ロシア・ウクライナ・ベラルーシ探訪 服部倫卓ブログ

ロシア・ウクライナ・ベラルーシを中心とした旧ソ連諸国の経済・政治情報をお届け

カテゴリ: ウクライナ

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 ウクライナ穀物協会のフェイスブックページに、ウクライナの穀物・植物油輸出を、「黒海穀物イニシアティブ」と、それ以外の代替ルートに区分したグラフが毎月発表されることは、個人的に把握していて、以前も当ブログで紹介したことがあったかと思う。

 そうしたところ、今般、さらに興味深いデータが出ているのに気付いた。代替ルートのうち、ドナウ川港湾からの船積分に限ったデータが出ていたのである。オタクデータとグラフ作りが趣味の当方としては、これに反応せざるをえず、早速上図のようなグラフにまとめてみた。

 国連とトルコの仲介で成立した「黒海穀物イニシアティブ」が、昨年8月から動き出し、それにより港で滞貨していたウクライナの農産物がだいぶさばけたことは、良く知られているだろう。ただ、こうやって見ると、確かに同イニシアティブは主力の輸送路となっているが、代替ルートも引き続き重要であり、ざっくりいうと同イニシアティブが3、代替が2くらいの割合になっている。そして、代替ルートの半分ほどが、ドナウ川港湾での船積という図式だ。

 正直言うと、個人的には、黒海穀物イニシアティブが稼働したことで、ドナウ川ルートは重要性を失い、もっと下火になっていたのかと思っていた。むしろ、グラフで見る赤の部分が大きくなり、これは陸路で近隣の中東欧諸国に流れているのが大部分だろうから、だからこそポーランド等の中東欧諸国でウクライナ産農産物のボイコットが起きているのだろうというのが、私の見立てだった。もっとも、ドナウ川経由の少なからぬ部分が、やはり中東欧のルーマニアやブルガリアに流入していたという可能性はあるだろう。

 ドナウ川を青にしたこと、どれだけの人が気付いてくれるかな。


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 以前私が編集長を務めていた『ロシアNIS調査月報』、その役目を離れてからも、寄稿は続けている。このほどその6月号が発行されたので、ご紹介する。

 毎年6月号は、ロシア以外のNIS諸国を特集することになっている。今回私は、その枠内で「制裁下のベラルーシにおける基幹産業の動向」という長目のレポートを執筆した。残念ながら、ルカシェンコ健康不安説が浮上したのは、本稿を脱稿した後だったので、その話題に触れることはできなかったが、内容的に産業動向を掘り下げたものなので、まあ特に問題はないだろう。

 もう一つ、特集の枠内で、「農産物輸出めぐりウクライナ・EU間で不協和音」という短目のレポートも書いている。また、メインレポートの「2022~2023年のロシア・NIS諸国の経済トレンド」の中でも、ウクライナの部分を担当している。

 さらに、これは特集の枠外になるが、INSIDE RUSSIAと題するロシア連載で、「ワグネルの創設者プリゴジンの主張」を執筆した。

 ロシア・ウクライナ・ベラルーシは、自分が主たる研究対象と位置付ける3国なわけだが、さすがに一つの号でその全部についてレポートを書くのは、少々骨が折れた。


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dj

 皆さんG7の模様やゼレンスキー大統領の訪日を固唾を飲んで見守っているところかと思うが、私は昨日あたりは終日、来たる比較経済体制学会での発表に向けて、ロシアの穀物輸出にかかわる統計分析に没頭していた。当初、自分が思い描いていたのとは逆の相関関係が示されてしまったりして、いっそのことデータ不正でもしてやろうかと思ったが(ウソですw)、試行錯誤をしているうちに、どうにか自分の納得できる分析結果に行き着き、安堵したところだ。

 さて、このところ私が集中的に調べているロシアおよびウクライナの穀物輸出の分野で、最大の話題と言えば、何と言っても国連・トルコの仲介で成立したウクライナ産農産物輸出プロジェクト「黒海穀物イニシアティブ」の期限が5月18日に切れることになっており、ロシアがその延長を妨害する構えを見せていたことが、焦点だった。結局、今回もまたロシアは2ヵ月の延長に応じ、拍子抜けの結果となった。ロシアとしては食料を武器に欧米やウクライナを揺さぶりたいが、グローバルな食料安全保障の問題に直結するだけに、脅迫はしても、実際に引き金を引くのはハードルが大きいのだろう。

 さて、地理オタクとして、今回興味を惹かれたのが、黒海穀物イニシアティブの対象港湾として、これまではオデーサ州の3港だったのに対し、2港追加されるという話が出てきたことである。具体的には、ミコライウ港と、そこからほど近いオリヴィヤ港という2港である。ちなみに、オリヴィヤ港は以前はオクチャブリスク港と言ったのだが、これは社会主義10月革命にちなむネーミングであり、ウクライナ当局の脱ソビエト路線に沿って、2016年10月にオリヴィヤ港に改名されたという経緯がある。

 どこかに良い地図がないかと思って探したら、開戦初期に出たこちらの記事の地図が良かったので、上掲のとおり転載させてもらった。ただし、ワシントンポストをもってしても、港の名前は旧名のオクチャブリスクのままとなっている(ついでに言えばチョルノモルスク港、ピウデンヌィ港も旧名のまま)。

