
私が以前編集長を務め、今も寄稿を続ける『ロシアNIS調査月報』の2023年12月号が発行されたので、ご紹介。12月号は、「第4期プーチン政権の内政・外交・経済」と題する特集号となっております。詳しい内容とお問い合わせ・お申し込みはこちらまで。
服部は、特集の枠内では「プーチン戦争でロシア対外経済発展計画は台無し」と「一帯一路の『成功例』中欧班列にも異変」を執筆。枠外では「ウクライナ世論の風向きを読む」を執筆しています。
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ロシア・ウクライナ・ベラルーシを中心とした旧ソ連諸国の経済・政治情報をお届け
私が以前編集長を務め、今も寄稿を続ける『ロシアNIS調査月報』の2023年12月号が発行されたので、ご紹介。12月号は、「第4期プーチン政権の内政・外交・経済」と題する特集号となっております。詳しい内容とお問い合わせ・お申し込みはこちらまで。
服部は、特集の枠内では「プーチン戦争でロシア対外経済発展計画は台無し」と「一帯一路の『成功例』中欧班列にも異変」を執筆。枠外では「ウクライナ世論の風向きを読む」を執筆しています。
黒海穀物イニシアティブが7月17日に期限切れとなって以降、ウクライナは独自の穀物輸送回廊を設定し、輸送の試みを続けている。伝えられるところによると、総じてこの輸送は順調に推移しているようだ。
最新のこちらの記事によると、11月2日までに、穀物を積んで大オデーサ港(オデーサ港、チョルノモルシク港、ピウデンヌィ港の総称)を出港した船は、43隻に達したという。
また、こちらによると、このほどM.ソリスキー農相が記者会見を開き、夏まで存在した黒海穀物イニシアティブはその形ではすでに消滅しており、復活することはないだろう、それでもウクライナ軍によって守られている穀物輸送回廊はしっかりと機能していると語ったということである。
私が以前編集長を務め、今も寄稿を続ける『ロシアNIS調査月報』の2023年9-10月合併号が発行されたので、ご紹介。9-10月号は、「ウクライナ復興支援の地平」と題する特集号となっております。詳しい内容とお問い合わせ・お申し込みはこちらまで。
今回服部は、特集の枠内で「ロシア産魚介類輸入に見る日米の相違 ―鍵を握るアラスカの利害」を、枠外では「軍事ケインズ主義に傾くロシアの経済・財政」、「ウクライナによるロシア産アンモニアの輸送」を執筆しております。
Foresightに、「『人質』から『遮断』へ ―ウクライナの穀物輸出をめぐるプーチンの戦術転換」を寄稿しました。有料記事ですが、前半の無料部分だけでも、かなりの情報量が(笑)。
私が以前編集長を務め、今も寄稿を続ける『ロシアNIS調査月報』の2023年9-10月合併号が発行されたので、ご紹介。9-10月号は、「ウクライナ復興支援の地平」と題する特集号となっております。本日8月20日発行。詳しい内容とお問い合わせ・お申し込みはこちらまで。
私の役目は今回は軽めで、特集の枠内で「カホフカダム破壊はウクライナ・ロシア双方に痛手」を、枠外で「ロシアは無人航空機の遅れを取り戻せるか」を執筆しております。
黒海穀物イニシアティブがストップしてしまったのは痛恨だったが、研究する立場上は、小括するのには良い機会なので、改めてデータをまとめておく。本件に関しては、7月18日付のエントリーで紹介したが、その時は7月4日までのデータと中途半端なものだったので、合意が切れるぎりぎりの16日までの累計で計算し直した。まあ、その結果、中国が0.1%減って、中国以外の高中所得国が0.1%増えるだけの変化しかなかったが(笑)、何にしても、データをアップデートできてすっきりした。
それで、今回は初めての試みとして、農産物の種類別の輸出先も整理してみた。それで作成したのが、上図である。以下、気付きの点を箇条書き。
こちらの発表によると、ウクライナは現状で財政歳入の約半分を外国からの支援に依存しているということである。最高会議広報部のR.ピドラサ(上掲写真)が発表した。
これによると、2023年上半期に、ウクライナの国庫に、国際的なパートナーからの財政支援が253億ドル(9,239億グリブナ)寄せられた。これは上半期の全歳入の49.1%に相当する。
最大のドナーはEUで、マクロ金融支援の枠内で114.3億ドルの優遇融資を提供している。
