ロシア・ウクライナ・ベラルーシ探訪 服部倫卓ブログ

ロシア・ウクライナ・ベラルーシを中心とした旧ソ連諸国の経済・政治情報をお届け。

カテゴリ: ウクライナ

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 ナゴルノカラバフでガチの戦争が起きて、ベラルーシはあっという間にオワコンか。8月から9月にかけて、日本における数少ないベラルーシ専門家として重宝されたけど、もうバブルも終わりだな。うだつの上がらない平民出に巡ってきたビジネスチャンスだったけど、短ぇ夢だったな。

 それはそうと、こちらのページに、興味深い図解資料が出ていた。旧ソ連の各国に、「ポーランドカード」がどれだけ発行されているかを比べたものである。それに加え、2段目にポーランド永住権の供与数、3段目にポーランドに留学している学生の数が出ている。

 ポーランドカードというのは、芸がないようだがウィキペディアによれば、ポーランドで2008年に発効した制度であり、旧ソ連のポーランド系住民に対し「ポーランド民族」に属すというお墨付きを与える制度で、2019年からは旧ソ連域外の人々にも適用されるようになった。制度の実質的な狙いとしては、旧ソ連の同胞を労働移民として迎え入れる点にあるということである。

 2019年の国勢調査によれば、ベラルーシには29万人のポーランド系住民が存在することになっている。一方、今回の資料によれば、ポーランドカードを取得したベラルーシ国民は14万人あまりなので、約半分がそれを取得したということになろうか。今般のベラルーシ民主化運動に至る底流として、ポーランドとの関係拡大という要因もあったという仮説が成り立つだろう。


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 GLOBE+に、「ベラルーシの民主化を牽引する地域は? ウクライナとの比較考察」を寄稿しました。

 本連載でこのところずっと取り上げているベラルーシ情勢は、どうも憂慮すべき方向に進んでいるようです。ロシアの全面バックアップを受け、ルカシェンコの恐怖政治が当面延命されるという見通しが強まってきました。

 依然として事態は流動的であり、目先の情勢分析などはすぐに陳腐化してしまいそうです。そこで今回も、ベラルーシ情勢を理解するための基本的なところについて解説した次第です。この連載では8月25日に「2020年のベラルーシと2014年のウクライナはこんなにも異なる」というコラムをお届けしました。その時には割愛した「地域」という観点から、改めてベラルーシとウクライナを比較してみました。


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 少々地味な話題を一つ。ウクライナでは、肥料輸入をめぐる綱引きがある。同国はもともとカリ肥料、リン酸肥料は国内でほぼ生産できないので、綱引きは主に窒素肥料をめぐって生じる。国内に4箇所の窒素肥料工場を抱えるOstchem社(D.フィルタシ氏)は、議会の野党ブロックなどの化学ロビーを駆使し、窒素肥料の輸入を制限しようとする。それに対し、農業業界は、農業ロビーを通じて、ウクライナの肥料の国内価格は高すぎると訴え、輸入を自由化すべきだと働きかける。これが基本的な構図である。

 実は、しばらく前に、これに関連する動きがあったので、後追いになるが、メモしておく。こちらの記事が伝えているように、化学ロビーは窒素肥料の輸入に30%の割当を導入することを目論んだ。ウクライナの国内需要のうち、輸入で賄っていいのは30%だけであり、残り70%は国内の肥料生産者(Ostchem、ドニプロアゾト、オデッサ臨港工場)の生産で満たすべきだという立場であった。しかし、6月下旬、省庁間国際貿易委員会は、本案を却下することを決定した。ゼレンスキー大統領も、輸入制限の必要はなく、農業生産者はより多くの肥料を得てウクライナの農業ポテンシャルを発展させるべきだ、これぞ我が国の食料安全保障だとコメントした。なお、割当制を導入した場合には、1億~2.4億ドルの損害がウクライナ経済に及ぶという調査結果も発表されていた。それに対し、化学工業の業界団体は、この決定は反国家的である、この決定に異議を申し立てる準備をしている、ウクライナの農業生産者も中長期的には問題に直面するだろう、外国の肥料生産者はまずダンピング価格でウクライナの生産者を駆逐して、その上で価格を引き上げるだろう、などと批判した。


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 GLOBE+に、「2020年のベラルーシと2014年のウクライナはこんなにも異なる」を寄稿しました。

 実を言うと、ベラルーシとウクライナのそれぞれで、東西のコントラストがどう違うかというところまで書きたかったんですけど、長くなりすぎるので、割愛しました。そのテーマについては、また他日を期したいと思います。


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 GLOBE+に、「ロシアとウクライナにまたがる『世界最長の化学品パイプライン』の謎を解く」を寄稿しました。知る人ぞ知る米ソ・デタントの落とし子、トリヤッチ~オデッサ・アンモニアパイプラインについて語ったものです。

 なお、昨日も述べましたが、日曜日に投票があったベラルーシ大統領選挙につき、月曜昼締め切りのコラムに仕立てるのは無理ですので、今回は見送りました。次回以降で論じてみたいと思います。


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 マニアックな話で恐縮だが、現時点で、ウクライナで最大の貨物量を誇る港は、ピヴデンヌィ港である。そのシェアは年々拡大しつつあり、2019年にはウクライナ全体の39%を占めた。なお、昔はユジネ港と言ったのだが、しばらく前にピヴデンヌィに名前が変わったようだ(昔からピヴデンヌィ・ターミナルというのはあったが、港全体の名前がピヴデンヌィに変わった)。

