ロシア・ウクライナ・ベラルーシ探訪 服部倫卓ブログ

ロシア・ウクライナ・ベラルーシを中心とした旧ソ連諸国の経済・政治情報をお届け

カテゴリ: ロシア

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 こちらの記事によると、ロシア連邦消費者保護局が、2022年のロシアにおけるCOVID19をめぐる状況に関する報告書を発表したということである。報告書自体はこちらだが、目を通している余裕がないので、記事にもとづいて簡単に取り上げておく。

 記事によると、2022年のロシアにおけるCOVID19の経済損害額は、1.6兆ルーブルであった。経済損害とは、具体的には、直接の医療費と、労働者が治療中に働けなかったことによる間接的な損失とから成る。直接的な医療費は0.76兆~1.35兆ルーブルと評価が分かれるが、平均的なところをとれば1.1兆ルーブルとなる。間接的な損害額は0.5兆ルーブルで、直接・間接を合計し1.6兆ルーブルという総額となった。なお、2022年には1,210万人の新規感染が確認され、前年から34.2%拡大した。

 ウクライナ侵攻による経済損害額も発表しろと言いたくなる。


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 こちらの記事が、ドイツの自動車大手フォルクスワーゲンが、ロシア中部カルーガ州の工場を売却したことについて報じている。

 記事によると、ロシア産業・商業省次官が記者団に対し、VW工場の売却につき発表した。結局VWは、アートファイナンス社というロシア企業にカルーガ工場を売却した。同社は、A.パヴロヴィチ氏の経営する自動車ディーラー「アヴィロン」の関連会社。

 なお、外資がロシア法人を売却する際に、その後の情勢次第で買い戻すことを可能とするオプションが付けられることがあるが、今回のVW工場売却は買戻しオプション無しとなっており、永遠のサヨナラを意味する。


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 重篤説、モスクワ病院搬送説が出ていたベラルーシの暴君ルカシェンコだったが、昨日ロシア中銀総裁のE.ナビウリナと会談した様子が公開され、ひとまずその説は打ち消された形となった。そもそも、本件のソースはV.ツェプカロ氏が発信した未確認情報だけだったわけで、終わってみれば、信憑性の低い情報に各メディアが振り回されたなという印象だ。

 上掲のツイートで示されているのが、昨日の会談の様子である。場所はお馴染みのルカシェンコ執務室であり、チャップリン作『独裁者』を彷彿とさせる地球儀が目印だ。それにしても、ナビウリナも多忙だと思うのに、なぜわざわざベラルーシに出張したのだろうか。連合国家の枠組みで、ロシアとベラルーシの中銀総裁が交互に相互訪問するような慣習があり、たまたまその訪問がルカシェンコ健在を示すためのダシに使われたような形か。

 ルカシェンコ・ナビウリナ会談における前者の発言振りは、こちらのニュースが伝えており、この中でルカシェンコはロシアとベラルーシの通貨統合の展望について語っているので、一応それを整理しておく。

 ルカシェンコいわく、単一通貨の導入は、容易ならざるプロセスである。おそらくそれは、喫緊の課題ではない。そのことについてはロシア大統領とも意見が一致している。それでも、ロシアおよびベラルーシの愛国的な人々は、しばしば本件を主張する。本日の機会に、貴方の見解をお聞きしたい。貴方は制裁の条件下でもロシアの経済、通貨問題を素早く立て直した能力の持ち主で、その手腕は広く認められている。ルカシェンコは以上のように述べた。

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 1ヵ月ほど前の動きだが、こちらに見るとおり、ロシア肥料生産者協会のA.グリエフ会長(自身はフォスアグロ社の経営者)が、V.プーチン大統領との会談の席で、過去10年のロシア肥料産業の目覚ましい成長について報告したということである。以下、グリエフ会長の発言要旨を整理しておく。

 過去10年で全種類合計の肥料の生産量は40%拡大し、5,500万tに達した。生産量で米国、インドを抜き、中国に次ぐ世界2位の生産者となっている。過去10年の世界における肥料増産の3分の1はロシアが担った。

 10年間で、窒素肥料の生産は約50%増、リン酸肥料は約55%増、カリ肥料は約30%増だった。

 むろん優先しているのは内需で(注:国内市場をないがしろにして輸出にいそしむのか?という批判が寄せられがちなので、こういう言い方になる)、全面的な自給に成功している。10年で国内供給量は2.5倍に伸び、1,320万tに達した。2021年7月、エネルギー価格、そしてそれに連れて肥料の価格も高騰していた中で、ロシアの肥料業界は国内供給の価格を固定することを自主的に決め、その結果、輸出価格の上昇が国内価格に跳ね返らないという成果を生んだ。2023年第1四半期の時点でも、ロシア国内価格は国際価格よりも、硝酸アンモニウムで40%、尿素で15%安くなっている。

 輸出量という観点では、現時点でロシアは世界最大である。全世界の輸出の約20%占める。もっとも、2021年には3,700万~3,800万tに達した輸出量が、制裁および輸出オペレーションの困難により、2022年には若干低下することになった。2022年の輸出は前年比で15%低下した。