 なお、黒海穀物イニシアティブで2港が追加されることは、まだ一部で憶測として語られているだけであり、こちらの記事によると、ウクライナのM.ソリスキー農相が先走った情報を戒めたということである。農相によると、両港から船が出ることは可能になったが、他から来た船が停泊することは依然としてできない状態であり、まだ正常に稼働しているわけではない由。


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lu

 以前も申し上げたとおり、現在ウクライナ大統領オフィス長官顧問を務めるM.ポドリャク氏は、かつてベラルーシでジャーナリストとして活躍し、ルカシェンコ体制の内幕に迫る良い仕事をしていた。私はその時代に大使館で同氏と対面したことがある。今だから言うが、外務省からとあるムネオチルドレンがベラルーシを訪問することになり、なるべく多くの面白い有識者に会いたいというので、個人的に注目していたポドリャク氏と引き合わせ、私も立ち会ったのだった。そして昨年、久し振りに同氏の名前を聞いたと思ったら、ウクライナでえらく出世していたので、驚いたわけである。

 そのポドリャク氏が、ベラルーシ系のメディアのインタビューに答えており、例のルカシェンコ重病説などについてコメントしている。考えてみれば、この人ほどベラルーシ・ウクライナ関係を的確に見ることのできる人はいないだろう。以下、発言内容を整理しておく。

 ロシアにとっても、ベラルーシにとっても、ルカシェンコの健康に多くがかかっている。クレムリンは戦争に関連し、情報、プロパガンダ、領土の提供などで、ベラルーシに期待している。ルカシェンコの健康に関するニュースは、ロシア指導部を慌てさせている。本件は、戦争のすべてのプロセス、少なくともその北部方面を、根本的に変えるものである。

 ウクライナは、ルカシェンコの健康に関する情報に関しては、中立的な立場である。ウクライナにとって肝心なのは、ベラルーシ当局がいずれかの時点で、ウクライナの戦線で現実に起きていることを、悟ることだ。なぜロシアの敗北が不可避なのか、なぜベラルーシの不適切な対外路線が自国の未来にとって重大な結果をもたらすのかを、悟ってほしい。

 (ルカシェンコが国連総会に招待されたことに関しては?)戦争の行方に大きな影響を及ぼすものではない。むろん、ウクライナとしては外交ルートを通じて不快感を示し、あらゆる法的・外交的手段でそれを阻止することになる。

 (5月9日にウクライナの特務機関がベラルーシでテロを起そうとしたと、ベラルーシ当局が非難していることに関しては?)まったくばかげている。ウクライナが戦っているのはもっぱら防衛戦争である。たとえウクライナ侵略に加担しているからといって、ウクライナが第三国でテロを起こすことはありえない。

 (ベラルーシ側が対ロシア国境の管理を強化していることに関しては?)ロシアではこれまで一貫して優位だったシラビキの権力体系が急激に弱体化しており、これから武器をもった人々が社会復帰をすると、その武器を使って不法行為を働く可能性がある。ベラルーシは、今後ロシアに到来するそのような犯罪の波を、本能的に感じ取っている。ロシアで起きようとしているのは、古典的な革命ではなく、武器を使った広範な反乱であり、ベラルーシはそれから逃れようとしている。


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uam

 Wedge ONLINEに、「あのポーランドがなぜ? ウクライナ産農産物拒絶の裏側」を寄稿しました。無料でお読みになれますので、ぜひご利用ください。


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 ロシアが始めた戦争の余波で、ウクライナから黒海を通じた農産物輸出が限定され、余剰農産物のかなりの部分が陸路により近隣の中東欧諸国に流入していた問題。ポーランド等の中東欧諸国がウクライナからの農産物輸入を禁止するという非常手段に訴え、EUとしての結束が乱れていたが、EUはどうにか本件に関する妥協的解決策を見出した。

 一方、ウクライナと同じくEU加盟候補国であり、ロシアの侵略に関してはウクライナと連帯する姿勢を示しているモルドバも、ウクライナからの農産物流入で苦しんでいる点は同じのようだ。こちらの記事によれば、モルドバの農業団体「農民の力」は、EU加盟中東欧諸国の例に倣い、モルドバもウクライナからの小麦、とうもろこし、ひまわりの種、菜種の輸入を一時的に禁止するよう、政府に陳情した。さもなくば、モルドバは農民たちの抗議活動で埋め尽くされるだろうと、同団体は警告した。同団体では、この状況は、モルドバ農民を苦しめているだけで、ウクライナの助けにはまったくなっておらず、国民の欧州統合支持率を低めてしまうだけだと指摘した。

 こちらの記事が、モルドバ政府の対応方針につき伝えている。モルドバ政府、農業省、農業生産者団体は、ウクライナからの穀物輸入量を、1日置きにモニターしている。もしも国内の倉庫に収めきれないほど大量の流入があった場合には、政府は国内生産者の利益に沿って事態をコントロールすることになる。政府はまた、燃料、肥料の高騰に苦しんでいる農家を支える支援策も検討している、という。


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 これは半年ほど前の古い情報で、地味な話題であるが、自分の研究分野で見落としていた動きがあったので、まとめておく。2011年10月18日調印のCIS自由貿易協定というものがあり、ウクライナもその加盟国だったが、こちらの記事によると、同国では協定を破棄すべく法案起草に着手したということである。なお、試みた限り、その法案が現在までに実際に可決されて現実のものとなったとは、確認できなかった。