しかしながら、無償支援では米国による72億ドルが最大となる。ウクライナの国家債務および政府保証債務がすでにGDPの78.5%に達していることを考えると、これは重要な措置である。
その他のドナーとしては、IMFの35.9億ドル、カナダの17.6億ドルなどがある。
2022年の財政支援は合計323億ドルで、うち米国が119.9億ドル、EUが79.6億ドル、IMFが26.9億ドル、カナダが18.9億ドルだった。
個人的に、とにかくデータが揃っていないと、しかも当然最新のものでないと、気持ち悪いと思うタイプである。ウクライナの農産物輸出に関する黒海穀物イニシアティブが成立してから、同国の輸出が月ごとにどう推移してきたかを示したこのグラフは、最近定番で作成していたものなのだが、情報源だったウクライナ穀物協会から、いつまで経っても6月の数字が発表されない。今般ようやく、こちらの記事の中で、黒海穀物イニシアティブと、その他という数字が示されたが、個人的にはその他の中でもドナウ川港湾とそれ以外の内訳を知りたいわけであり、その数字はどこをどう探しても出てこない。ここで力尽き、当該の内訳を欠いた中途半端なものながら、穀物輸出問題が注目を浴びているご時世なので、グラフをお目にかける次第である。
なお、上掲記事によれば、ウクライナ穀物協会では、黒海穀物イニシアティブ以外の代替ルートを「連帯ルート」と名付け、欧州委員会に輸送費の補助を要請するということである。ただ、ウクライナの安価な農産物が溢れるだけでも、欧州側が困惑しているのに、補助金まで出してくれという要請が、聞き入れられるかどうか。
告知ばかりで恐縮です。朝日新聞の「輸出協定を「人質」に揺さぶりかけるロシア 強気の背景を読み解くと」という記事でインタビューに答えています。有料記事ですが、ご利用できる環境にある方は、ぜひどうぞ。
昨日有効期間が切れることになっていた黒海穀物イニシアティブだったが、その当日にロシアナショナリズムの琴線に触れるクリミア橋が攻撃を受けるという事態となり、ロシアが「延長に反対する」と表明する事態となった。私の理解によれば、ロシアは瀬戸際戦略に出ており、まだ完全に協定から離脱したということではないはずだが、いずれにしても雲行きは相当険しくなってきた。
論点は色々あるが、とりあえず、ロシア外務省が昨日発表したこちらの声明を参照してみよう。プーチンは昨年来、最貧国を救うために合意された黒海穀物イニシアティブだったはずなのに、現実には同スキームでウクライナ産農産物はEUをはじめとする豊かな国にばかり向かっているとクレームをつけてきたわけだが、今回の外務省声明でもそれに沿った批判がなされている。
すなわち、昨日の外務省声明では、黒海穀物イニシアティブが実行された期間中に、3,280万tの農産物が輸出されたが、うち70%以上(2,610万t)がEUをはじめとする高所得および高中所得国に向かい、他方でエチオピア、イエメン、アフガニスタン、スーダン、ソマリアに代表される最貧国の比率は3%以下の92.2万tにすぎない、と指摘されている。この指摘は正しいだろうか?
上掲の図は、2023年7月4日までの実績を私がまとめたものである。対象国の所得水準の分類は、世銀のそれを利用した。
まず、ロシアが言うところの「最貧国」について。世銀の分類でそれに該当するのが、後発開発途上国(LDC)というものである。ここで問題なのは、ロシア外務省が「最貧国」からLDCのバングラデシュを除外していることである。実はLDCでウクライナ産農産物を最も多く受け入れているのはバングラデシュなので、それを入れるのと入れないのとで、印象がだいぶ違ってくる。世銀分類にもとづいた私の集計では、LDCの比率は5.8%となる。
一方、70%以上(2,610万t)がEUをはじめとする高所得および高中所得国に向かっているというのは、まったくそのとおりであり、私の集計によればその比率は70%どころか80.6%に及んでいる。ただ、その際に実にあざといのは、ロシアがやたら「裕福なEUがウクライナの食料を吸い上げている」という構図を強調し、単独の国としては最大の受益国である中国のことに触れない点である。ロシアは、ウクライナの穀物はスペインでイベリコ豚の餌になっているといったことばかりを強調するが、それ以上に中国の養豚団地の餌になっているということには沈黙を貫く。