 過去10年の増産は、大規模投資の賜物である。2013年に新たな投資サイクルが始まり、1.8兆ルーブルが投下された。この間、業界は税金だけでも6,000億ルーブルを納め、2022年にも2,000億ルーブルという過去最高額を納税した。

 ロシアの21地域に36社があり、11万人が働いている。2022年には業界平均で16%の賃上げがあり、我がフォスアグロ社が最高の22%の賃上げ率だった。

 (窒素肥料は天然ガスを原料に生産されるが)肥料産業の天然ガス消費は年間200億立米となっている。ロシアは天然ガス輸出の5分の1ほどを窒素肥料という形で行っている格好である。

 「特別投資契約(специальный инвестиционный контракт=СПИК)」、「競争力向上法人プログラム(корпоративная программа повышения конкурентоспособности=КППК)」、「投資保護・奨励契約(соглашение о защите и поощрении капиталовложений=СЗПК)」といった政府の支援策に感謝している。

 2022年には制裁で輸出が低迷した。船舶の保険、決済、SWIFT制裁などとともに、2022年3月に欧州諸国がロシアの全肥料メーカーに導入した制裁があり、夏には米国もそれに続いた。ロシアの肥料輸出の70%は途上国、グローバルサウス向けである。(つまりロシアの肥料をそれほど必要としていない国が導入した制裁の結果、途上国が苦しんだということか?というプーチンの問いに応じ)まったくそのとおり。欧州ではガス価格の高騰により肥料生産が大幅減となったが、彼らは農家に補助金を渡し、他の市場から肥料を輸入している。それは本来、中南米、アフリカ、アジアに向かうはずだった肥料である。その結果、世界の施肥量は2022年に10%低下した。収穫は下がり、値段は上がることになる。

 「黒海穀物イニシアティブ」は、ロシアの肥料輸出に関しては、何ら機能しなかった。ロシアの対外資産の凍結解除、アンモニアの販売再開、ロシア船舶の保険・再保険の制限解除、ロシア船舶の入港禁止解除、ロシアへの農業機械・スペアパーツ・メンテナンスサービスの供給禁止解除はまだ行われていない。これは肥料業界だけでなく、カリ塩、リン鉱石の採掘企業にもかかわる。

 現在港のキャパシティを計2,000万t拡張する建設プロジェクトが実施中で、ウスチルガ、ナホトカ、タマニ、ラヴナ、テムリュク、カフカス港などで進んでいる。液体肥料輸出、アンモニア輸出はバルト海経由で行われてきたが、現在その解決に取り組んでおり、政府が工程表を策定した。


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 最近のプーチン・ロシアによる言説の一つに、「新植民地主義」への批判というものがある。欧米、アングロサクソン、リベラリズム批判の一変種であり、内容的に真面目に取り合うほどのものではないが、そういうレトリックを使ってくるということは一応押さえておくべきだろう。

 それで、こちらの記事が伝えているのは、安全保障会議のN.パトルシェフ書記が、新植民地主義批判を、世界の食料市場にも応用したという話である。安保会議主催の安全保障問題に関する国際会合がモスクワ州で開催された後、パトルシェフ書記は記者団に以下のように語った。

 いわく、今回の会議でも総意が示されたとおり、そもそも世界で食料の絶対量は不足しておらず、しかも一連の欧州諸国では過剰生産すら見られる。にもかかわらず多くの国が食料不足に苦しんでいるのだ。現状に否定的な影響を及ぼしているのは、世界の食料市場を支配している多国籍企業である。会議での発言者は異口同音に、食料の問題は非効率な国際協力、公正な市場管理の欠如が引き起こしていると指摘した。国際的な食料供給に対する制限・制裁の撤廃が必要である。一切の政治化を排して、食料を苦しんでいる国に優先的に供給すべきだ。食料安全保障は、国家主権の根幹的な要素の一つであり、政治的な動機によるその制限は、新植民地主義以外の何物でもない。パトルシェフ書記は以上のように述べた。


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 こちらの記事によると、ロシア産業・商業省が、同国鉄鋼業の復調をアピールしているということである。副首相も兼任するD.マントゥロフ大臣が記者団にそれを語った。

 マントゥロフ副首相・産業相は、関連見本市を訪問した際に、記者団に以下のように語った。2023年に入ってから、鉄鋼業は全体として好調である。稼働率はほぼ100%となっている。それを支えているのはまず内需の拡大であり、また友好国への輸出増である。2023年第1四半期の粗鋼生産量は、ピークだった2021年第1四半期のそれに匹敵する1,870万tに上り、非常に高いレベルだ。2023年通年では、粗鋼生産量は7,400万~7,500万tに達し、前年を4~5%上回ると予想される。マントゥロフ大臣は以上のように述べた。


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209

 もう4年ほど前になってしまったが、以前「アンドロイドだっていいじゃないか! ロシアでもiPhoneは人気だけど」というコラムを書いたことがあった。それにしても、当時はこんな密度の濃いコラムを週に1本書いてたんだな。

 それで、ウクライナへの侵攻が始まり、アップルはロシアへの商品供給を停止した。iPhoneはトルコなどを経由した並行輸入という形で引き続きロシアに入荷はしたものの、ロシアのユーザーにとっての利便性が低下したことは間違いない。