 記事によると、ウクライナ最高会議の経済発展委員会のR.ポドラサ副委員長が、D.シュミハリ首相との会談後、CIS自由貿易協定破棄に関する法案起草に着手したことを明らかにした。

 副委員長は、「CIS自由貿易協定破棄問題に着手した。我が国の貿易を脱植民地化すべき時だ。ウクライナはCIS自由貿易協定のすべての参加国との二国間の自由貿易協定、GUAM自由貿易協定、ジョージアとの自由貿易協定、モルドバとの自由貿易協定を有している。さらに、汎欧州・地中海条約も適用している。このように、ウクライナの生産者にとって有益な多くの枠組みがあり、ロシアが自分の条件を押し付け横暴に振る舞っているロシア中心主義のCIS自由貿易協定に参加し続ける必要は一切ない」と発言した。

 近く、協定破棄準備の一環として、議会・政府共同で、中央アジア各国との二国間協定をアップデートするとともに、モルドバとの原産地証明協定の批准、GUAMの原産地規則覚書の批准を完了する。


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 こちらの記事が、ロシア占領下の自称「ドネツク人民共和国」のマリウポリ港から、初めて穀物が積み出されたということを伝えている。ただし、輸出向けではなく、ロシア本土(おそらくロストフ州あたり)に運び出される形である。さすがに人民共和国からの輸出では外国の買い手がつかないので、ロシア本土に運んでロシアで利用するか、あるいはそこからロシア産として輸出するのだろう。ロシア・ウクライナ戦争が、どのように推移していくのか、まだ分からないが、ロシア支配地域では、このように新しい日常が既成事実化されていくのであろうか。

 記事によると、マリウポリ港から初めて、穀物が船積みされた。自称「ドネツク人民共和国」のD.プシーリン首長がテレグラムチャンネルに投稿した。

 プシーリンは、「予定されていたとおり、マリウポリ港で、ドネツク人民共和国産の穀物が初めて船積みされた。先日、当地にD.パトルシェフ・ロシア連邦農相が訪問した際に、人民共和国のYe.ソンツェフ首相、その他の関係機関幹部と、港に穀物ターミナルを開設する作業につき話し合った。今回は、穀物積み込みのため、マリウポリに建設資材を運んできた船を利用することにした。行きは建材を運び、帰りは穀物を運ぶことで、輸送費を数分の1に抑えることがき、また自動車道路の通過ポイントの負担も軽減できる。穀物を人民共和国の域外に出荷することにより、当地にとって主要産業の一つである農業を活性化できる。マリウポリ港からロシアの他の隣接地域に穀物を運ぶことができる」と投稿した。


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 一部の中東欧諸国が、ウクライナからの農産物輸入を禁止する措置に出て問題となっていたが、EUは本件をどうにか解決したようだ。

 そもそもの経緯を述べると、2014年の連合協定でEUは大半のウクライナ産品に対する関税を撤廃したものの、農産物・食品はEU各国の利害にかかわるセンシティブな分野ということで、EUは関税割当という形での障壁を残した。しかし、ロシアによる侵攻開始を受け、EUはウクライナ支援の目的で、2022年6月から1年間、ウクライナ産農産物・食品に対するすべての障壁を一時的に撤廃した。

 そして、こちらの記事によると、EU諸国は昨日28日、ウクライナ産品に対するすべての関税および関税割当の免除を、さらに1年間継続することを決めた。

 問題は、ロシアによる実質的な黒海封鎖で遠隔市場に充分に輸出できなくなったウクライナ産農産物が、ウクライナに対する優遇措置により、近隣のポーランド等の中東欧に大量に流れ、地元の生産者にダメージを与えていたことだった。このほど、その問題についても、解決策が見出された。

 こちらの記事などに見るように、ポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアがウクライナ産農産物(小麦、とうもろこし、菜種、ひまわりの種および油)の輸入を禁止することは認めるものの、同諸国はウクライナ産農産物を然るべくトランジットし、他のEU諸国に輸出できるようにはするという合意が成立した。また、中東欧諸国には1億ユーロの支援金が提供され、うち4,000万ドルがポーランド向けとなる。


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 昨日26日、ゼレンスキー・ウクライナ大統領と習近平中国国家主席がビデオ会談を行った。現時点で私がフォローしている中心的なテーマは、黒海穀物イニシアティブが5月以降も継続されるかということであり、実はこのプロジェクトでウクライナ産穀物を最も多く受け入れている国が中国であるという事実がある。昨日の会談で、その件について交わされたやりとりを、こちらの記事などが伝えているので、以下骨子をまとめておく。

 ゼレンスキー大統領が明らかにしたところによると、会談の中で習近平主席は、黒海穀物イニシアティブ、国連世界食糧計画のプログラム「ウクライナからの穀物」を支持する旨を述べた。

 ゼレンスキーは、「航行と通商の自由に関し、中国が我が国と同じ見解を有していることは、きわめて重要である。私は習近平氏に、食料の海路輸出再開に向けた我が国の努力につき説明した。そして、黒海穀物イニシアティブ、その延長、また我が国による人道的活動、とりわけ『ウクライナからの穀物』プログラムを支持しているとの発言を聞くことができた」と明らかにした。