昨年7月に成立し、8月から施行されている「黒海穀物イニシアティブ」に関しては、当ブログで何度も取り上げている。そして、協定の現在の有効期限が、明日7月17日で切れることになっており、ロシアが例によって延長妨害の動きを見せている。プーチン政権の立場は、ウクライナ産穀物についての合意と同時に、ロシア産穀物・肥料輸出を円滑化する合意も国連・ロシア間で成立したが、相変わらずロシアの輸出は障害に直面しており、両合意は一体のものなので、ロシア産についての合意が履行されていない以上は、ウクライナ産についての合意延長にも同意できない、というものである。
しかし、ロシアの対応を観察していると、事前には「我が国の要求が満たされていない」と騒ぎ立て、黒海穀物イニシアティブの次回延長には応じないと強い剣幕で警告しておきながら、実際に期限の間際になると、意外にあっさりと延長に同意するというパターンが見て取れる。2023年3月18日にも、5月18日にも、それぞれ60日間の延長に結局は応じている。
黒海穀物イニシアティブの、需要国側の最大の受益者は、実は中国であり、同イニシアティブによるウクライナ産農産物輸送の4分の1ほどは中国に向かっている。中国外務省が2023年2月24日に発表した12項目から成る「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」でも、第9項「穀物輸出の促進」において、黒海穀物イニシアティブの継続が強く訴えられており 、この問題を政治的駆け引きに使うロシアに釘を刺した格好になっている。習近平に頭の上がらないプーチンが、黒海穀物イニシアティブを実際に潰すのは、無理であるとの指摘がある。同イニシアティブ廃止を中国に納得してもらうためには、プーチンがロシア産のトウモロコシ500万tくらいを携えて訪中する必要があるかもしれない。
ともあれ、7月17日の期限を控え、プーチン政権が例によって駆け引きを強めているところである。こちらの記事によると、プーチンは7月15日に南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領と電話会談した際にも、この問題を取り上げた。この中でプーチンは、合意は一体のものであるはずなのにロシア産食料・肥料の輸出に関する国連・ロシアの合意書は今に至るまで履行されていない、黒海穀物イニシアティブの主眼はアフリカを含む途上国への穀物供給なのにそれが成し遂げられていない、などと主張した。
穀物の取引年度は、7月に始まり、翌年の6月に終わる。したがって、現在はちょうど2022/23年度が終了したところである。こちらに、2022/23年度のウクライナの穀物輸出実績が出ているので、それを使い私が定番で作成しているグラフを上掲のとおり更新した。
引き続き戦乱に揺れたウクライナ農業であったが、2022/23年度の穀物(穀物粉も含む)の輸出は4,920万tとなり、前年度比1.6%増を示した。品目ごとに様相は異なり、主力のとうもろこしが24.4%増だったのに対し、小麦は10.1%減、大麦はさらに大幅な52.9%減となった。
黒海穀物イニシアティブの延長問題、ダム決壊の影響などが懸念され、果たして2023/24年度はどうなるだろうか。
当ブログでは、ロシア・ウクライナの経済地理、産業オタク話として、ロシア内陸のサマラ州トリヤッチからウクライナ・オデーサ州のピウデンヌィ港まで延びる「トリヤッチ~オデーサ・アンモニアパイプライン」の話題にしばしば触れてきた。しかし、ロシアによる侵攻開始後、ウクライナはその稼働を停止し、ロシアが再開を求め、「黒海穀物イニシアティブ」延長の条件の一つにも掲げていた経緯がある。
こちらの記事が、同パイプラインの起点に位置するトリヤッチアゾト社の現況について伝えているので、以下要点をまとめておく。
トリヤッチアゾトは、パイプラインの停止により巨額の損害を受け、現在は赤字の瀬戸際にある。工場にはアンモニア製造装置が7器あるが、現在は3器が稼働するのみで、ビジネス的にまずい状態である。
アンモニアパイプラインのロシア側は技術的に問題なく、運用可能な状態である。黒海に面したロシア・クラスノダル地方のタマニにアンモニアおよび肥料積み出し新ターミナルが建設されれば、ロシアの生産者(複数)のニーズを完全にカバーし、パイプライン停止の問題を解消できる。
新ターミナルの第1ラインはキャパ200万tで、2023年末の稼働を予定。第2ラインが2025年までに稼働すれば、アンモニア積出キャパは350万tに増大し、それとは別に150万tの尿素も積出可能となる。今後さらに増強することも可能である。