 ちょっと用事があり、2019年のピヴデンヌィ港の貨物構造を示した上のような表を作成した。この中で、「トランジット」というのは、外国に代わってその国の貨物を処理する業務のことであり、ウクライナの場合は実質的に、ロシアの港では処理し切れないロシアの輸出向け貨物を、代わりに輸出用に船積みしてあげるサービスだと理解していい。ウクライナの港のトランジットは、ウクライナ・ロシア関係の悪化に伴い縮小の一途を辿っているのだが、注目すべきことに、ピヴデンヌィ港ではいまだにその業務がかなりのボリュームで残っている。

 上の表を見ていただくと、トランジット貨物は、鉱石と液体化学品という2品目に集中していることがお分かりいただけるだろう。具体的に言えば、鉱石は、ロシア最大の鉄鉱石生産者であるメタロインヴェスト社の鉄鉱石であることが知られている。一方、液体化学品は、ロシアのトリヤッチアゾト社からパイプラインで運ばれてくる液化アンモニアを、ピヴデンヌィ港の敷地内にあるオデッサ臨港工場で積み出しているものである。

 興味深いのは、こちらに見るように、2019年9月に、ウクライナの鉄鉱石生産・輸出企業であるメトインヴェスト(オーナーはR.アフメトフ)とFerrexpo(オーナーはK.ジェヴァホ氏)が連名で、ウクライナの港にロシア産鉄鉱石のトランジットを止めさせるよう、V.ゼレンスキー大統領に直訴していることである(こんなものを「興味深い!」と色めき立つのは私だけかもしないが)。その直訴状の中で主張されているのは、以下のような点である。いわく、2019年に入り、ウクライナ領を経由して輸送されるロシア産鉄鉱石が急増しており、ピヴデンヌィ港方面に運ばれている。その結果、港湾および鉄道のキャパシティが限定され、ウクライナの鉄鉱石生産者が貨物の処理を依頼しても断られるような状況が生じている。ウクライナの生産者としては代替のルートはないのに、ロシア産鉄鉱石にキャパを奪われている。しかも、ウクライナ鉄道はトランジット輸送に値引き料金を適用し、ウクライナ企業を不利な立場に陥れ、ロシア企業にますますウクライナ・ルートを活用することを促している。ウクライナ港湾管理局とウクライナ・インフラ省も、トランジット貨物を輸送する船舶の港湾利用料に特別値引きを提供し、ここでも国内生産者は差別を受けている。大統領は本件に介入し、内閣がこの問題を早急に見直すよう指示してほしい。ロシア産鉄鉱石のトランジットは、ウクライナ生産者の輸送ニーズがすべて満たされた上で認めるようにしてほしい。直訴状では、このように訴えられていた由である。


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 地味に忙しい日なので、ブログは簡単なネタでご容赦いただくと、こちらのページに、2020年上半期(1~6月期)のウクライナの鉱山・冶金部門の生産動向が出ているので、それをチェックしてみよう。

 ウクライナの場合、鉱山・冶金産業はそもそもが斜陽化しつつあった部門であり、その上、2014年以降の情勢、とりわけドンバス紛争により、より一層事業環境が悪化している。追い打ちをかけるように、世界の鉄鋼市場では2019年第3四半期から市況が悪化し、それにさらにコロナ危機も加わって、状況は最悪に近い。

 そうした中、2020年上半期の生産実績は、以下のとおりであった。

  • 鉄鉱石精鉱:1,574万t(前年同期比0.4%減)
  • コークス:481万t(7.3%減)
  • 銑鉄:998万t(2.6%減)
  • 粗鋼:1,010万t(7.6%減)
  • 完成鋼材:903万t(4.7%減)
  • 鋼管:41万t(29.4%減)

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 こちらのサイトで、I.ザハルキンという論者が、ベラルーシとウクライナの経済関係について論じているので、以下のとおり要旨を整理しておく。

 1年前にウクライナでゼレンスキー大統領が就任し、ベラルーシ当局はこれでウクライナとの関係が活発化し、新たな協力のレベルに達すると期待した。しかし、1年経ってみて、ベラルーシはウクライナの対外関係の優先度で低いままであり、ベラルーシ側が目論んだ計画はまったく実現していない。それのみならず、二国間関係は、ウクライナの国内の力学により、損なわれている。

 依然としてベラルーシ側の期待は大きく、7月初めにベラルーシのI.ソコル・駐ウクライナ大使は、いつかウクライナがベラルーシにとって最大の貿易・経済パートナーになることを望むと発言した。つまり、ベラルーシの経済パートナーとして、ウクライナがロシアをも抜くというのである。

 専門家の見るところ、現時点でその経済的根拠はない。2020年1~5月に、両国の貿易は前年同期比22.8%も低下した。コロナの影響もなくはないが、それが主原因ではない。最大の問題は、今年に入りベラルーシのロシアからの原油輸入が途絶し、その影響で、ベラルーシからウクライナへの石油製品の輸出が縮小したことである。

 2019年にはベラルーシは、前年を4.6%上回る330万tの石油製品をウクライナに輸出した。2020年にはベラルーシの2箇所の製油所は近代化を終え、軽油の輸出を300万t拡大しようとしていたが、その大部分はウクライナ向けが想定されていた。ところが、5月までのウクライナ向けの石油製品輸出は68万tで、前年同期比27.7%だった。