 こちらの記事によると、ロシアのスマホ販売市場において、iOS(iPhone)のシェアが低下し、アンドロイドのそれが拡大しているということである。すなわち、2022年第1四半期と2023年第1四半期のシェアを比べると、iOSは台数ベースで14.4%から10.4%へ、金額ベースで39.9%から36.5%へ低下した。一方、アンドロイドは、台数ベースでは85.6%から89.6%へ、金額ベースでは60.1%から63.5%へと拡大した。実数で言うと、iOSが95.1万台から67.7万台に減る一方、アンドロイドが565万台から583万台に増えた。

 制裁でiPhoneが減ったという点に注目すべきか、制裁にもかかわらずいまだに買うことはできて10%強のシェアがあるという点を重視すべきか、微妙なところである。


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208

 こちらの記事が、ロシアの肥料大手「ウラルヒム」が、ロシアから撤退しようとしている外資系穀物トレーダーの事業継承に意欲を示しているということを伝えている。

 記事によると、このほどウラルヒム社の広報は、世界の食料安全保障を支えるため、ロシアから撤退しようとしている外資系の穀物トレーダーの資産を買収する可能性があると表明した。同社では、事業継承の様々な形態を検討しているという。

 本年3月、世界の大手3社、カーギル、バイテラ、ルイ・ドレフュスが、本穀物年度(2023年6月まで)をもってロシアからの農産物輸出事業を停止すると表明していた経緯がある(こちら参照)。

 ウラルヒムがカーギル、バイテラの資産を買収する関心を有しており、D.コニャエフ社長がその旨の書簡をV.プーチン大統領に送付したということは、昨年12月にコメルサント紙が伝えていた。


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 以前もこちらこちらでお伝えしたとおり、ウクライナ農産物輸出プロジェクト「黒海穀物イニシアティブ」の延長にロシアが同意する条件として、かなり重視していたのが、ロシアの農産物・肥料輸出の決済に使われることが多いロスセリホズバンク(ロシア農業銀行)のSWIFTへの再接続という要求だった。この問題に関し、こちらの記事が、EUとしては現時点で再接続を認めるつもりはないということを伝えている。

 記事によると、ウクライナ侵攻が停止されない限り、EUとしてはロスセリホズバンクを含むロシアの銀行のSWIFT再接続を認める意向はない。EU対外行動庁のスタノ報道官がイズベスチヤ紙にその旨を語った。

 なお、EUの第6制裁パッケージの一環として、ロスセリホズバンクがSWIFTから除外された経緯がある。

 ロシア側のD.ペスコフ大統領報道官は5月18日、(SWIFT再接続とは行かないまでも)実質的にそれに相当する措置であれば、希望はあると発言していた。


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 ロシア財務省より、4月分のロシア連邦予算執行状況が発表されたので、恒例により、上掲の図を更新してお届けする。

 前回、3月分のデータを紹介した際には、「ロシア財政に改善の兆し 3月の数字が持ち直す」として、最悪期は脱したのではないかというようなことを申し上げた。しかし、財政というのは、季節要因が大きいものであり、3月に非石油・ガス歳入が拡大したのは、今思えば、納税時期に当たったという要因が大きかったかもしれない。また、当初の発表では、3月は単月ベースで黒字となっていたが、その後、歳出の数字が修正されたようで、今回の発表で、結局3月分も赤字だったことが判明した。

 そして、4月分の数字を見ると、税制改革で確保に努めたはずの石油・ガス歳入は実際には横這いで、非石油・ガス歳入も冴えず、歳出が膨らんだ分、再び赤字の基調を強めた。


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 こちらの記事が、ロシアの穀物輸出が存外に順調だということを伝えている。米農務省の最新5月の月刊レポートの内容を紹介した記事だが、原典をじっくり読んでいるヒマがないので、上記記事にもとづいてお伝えする。

 このほど米農務省が発表したレポートによると、黒海穀物イニシアティブの条件が一部履行されていないにもかかわらず、ロシアの豊作を受け、同国の輸出の勢いは衰えていない。

 港の船積データ、輸入国側のデータから判断すると、本年(注:たぶん7月始まり・6月終わりの穀物年度のこと)ロシアはとりわけエジプト、トルコ、サウジアラビア、イラン、カザフスタン、ナイジェリアに大量の穀物を輸出している。うち、いくつかの相手国には、輸出量が顕著に伸びている。カザフスタン向けの小麦輸出は2022年7月から2023年2月にかけてすでに2021/22年度の実績に匹敵する規模に上った。

 米農務省の分析によると、ロシアが世界市場での状況を改善できたのは多分に、世界的に食料が高騰する中で、(市場の飽和状態により)ロシア国内価格が相対的に低いことによるところが大きい。

 米農務省の予測によれば、価格競争力が奏功し、ロシアは今年度、いくつかの種類の穀物で歴史的な輸出量を達成すると見られる。小麦の輸出は4,500万tに上り、前年度比36%拡大する。なお、米農務省はクリミアおよびその他ロシアが編入を主張している地域の分は含んでいない。