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 こちらが伝えているように、ロシアの現地行政当局は昨日24日、ウクライナ軍によるクリミア半島のセヴァストーポリ港に対するドローン(無人機)攻撃を撃退したと発表した。M.ラズヴォジャエフ・セヴァストーポリ市長は「最新情報によると、水上無人機1機が破壊され、もう1機は自爆した」とSNSに投稿、「市内は現在、静かだ」とした。被害は報告されていないという。

 そして、こちらに見るとおり、本件に関しロシア国防省が声明を発表した。くだんの無人機はオデーサ港近辺から発射されており、これは黒海穀物イニシアティブの合意に反するので、ロシアは5月に期限の切れる同合意の延長には応じない可能性があると脅す内容になっている。以下、声明を翻訳しておく。

 ウクライナが2022年10月に「穀物回廊」の確保に関わる黒海艦隊艦船および民間船舶に対して無人機によるテロ攻撃を行ったことを受け、ロシア連邦はウクライナの港からの農産物輸出に関する協定の実施を停止した。

 その後、ウクライナが人道回廊およびウクライナ港湾をロシア連邦に対する軍事行動に使用しない旨、トルコが保証を行い、ウクライナが書面で約束したことで、ようやく協定が再開された経緯がある。

 2023年3月23日と4月24日、これらの保証に反し、ウクライナは黒海艦隊のセヴァストーポリ基地とクリミアの民間インフラを無人機で繰り返し攻撃した。

 ウクライナの無人機の航路を分析したところ、すべての無人機が黒海穀物イニシアティブの実施目的で指定されているオデーサ港の水域から発射されていたことが判明した。それらの無人機はまた、ウクライナ港湾から農産物を輸出するために指定されている人道回廊の海域で旋回していた。

 キエフ当局のテロ行為は、本年5月18日以降の穀物合意の再度の延長を、危機にさらすものである。


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 ロシアNIS貿易会の機関誌『ロシアNIS調査月報』は、昨年9月まで私が編集長を務めていた時には、新号が出るたびに当ブログでも紹介していた。転職に伴い編集長からは退いたものの、依然として執筆者としてかかわってはいるので、今後も取り上げていこうかと思う。

 そんなわけで、このほど2023年5月号が発行された。書影は上掲のとおりで、内容はこちらに詳しく載っている。毎年5月号はロシア経済および日ロ経済関係の特集号と決まっており、今年は「制裁下のロシア経済と社会」という特集になっている。

 服部は、「公式統計とミラーデータで見る2022年ロシアの貿易」という長目のレポートを寄稿したほか、「主従関係がはっきりしてきた中国とロシア」、「2022年のウクライナの輸出に関する補足情報」という短い記事も執筆している。

 上記ページから購読の申し込みができるので、ご関心の向きはぜひ。


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 このほど発行された『ロシア・東欧研究』(2022 巻 51 号 p. 21-40)に、「ロシアとウクライナの10年貿易戦争」と題する拙稿が掲載されました。昨年秋のロシア・東欧学会における共通論題報告を論文化したものです。PDF版を無料でお読みになれますので、ぜひご利用ください。

  過去10年ほどのロシア・ウクライナ間で、常に重要な要素となってきたのが、「貿易戦争」でした。ただ、ロシアの措置は、経済そのものの利益を目的としているというよりも、経済を武器にウクライナを屈服させる意味合いが強いものでした。本稿は、ロシア・ウクライナ間の貿易戦争の軌跡を跡付け、付随してロシアによるドンバス占領経営に関しても振り返り、両国関係において地政学的対立と経済・通商的措置がどう絡み合ってきたかを吟味したものです。


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 これはロシアにとって大好物のような話なのだが、ウクライナ産穀物の輸入をめぐって、EU内に亀裂が生じている。

 こちらの記事によると、ポーランドとハンガリーは、自国生産者を保護するため、ウクライナ産穀物・食料品の輸入を禁止した。この背景には、依然として黒海港湾が全面的には機能していない中、EU産よりも安いウクライナ産穀物の在庫が大量にあり、それが地理的に近い中欧諸国に流れ、地元生産者の価格や販売に響いていることがある。ポーランドで選挙が近付き、与党の法と正義党が農村を支持基盤の一つとしている事情もある。これに関し欧州委員会は、通商政策は欧州委員会の専権事項であり、個々のEU加盟国による単独の通商制限措置は受け入れらず、こういう難局にあっては足並みを揃えることがとりわけ肝心であるとの声明を発表した。

 なお、こちらの記事によると、ブルガリアもウクライナ産穀物の輸入禁止を検討している由である。


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 上の図は、こちらから拝借した。ロシアは、「途上国を食料危機から救うために、ウクライナから農産物を輸出する黒海穀物イニシアティブに合意してやったのに、ウクライナの食料は豊かな国にばかり行っていてけしからん」というキャンペーンを張っており、それを強調するために作ったような図だ。

 文句をタラタラ述べながらも、3月にロシアは、黒海穀物イニシアティブを60日間延長することに合意した。しかし、ロシアの主張している条件(こちら参照)が満たされなければ、5月の再延長には応じないと、ロシアは明言している。