 過去2年間で、ウクライナの軽油市場におけるベラルーシ産の比率は、43%から30%に低下し、さらに落ち込みが続いている。また、ベラルーシ側としてはガソリンにも多くは期待できない。ウクライナはかなり前から、市場の40%を占めるベラルーシ産ガソリンに苛立っており、国産を拡大して国内需要を自給する意向があるからである。もっとも、クレメンチューク製油所での精製を年産300万tから500万tに高めるという計画は机上のものであり、ベラルーシ側はその実現を疑っているが。しかし、今後もウクライナ側がベラルーシからの供給を黙って見ているとは思えず、増してやウクライナ国内のオリガルヒがその利権を争っている。

 ウクライナのオリガルヒたちにとって、ベラルーシの生産者が主たるライバルだと見られていることは、多くの事実が物語っている。まず、近年ウクライナがロシアおよびベラルーシ産品に対して多数のアンチダンピング(AD)関税を適用し、実質的にウクライナから締め出していることがある。ゼレンスキー大統領が登場し、2019年10月には地域フォーラムでルカシェンコと親しげに抱擁したが、AD関税は停止されるどころか、さらに勢いを加速している。しかも、ウクライナはベラルーシの最もデリケートな部門を狙い撃ちにする。

 具体的には、ベラルーシ産の建材が、だいぶ前からその対象になっている。ベラルーシの4社は、2019年の段階でウクライナの建材市場で11%のシェアを占めた。これに対し、2019年5月にウクライナは、ベラルーシからのセメントに5年間のAD関税を導入した。2020年2月にはこれに軽量気泡コンクリートも加わった。

 他方、2019年12月にウクライナは、ベラルーシとモルドバからの鉄筋の輸入に、期間5年でAD関税を導入している。また、ベラルーシとロシア産のマッチに対するAD関税もある。

 さらに、ベラルーシ原発が稼働目前だが、ウクライナは長らく沈黙したすえ、突然バルト諸国に同調し、同原発から電力を輸入しないことを決めた。販路の確保に苦慮する中で、ウクライナは主要市場と位置付けられていたのである。2019年には、ウクライナ電力市場が自由化されたことを受け、ベラルーシはウクライナへの電力輸出を8.5億kWhにまで、売上を4,560万ドルにまで拡大した。ベラルーシは原発の完成後は50億~60億kWhを輸出したいとしていたが、ウクライナは必要としていないことが明らかになった。ウクライナの電力バランスでは、2020年の輸入は21億kWhとされており、それを今後引き下げる予定である。

 しかも、ウクライナは今後、欧州のエネルギー共同体の外部からは電力を輸入しないという方針を示している。これに伴い、ロシアおよびベラルーシからの電力輸入を、2021年12月31日までに禁止することを盛り込んだ法案が準備されている。これには、ウクライナの電力部門を支配するR.アフメトフや、I.コロモイスキーらオリガルヒの意向も働いているとされる。


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 GLOBE+に、「底辺で喘ぐ旧ソ連の出稼ぎ労働者 安住の地はロシアか?EUか?」を寄稿しました。

 いつの頃からか、モスクワをはじめとするロシアの大都市では、外国人労働者の姿を頻繁に見かけるようになりました。ロシア国民は、清掃や建設作業のようなきつい仕事を敬遠し、それらが外国人労働者によって担われるようになったのです。そうした中で襲い掛かってきたのが、今般の新型コロナウイルス危機でした。このウイルスが、人の移動や接触を伴わざるをえない出稼ぎ労働の大敵であることは、言うまでもありません。しかも、経済がほぼストップしてしまうわけですから、踏んだり蹴ったりです。今回のコラムでは、中央アジアおよびウクライナの労働移民の境遇について、取り上げてみました。


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 少々マニアックな話になるが、鉄鋼の間接輸出、間接輸入という概念がある。間接輸出入とは、鉄が機械などに加工され、その機械が輸出入されることによって、結果的に材料の鉄も国境を越えて移動することを意味している。

 そこで、世界鉄鋼連盟が発表している統計にもとづき、私の主たる研究対象国であるロシア・ウクライナ・ベラルーシにつき、鉄鋼の直接輸出入と、間接輸出入の数字をまとめたグラフを作成した。

 ロシア(上のグラフ)と、ウクライナ(下のグラフ)では、鉄の間接輸出はごくわずかであり、鉄を鉄のまま輸出するプリミティブな産業構造が見て取れる。両国は鉄鋼の直接輸出国としては世界の上位に位置するが、間接輸出になると地位が下がり、2017年時点でロシアは27位、ウクライナは40位にすぎなかった 。

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 それとはパターンが異なるのが、ベラルーシである。下図に見るように、ベラルーシの鉄鋼間接輸出量は、人口・経済規模がより大きなロシア・ウクライナのそれにほぼ比肩しており、最新の2017年にはウクライナよりも上の世界36位に位置している。鉄鋼自体の生産・輸出も手掛けながら、それを上回る規模で鉄を加工し(自国産だけでなく輸入した鉄鋼も材料として使用)、付加価値を付けて輸出しているのが、ベラルーシというということになる。

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 「ちょっと用事があってこんな図表を作ってみましたシリーズ」で、今回お目にかけるのはウクライナの鉄鉱石輸出の相手地域・国別状況。価格は結構変動があるので、数量で見ることにする。

