寄港することを見合わせれば、絵に描いた餅になる恐れがある。現在のところ、積極的な外国船主は数少ない。O.クブラコフ・インフラ相は、月に100隻の寄港を実現するのが目標だと先日表明した。

 前述の7,000万tの輸出が実現すれば、現在の国際価格だと、ウクライナの農業生産者は150億ドルの売上を得ることになり、輸送業者なども含めたウクライナ関係業界の売上は200億ドルとなる。

 ただ、もしも毎月の穀物輸出が100万tにも達しないような状況だと、生産者は2023年の収穫に向けた今年の秋蒔きの作付を縮小してしまうかもしれない。また、昨年の秋蒔きの作付は650万haだったが、そのうち現在ウクライナが実効支配できているのは470万haである。輸出収入が得られないと、播種作業に必要な資金が得られず、秋蒔きの作付は300万haにまで縮小してしまう恐れがある。


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 ニブロン社と言えば、農業王国ウクライナの中でも、国を代表する穀物および植物油輸出企業である。こちらが伝えているとおり、7月31日にロシアがミコライウを爆撃した際に、ニブロンの創業者であるオレクシー・ヴァダトゥルシキー氏の自宅も被害に遭い、同氏および妻のライサさんが亡くなったということである。

 今般の戦争で、私が研究していた一連の工場や港が破壊されたり戦場になったりしてきたが、さすがにオリガルヒが亡くなる事態はこれが初めてだと思う。当ブログでは2014年にウクライナのオリガルヒ・シリーズというのをお届けしたのだが、追悼の思いを込めて、ニブロンのヴァダトゥルシキー氏の回を以下復刻してお届けする。

 O.ヴァダトゥルシキーは、食糧企業「ニブロン」の創業者、共同オーナー、社長である。同氏は、ウクライナ南部において、ヤヌコーヴィチ旧政権と敵対していた急先鋒だったと言える。彼にとって前政権の治世は、ビジネスにとって常に脅威が生じた時代であり、彼の立場も当然である。

 過去4年間のいくつかの出来事を思い出せば、ヴァダトゥルシキーの立場も容易に理解できよう。すべては2010年夏に始まった。ニブロンが河川ターミナルを建設するのに障害が生じ、その後には支社長が起訴される事態となった。同年秋にはウクライナで穀物の輸出割当が導入され、「フレブ・インヴェストブド」なる会社が突如として市場に参入した。ニブロンにも一定の割当が提供されたが、計画していた輸出をこなすのにはまったく不充分な規模だった。しかも、割当分ですら、しばしば港湾が許可を出さず、大幅に遅延することが多かった。2011/12穀物年度には、ニブロンは過去数年で初めて最大の輸出企業の座から滑り落ち、フレブ・インヴェストブドにその座を明け渡した。

 2012年秋頃になると、ヤヌコーヴィチ・ファミリー派のYu.イヴァニュシチェンコがニブロンの一部を簒奪しようとしているとか、あるいはすでに簒奪したという噂が流れ始めた。ヴァダトゥルシキーはこの情報を否定しており、現実にニブロンの株の80%は同氏が保有し、残りの20%は息子のアンドリーが保有している。しかし、火のない所に煙は立たぬというものであり、関係筋によれば、ニブロンはファミリー側に上がりの一部を日常的に上納することを余儀なくされていたという。

 ヤヌコーヴィチ政権が採ったその他の政策も、ニブロンにとっては不利なものだった。特に、2013年暮れに再燃したロシア・ウクライナ・カザフスタンによる「穀物OPEC」構想が挙げられる。ニブロンが他の農業グループと異なる点は、土地資源がそれほど多くないにもかかわらず、高い収益性を挙げていることである。ニブロン傘下の農地は8万haほどなのに、40万haのカーネル、60万haのウクルランドファーミングに匹敵する利益を確保してきた。これは、輸出を主体としているからこそであった。しかし、穀物の国際カルテルが形成されたら、ロシアの競合業者と、ロシアの政治によって、自分たちの経営が左右されることになってしまう。ロシアの政治は、時に経済合理性を無視することで知られる。