 しかし、ロシアのこの駆け引きには、一つ弱点がある。上図に見るとおり、実は同イニシアティブで最大量の農産物を受け入れているのが、ロシアが頭が上がらない相手、中国なのである。私の見るところ、中国は同イニシアティブを妨害しないよう、ロシアに厳しく釘を刺しているはずである(例の中国が発表したウクライナ和平原則12箇条の中でも触れられていた)。

 その関連で、ロシアと中国が穀物供給に関する実務協議を進めているというこちらの記事が目に留まった。深読みすると、もしかしたら、ロシアは中国に、「我が国が貴国に供給するので、黒海穀物イニシアティブの件は忘れてくれ」と申し入れているのではないか、などと、邪推したくなる。

 ともあれ、記事によると、このほどロシア連邦動植物検疫局は、ロシアが中国当局と、小麦およびキビ、ライ麦粉、セモリナ等の穀物製品の対中輸出に関し作業を行っている旨を発表した。ロシア側は、ロシア全土から冬小麦、大麦、とうもろこし、菜種、米を供給する用意があることを再確認した。目下、それに必要な輸出証明書の取得に、ロシア側が取り組んでいる。また、ロシア側は非遺伝子組み換え大豆に固有の関税コードが割り当てられたことを中国側に報告、ロシアは遺伝子組み換え作物の栽培を禁止しているため、ロシア産大豆は中国市場において魅力的な商品となると、動植物検疫局は指摘した。


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 こちらの記事によると、ウクライナ科学アカデミー農業研究所がこのほど、2023年のウクライナ農業生産に関する予測を示したということである。

 それによると、2023年のウクライナの農業生産指数は、前年比2.1%減となる見通しである。落ち込みがそれほど大きくないのは、比較対象となる2022年の実績がきわめて低いからである。2022年の農業生産指数は、前年から25%以上も落ち込んだ。

 2023年の農作物の生産は、穀物・豆類が11%ほど落ち込むと見られる。他方、大豆のプラス12.2%、ひまわりのプラス6.5%、菜種のプラス9.1%など、採油作物は生産増が見込まれる。一方、畜産は2.2%ほど落ち込み、養鶏がプラス1.1%、養豚がマイナス2.1%といった予測となっている。

 農業研究所によれば、当然のことながら、ウクライナの農業が引き続き振るわないのは、戦争継続が原因である。特に、農産物輸送路の困難、農産物買い付け価格の下落で、生産者は小麦・とうもろこしといった最も有望な作物の生産を縮小せざるをえなくなっている。2022年に生産者が収入を失う一方、投入財の価格が高騰し、生産者が生産性の高い種、肥料、殺虫剤を確保するのが難しくなっている。


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 このほどユーラシア研究所から発行された『ユーラシア研究』第67号が、ロシア・ウクライナ情勢を学ぶ上で有益な特集号となっている。第1特集が、開戦直後の昨年3月に開催されたシンポジウムをベースに構成しているのに対し、第2特集では「ロシア・ウクライナを理解するために」と題して、それ以外の新規論考が寄せられている。同号の目次がこちらに出ているのでご参照いただきたい。

 私自身は、第1特集の方で、「ウクライナ危機下のロシア経済」というレポートを寄せている。ただ、このテーマは水物であり、率直に言って、昨年3月に発表したものをベースに、昨年9月に脱稿したレポートを今読むのは、少々しんどい。

 とはいえ、私以外の諸論考は、より長期的な利用に耐えるものになっているはずなので、ぜひチェックしていただければと思う。


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 こちらなどに見るとおり、ロシア外務省は3月16日、「黒海穀物イニシアティブ」を60日間延長することに同意することを表明した。周知のとおり、同イニシアティブは、国連およびトルコの仲介により、ウクライナの農産物についてはロシアによる黒海封鎖を解き、オデーサ州の港から輸出できるように取り決めたものである。ただ、国連やウクライナは120日の延長を求めていたのに対し、今回ロシアは60日の延長しか認めなかった。

 そしてロシアは、ロシア側が主張している条件が満たされなければ、60日後の5月には、再延長には応じないとの立場を示している。そのロシア側の要求につき、こちらのサイトで箇条書きしたものを見付け、論点整理に便利なので、それを翻訳してまとめておく。

  • (農産物取引の決済に多用されるロシアの銀行である)ロスセリホズバンクを、SWIFTに再接続する。
  • ロシアへの農業機械、同部品、関連サービスの提供を再開する。
  • 保険・再保険、港へのアクセスの制限を撤廃する。
  • トリヤッチ~オデーサ・アンモニアパイプラインの稼働を再開する。(注:本件の背景についてはこちら参照)。
  • 農産物の生産・輸送にかかわる企業の口座凍結を解除する。

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 今朝のNHKのニュースで、英国筋の情報として、ロシアの占領当局がこのほどザポロジエ州(ウクライナ語読みではザポリージャ州)の州都をメリトポリに指定し、これは本来の州都であるザポロジエ市の攻略が困難なので事実上断念したことを意味するということを伝えていた。ロシア軍は州都のザポロジエを占領できたことは一度もなく、昨年9月の併合宣言以来、実質的にメリトポリを暫定的な行政の中心としていたわけだが、それを公式に制定したということのようである。

