ロシア・ウクライナ・ベラルーシ探訪 服部倫卓ブログ

ロシア・ウクライナ・ベラルーシを中心とした旧ソ連諸国の経済・政治情報をお届け。

カテゴリ: 学問のすゝめ

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 これはとんでもない本が出た。カザフスタンだけでなく、ロシア・ユーラシア諸国にかかわる者全員にとっての、必読書と断言できる。岡奈津子『〈賄賂〉のある暮らし:市場経済化後のカザフスタン』(白水社、2019年)である。Amazonから内容紹介を拝借すれば、以下のとおり。

 ソ連崩壊後、独立して計画経済から市場経済に移行したカザフスタン。国のありかたや人びとの生活はどのような変化を遂げたのだろうか。独立前からカザフ人のあいだにみられる特徴のひとつに「コネ」がある。そして、市場経済移行後に生活のなかに蔓延しているのが、このコネクションを活用して流れる「賄賂」である。経済発展がこれまでの人びとの関係性を変え、社会に大きなひずみが生じているのだ。本書は、市場経済下、警察、教育、医療、ビジネス活動など、あらゆる側面に浸透している「賄賂」を切り口に現在のカザフスタンをみていく。賄賂は多かれ少なかれ世界中の国々でみられる現象だが、独立後のカザフスタンは、それが深刻な社会問題を生み出している典型的な国のひとつである。ここから見えてくるのは、人びとの価値観の変容だけでなく、ほんとうの「豊かさ」を支える社会経済システムとはどのようなものかという問題だ。豊かさを追い求めた、この30年の軌跡。

 この本を読んで、「自分が今まで見てきたつもりでいたカザフスタンは、何だったのか?」と、愕然とさせられた。自分が断片的にでも知っているつもりでいた、公式的な存在としてのカザフスタンという国とは別に、まるでパラレルワールドのように、もう一つのカザフスタンが存在したのだ。そして、どうも、そちらのカザフスタンの方が、本物のようなのである。

 本書は、カザフスタンおよび旧ソ連全般の地域研究を縦糸、政治・経済・社会学的な腐敗論を横糸とし、その両方の関心に見事に応えるものとなっている。カザフという国を知るための本であるのはもちろん(他の旧ソ連諸国のヒントも)、カザフそのものに興味がなくても、腐敗、途上国・新興国の社会、移行経済などについて大いに考えさせられる。2,420円と、この種の本としては手頃な価格でもあり、ぜひご一読をお勧めしたい。


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 昨日概要だけ紹介した穆尭芊・徐一睿・岡本信広(編著)『「一帯一路」経済政策論 プラットフォームとしての実像を読み解く』(日本評論社、2019年)。我々ロシア地域の関係者は、やはり新井洋史氏による第6章「東北内陸 ―近くて遠い『借港出海』の進展は?」にとりわけ大きな関心を覚える。

「借港出海」とは、海への出口を持たない内陸国が、近隣国の港を利用して海への出口を確保し貿易を行うことを指す。この第6章で具体的に論じられているのは、中国東北部の吉林省および黒龍江省のケースであり、両省の場合は自国の大連港に出るよりもロシアや北朝鮮の港を借りた方が距離的に近いことから、これまでも様々な輸送ルートが検討・開拓されてきた。

 

 問題は、現在も続く両省による借港出海の模索が、今日の一帯一路政策とどのように関係していくかだろう。一帯一路は、一般的には、中国と欧州を結ぶものとイメージされることが多く、中国東北地方から東に向かう借港出海はそれにはマッチしないのではないかという疑問も湧く。しかし、実際には吉林省および黒龍江省は、以前からの借港出海の試みを、今日では一帯一路の名の下で推進するしたたかさを見せているということである。第6章の締めくくりでは、以下のように論じられており、なるほどと納得させられた。

 歴史的な出自が異なり、一見無関係に見える政策を、黒龍江省や吉林省はいとも簡単に「一帯一路」に結び付け、しかも停滞気味だった状況を打破する契機として活用している。政策主体の工夫次第で、いかなる政策であっても「飲み込む」ことができる「一帯一路」の懐の深さを示す好事例である。


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 このほど、ERINA北東アジア研究叢書の10作目として、穆尭芊・徐一睿・岡本信広(編著)『「一帯一路」経済政策論 プラットフォームとしての実像を読み解く』(日本評論社、2019年)が刊行された。目次を整理しておくと以下のとおり。