Wedge ONLINEに、「ロシア・ウクライナ農業に痛手のダム決壊で砂漠化進む?」を寄稿しました。無料でお読みになれますので、ぜひご利用ください。
ロシアでは10年に一度の国勢調査が2020年に実施され、その結果概要が出始めているところである。その中から、ここでは2014年にロシアが一方的に併合を宣言したクリミアの民族構成を見てみよう。ロシアの地域区分名で言えば、「クリミア共和国」とセヴァストーポリ市ということになる。
上表のとおり、2020年現在のクリミア半島の民族構成は、ロシア人68.7%、クリミア・タタール人10.2%、ウクライナ人6.9%となっている。
ちなみに、ウクライナ時代の2001年の調査では、ロシア人60.4%、ウクライナ人24.0%、クリミア・タタール人10.2%であったから、ロシア人比率が拡大している。併合を経て、入植してきたロシア人もいただろうし、ウクライナ本土に逃れたウクライナ人もいただろう。クリミア・タタール人の比率がくしくも同じだったことは興味深いが。
もっとも、今回の2020年の調査では、自らの民族的属性を申告しなかった人が、10.1%もいた。ウクライナ人が流出したという面と、そのように申告しなくなったという面の、両方がありそうだ。
例のダム決壊で、水没した地域の救済は喫緊に必要だが、中長期的に懸念されるのは、あの貯水池から農業用水を引いているヘルソン州、ザポリージャ州、ドニプロペトロウシク州などの農業の行方である。
そこで、ウクライナの地域別の主要農産物生産高を、上掲のとおりグラフにしてみることにした。拡大してご利用ください。対象は穀物、てんさい(砂糖ダイコン)、採油用作物のみであり、じゃがいもや野菜などは対象外にした。大豊作だった2021年のデータを使うことにした。以下、気付きの点を箇条書きで。
ウクライナ・ドニプロ川のノヴァカホフカ・ダムが決壊し、貯水池の水量が低下するとともに、下流が水没している問題。こちらの記事の中でI.リザンというロシア側の経済評論家が農業への影響についてコメントしているので、それを整理しておく。個人的に今回の件につきロシア側の言い分を信じているというわけではないが、産業への影響という話ならば参考になるだろうと考えた次第。
リザンによると、貯水池の水がきわめて浅くなってしまえば、周辺の耕地を灌漑するための水資源がなくなってしまい、農業は止まってしまうだろう。ただ、ウクライナ農業省の言うような「砂漠化」というシナリオには、議論の余地がある。砂漠化は、羊の大群が無秩序に放牧されて草を食いつくすなど、生態系全体が破壊されることを前提とするが、おそらくそうはならず、ウクライナは畑の一部を放棄するだけではないか。それらの地域では、確実に収量が低下するので、彼らは耕作を放棄するだろう。この地域の高温で乾燥した気候により、作物は枯死するだろう。しかし、今回の事故がもたらす結果を完全に評価するのは時期尚早で、水が止まるのを待つしかない。
ロシア側の耕地も、同じ灌漑システムにあるので、やはり被害を受けるだろう。他方、ヘルソン州にどれだけの灌漑農地があるのか、まだロシア側は把握できていない。サリド州知事代行は、178万haのうち60万haが灌漑されていると語っているが、詳細は不明である。また、2023年1月には、州行政の灌漑担当部局が3.2万haの灌漑を準備していたが、これはおそらく今回の事故でロシアが失う面積に見合っている。もっとも、ロシアがこの地域で耕作する作物の選択肢はあまり多くない。ヘルソン州ではかつてまさに羊の放牧により草が食い荒らされ、生態系が回復する暇がないほどであったが、耕作を慎重に行えばそうした破局的事態は回避できる。リザンは以上のようにコメントした。
ウクライナでは、国外の出稼ぎ等で稼いだお金を本国に送金するいわゆる「レミッタンス」が年々重要性を増し、言ってみれば「影の基幹産業」のようになっていた。しかし、この分野でも、戦乱による異変が生じている。
ウクライナ中央銀行の発表によれば、2022年のウクライナのレミッタンスの受入は131億ドルで、前年から3.6%低下した。受入は右肩上がりで上昇を続けていたが、それが縮小に転じた。従来、どちらかと言えば男性の国外出稼ぎの方が盛んだったが、彼らは開戦により本国に戻らざるをえず、現在外国に逃れているのは基本的に女性・子供・お年寄りだから、バリバリの労働力でないケースが多く、レミッタンス受入が低下するのも当然だろう。