 米農務省の予測はロシア側の予測よりも高く、例えばソヴエコン社では小麦の輸出を4,450万tとしていた。

 ひまわりの種の輸出で、昨年度にロシアはライバルのウクライナを追い抜いていたが(後者の戦乱ゆえ)、2022/23年度はさらに差を広げることになる。

 米農務省も指摘しているとおり、ロシアの農産物輸出は、ロシア自身の輸出割当および関税という制限措置によってかなり制約されており、それがなければ輸出見通しはもっと高くなるという。ロシア側が全般に輸出見通しを控え目にしているのは、これらの制限措置を念頭に置いたものと見られる。


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1480

 ちょっと忙しいので、今日は簡単なネタだけでご容赦いただく。こちらに見るとおり、ロシア統計局より4月のインフレ率(消費者物価上昇率)が発表されたので、恒例により上掲のグラフを更新した。

 ロシアのインフレは引き続き沈静化の方向にある。4月の消費者物価は、前月比0.38%増、前年末比2.06%増、前年同月比2.31%増だった。

 動きが地味になってきて、フォローする醍醐味が薄れてきた気がする。


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 これまで、先進国のメーカーがロシアへの家電供給を停止しても、カザフスタンを経由するなどして、ロシアに流入し続けるという現象があった。しかし、こちらの記事が、カザフ政府がロシアへの供給をより厳格に管理するようになった結果、流通業者は別ルートを模索せざるをえなくなり、その結果商品が値上がりすることになると伝えている。なお、上図は同じ記事に添付されていた2022年1~2月と2023年1~2月のロシアにおける冷蔵庫販売市場の数量ベースブランド別シェア。

 記事によると、カザフスタンとウズベキスタンは、サムスン、LG、ボッシュ、エレクトロラックス等々といった家電の2大輸入国となっていた。それが、ロシアに並行輸入されていた。

 しかし、カザフ政府がロシアへの並行輸入の管理を厳しくすると表明すると、ディストリビューターは供給ルートを中国、キルギス、UAEなどにシフトするようになった。業者によると、カザフ経由は依然として不可能ではないが、通関管理が厳格化され、コスト高になったという。

 カザフのR.ヴァシレンコ外務次官は4月初頭、我が国は自国を対ロシア制裁の抜け穴にはしないと発言した。4月1日にロシアへの輸入貨物のモニタリング制度が開始された。ウズベクからの輸入も、カザフを経由するので、カザフの措置の影響を受ける。ちなみに、ウズベクではサムスンの現地生産も行われている。

 カザフの管理厳格化を受け、他の経由国にシフトすることで、ロシアにおける販売価格は10~12%値上がりすることになるとの指摘がある。また、上述のような先進国のブランドはロシアの商店から消えて、中国やトルコの家電に需要が移るのではないかとの見方もある。

 ある業界関係者によると、カザフが最終的に家電のトランジットを全面停止してしまうと、ユーラシア経済連合向けの家電をロシアに持ち込むのは、販売価格の高騰から、割に合わなくなる。ウズベキスタンからも大量の家電がカザフ経由で流入しており、送金の問題がある上に、トランジットが閉ざされればさらに困難が高まる。結局、カザフ・トランジットの停止により、一流ブランドのロシアへの並行輸入は割に合わなくなり、正式に供給している中国ブランドか、もしくはロシアブランドしか残らなくなるのではないか、という。


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 ロシアが貿易統計を概略しか発表しなくなり、その動向を把握すること自体が困難な作業になった。そこで私は、ロシアの主要貿易相手国の対ロ輸出入データをミラーデータとして用いることで、ロシアの貿易動向を探るという作業を重ねてきた。

 今般、2022年のデータをどうにか揃え、一連の作業をひとまず集大成したのが、『ロシアNIS調査月報』2023年5月号に掲載した「公式統計とミラーデータで見る2022年ロシアの貿易」というレポートである。

 まあ、せっかくなので、主要国の月別対ロシア輸入・輸出額を跡付けた下のグラフは、今後も更新していこうかと思う。G7サミットで対ロシア貿易のよりラディカルな制限措置が打ち出される案も取り沙汰されているので、そのお供にでもご利用いただければと思う。

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 こちらの記事が、ロシア占領下の自称「ドネツク人民共和国」のマリウポリ港から、初めて穀物が積み出されたということを伝えている。ただし、輸出向けではなく、ロシア本土(おそらくロストフ州あたり)に運び出される形である。さすがに人民共和国からの輸出では外国の買い手がつかないので、ロシア本土に運んでロシアで利用するか、あるいはそこからロシア産として輸出するのだろう。ロシア・ウクライナ戦争が、どのように推移していくのか、まだ分からないが、ロシア支配地域では、このように新しい日常が既成事実化されていくのであろうか。

 記事によると、マリウポリ港から初めて、穀物が船積みされた。自称「ドネツク人民共和国」のD.プシーリン首長がテレグラムチャンネルに投稿した。

 プシーリンは、「予定されていたとおり、マリウポリ港で、ドネツク人民共和国産の穀物が初めて船積みされた。先日、当地にD.パトルシェフ・ロシア連邦農相が訪問した際に、人民共和国のYe.ソンツェフ首相、その他の関係機関幹部と、港に穀物ターミナルを開設する作業につき話し合った。今回は、穀物積み込みのため、マリウポリに建設資材を運んできた船を利用することにした。行きは建材を運び、帰りは穀物を運ぶことで、輸送費を数分の1に抑えることがき、また自動車道路の通過ポイントの負担も軽減できる。穀物を人民共和国の域外に出荷することにより、当地にとって主要産業の一つである農業を活性化できる。マリウポリ港からロシアの他の隣接地域に穀物を運ぶことができる」と投稿した。