序 章 プラットフォームとしての「一帯一路」(徐一睿・穆尭芊)
第1章 地域開発政策-地域一体化への新展開とは?(穆尭芊)
第2章 地方財政-財政格差の再拡大をどう防ぐか?(町田俊彦)
第3章 インフラ整備-地域間の格差是正に寄与しているか?(徐一睿)
第4章 農村・農民-農村を発展させられるか?(岡本信広)
第5章 人流・物流-鉄道輸送の経済効果をどの程度変えるか?(南川高範)
第6章 東北内陸-近くて遠い「借港出海」の進展は?(新井洋史)
第7章 海上シルクロード-「海運強国」は実現可能か?(朱永浩)
終章  政策評価-「一帯一路」はプラットフォームになりえるのか?(岡本信広)
あとがき(穆尭芊)

 中国の一帯一路政策を扱った文献はあまた存在するが、本書はやや異色な部類に属すと思われる。というのも、同政策が国際関係論的な角度というよりも、中国の国内経済的な観点に主軸を置いて論じられているからである。もちろん、「異色」ではあっても、このアプローチが正鵠を射ていないというわけではなく、むしろこれまで同政策の研究で欠落していた部分を埋める貴重な作業ということになろう。

 個人的に特に注目した部分については、明日触れることとしたい。


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 先日簡単にご紹介した益田実・山本健(編集)『欧州統合史:二つの世界大戦からブレグジットまで (Minerva Modern History 1)』(ミネルヴァ書房、2019年)。サブタイトルに「ブレグジット」を掲げているだけあって、さすがに本書におけるその問題についての解説は説得力のあるものになっている。マスコミ報道では、イギリスとEUの駆け引きとか、イギリス国内のゴタゴタだとか、どうしてもそういう側面に偏重しがちだが、本書ではイギリスとEUの関係史、離脱決定に至る経緯はもちろん、イギリスが実際にEUから離脱した場合に双方に及ぶ結果や影響などについて具体的に書かれており、非常にためになる。

 特に、個人的に認識を新たにさせられたのは、第9章の333~334頁の次のようなくだりである。

 イギリスにとって同じく重要なのは、EU以外の国や地域との関係構築である。というのも、関税同盟と共通通商政策はEUの排他的権限であったため、1973年のEC加盟以来イギリスはどの国や地域とも直接通商関係を結んでおらず、離脱すればイギリスはEU域外の国・地域との通商協定がなくなってしまうからである。現在EUは50以上の国や地域とさまざまな通商協定を締結しているが、それに代わってイギリスは、離脱後に世界の国々と新たに通商協定を締結しなければならない。その作業量は膨大であり、交渉自体も数年かかると言われている。加えて、長年通商関係はEU任せであったことから、イギリス政府にはこの分野に精通した専門家が不足しており、またEUから離脱して一国となったイギリスの交渉力は著しく弱まることになる。

 うむ、これは個人的にまったく盲点だったが、言われてみれば確かにそのとおりであろう。そして、これは一例であり、おそらく当のイギリス国民が現在明確に意識していなくても、EUから離脱することによって生じる不利益や空白などは、膨大に存在するということなのだろう。


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 しばらく前に執筆参加者の一人からご恵贈いただいた本を、改めて拝読しているところ。益田実・山本健(編集)『欧州統合史:二つの世界大戦からブレグジットまで (Minerva Modern History 1) 』(ミネルヴァ書房、2019年)である。

 欧州統合、EUに関する解説書、研究書の類は、あまた存在する。そうした中で、本書の特徴は、「統合史」というタイトルからも分かるとおり、欧州統合の前史から今日までを、基本的に時系列的に解説している点にある。おそらく、EUに関する書籍で一番良くあるパターンは、制度論、通貨統合、農業政策、構成国の拡大といったテーマ別・分野別にそれぞれの分野の第一人者が論じたものをコンパイルするというものではないか。本書を手に取るまでは、私も漠然とそのような本なのかなとイメージしていたのだが、実際には年代別に9つの章が設けられており、また基本的には一人1章という割り振りになっていて、各執筆者は同時代の重要事項にすべて言及することとなる。

 寄せ集めの論集と異なり、一貫した方針で通史を描くという本書を作り上げるにあたっては、さぞかし骨の折れる編集作業になったのではないかと想像する。しかし、その甲斐あって、本書では欧州統合の流れを、前後左右の出来事と照らし合わせながら論じることで、よりリアルに理解できるようになっていると感じた。