もう一つの問題は、2022年には、出稼ぎによってウクライナにもたらされたお金よりも、出ていったお金の方が多かったと見られることである。こちらの記事によると、2022年5~12月にウクライナ国民がカードによって国外に持ち出した資金は3,614億グリブナで、前年同期の7倍に上った。これは、外国で買い物をしたり、外国の現金引き出し機でお金を引き出した額である。これは平均レートで約100億ドルとなり、通年に換算すると140億ドルに達し、上述のレミッタンス受入額を超えてしまう計算になる。
なお、上掲の図は、こちらの別記事から拝借したもので、ウクライナで発行されたカードの外国での利用状況を示している。濃い緑が現金引き出し、薄い緑が商店での利用を示している。
ウクライナ穀物協会のフェイスブックページに、ウクライナの穀物・植物油輸出を、「黒海穀物イニシアティブ」と、それ以外の代替ルートに区分したグラフが毎月発表されることは、個人的に把握していて、以前も当ブログで紹介したことがあったかと思う。
そうしたところ、今般、さらに興味深いデータが出ているのに気付いた。代替ルートのうち、ドナウ川港湾からの船積分に限ったデータが出ていたのである。オタクデータとグラフ作りが趣味の当方としては、これに反応せざるをえず、早速上図のようなグラフにまとめてみた。
国連とトルコの仲介で成立した「黒海穀物イニシアティブ」が、昨年8月から動き出し、それにより港で滞貨していたウクライナの農産物がだいぶさばけたことは、良く知られているだろう。ただ、こうやって見ると、確かに同イニシアティブは主力の輸送路となっているが、代替ルートも引き続き重要であり、ざっくりいうと同イニシアティブが3、代替が2くらいの割合になっている。そして、代替ルートの半分ほどが、ドナウ川港湾での船積という図式だ。
正直言うと、個人的には、黒海穀物イニシアティブが稼働したことで、ドナウ川ルートは重要性を失い、もっと下火になっていたのかと思っていた。むしろ、グラフで見る赤の部分が大きくなり、これは陸路で近隣の中東欧諸国に流れているのが大部分だろうから、だからこそポーランド等の中東欧諸国でウクライナ産農産物のボイコットが起きているのだろうというのが、私の見立てだった。もっとも、ドナウ川経由の少なからぬ部分が、やはり中東欧のルーマニアやブルガリアに流入していたという可能性はあるだろう。
ドナウ川を青にしたこと、どれだけの人が気付いてくれるかな。
以前私が編集長を務めていた『ロシアNIS調査月報』、その役目を離れてからも、寄稿は続けている。このほどその6月号が発行されたので、ご紹介する。
毎年6月号は、ロシア以外のNIS諸国を特集することになっている。今回私は、その枠内で「制裁下のベラルーシにおける基幹産業の動向」という長目のレポートを執筆した。残念ながら、ルカシェンコ健康不安説が浮上したのは、本稿を脱稿した後だったので、その話題に触れることはできなかったが、内容的に産業動向を掘り下げたものなので、まあ特に問題はないだろう。
もう一つ、特集の枠内で、「農産物輸出めぐりウクライナ・EU間で不協和音」という短目のレポートも書いている。また、メインレポートの「2022~2023年のロシア・NIS諸国の経済トレンド」の中でも、ウクライナの部分を担当している。
さらに、これは特集の枠外になるが、INSIDE RUSSIAと題するロシア連載で、「ワグネルの創設者プリゴジンの主張」を執筆した。
ロシア・ウクライナ・ベラルーシは、自分が主たる研究対象と位置付ける3国なわけだが、さすがに一つの号でその全部についてレポートを書くのは、少々骨が折れた。
皆さんG7の模様やゼレンスキー大統領の訪日を固唾を飲んで見守っているところかと思うが、私は昨日あたりは終日、来たる比較経済体制学会での発表に向けて、ロシアの穀物輸出にかかわる統計分析に没頭していた。当初、自分が思い描いていたのとは逆の相関関係が示されてしまったりして、いっそのことデータ不正でもしてやろうかと思ったが(ウソですw)、試行錯誤をしているうちに、どうにか自分の納得できる分析結果に行き着き、安堵したところだ。
さて、このところ私が集中的に調べているロシアおよびウクライナの穀物輸出の分野で、最大の話題と言えば、何と言っても国連・トルコの仲介で成立したウクライナ産農産物輸出プロジェクト「黒海穀物イニシアティブ」の期限が5月18日に切れることになっており、ロシアがその延長を妨害する構えを見せていたことが、焦点だった。結局、今回もまたロシアは2ヵ月の延長に応じ、拍子抜けの結果となった。ロシアとしては食料を武器に欧米やウクライナを揺さぶりたいが、グローバルな食料安全保障の問題に直結するだけに、脅迫はしても、実際に引き金を引くのはハードルが大きいのだろう。