 ただ、この情報を他のソースで確認しようとしたところ、どうもそれらしい情報が見当たらない。ロシア側のザポロジエ州行政府HPや、メリトポリ市行政府HPを見ても、トップページから当該の情報を見付けることはできなかった。

 余談ながら、ウクライナ側には当然、正統なザポリージャ州行政府HPが存在する。

 ただ、その後色々と調べたところ、3月3日付でYe.バリツキー・ザポロジエ州知事代行が署名した知事令「ザポロジエ州の行政・地区構造について」という文書を確認することができた。これによれば、ザポロジエ州の行政的・政治的中心はメリトポリ市であるということが、確かに明記されている。

 ちなみに、その後バリツキー知事代行が語ったところによると、ザポロジエ市を「解放」した後も、同市が戦線から近すぎることなどを考慮して、メリトポリ市が州都に留まる可能性もあるということである。

 以上、個人的にロシアによる占領支配を認めるつもりはまったくないが、地理オタクの性で、反応せざるをえない動きだった。


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 昨日の話の続きである。我がセンター内で、現在ウクライナという国になっている地域の歴史につき議論した際に、帝政ロシアの穀物輸出において、ウクライナの貢献度はいかほどであったかという話になった。発表者は、「20世紀初頭の帝政ロシアの穀物輸出でウクライナの比率が9割を占める」としていたのだが、経済担当である田畑先生も、私も、それは過大であり事実に反するのではないかと感じた。

 自分の担当分野で責任を感じたので、その場で情報をネット検索してみたところ、こちらの論文が便利だったので、会議の中でそのデータを紹介した次第である。確かにウクライナの貢献度は大きかったが、この論文の表7によれば、ウクライナの割合は半分以下であった。

 なお、論文では、重量単位がプードになっていたので、私が1プード=16.38kgで換算した上で、日本語にしたものを上掲のとおりお目にかける。穀物全体で、ウクライナの比率は約4割といったところであった。発表者が出した9割という数字は、おそらくオデーサ港経由の輸出ということだったのだろう。それだったら私の認識にも合致する。

 ところで、上掲の表を眺めていて気付くのは、トウモロコシがないな、ということである。今やウクライナの穀物輸出は半分以上がトウモロコシによって占められるものの、帝政時代には小麦・大麦が大部分だった。トウモロコシは、ソ連時代に登場し、ウクライナ独立後に急増した品目である。


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 色んな締切や業務に追われて、首が回らない状況である。多重債務者というのは、こんな心境なのだろうか。

 なので、ブログは手抜きになるのだけど、このほど、我がセンター内でウクライナ史、というか正しくは現在ウクライナという国になっている地域がどんな歴史を歩んできたかについて議論する機会があった。その中で、発表者が北方戦争、ポルタヴァの戦いに言及していたので、そう言えば以前、ウクライナ中部にある「ポルタヴァの戦い歴史博物館」を見学したなということを、思い出した。

 そこで、自分が博物館で撮った写真を見返したりしてみたわけである。それで改めて感じたのは、ポルタヴァの戦い歴史博物館、完全にロシアのピョートル大帝が主役の博物館だったな、ということだった。印象としては、6割くらいピョートル博物館だったな、という感じである。まあ、ポルタヴァの戦いというのは、ピョートル大帝のロシア軍がスウェーデンを撃破した戦いであり、ウクライナ・コサックを代表するマゼーパは脇役的な登場人物なので、展示が「ピョートル推し」になるのは自然だが。

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 以下に見るように、ウクライナ地域を代表するフメリニツキー、マゼーパの展示もあるものの、少々押され気味だった印象だ。

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 ロシアが全面軍事侵攻を開始して以降、ウクライナではロシア文化の排除が進んでおり、それは歴史面にも及んでいる。たとえば、昨年オデーサで、ロシアの女帝エカテリーナ2世の像が撤去されるという出来事があった。ふと思ったのは、ポルタヴァの戦い歴史博物館は、今はどうなっているのかということだった。オデーサではエカテリーナ2世像を撤去すればある程度ロシア統治の痕跡は消す効果があるかもしれないが、あれだけ「ピョートルが主役」だったポルタヴァの戦い歴史博物館からピョートル関連の展示を撤去したら、博物館がスカスカになってしまう。マゼーパを主役にポルタヴァの戦いの歴史を書き換えるのにも、限界があろう。となると、ポルタヴァの戦い歴史博物館自体を閉鎖することになるのか?

 これは、単なる素朴な疑問である。博物館の今については、調べれば分かるのだろうが、今はその時間がない。


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 ロシアが全面軍事侵攻を開始する前、ウクライナにとって最大の稼ぎ頭は、実は農業でも鉄鋼業でもなく、国外出稼ぎ労働だった。それに着目し、国外から本国にもたらされる送金、いわゆる「レミッタンス」のデータを、私は定期的に上掲のようなグラフにまとめていた。

 先日、ウクライナ中銀より、2022年のレミッタンス受入データが発表された。ただし、今のところ送金元の国の内訳が出ていないので、上掲のような形でグラフを更新することはできない。その作業は、他日を期すこととしたい。

 ウクライナ中銀の発表によれば、ウクライナのレミッタンス受入額は、2021年の140億1,900万ドル(上掲グラフの数字から修正された模様)から、2022年の130億7,300万ドルへと、6.7%低下した。