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 ロシアは、ウクライナ産農産物の海路輸出を可能とする「黒海穀物イニシアティブ」を延長する条件の一つとして、ロスセリホズバンク(ロシア農業銀行)をSWIFTに再接続することを要求している。同行は農産物・肥料輸出の決済に使われることが多く、SWIFTに復帰させることにより、ロシアの農産物・肥料輸出が円滑化され、世界の食料安全保障に貢献できるという理屈だ。ただ、ウクライナやポーランドなどは、それを認めると、対ロシア制裁が有名無実化してしまうというもっともな理由で、それに反対している。

 本件につき、こちらの記事の中で、交渉過程に詳しい関係者が現状につき証言している。同関係者によると、ロスセルホズバンクをSWIFTに復帰させる問題は、確かに交渉のテーブルに乗っている。国連と一連の西側諸国との間で、詳細に検討されている。現在問題となっているのは、同行がSWIFTに復帰したあかつきに、何らかのトラブルが発生しないかという点である。ロスセリホズバンクのSWIFT復帰が、トルコの金融機関の仲介により実現する可能性もないとはいえない。ただ、トルコの銀行にとって、自行が制裁の対象になったりしないという保証が必要である。関係者は以上のように語った。


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 ロシアの経済統計を正式に発表するのは統計局だが、経済発展省は経済成長率をより早く・より細かく出してくれるので、重宝する。こちらの記事が、経済発展省が3月のGDPを発表したということを伝えている。経済発展省の原典はこちらだが、日本からは閲覧できないので注意。

 経済発展省によると、2023年1月のGDPが前年同月比マイナス2.7%、2月がマイナス2.9%だったのに対し、3月はマイナス1.1%と、落ち込みが小さくなった。第1四半期(1~3月期)は、前年同期比マイナス2.2%であった。

 当然のことながら、1、2月の落ち込みが大きく、3月の落ち込みが小さかったのは、ベース効果によるものだろう。2022年1~2月がほぼ侵攻前の数字であるのに対し、2022年3月のそれは侵攻開始のショックを受け低調だったので、それらの数字と比較すれば、落ち込みの幅が違ってくる。


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 昨日5月3日、ロシア大統領府が、ウクライナ側が発射した無人機2機が同日未明に大統領官邸のあるクレムリンへの攻撃を企て、軍と特殊部隊が破壊したと発表した。ただ、不自然な点も多く、ロシア側の自作自演である可能性もありそうだ。現時点では、何とも言えない。

 今回、ロシア側が本当にクレムリン上空までの無人機侵入を許してしまったとしたら、防空体制上の大きな失態だが、我々の世代のロシア研究者には、連想してしまう一つの事件がある。まだ、ソ連が健在で、東西冷戦体制が残っていた1987年、マチアス・ルストという西ドイツのパイロットが、フィンランドのヘルシンキからセスナ機に乗ってソ連領に侵入し、赤の広場に着陸するという大事件があったのである。当然のことながら、軍は一体何をやっていたのだと、大問題になった。

 上の動画は、その時の様子を捉えたものである。驚くのは、着陸後、ルスト氏が市民たちに囲まれ、会話をしたり、サインをせがまれたりしていることだ。公安当局がすぐにひっ捕らえるという感じでもなかったらしい。

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 こちらおよびこちらに見るとおり、ロシアの反体制的な政治評論家のD.オレーシキン氏が、ワグネルの創始者Ye.プリゴジンの動きについて論評しているので、要旨を以下のとおりまとめておく。

 プリゴジンは、後先のことは考えず、まず戦いに身を投じてみようというタイプの人間だ。当然、ショイグにとっても、ゲラシモフにとっても、プリゴジンは敵であり、それは今も変わらないが、プリゴジンなしではバフムト攻略はできないので、現在はやむなくプリゴジンと協力している。

 もしもプリゴジンがバフムトを獲れなければ、彼はおしまいだ。逆に、バフムトを獲れれば、過去1年間で何らかの成果を達成した唯一の勝者ということになる。他の戦線ではまったく戦果が挙がっていないのに対し、バフムトでは多少なりとも前進しているからである。バフムトを攻略できても、戦略的には大して重要ではなく、もっぱらイデオロギー的な成果ではあるのだが、イデオロギー的には1942年のスターリングラード攻防戦に近い域に達している。

 プリゴジンがバフムトを陥落させられれば、彼には未来への活路が開かれるので、命懸けでそれに取り組んでいる。そして、それと同じように、政党「公正ロシア」を首尾良く乗っ取れれば、政治面でも活路が開かれるので、それにも全力を挙げている。