さて、地理オタクとして、今回興味を惹かれたのが、黒海穀物イニシアティブの対象港湾として、これまではオデーサ州の3港だったのに対し、2港追加されるという話が出てきたことである。具体的には、ミコライウ港と、そこからほど近いオリヴィヤ港という2港である。ちなみに、オリヴィヤ港は以前はオクチャブリスク港と言ったのだが、これは社会主義10月革命にちなむネーミングであり、ウクライナ当局の脱ソビエト路線に沿って、2016年10月にオリヴィヤ港に改名されたという経緯がある。
どこかに良い地図がないかと思って探したら、開戦初期に出たこちらの記事の地図が良かったので、上掲のとおり転載させてもらった。ただし、ワシントンポストをもってしても、港の名前は旧名のオクチャブリスクのままとなっている(ついでに言えばチョルノモルスク港、ピウデンヌィ港も旧名のまま)。
なお、黒海穀物イニシアティブで2港が追加されることは、まだ一部で憶測として語られているだけであり、こちらの記事によると、ウクライナのM.ソリスキー農相が先走った情報を戒めたということである。農相によると、両港から船が出ることは可能になったが、他から来た船が停泊することは依然としてできない状態であり、まだ正常に稼働しているわけではない由。
以前も申し上げたとおり、現在ウクライナ大統領オフィス長官顧問を務めるM.ポドリャク氏は、かつてベラルーシでジャーナリストとして活躍し、ルカシェンコ体制の内幕に迫る良い仕事をしていた。私はその時代に大使館で同氏と対面したことがある。今だから言うが、外務省からとあるムネオチルドレンがベラルーシを訪問することになり、なるべく多くの面白い有識者に会いたいというので、個人的に注目していたポドリャク氏と引き合わせ、私も立ち会ったのだった。そして昨年、久し振りに同氏の名前を聞いたと思ったら、ウクライナでえらく出世していたので、驚いたわけである。
そのポドリャク氏が、ベラルーシ系のメディアのインタビューに答えており、例のルカシェンコ重病説などについてコメントしている。考えてみれば、この人ほどベラルーシ・ウクライナ関係を的確に見ることのできる人はいないだろう。以下、発言内容を整理しておく。
ロシアにとっても、ベラルーシにとっても、ルカシェンコの健康に多くがかかっている。クレムリンは戦争に関連し、情報、プロパガンダ、領土の提供などで、ベラルーシに期待している。ルカシェンコの健康に関するニュースは、ロシア指導部を慌てさせている。本件は、戦争のすべてのプロセス、少なくともその北部方面を、根本的に変えるものである。
ウクライナは、ルカシェンコの健康に関する情報に関しては、中立的な立場である。ウクライナにとって肝心なのは、ベラルーシ当局がいずれかの時点で、ウクライナの戦線で現実に起きていることを、悟ることだ。なぜロシアの敗北が不可避なのか、なぜベラルーシの不適切な対外路線が自国の未来にとって重大な結果をもたらすのかを、悟ってほしい。
(ルカシェンコが国連総会に招待されたことに関しては?)戦争の行方に大きな影響を及ぼすものではない。むろん、ウクライナとしては外交ルートを通じて不快感を示し、あらゆる法的・外交的手段でそれを阻止することになる。
(5月9日にウクライナの特務機関がベラルーシでテロを起そうとしたと、ベラルーシ当局が非難していることに関しては?)まったくばかげている。ウクライナが戦っているのはもっぱら防衛戦争である。たとえウクライナ侵略に加担しているからといって、ウクライナが第三国でテロを起こすことはありえない。
(ベラルーシ側が対ロシア国境の管理を強化していることに関しては?)ロシアではこれまで一貫して優位だったシラビキの権力体系が急激に弱体化しており、これから武器をもった人々が社会復帰をすると、その武器を使って不法行為を働く可能性がある。ベラルーシは、今後ロシアに到来するそのような犯罪の波を、本能的に感じ取っている。ロシアで起きようとしているのは、古典的な革命ではなく、武器を使った広範な反乱であり、ベラルーシはそれから逃れようとしている。
Wedge ONLINEに、「あのポーランドがなぜ? ウクライナ産農産物拒絶の裏側」を寄稿しました。無料でお読みになれますので、ぜひご利用ください。