 ウクライナでは、ドンバス紛争などで国内の鉄鋼産業が落ち込み、結果的に鉄鉱石輸出余力が増して、2014~2015年頃に鉄鉱石輸出が拡大する動きがあった。しかし、2016年以降は、その動きは止んだ(2019年こそ輸出が多少伸びたが)。

 輸出相手地域・国を見ると、EUと中国が双璧となっている。かつてはEU向けが大部分だった時期もあったが、2000年代の中盤から中国が台頭し、EUと中国という2大市場向けが拮抗するようになった。2014年の政変後の欧州接近が作用してか、2016~2018年にはEU向けの方が上回っていたが、2019年には中国も盛り返した。今回こうやって見てみると、ウクライナのEU向け鉄鉱石輸出は、かなり中東欧に偏重しているということが分かった。

 日本への輸出も、概ね安定的に伸びてきている。2019年の時点で、ウクライナの鉄鉱石輸出の3.3%を占めた。

 旧ソ連のCIS・ジョージアは、ウクライナの鉄鉱石輸出相手として重要ではないが、私の個人的な関心から加えた。それにしても、ベラルーシには高炉がないのに、ウクライナから鉄鉱石を輸入して、どう使っているのだろうか?


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 ロシアにメチェルという中堅鉄鋼・石炭グループがあるが、長らく赤字経営に苦しんでいる(その結果、こちらが伝えるとおり、今般最大の資産であるエリガ炭田の売却を余儀なくされた)。同社はかつてウクライナのドネツク電気冶金工場というアセットを買収したものの、経営は上手く行かず、しかも周知のようなドンバス情勢となり、完全に不良資産と化している。

 メチェルはドネツク電気冶金工場の売却を試みたのだが、買い手が見付からなかった。あの件がどうなったかと思い、久し振りに情報を検索して見たところ、昨年10月のこちらの記事が見付かったので、以下要旨をまとめておく。

 I.ジュミン氏の保有するメチェルはD.コザク副首相に、同社がドネツク電気冶金工場に投資した資金の50%を取り戻すことを支援してほしいとの書簡を送った。この資産はウクライナ東部の軍事紛争で失われてしまったと訴えている。また、同社は債務のリスケも要請している。書簡は2019年夏に送付されたものであるという。

 メチェルがドネツク工場の経営権を取得したのが2009年、5.4億ドルで買収したのが2011年だった。2011~2018年にかけて毎月分割で支払うはずだった。工場はその時点で年産100万tだった。メチェルは工場の近代化に10億ルーブルを投資し、ほぼ100%の稼働を達成していた。しかし、原料となる鉄スクラップの不足により、生産がペイしなくなり、2012年に操業が停止された。そこへ、2014年4月に紛争が発生し、事業を継続できなくなった。2016年夏には、経営権を自称ドネツク人民共和国の当局に剥奪された。こうした状況にもかかわらず、メチェルはアルファバンクに対する融資の返済を続け、2019年2月に完済した。

 こうしたことから、ジュミンはコザク副首相に対し、工場に投資した180億ルーブルの50%の返還を手助けしてほしいと要請し、それをロシアの一連の国営銀行に対する支払いに充てたいとしている。また、それらに対する債務3,400億ルーブルのリスケを希望している。

 なお、ドンバス占領地においては、2016年6月にドネツク電気冶金工場がドネツク人民共和国によって勝手に国有化され、「ユーゾフカ冶金工場」に社名変更されるという動きがあった(ユーゾフカはドネツクの旧名)。こちらが、その公式HPである。こちらの記事によると、同工場では、発注がないことから、2019年10月より生産が停止しているが、この春になり生産再開に向けた準備を始めているという情報もあったということである。

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 しばらく、鉄鋼業に関連したエントリーが多くなるかもしれない。「何か事情があるのだろうな」とお察しいただければ幸いである。

 さて、世界鉄鋼協会の発表しているデータにもとづき、主要国の粗鋼生産量の推移を示すと、上図のようになる。クリックすると拡大。まあ、とにかく、世界の鉄鋼生産の半分を中国一国で生み出すという時代となっており(2019年のシェアは53%)、私のような日本のロシア・ウクライナ研究者にとっては、グラフを作っていて虚しいというか、もはやグラフとして成り立たなくなってきた感すらある。

 ロシアの場合は、生産規模を維持はしているので、マシな方かもしれない。なお、ウクライナは私の研究対象国だからこのグラフに加えてあるが、世界8位という意味ではなく、ウクライナの上にあるトルコ、ブラジル、台湾といった国々をグラフでは省略しているだけであり、2018年の場合はウクライナは世界13位だった。


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 ウクライナにはかつてドニプロシナというタイヤ・メーカーがあったのだが、2013年に操業を停止しており、それ以降はキエフ州ビラツェルクヴァ市にあるロサヴァ社が唯一のメーカーとなっている。ロサヴァは鉄鉱石で有名なオリガルヒのK.ジェヴァホ氏が保有する企業だった。どういう秘訣があったのかは良く分からないが、ウクライナの製造企業としては例外的に堅調な輸出実績を誇り、ロシアをはじめとするCIS市場だけでなく、EUへの輸出も手掛けていた。