 そして、そこにプーチンがプリゴジンを野に放った理由もある。とかくお役所主義的な軍人たちに刺激を与え、より本気で戦わせようとしているわけである。

 バフムトはドネツク州の中でも重要性の劣る集落であり、仮にそこを攻略できても、そこからさらにクラマトルスク、スラヴャンシクを落として、ドネツク州の境界線一杯まで攻め入ろうなどという機運はない。すでにバフムトという一箇所に凝り固まってしまっているからである。その意味でプリゴジンは、プーチンのロシア統治の実情を診断する上で興味深い人物である。


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 ロシアの連邦財政の柱になっている石油税収に関連する最新の動きをまとめておく。総じて、石油税収は立て直される方向にあるようだ。

 おさらいしておくと、ロシアの主要油種であるウラル原油の指標が実態から乖離するようになったため、ロシアは石油に対する地下資源採掘税の基準としてウラル原油相場を利用するのを見直し、ブレント価格マイナス一定のディスカウント幅という制度に移行した。当該の措置は4月に発効し、4月にはブレントからマイナス34ドル、5月にはマイナス31ドル、6月にはマイナス28ドル、7月以降はマイナス25ドルと、ディスカウント幅は段階的に縮小していくことになっていた。ただし、ウラル原油価格が、これらよりも高かった場合には、ウラルが課税基準となることになっていた。

 そして、こちらによると、A.ノヴァク副首相はこのほど、現時点でウラル原油の相場はブレントからマイナス26~27ドルとなっており、これは法律で定められた4月のディスカウント幅34ドルを下回っているので、課税基準はウラル相場になると発言した。

 こうしたことから、こちらの記事によると、4月の石油の地下資源採掘税による課税額は、前月に比べて25%ほど増加する見通しとなった。課税の係数は、3月の9.8153から、4月の13.5461に高まる。そこから算出される1t当たりの課税額は(優遇措置が適用される鉱床は除く)、3月の16.259ルーブルから、4月の20.297ルーブルとなる。ウラル原油価格が20.5%上昇したこと、ルーブルが対ドルで6.1%減価することも、税収を押し上げる。生産量が現状維持だと仮定すると、石油採掘税の税収は、3月採掘分の4,900億ルーブルから4月採掘分の5,900億ルーブルへと、約20%高まる。4月分の税収は4月28日までに納入されることになる。

 一方、こちらによると、このほど成立した改正関税率法により、地下資源採掘税に続き、石油の輸出関税および追加収入税を算出する際にも、従来のウラル相場から、ブレントからマイナス一定のディスカウント幅という方式に移行することが正式に決まった。こちらによると、ノヴァク副首相は石油税制の一層の改善を進めていくと表明した。


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 2023年のロシアの連邦予算は、2.9兆ルーブルの赤字、対GDP比で2.0%の赤字で編成されている(上表参照)。こちらの記事によると、このほどA.シルアノフ蔵相が、赤字がその数字から動く可能性があると述べた。ただし、必ずしも赤字の拡大が必至ということではなく、上下にぶれる可能性が両方あるとのことだ。

 シルアノフ蔵相は、現在のところ2023年の財政指標を変更はしていない、ただ財政赤字が対GDP比2.0%ちょうどになると決まっているわけではなく、それよりも大きいかもしれないし、小さいかもしれない、と発言した。

 また、こちらの記事によるとシルアノフ蔵相は、石油・ガス以外の歳入は計画を上回り推移しており、2023年通年でも計画を上回る見通しだと発言した。経済発展省が予測を見直したように、2023年の経済見通しは改善しており、財政の見通しもそれに応じて好転することになると、シルアノフ蔵相は述べた。


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1457

 こちらのニュースが伝えているとおり、プーチン・ロシア大統領が4月25日、ロシアの在外資産が没収・凍結された場合に、ロシアが報復措置を講ずる旨の大統領令に署名した。大統領令のテキストはこちらで閲覧できる。

 大統領令によると、ロシアの在外資産が没収されたり権利が制限されたりした場合、ロシア領に所在する非友好国の資産に対し、一時的な外部管理が導入される。動産、不動産、有価証券、出資、財産権などが対象になる。一時的な外部管理にかかわるコストは、その利用収入から支出される。一時的な外部管理は、大統領が決定すれば停止される。

 今回の大統領令では、まず具体的に、Fortum(フィンランドFortum社のロシア子会社)、ユニプロ(ドイツ・ウニパー社のロシア子会社)という電力会社の外資による出資分に対し、外部管理が導入された。私の理解するところ、ロシア側は今後状況を見ながらこのリストを拡大していくのだろう。


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1455

 こちらが伝えているように、ロシアの現地行政当局は昨日24日、ウクライナ軍によるクリミア半島のセヴァストーポリ港に対するドローン(無人機)攻撃を撃退したと発表した。M.ラズヴォジャエフ・セヴァストーポリ市長は「最新情報によると、水上無人機1機が破壊され、もう1機は自爆した」とSNSに投稿、「市内は現在、静かだ」とした。被害は報告されていないという。

 そして、こちらに見るとおり、本件に関しロシア国防省が声明を発表した。くだんの無人機はオデーサ港近辺から発射されており、これは黒海穀物イニシアティブの合意に反するので、ロシアは5月に期限の切れる同合意の延長には応じない可能性があると脅す内容になっている。以下、声明を翻訳しておく。