 私の理解によれば、これまでウクライナの国外出稼ぎ労働者は、やや男性の方が多かったはずである。それが、戦争が始まり、男性の国外出国が原則的に禁止されてしまったことで、当然のことながら出稼ぎ収入は減少に転じたということだろう。

 他方、現時点で近隣のEU諸国を中心に数百万人のウクライナ避難民が身を寄せている。それらは、今まで出稼ぎとは無縁だったような女性と子供が中心なので、避難生活が長期化し糧を得ようとしても、言葉の壁もあり、現地の労働力ニーズとはマッチしない場合も多いだろう。

 ロシアにも、ウクライナからの避難民は大量にいるはずであり、現地で働いているケースもあるはずである。しかし、ウクライナとの繋がりが維持されているかは微妙で、送金も困難なはずであり、ロシアからウクライナへの送金は、ますます先細る傾向にあると考えられる。

 国別の内訳が発表されたら、また取り上げるかもしれない。


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 去年の今頃のことを思い返すと、ロシアが全面軍事侵攻を開始し、ウクライナの首都キーウも陥落するかもしれないという中で、私が職業的な観点から危機感を抱いたのは、もうウクライナの経済統計が入手できなくなるかもしれないということだった。そこで、ウクライナ統計局のウェブサイトにアクセスし、私がよく使う貿易関係をはじめ、必死にデータをダウンロードしまくったものだった。そうして入手したデータを使って書いたレポートには、「これが最後でないと祈りたいウクライナ貿易統計」などというタイトルをつけた。

 それから1年が経ち、ウクライナ全土が占領されることも、政府が機能不全に陥って統計が編纂できなくなることも、統計局のサーバーが爆撃されてアクセス不能になることも、結局なかった。かくして、2022年の貿易統計もこのほど無事に発表されることとなった。

 しかし、ロシアによる侵攻後のウクライナの貿易統計では、大まかな(HSコードの2桁レベルの「類」による)商品構成こそ発表しているものの、相手国の数字は発表しない方針のようだ。これはやはり国家安全保障上の考慮によるものだろう。まあ、これは仕方がない。

 というわけで、輸出入の大分類の表だけ、とりあえず作成してみたので、お目にかける。輸出・輸入とも、戦争をやっていて、黒海海運が死んだわりには、意外と取引が行われているなという印象もあるが、開戦前の1~2月の取引による分もあり、何とも言えない。

 まず、ウクライナの輸出が、下表のとおり。総額441億ドルで、前年比35.1%減だった。海路を失い、鉄鋼・鉄鉱石などの輸出が壊滅する中で、国連主導の輸出回廊創設が奏功し、農産物の輸出が一人気を吐く形となった。かくして、ウクライナの経済・輸出は、ますます農産物一本足打法と化しつつある。

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 次に、ウクライナの輸入が下表のとおり。総額553億ドルで、前年比24.1%減だった。個人的に、理解できていないのは、国際的な軍事支援、人道支援などがどう扱われているかである。たとえば、ドイツがヘルメット100万ユーロ分をウクライナに無償供給した場合、それは無償なので通関統計には計上されないのか、それとも通関統計に輸入100万ユーロと計上した上で、国際収支上は別の項目に100万ユーロをプラスして相殺するのか、そのあたりが良く分からない。それによって2022年の輸入統計の読み方が全然変わってくる。判明したらそのうちまた報告したい。

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 今日は時間がないので、簡単な告知だけで。

 月刊Wedge誌の最新3月号で、「ウクライナ侵攻から1年 日本が学ぶべき教訓」という特集が組まれており、私が鶴岡路人さんと行った対談「『平和な戦後』は訪れるのか?  戦争の行方を読み解く」が掲載されています。ほかに東野篤子さんの「侵略国はなくせない この戦争が突き付けた厳しい現実」、佐藤卓己さんの「ロシアの『Z』に意味はない 21世紀に復権するシンボル政治」も掲載されていますので、機会があればぜひ手に取ってみてください。


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ExPro_Natural_gas_import_2022

 こちらの記事が、2022年のウクライナの天然ガス輸入状況を伝えているので、主な内容を整理しておく。

 記事によると、2022年にウクライナは欧州から15.4億立米のガスを輸入した。これはウクライナ独立後最低の数字であり、前年の25.6億立米から40%も低下した。

 これは戦争によりガス消費が月により30~50%も落ち込んだことによるものである。国内のガス生産と備蓄により、必要量が完全に賄われ、輸入が必要なくなった。また、ほぼ年間を通じて、欧州のガス価格はウクライナのそれよりもはるかに高く、このことからも輸入が不利になった。

 輸入されたガスのうち、8.6億立米が貯蔵施設に送られ、6.8億立米がパイプラインシステムに送られた。

 上図に見るとおり、2022年には、最大の輸入相手国はスロバキアとなり、前年首位だったハンガリーからの輸入量は大きく落ち込んだ。

 下図に見るとおり、2022年には輸入が高まった時期が、第1四半期と、10~11月という、2度あった。年初には、ウクライナの価格が欧州のそれより高かったので、輸入玉が国内生産と競争できた。10~11月に輸入が増えたのは、欧州のスポット価格が急落し、輸入が有利になったことと関係していた。