 ところが、そのロサヴァでは負債が膨らみ、2018年暮れに破産申請を行ったということである。こちらの記事によると、ロサヴァとしては民事再生を図りたいのだが、債券を安く買い取ったインヴェストヒルス・ヴェスタ(Инвестохиллс Веста)という投資会社がそれを妨害しているという。この記事は、おそらくロサヴァ側の言い分にもとづいて書かれたものなので、鵜呑みにしてはいけないが、記事によればインヴェストヒルスはロサヴァを清算し、工場を解体して手っ取り早く屑鉄として売り払おうとしているのだという。

 記事によると、ロサヴァにとって打撃となったのは、原料の80%を輸入に依存しそのコストが増大していること(ゴムからスチールコードまで輸入)。ウクライナ政府が製造業を支援してくれないこと、一連の諸外国がアンチダンピング措置を講じたこと、ロシアとの対立で同国の市場を失ったこと、直近ではコロナ危機が加わったこと、だという。そうした中でも、ロサヴァ社は3,000人の雇用を維持して給与を支払い、納税も続けているのだという(普通なら有利子負債の返済を優先するのではないかという気もしないでもないが)。

 私は、ロサヴァがしぶとく生き残っている秘訣は、国内で原料を調達できるからではないかと推測していたのだが、現実には80%輸入依存ということであり、違ったようだ。なお、記事ではロサヴァがロシア市場を失ったと書かれているが、下の表に見るとおり、それは事実に反しており、苦戦している様子はあるが、ロシア市場への輸出も続けられている。ウソはいかんよ。

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 この5月20日をもって、ウクライナのゼレンスキー大統領が、就任から1周年を迎えた。せっかく議会選挙で大勝して、自派で固めたホンチャルーク内閣を発足させたのに、わずか半年でその内閣を差し替えるハメになったのは、誤算だった。さすがに、国民のゼレンスキーへの圧倒的な支持は、薄らいできている。それでも、個人的には、思ったよりも意外に持ち堪えているという印象の方が強いかもしれない。

 こちらのサイトに、ゼレンスキー大統領の1年間の業績を数字で示した図解資料が出ていたので、紹介することにする。まず上に見るのが内政面での仕事振りであり、193の法律に署名して成立させたとか、45回の地方訪問をこなしたとか、そういったことがまとめられている。

 下に見るのは、外交面での業績である。数字は、公式訪問、会談、電話会談、現地外交団との接見といった形で、様々な国や国際機関と接触した回数を示している。日本とも8回接触と、思いのほか多い。

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 一昨日のエントリーの続きのようになるけれど、私の主たる研究国であるロシア・ウクライナ・ベラルーシの貿易につき、対中国取引のデータをちゃんとまとめておくべきと考え、こんなグラフを作成した。過去20年間で、ロシア・ウクライナ・ベラルーシの輸出入に占める対中国取引の割合が、どのように推移してきたかを示したものである。最新年だけデータラベルを付けた。

 全体的な傾向は明らかであり、3国のいずれにおいても、輸出入に占める対中国取引の割合は趨勢的に上昇している。ただし、ベラルーシの対中国取引だけは目立った伸びがなく、これは一昨日述べたとおり、中国のような遠隔市場に持って行ってペイする商品がベラルーシにはカリ肥料くらいしかないからである。最近では食品などの中国向け販売促進を図っているが、規模的に限界がある。

 2019年には、ベラルーシの対中国輸出を除き、他の5指標はおしなべて過去最高を記録していたことが分かる(ベラルーシの対中国輸出比率は2015年の2.9%が過去最高だった)。


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 編集作業が終わったばかりの『ロシアNIS調査月報』2020年6月号の中身をご紹介。毎年6月号は、ロシアではなく、それ以外のNIS諸国が主役となる特集号です。今年は貿易に関するレポートが集まりましたので、「特集◆NIS経済・貿易の最新動向」と題しお届けしております。

 服部自身は、「2019年のロシア・NIS諸国の経済トレンド」というメイン記事の中で、「ロシア・NIS全般:まだら模様の成長と迫り来るコロナ危機」、「ウクライナ:穀物収穫・輸出が顕著に伸びる」、「アルメニア:欧州で最高の7.6%成長を記録」、「ジョージア:試練に直面する観光立国」と、4つのパートを担当。それ以外にも、「ウクライナの鉄鋼輸出はほぼ現状維持」、「予想外の展開をたどった戦勝75周年」というレポートを執筆しています。

 5月20日発行予定。


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 またまた、用事があってこんな図を作ったので、お目にかける。ロシア・ウクライナ・ベラルーシの3国につき、総固定資本形成の対GDP比の推移を見たものであり、要するに固定資本投資がどれだけ盛んかという指標である。

 ロシアは、高度成長への移行のために投資が必要と叫ばれていながら、実際にはウクライナ危機で落ち込んだままであり、ここ数年まったくの横這いである。

 ウクライナは、元々病的なまでの低投資の国だった。2016年以降は回復基調にあるが、いかんせん水準が低すぎる。

 最後にベラルーシは、この3国の中では圧倒的に投資性向の強い国だった。しかし、ロシアの危機が増幅されて波及する国なので、ここ数年投資が不振のようである。


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 ちょっと用事があって、こんな図を作ってみた。私の研究している国々の輸出入額(商品+サービス)をそれぞれ名目GDPと比較し、対外開放度を見てみようというものである。

 簡単にコメントすると、ロシアは自国市場が大きく、それゆえにこの中では対外開放度が最も低い国である。また、これらの4ヵ国の中では唯一、継続的に財・サービスの貿易黒字を計上している(石油が暴落した今年がどうなるかは知らないが)。