ロシアが始めた戦争の余波で、ウクライナから黒海を通じた農産物輸出が限定され、余剰農産物のかなりの部分が陸路により近隣の中東欧諸国に流入していた問題。ポーランド等の中東欧諸国がウクライナからの農産物輸入を禁止するという非常手段に訴え、EUとしての結束が乱れていたが、EUはどうにか本件に関する妥協的解決策を見出した。
一方、ウクライナと同じくEU加盟候補国であり、ロシアの侵略に関してはウクライナと連帯する姿勢を示しているモルドバも、ウクライナからの農産物流入で苦しんでいる点は同じのようだ。こちらの記事によれば、モルドバの農業団体「農民の力」は、EU加盟中東欧諸国の例に倣い、モルドバもウクライナからの小麦、とうもろこし、ひまわりの種、菜種の輸入を一時的に禁止するよう、政府に陳情した。さもなくば、モルドバは農民たちの抗議活動で埋め尽くされるだろうと、同団体は警告した。同団体では、この状況は、モルドバ農民を苦しめているだけで、ウクライナの助けにはまったくなっておらず、国民の欧州統合支持率を低めてしまうだけだと指摘した。
こちらの記事が、モルドバ政府の対応方針につき伝えている。モルドバ政府、農業省、農業生産者団体は、ウクライナからの穀物輸入量を、1日置きにモニターしている。もしも国内の倉庫に収めきれないほど大量の流入があった場合には、政府は国内生産者の利益に沿って事態をコントロールすることになる。政府はまた、燃料、肥料の高騰に苦しんでいる農家を支える支援策も検討している、という。
これは半年ほど前の古い情報で、地味な話題であるが、自分の研究分野で見落としていた動きがあったので、まとめておく。2011年10月18日調印のCIS自由貿易協定というものがあり、ウクライナもその加盟国だったが、こちらの記事によると、同国では協定を破棄すべく法案起草に着手したということである。なお、試みた限り、その法案が現在までに実際に可決されて現実のものとなったとは、確認できなかった。
記事によると、ウクライナ最高会議の経済発展委員会のR.ポドラサ副委員長が、D.シュミハリ首相との会談後、CIS自由貿易協定破棄に関する法案起草に着手したことを明らかにした。
副委員長は、「CIS自由貿易協定破棄問題に着手した。我が国の貿易を脱植民地化すべき時だ。ウクライナはCIS自由貿易協定のすべての参加国との二国間の自由貿易協定、GUAM自由貿易協定、ジョージアとの自由貿易協定、モルドバとの自由貿易協定を有している。さらに、汎欧州・地中海条約も適用している。このように、ウクライナの生産者にとって有益な多くの枠組みがあり、ロシアが自分の条件を押し付け横暴に振る舞っているロシア中心主義のCIS自由貿易協定に参加し続ける必要は一切ない」と発言した。
近く、協定破棄準備の一環として、議会・政府共同で、中央アジア各国との二国間協定をアップデートするとともに、モルドバとの原産地証明協定の批准、GUAMの原産地規則覚書の批准を完了する。
こちらの記事が、ロシア占領下の自称「ドネツク人民共和国」のマリウポリ港から、初めて穀物が積み出されたということを伝えている。ただし、輸出向けではなく、ロシア本土(おそらくロストフ州あたり)に運び出される形である。さすがに人民共和国からの輸出では外国の買い手がつかないので、ロシア本土に運んでロシアで利用するか、あるいはそこからロシア産として輸出するのだろう。ロシア・ウクライナ戦争が、どのように推移していくのか、まだ分からないが、ロシア支配地域では、このように新しい日常が既成事実化されていくのであろうか。
記事によると、マリウポリ港から初めて、穀物が船積みされた。自称「ドネツク人民共和国」のD.プシーリン首長がテレグラムチャンネルに投稿した。
プシーリンは、「予定されていたとおり、マリウポリ港で、ドネツク人民共和国産の穀物が初めて船積みされた。先日、当地にD.パトルシェフ・ロシア連邦農相が訪問した際に、人民共和国のYe.ソンツェフ首相、その他の関係機関幹部と、港に穀物ターミナルを開設する作業につき話し合った。今回は、穀物積み込みのため、マリウポリに建設資材を運んできた船を利用することにした。行きは建材を運び、帰りは穀物を運ぶことで、輸送費を数分の1に抑えることがき、また自動車道路の通過ポイントの負担も軽減できる。穀物を人民共和国の域外に出荷することにより、当地にとって主要産業の一つである農業を活性化できる。マリウポリ港からロシアの他の隣接地域に穀物を運ぶことができる」と投稿した。