 ウクライナが2022年10月に「穀物回廊」の確保に関わる黒海艦隊艦船および民間船舶に対して無人機によるテロ攻撃を行ったことを受け、ロシア連邦はウクライナの港からの農産物輸出に関する協定の実施を停止した。

 その後、ウクライナが人道回廊およびウクライナ港湾をロシア連邦に対する軍事行動に使用しない旨、トルコが保証を行い、ウクライナが書面で約束したことで、ようやく協定が再開された経緯がある。

 2023年3月23日と4月24日、これらの保証に反し、ウクライナは黒海艦隊のセヴァストーポリ基地とクリミアの民間インフラを無人機で繰り返し攻撃した。

 ウクライナの無人機の航路を分析したところ、すべての無人機が黒海穀物イニシアティブの実施目的で指定されているオデーサ港の水域から発射されていたことが判明した。それらの無人機はまた、ウクライナ港湾から農産物を輸出するために指定されている人道回廊の海域で旋回していた。

 キエフ当局のテロ行為は、本年5月18日以降の穀物合意の再度の延長を、危機にさらすものである。


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 ロシアNIS貿易会の機関誌『ロシアNIS調査月報』は、昨年9月まで私が編集長を務めていた時には、新号が出るたびに当ブログでも紹介していた。転職に伴い編集長からは退いたものの、依然として執筆者としてかかわってはいるので、今後も取り上げていこうかと思う。

 そんなわけで、このほど2023年5月号が発行された。書影は上掲のとおりで、内容はこちらに詳しく載っている。毎年5月号はロシア経済および日ロ経済関係の特集号と決まっており、今年は「制裁下のロシア経済と社会」という特集になっている。

 服部は、「公式統計とミラーデータで見る2022年ロシアの貿易」という長目のレポートを寄稿したほか、「主従関係がはっきりしてきた中国とロシア」、「2022年のウクライナの輸出に関する補足情報」という短い記事も執筆している。

 上記ページから購読の申し込みができるので、ご関心の向きはぜひ。


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 このほど発行された『ロシア・東欧研究』(2022 巻 51 号 p. 21-40)に、「ロシアとウクライナの10年貿易戦争」と題する拙稿が掲載されました。昨年秋のロシア・東欧学会における共通論題報告を論文化したものです。PDF版を無料でお読みになれますので、ぜひご利用ください。

  過去10年ほどのロシア・ウクライナ間で、常に重要な要素となってきたのが、「貿易戦争」でした。ただ、ロシアの措置は、経済そのものの利益を目的としているというよりも、経済を武器にウクライナを屈服させる意味合いが強いものでした。本稿は、ロシア・ウクライナ間の貿易戦争の軌跡を跡付け、付随してロシアによるドンバス占領経営に関しても振り返り、両国関係において地政学的対立と経済・通商的措置がどう絡み合ってきたかを吟味したものです。


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 ブルームバーグのこちらの記事が、G7がロシアへの輸出を原則的に禁止することを検討していると伝えている。

 記事によると、米欧日のG7が、来たる日本でのサミットに向け、ロシアへの輸出の原則禁止を検討しているということを、関係筋が明らかにした。これまでは特定の品目の輸出を禁止していた形だったが、これが現実になれば、特定の品目だけが例外的に許可される形に変わる。許可品目は未定だが、人道目的の医薬品や食料などが対象になると見られる。

 ただし、そこでネックとなるのは、EUの場合は全構成国がこの措置に同意する必要があることである。上図のとおり、ロシア市場へのエクスポージャーが高い国も多いからだ。さらに、ロシアによる報復も懸念されるところだと、ブルームバーグは伝えている。


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 ワグネルの生みの親であるYe.プリゴジン氏が4月14日にSNSで行った投稿に関しては、現時点の占領範囲でとりあえずよしとして停戦すべきといった内容を含んでいたため、我が国の界隈でも、プーチン体制の方向性に反した大胆な提言として話題となった。そこで、私自身もこちらのプリゴジン投稿をじっくり読んでみたのだが、正直に言うと、全体として何を言いたいのか非常に分かりずらい、難解なテキストだということを感じた。

 どうも全体として、プリゴジンが和平派に転じたといった単純なことではなさそうな気がする。

 日本でプリゴジン氏の投稿が広く広まったのは、産経新聞の「ワグネルトップ『停戦すべき時が来た』 露軍の敗北にも言及」という記事だったのではないかと思う。

 産経は「プリゴジン氏は声明で、……侵攻開始から1年に当たる今年2月24日時点の前線を停戦ラインとすべきだと主張した」と伝えているが、これは不正確ではないだろうか。プリゴジンの投稿を読むと、彼が言っているのは、「米国側が交渉姿勢として2023年2月24日時点の境界線の維持を交換条件として提案してくる可能性が今すぐにでもある」ということであり、ロシアがそうすべきだと言っているとは、私には読めない。