 ウクライナの対外開放度は、この中では平均的。エネルギー輸入の負担が大きく、財・サービスの貿易収支は赤字基調。

 ベラルーシは、典型的な貿易立国であり、輸出・輸入とも対GDP比は高い。その柱は、ロシアから原油を輸入し、加工して輸出すること。しかし、今年に関して言えば、年頭にロシアとの関係悪化で供給が途絶し、その後は価格が大暴落と、踏んだり蹴ったりだ。

 小国であり所得水準の低いモルドバは、開放度云々よりも、とにかく売るものがなく、厳しい国である。名産のワインは素晴らしいのだが、それだけで稼ぐのには限界がある。構造的な貿易赤字を抱えており、このギャップを埋めているのが、国外出稼ぎ労働ということになる。


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 こちらの記事で、ウクライナのV.ベラフという専門家(下の顔写真)が、ウクライナの穀物輸出制限の是非について論じているので、要旨を以下のとおり整理しておく。

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 コロナ問題の打撃で商品市場全体で下落が相次ぐ中で、3月末以降、小麦価格は10~15%も上昇している。穀物だけでなく、食肉等の食品も値上がりしている。ただ、これらは異常な値上がりというわけではなく、昨年の高値水準に戻っただけである。それ以上に値上がりすることは、まずないだろう。特需が収まれば価格も下がる。次の収穫を買い急ぐ者など誰もいない。

 ウクライナで、穀物価格上昇の追加的要因になったのが、ブリブナの対ドル・レートの下落である。製粉業者たちが、「小麦が毎日100グリブナずつ上がっていく」と憂慮したのである。質の良い小麦が希少になり、製パン業者は、「加工業者は買いたいのに、トレーダーが値上がりを待って売ってくれない」と不平をもらす。その結果、製粉業と製パン業の業界団体が、政権に対して、現在のパンの価格水準を維持するため、穀物輸出を一時的に停止するよう陳情する事態となったのである。

 ある業界関係者などは、政府がウクライナ国内需要に必要な食用小麦の在庫をいったんトレーダーたちから買い上げ(製パン用の500万t、パスタ・小麦粉・菓子用300万t)、その上で残った分の輸出を許可すればいいという極端な提案をした。

 黒海地域で最大の小麦輸出国であるロシアがすでに輸出制限を導入したことが、火に油を注いだ。ロシアは2020年4月1日から6月30日まで、700万tの穀物輸出割当を適用している。カザフスタンも同様の措置を講じた。パニックはウクライナ大統領府にまで伝染したようで、大統領府は輸出制限を真剣に検討した。

 それでは、現実はどうだろうか。まず、製粉業者は、価格が最も安くなる時期を待って、自分たちの在庫を補充するものである。彼らが大部分の在庫を買うのは、収穫が40~50%終わって市場に商品がふんだんにあり、したがって価格も安い8~9月である。第2の買付時期は4月の後半であり、その時期にはトレーダーが輸出契約をすでに終えており、製粉業者は余った商品を安く買うのだ。

 しかし、2020年には製粉業者が駆け引きをしすぎた。安い春先に買うのではなく、コロナ問題が輸送の停止に繋がると読み、さらに待つことにして、そして失敗したのである。世界市場は食糧パニックに転じ、トレーダーたちは取引を満たすため高値での穀物調達を余儀なくされ、輸出が活発化して国内でも価格が上がった。

 製粉・製パン業界は、国内の小麦市場は危機的と称しているが、多分に誇張である。確かに、ウクライナからの輸出は増大しており、価格低迷で昨年から売り渋っていた生産者がようやく売却を始めたが、異常な輸出増にはなっていない。昨年、輸出業者と政府は、2019/20年度の小麦輸出増減を2,000万tとした(生産は2,800万t、国内消費は800万t)。現在までに、1,800万tが輸出されており、つぎの収穫までは2ヵ月半で、この期間、国内消費を脅かすことなく、220万tを輸出することが可能である。昨年の合意を超過するようなことは、まずありえない。


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 だいぶ遅くなってしまったが、このほど2019年のウクライナにおける乗用車(新車)販売台数を、ウクルアフトプロムの発表値にもとづいて集計したところ、同年の販売は8万8,437万台となった。これは、前年比8.0%増である。過去数年の推移は、上の図に見るとおりであり、2014年の政変後の経済的苦境、通貨グリブナの下落、輸入中古車の増大などが重なり、新車はかつての販売台数には遠く及ばない状況が続いている。ただ、月別の販売台数を見ると、ゼレンスキー政権成立後は多少マーケットに活気が戻ってきた雰囲気もある。

 2020年の販売については、3月までの数字が出ている。1、2月は好調で、このままなら年間で10万台回復も可能かという期待を抱かせたが、3月にガクンと低下しており、早くもコロナ問題の影響が出始めたものと見られる。


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 ウクライナの貿易データを整理していたら、重大なことに気付いた。2019年、中国が初めて、ウクライナの最大の貿易相手国に躍り出たのである。

 伝統的に、ウクライナ最大の貿易相手国は、ロシアであった。2014年の政変後は、ロシアとの貿易は急減したが、それでも2018年までは国単位で見ればロシアが最大の貿易パートナーである状態が続いていた。しかし、2019年になって、ついにそれに終止符が打たれた。同年には中国がウクライナの輸出入総額の11.5%を占め、9.2%のロシアを抜いて、トップに立ったのである。表に見るように、輸出入とも、中国が1位、ロシアが2位となっている。2019年には、ウクライナの対中国輸出が63.3%増、輸入が20.9%増であったのに対し、対ロシア輸出は11.2%減、輸入は13.6%減であり、その勢いの差が出た。