ExPro_Natural_gas_import_2022_Monthly

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 我がスラブ・ユーラシア研究センターでは、2月21~22日に、「ウクライナとロシアの生存戦略:開戦から1年を迎えて」と題するシンポジウムを開催する運びとなりました。基本的に全編英語のセッションとはなりますが、どなたも無料でリモート視聴が可能ですので、ぜひお申込みください。

 服部は、2月22日(水)9:30–11:30の経済セッションの中で、「Analyzing Russia’s Foreign Trade Performance with No Russian Official Statistics Available(公式統計が得られない中でロシアの貿易動向を分析する)」と題する報告を行います。


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 ドイツのWELT紙が、興味深い調査報道を行ったということである。元の記事はこちらだが、有料だし当方はドイツ語が読めないので、英語で内容を要約しているこちらの記事や、ロシア語のこちらの記事を利用することにする。

 ちなみに、当ブログでは以前、「ウクライナ軍はどうやって燃料を調達しているのか?」という疑問を呈したことがあったが、今回の記事でその謎がだいぶ解けた気がする。

 WELTの報道によると、ブルガリア政府の表向きの姿勢に反して、同国は早くも昨年春の段階で、ウクライナに大量の弾薬およびディーゼル燃料を供給していた。時期によっては、ウクライナ軍の弾薬ニーズの3分の1程度をカバーした。それのみならず、ウクライナ軍の戦車・車両が使うディーゼル燃料の40%近くを秘密裏に輸出していた。それは4~8月のきわめて重要な時期に当たった。

 ブルガリアはハンガリーと並んで、表向きは、EUの中では例外的にウクライナに武器・弾薬を提供していない国だった。4月末に当時のペトコフ首相がキーウを訪問したあと、武器の修理を申し出ただけで、ウクライナへの武器供与には反対するのが同国の公式的立場だった。ところが、実際には死活的な時期に、ペトコフ首相とヴァシレフ蔵相が直接かかわる形で、弾薬・燃料提供のオペレーションを手掛けていたことになる。

 ここで注目されるのは、その時点でブルガリアの石油精製は、全面的にロシア産原油を用いて行われていたことであり、しかもその時点でロシア・ルクオイル社の所有だったブルガス石油化学コンビナートがそれを担っていた。

 ブルガリアが急ピッチで生産した弾薬は、関与を非難されるのを避けるため、直接ではなく、英米が輸送費を支出する形で輸送された。ある時期の例を挙げると、弾薬を積んだ航空機が対ウクライナ国境に近いポーランドのジェシュフ空港に降り立った。

 ブルガリアからの物資供給に関しては、ウクライナのD.クレバ外相が事実を認め、ブルガリアのペトコフ、ヴァシレフも否定していない。


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 ウクライナのゼレンスキー政権で異彩を放っていたO.アレストヴィチ大統領オフィス長官顧問が辞任したということである。以前私が書いた「ロシアの侵略に立ち向かうチーム・ゼレンスキー」というレポートの中で同氏に触れた箇所を再録しておく。

 O.アレストヴィチ顧問は、軍事情勢の分析で一目置かれている存在である。開戦後は毎日、戦況に関する会見を行っている。しかし、もともとがP.ポロシェンコ前政権でも働いた外様だ。ゼレンスキー政権入りするも、2022年1月にいったん袂を分かち、戦時下で再び政権に戻った経緯がある。それだけに、ゼレンスキー・チームとしては腫れ物に触るようなところがある。


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 こちらの記事などが、2022年のウクライナによるロシア産天然ガスの欧州向けトランジット輸送実績について伝えている。

 記事によると、ウクライナによるトランジット輸送は、2021年の416億立米から、2022年の203.5億立米へと、ほぼ半減した。ロシアは2020~2024年の輸送契約で、年間400億立米の輸送を契約していたが、2022年にはその半分ほどしか利用しなかった。同契約には、テイクorペイ条項が含まれており、これはロシアが利用の有無にかかわらず400億立米分の輸送料を全額支払う義務があることを意味する。

 というわけで、ウクライナ側はこのような立場をとっているわけだが、以前当ブログの「天然ガス輸出路の選択肢が狭まるロシア」でお伝えしたとおり、ロシアからウクライナ領に流入する2つのルートのうち、ウクライナ側が開戦後にルハンシク州経由のルートを閉鎖したという経緯があった。これによってもウクライナのトランジット量が低下したことは疑いなく、その場合にテイクorペイ条項が適用されるのかは微妙という気もする。


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 ウクライナ穀物協会のフェイスブックページに掲載された上掲画像を、興味深いと感じた。2022年7月から12月までのウクライナの穀物・植物油輸出量である。穀物年度は7月始まり/6月終わりなので、2022/23年度の上期の状況を示していることになる。

 図では、青が国連・トルコの仲介により実現した「穀物回廊」を通じた輸出で、緑がそれ以外のルートでの輸出を示している。それ以外とは、具体的には、陸路で欧州近隣国に運ぶパターンと、河川港で積み出しドナウ川を下って黒海に出るパターンであろう。

 ご覧のとおり、8月以降、穀物回廊と、それ以外が、ほぼ半々といった感じで推移している。穀物回廊ばかりが注目されていたが、それ以外のルート活用も続いていたか。これは個人的に少々意外だった。


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