一部の中東欧諸国が、ウクライナからの農産物輸入を禁止する措置に出て問題となっていたが、EUは本件をどうにか解決したようだ。
そもそもの経緯を述べると、2014年の連合協定でEUは大半のウクライナ産品に対する関税を撤廃したものの、農産物・食品はEU各国の利害にかかわるセンシティブな分野ということで、EUは関税割当という形での障壁を残した。しかし、ロシアによる侵攻開始を受け、EUはウクライナ支援の目的で、2022年6月から1年間、ウクライナ産農産物・食品に対するすべての障壁を一時的に撤廃した。
そして、こちらの記事によると、EU諸国は昨日28日、ウクライナ産品に対するすべての関税および関税割当の免除を、さらに1年間継続することを決めた。
問題は、ロシアによる実質的な黒海封鎖で遠隔市場に充分に輸出できなくなったウクライナ産農産物が、ウクライナに対する優遇措置により、近隣のポーランド等の中東欧に大量に流れ、地元の生産者にダメージを与えていたことだった。このほど、その問題についても、解決策が見出された。
こちらの記事などに見るように、ポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアがウクライナ産農産物(小麦、とうもろこし、菜種、ひまわりの種および油)の輸入を禁止することは認めるものの、同諸国はウクライナ産農産物を然るべくトランジットし、他のEU諸国に輸出できるようにはするという合意が成立した。また、中東欧諸国には1億ユーロの支援金が提供され、うち4,000万ドルがポーランド向けとなる。
昨日26日、ゼレンスキー・ウクライナ大統領と習近平中国国家主席がビデオ会談を行った。現時点で私がフォローしている中心的なテーマは、黒海穀物イニシアティブが5月以降も継続されるかということであり、実はこのプロジェクトでウクライナ産穀物を最も多く受け入れている国が中国であるという事実がある。昨日の会談で、その件について交わされたやりとりを、こちらの記事などが伝えているので、以下骨子をまとめておく。
ゼレンスキー大統領が明らかにしたところによると、会談の中で習近平主席は、黒海穀物イニシアティブ、国連世界食糧計画のプログラム「ウクライナからの穀物」を支持する旨を述べた。
ゼレンスキーは、「航行と通商の自由に関し、中国が我が国と同じ見解を有していることは、きわめて重要である。私は習近平氏に、食料の海路輸出再開に向けた我が国の努力につき説明した。そして、黒海穀物イニシアティブ、その延長、また我が国による人道的活動、とりわけ『ウクライナからの穀物』プログラムを支持しているとの発言を聞くことができた」と明らかにした。
こちらが伝えているように、ロシアの現地行政当局は昨日24日、ウクライナ軍によるクリミア半島のセヴァストーポリ港に対するドローン(無人機)攻撃を撃退したと発表した。M.ラズヴォジャエフ・セヴァストーポリ市長は「最新情報によると、水上無人機1機が破壊され、もう1機は自爆した」とSNSに投稿、「市内は現在、静かだ」とした。被害は報告されていないという。
そして、こちらに見るとおり、本件に関しロシア国防省が声明を発表した。くだんの無人機はオデーサ港近辺から発射されており、これは黒海穀物イニシアティブの合意に反するので、ロシアは5月に期限の切れる同合意の延長には応じない可能性があると脅す内容になっている。以下、声明を翻訳しておく。
ウクライナが2022年10月に「穀物回廊」の確保に関わる黒海艦隊艦船および民間船舶に対して無人機によるテロ攻撃を行ったことを受け、ロシア連邦はウクライナの港からの農産物輸出に関する協定の実施を停止した。
その後、ウクライナが人道回廊およびウクライナ港湾をロシア連邦に対する軍事行動に使用しない旨、トルコが保証を行い、ウクライナが書面で約束したことで、ようやく協定が再開された経緯がある。
2023年3月23日と4月24日、これらの保証に反し、ウクライナは黒海艦隊のセヴァストーポリ基地とクリミアの民間インフラを無人機で繰り返し攻撃した。
ウクライナの無人機の航路を分析したところ、すべての無人機が黒海穀物イニシアティブの実施目的で指定されているオデーサ港の水域から発射されていたことが判明した。それらの無人機はまた、ウクライナ港湾から農産物を輸出するために指定されている人道回廊の海域で旋回していた。
キエフ当局のテロ行為は、本年5月18日以降の穀物合意の再度の延長を、危機にさらすものである。