 もう一つ、産経の伝え方で気になったのは、次のくだりである。

 「ウクライナはかつてロシアの一部だったかもしれないが、今は国民国家だ」とも述べ、「ウクライナはロシアの一部だ」とするプーチン露大統領の持論に暗に異を唱えた。

 いや、ちょっとそれは違うだろう。原文は если раньше Украина была частью бывшей России, то теперь это абсолютно национально-ориентированное государство であり、私なりに訳すと、この部分は、「以前ウクライナが旧来のロシアの一部であったのに対し、現在は完全にナショナリスティックな方向性の国になっている」といった感じだろうと思う。「だからウクライナとは根本的に相容れないのだ」というのがここでの論旨ではないだろうか。

 今回のプリゴジン氏のテキスト全体を貫いているのは、陰謀論、ディープステート論である。私なりにプリゴジンの理屈を整理すれば、以下のとおりとなる。すなわち、戦争の親玉である米国は、今般あえて、ウクライナに反転攻勢開始を思いとどまらせた。米国は、短期戦は望んでおらず、ロシアにおけるディープステート(プリゴジンはチュバイス、ホドルコフスキー、ドヴォルコヴィチらのリベラル派の勢力をそう呼んでいる)を立て直し、それを通じ長期間をかけてロシアを衰退させていこうとしている。それよりはむしろ、たとえロシアがどん底に沈んだとしても、ロシアが屈辱をバネに力強く甦ることの方が良い。ウクライナの攻撃は強力かもしれないが、いかなる妥協もありえず、徹底して戦うのみである。

 全体として難解で矛盾に満ちたテキストであるが、プリゴジンはこのようなことを言っているのである。


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06

 西側がウクライナに戦車を提供する態勢が整い、「では、ロシアの側の戦車供給はどうなっているのか?」というのが気になるところである。

 それに関し、こちらに見るとおり、英エコノミスト誌が、最近興味深い記事を掲載したということである。ただ、有料記事なので、私は閲覧できない。

 そうした中、ポーランドメディアのこちらの記事が、エコノミスト誌の記事を要約してくれているので、便利である。これによると、ロシア軍は毎月、ウクライナでの戦闘で少なくとも150台の戦車を失っている。ところが、ロシア唯一の戦車工場であるウラルヴァゴンザヴォードが新規生産できるのは、月わずか20台程度である。つまり、需要が供給を10倍程度も上回っている状態だ。第二次大戦中には、ソ連は月に1,000台近くの戦車を生産したが、今では電子部品不足など で生産力がすっかり低下した。ロシアにはソ連時代の旧式戦車のストックが大量にあり、それを調整・アップデートして活用する方法もあるが、この作業もウラルヴァゴンザヴォードでは月に8台しかこなすことができず、その他の3工場も17台だけである。当局は近いうちにさらに2工場でも旧戦車の修理作業を開始し、月間90台の旧戦車を戦場に投入できる態勢を整える予定であると、エコノミストは伝えている。

 上記エコノミスト記事も含め、他の情報源も加え構成したこちらの記事も興味深かった。ロシアは2,500台の稼働中の戦車を保有していたが、2月の時点ですでに1,600台が失われていたと見られる(この数字はフォーブス誌が報じたらしいのだが、元記事は見付けられなかった)。

 こちらの記事によると、前出のウラルヴァゴンザヴォードは休日返上で増産に励んではいるが、人手が足りず限界がある。服役中の囚人250人まで投入する事態となっている(ワグネルかっ!)。

 そうした中、こちらの記事によると、プーチンは3月下旬、ウクライナの同盟諸国が同国に400台の戦車を供給する間に、ロシアの軍需産業は1,600台以上の戦車を生産する、ロシアの保有する戦車はウクライナ軍のそれを3倍も上回ることになろうと、強がって見せた。


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1448

 こちらの記事が、ロシアが石油輸出関税を見直しているが、効果は限定的だろうということを伝えている。

 記事によると、このほどロシア財務省は下院に関税率法の改正案を上程した。ロシアでは、従来、自国の主力輸出油種であるウラル原油の価格にもとづき、石油関連税の税率を決定してきた。しかし、そのウラル原油価格は、欧州港におけるCIF価格であり、ロシアが現実には欧州市場に海上輸出しなくなったことから、指標の信憑性が薄れ、過小評価され、結果として税収が減っていた。実際、2023年1~3月の石油・ガス歳入は前年同期比45%減だった。そこで、ロシアは地下資源採掘税に関し、ウラル原油ではなく、ブレント原油マイナス一定額という方式で税率を決定する方式に変更した。その法律は2月に成立し、4月施行、4月のディスカウント幅はバレル34ドルで、それが段階的に引き下げられ、7月からは25ドルで固定されるという方式となっている。これにより、年間の税収が6,600億ドル拡大すると見られる。

 そして今回、石油の輸出関税についても、同様の変更を加える方向となり、法案が提出されたというわけである。ただし、1~3月の場合、石油の地下資源採掘税の税収が1兆2,820億ルーブルに上るのに対し、石油の輸出関税の税収は470億ルーブルに留まるので、今回の改正の効果は限定的となる。また、過去数年で進められてきた石油税制改革によれば、石油の輸出関税は今年いっぱいで廃止され、全面的に地下資源採掘税に置き換わる。


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1447

 このほどWedge ONLINGに、「プーチンとルカシェンコ 腐れ縁でも核兵器については……」を寄稿しました。無料でお読みになれますので、ぜひご利用ください。


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