 こうしたことから、2014年の3月初頭になると、ヤヌコーヴィチ政権下で常態化していた資産の分捕りを批判するヴァダトゥルシキーの声明がマスコミで流布するようになった。「古典的な乗っ取りの手口が横行してきた。週末に企業に武装した人々が押しかけて、守衛を追い出し、自分たちの経営者を連れてきて、彼らが経営者であると宣言する。クリミアでもまったく同じことが起きている」と、彼は指摘した。声明の中で彼はさらに、ロシア資本が取得した企業は悲惨な状態にあること、ロシアのテレビ局の嘘、マイダンで新たな民族が誕生しつつあること、分離主義は認められないこと、ウクライナの欧州選択、など多くについて語った。つまり、旗幟を鮮明にしたわけである。4月になるとヴァダトゥルシキーは、ヘルソン州での検問に当たっているミコライウ州駐留ウクライナ軍への支援を提供し、ミコライウ州の他の企業家たちにも傍観しないように呼びかけた。

 ヴァダトゥルシキーにとって頭が痛いのは、ニブロンの後継者問題である。いかに有能な同氏であっても、もう66歳である。彼には一人息子のアンドリーがおり、現在は副社長として働いている。ジュニアは、外国の取引相手を見付けることなど、一定の能力も見せてはいるが、父のような経営能力は望むべくもないとされる。


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 週刊エコノミストのサイトに、「ウクライナ最強キーウのサッカーチーム 戦争に屈しない『伝説の試合』」というコラムを寄稿しました。タイトル含め、編集側の意向で変えたところが若干ありますが、よかったらご笑覧ください。紙の雑誌版のエコノミストにも載るようです。


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 一昨日、ウクライナの穀物輸出に関するウクライナ・ロシア・国連・トルコ間の合意がまとまったばかりだが、昨日その合意に反するように、ウクライナの港湾施設がミサイル攻撃を受ける事件が発生した。

 本件に関し、差し当たりこちらの記事で目に留まったロシア国際問題評議会のA.コルトゥノフ理事長のコメントを以下のとおり抄訳して紹介する(必ずしも賛同を意味するわけではないので悪しからず)。

 本件に関し、なぜロシアの公式声明が出ていないのか、それはロシア国防省に訊いてみないと分からない。ただ、近いうちに何らかの情報は発信されるだろう。というのも、事態は異常なもので、不明確な状況が残れば、ロシアの敵たちによってネガティブキャンペーンに利用され、場合によっては武器支援の決断を促すかもしれないからだ。

 現下の状況では、様々な偶発的事件が起こりうる。全当事者が政治的意思を持っていても、不測の事態が起こらないという保証はない。問題は、いかに迅速かつ効果的に問題を封じ込め、再発の可能性を可能な限り少なくするかである。

 近くのどこかで何かの弾薬が爆発したのかもしれないし、どちらか一方が何らかのシステムを無許可で起動したのかもしれない。紛争下では、残念ながら何が起こるかわからない。しかし、やはり、できるだけ完全に、できるだけ早く、情報を開示することがロシアの利益になるはずだ。

 今のところ、今回のことが穀物輸出をめぐる状況を根本的に変えたとは思えない。もちろん不都合なことではあるが、穀物倉庫は被害を受けていないし、インフラ全般にも大きな被害はなかった。速やかに穀物の積出を開始するのに技術的な障害はないはずだ。 


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ランキング

 今まで全然知らなかったが、こちらのサイトに見るとおり、ウクライナの「政治研究所」というところが、ウクライナ政治家のメディアランキングというものを発表しているとのことである。マスコミやフェイスブックで言及された頻度を示しているそうで、したがって悪目立ちした人物も登場する。

 上掲は、6月のランキング結果。1位はV.ゼレンスキー大統領、2位はS.ハイダイ・ルハンシク州行政府議長、3位はO.アレストヴィチ大統領顧問、4位はM.ポドリャク大統領顧問、5位はD.クレバ外相、6位はD.シュミハリ首相、7位はP.ポロシェンコ前大統領、8位はA.イェルマーク大統領府長官、9位はV.クリチコ・キエフ市長、10位はV.キム・ミコライウ州行政府議長と続いている。


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