 ウクライナの愛国者の皆さんは、「不俱戴天の仇が最大の貿易相手国」という不名誉な状態が解消され、喜んでおられるだろうか。


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 ウクライナ統計局より、このほどようやく、2019年のGDP統計が発表された。2019年の名目GDPは3兆9,746億グリブナ。2019年の実質経済成長率は、3.2%となった。2018年が3.4%だったから、やや減速した形である。

 若干気になるのは、2019年第1~3四半期までは成長が見られたものの、第4四半期になってそれがストップしてしまったことである。すなわち、各四半期の成長率は(季節調整値の前期比)、第1四半期0.8%、第2四半期1.0%、第3四半期0.3%、第4四半期0.0%となっている。

 2019年には、家計による最終消費が11.9%、総固定資本形成が14.2%伸びており、これが成長の要因と考えられる。また、主な産業部門の成長率は、農林水産業1.3%、鉱業▲1.5%、製造業1.0%、建設業23.0%、商業3.6%、運輸3.5%、ホテル・外食7.1%、情報・通信7.5%などとなっている。


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 先日も書いたように、現在のウクライナの経済状態をどう見るかについては、意見が分かれている。そうした中、先日、フィナンシャルタイムズに、「Ukraine’s recovery is a headache for Putin」と題する記事が掲載され(読むのにはログインが必要)、ウクライナ経済が上向きであることが論じられた。だいぶ好意的な論調だが、影響力あるメディアの論評なので、以下でそれを抄訳しておく。

 ウクライナに関する否定的なニュースには事欠かないが、経済についてはその多くがポジティブな内容となりつつある。6年前の政変とロシアの介入により、ウクライナ経済は下降線を辿ってきたが、改革派のゼレンスキー大統領と議会に導かれてそこから抜け出そうとしており、向こう数年間で経済的離陸のチャンスが充分にあると考える専門家もいる。

 ウクライナは1月、12.5億ユーロの起債に成功したが、その利回りは4.37%で、1年前から半減している。2019年に通貨グリブナが17%切り上がった効果もあり、外貨準備は1月に2012年以来の水準にまで拡大した。公的債務も、2016年のGDP比81%から、51%にまで低下している。

 ポロシェンコ前大統領の時代に、その基礎は築かれていた。問題点もあったが、ポロシェンコ時代の歴代内閣は困難な課題に取り組み、その政治的な代償として選挙に敗れた。長らく補助金漬けだったガス価格を市場価格にまで値上げし、家計に苦しみを強いつつも、財政を改善した。中央銀行は、闇経済に染まり非効率だった銀行部門を健全化した。前政権時代に導入された汚職対策が、ようやく実を結ぼうとしている。

 ウクライナの労働移民の本国送金も、プラスに働いている。世銀によれば、ウクライナから500万人強が国外に働きに出ており(ポーランドだけで100万~200万に達する)、2018年のレミッタンスは144億ドルとなり、ヨーロッパ最大の受け手となっている。ただ、ウクライナ経済が回復し、2019年には実質賃金が10%ほど上昇したことから、ウクライナの労働移民は帰国し始めており、その結果として2019年の流入は120億ドルに低下したと見られる。

 ゼレンスキー氏が大統領に選出され、その公僕党が議会選で勝利したことから、改革関連法案が大量に可決され、国際社会は「急ぎすぎて質を犠牲にすることのないように」と釘を刺したほどである。中でも画期的なのは、長らく禁止されていた農地売買が10月に解禁されることであり、これにより農業・食品産業の生産性が高まることが期待されている。

 ただし、政治的なリスクも2つある。第1にオリガルヒが改革を骨抜きにすることである。中でもゼレンスキーの大統領就任を手助けしたコロモイスキーが、国有化されたプリヴァトバンクの奪還を目指しているのが不安材料である。これについては、かつてコロモイスキーの顧問弁護士だったボフダン大統領オフィス長官を、ゼレンスキーが2月に解任したことは良い兆候である。第2のリスクは最大のもので、クレムリンに由来する。ウクライナの成長率がロシアのそれよりも高いのは、プーチンにとって面白くない事態である。最近生じたドンバス情勢の激化は、ロシアが依然として行使できるテコの存在を改めて想起させた。


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 また随分読みにくい名前の人がウクライナの新首相になったものだ。ウクライナ語の綴りはДенис Шмигальなんだけど、Шを「シ」と読むのか「シュ」と読むのか、миを「ムィ」と読むのか「ミ」と読むのか(ウクライナ語のиはロシア語のыに対応)、гаを「ガ」と読むのか「ガー」と読むのか「ハ」と読むのか「ハー」と読むのか、льを「リ」と読むのか「ル」と読むのか? 組み合わせを計算すると、32通りあることになり、気が遠くなる。まあ、とりあえず個人的には、シミハリ新首相ということにしておこうか。

 そもそも、事の発端は、1月に「ウクライナの首相辞任騒ぎはどうにか収束」というエントリーでお伝えしたとおり、ホンチャルーク首相がゼレンスキー大統領の悪口を言っている音声が暴露され、両者の関係が気まずくなったことだ。しばらく前から、ホンチャルーク内閣の退陣に関する情報が取り沙汰され、結局3月4日の最高会議に諮られホンチャルーク内閣の退陣が決定、同日シミハリを新首相に承認、新内閣についても承認した、というわけである。

 新首相のシミハリ氏(上掲写真)は、1975年10月15日の生まれなので、44歳ということになる。生まれは西ウクライナのリヴィウということなのだが、非常に変わった苗字であり、民族的には何系なのだろうか? 経歴を見ると、民間企業(リヴィウ自動車工場など)で働いていたこともあれば、リヴィウ州行政府で働いていたこともあれば、NGOをやっていたこともあれば、最高会議議員に無所属で立候補したこともあり、掴みどころがない。では一貫して西ウクライナのリヴィウかというと、ここ2~3年はアフメトフ氏のDTEKで電力部門の要職を占めていたりもしていて、ますます意味不明である。ヤヌコーヴィチ政権時代にエリートとして取り立てられたという情報があるので、リヴィウとはいえ、バリバリのナショナリストということはないのだろう。最近になって、2019年8月1日にイヴァノフランキフスク州行政府議長、2020年2月4日に副首相兼社会・地域発展相と、頭角を現していたところだった。


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 ウクライナの現在の経済状況に関しては、評価が分かれているようなのだが、ここでは楽観論の方を紹介してみよう。こちらに見るとおり、Dragon Capitalという投資会社のトマシュ・フィアル社長が、2月上旬に開催された実業界の会議の席で、ウクライナ経済は過去20年でほぼ最良の状態にあると発言した由である。

 フィアル社長いわく、ウクライナの経済成長率は、2019年の3.2~3.3%から、2020年には4%へと加速する。インフレ率は、2019年が4.1%、2020年が5.2%となろう。ただ、2021年の経済成長率は3.7%に減速し、インフレは6.1%に高まる。年平均為替レートは、2019年の1ドル=25.8グリブナが、2020年には24グリブナとなる。グリブナ高の結果、ドル換算のGDPは、2015年には900億ドルだったが、2019年には1,500億ドルに、2020年には1,750億ドルになる(注:ちょっと計算が合わないような気がするが)。その効果で、国家債務の対GDP比は、80%から51%に低下しよう。ウクライナ経済にとってのリスクは、政府がIMFとの協力を打ち切る危険性と、国際商品価格、とりわけ金属と穀物のそれである。フィアル社長は以上のように述べた。


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 我が国にウクライナという国の「ファン」がどれくらいいらっしゃるかは分からないが、その酔狂たちのバイブルになりそうな本が出版された。平野高志『ウクライナ・ファンブック』(パブリブ、2020年)である。

 パブリブと言えば、最近世界のマニアックな地域に関する新感覚の書籍を、意欲的に出しているところである。本書、224頁とそれなりにボリュームもあり、全編カラー印刷なのに、価格は2,300円+税と、ずいぶん良心的なものになっている。

 ウクライナにお出向きになる際には、当方の編集した『ウクライナを知るための65章』とあわせて(笑)、本書『ウクライナ・ファンブック』もお手に取られると、予習バッチリであろう。


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202003

 編集作業が終わったばかりの『ロシアNIS調査月報』2020年3月号の中身を、どこよりも早くご紹介。今号は、「ロシア・NIS電力業の諸様相」と題する特集号となっております。

 服部自身は、特集の枠内で「ユーラシア経済連合の共同電力市場」というミニ・レポートを、枠外では「2020年代のロシア・ユーラシア地域秩序を占う」(先日『経済速報』に掲載した拙稿を再録)、「メドヴェージェフ内閣からミシュスチン内閣へ」(中馬瑞貴との共同執筆)、「ウクライナで一人気を吐く農業」といったレポートを執筆。

 発行日は2月20日ですが、今回は若干お届けが遅れるかもしれません。ご容赦を。


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 こちらに見るとおり、ウクライナ統計局が2019年の同国の鉱工業生産実績を発表したので、軽くチェックしておく。

 2019年のウクライナの鉱工業生産は、前年比1.8%減となった。2018年は1.6%増だったから、ここに来て不振に陥ったことになる。2019年の鉱工業生産のうち、鉱業は前年比プラスマイナスゼロだったが、製造業が2.0%減と精彩を欠き、電力・ガス・水道業も4.1%減だった。機械部門の不振が色濃く、特に電気機械が19.9%減、自動車等が9.7%減だった。


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 この週末はウクライナの農業というテーマに取り組んでいるのだけれど、その関連でウクライナ統計局の統計データにもとづき、上掲のような図を作成してみた。

 ウクライナの農業生産は1990年代の落ち込みが激しかったので、現時点でようやくソ連末期の生産水準を回復しつつある段階である。近年の農業生産の伸びを牽引しているのが、農作物を生産する耕種農業であり、穀物および採油用種子がその中心だが、同部門は天候に左右されて年ごとの変動が大きいという特徴がある。一方、畜産は成長がほとんど見られない。

 私の計算によれば、体制転換前の1990年の生産水準を100とすると、2019年の農業生産は98.9で、30年近くかかってようやく社会主義時代の生産水準をほぼ回復した。うち、耕種農業が141.0、畜産が51.8と、完全に明暗が分かれている。これは、市場原理に沿って淘汰が進んだという評価もできるが、見方を変えれば、独立後のウクライナが高付加価値化に失敗したということでもある。


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