 たとえば、東野篤子による第8章「ビッグ・バン拡大からリスボン条約へ」によれば、中東欧諸国のうち、ブルガリアとルーマニアのEU加盟交渉は2004年末に妥結し、2007年1月に加盟が実現したが、これが後に思わぬ形でEUを揺るがす、一つの伏線になったという。というのも、それまでイギリスはEUの中東欧への拡大に好意的だったものの、ブルガリア・ルーマニアの加盟以降は態度を硬化させ、中東欧からの移民流入増大を警戒するようになったということだ。

 このような思わぬリパーカッションは、東方拡大だけを、あるいはブレグジットだけに注目していたら、見過ごしてしまいそうな現象である。欧州統合というと合理的な制度設計に従って推進されているというイメージを抱きがちだが、現実には様々な要因がカオス的に絡み合って動いてきたのだということが、通史だからこそ浮き彫りとなる。


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 末廣昭・田島俊雄・丸川知雄(編)『中国・新興国ネクサス: 新たな世界経済循環』(2018年、東京大学出版会)の紹介を続けさせていただく。

 本書の中でも、第1章「中国・新興国ネクサスと『一帯一路』構想」(伊藤亜聖)は非常に多面的かつ情報量豊かで、決定版に近い論考と思われる。ただ、この章を読み終え、「よし、これで一帯一路のことは良く分かった」と思うよりも、むしろ一帯一路なるものの掴みどころのなさ、研究する上での難しさを思い知らされた気がする。

 伊藤によれば、一帯一路政策が対象としている地理的範囲は、実は明確でないという。一般に、65ヵ国の沿線国が対象とされることが多いものの、それは俗説に過ぎないし、65ヵ国の具体的な顔ぶれにも複数バージョンがあるということである。ともあれ、代表的な説によれば、(服部の個人的な研究対象地域である)旧ソ連諸国や、やはり関心国である中東欧諸国が、すべてその対象国となっていることは、間違いないところのようだ。ただ、実際には中国がアフリカ等を対象に実施する投資プロジェクトも、一帯一路の一環として位置付けられることが多く、その地理的範囲を特定することは意味をなさないということのようである。

 恥ずかしながら、29ページに掲載されている一帯一路の「六大経済回廊」という枠組みを、個人的に知らなかった。六大のうち、私の研究対象地域にかかわるのは、①中国・モンゴル・ロシア経済回廊、②新ユーラシアランドブリッジ経済回廊、③中国・中央アジア・西アジア経済回廊である。驚いたことに、ロシアのモスクワ~カザン高速鉄道プロジェクトは、①の一環ということになっているようだ。中国と欧州を結ぶコンテナ貨物列車「中欧班列」は、②に位置付けられている。さらに、トルクメニスタンと中国を結ぶガスパイプラインも、③の一部として、一帯一路政策に含まれているとは知らなかった。

 ただし、個人的に気になって調べたところ、ロシアから中国向けのガス輸出パイプライン「シベリアの力」は、一帯一路の枠内とは位置付けられていないらしい。あれだって中国との共同プロジェクトに変わりはないのだが。


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 しばらく前に手にしながら、読む余裕がなかった本。末廣昭・田島俊雄・丸川知雄(編)『中国・新興国ネクサス: 新たな世界経済循環』(2018年、東京大学出版会)を、このほど改めて紐解いてみた。

 個人的に「ネクサス」という言葉に馴染みがなく、どうしてもタブレット・スマホのブランドを想像してしまうのだが、関係性を意味する単語ということであり、つまりこの本は中国と新興国との経済関係のありようを分析した論集ということになる。

 紹介文には、「経済大国となった中国は、いまだ過小評価されている。いまや中国は周辺の途上国を巻き込み、中国と新興国という新たな世界経済の構造が姿を見せつつある。変わりゆく中国の立ち位置から、ASEANとの関係、各産業における輸入・輸出の新展開を論じる」とある。

 今回は、とりあえず目次だけ掲載しておく。

序章 世界経済の構造変化と中国・新興国ネクサス(丸川知雄)
第I部 変わりゆく中国の立ち位置
第1章 中国・新興国ネクサスと「一帯一路」構想(伊藤亜聖)
第2章 中国との貿易が新興国経済に与えるインパクト(丸川知雄)
第II部 中国とASEANの水平・垂直関係
第3章 東南アジアに南進する中国(末廣昭)
第4章 深化・分化する中国・ASEAN貿易(宮島良明・大泉啓一郎)
第III部 「世界の工場」中国がもたらす対外衝動
第5章 中国の食生活の向上と新興国への影響(李海訓)
第6章 中国の石炭輸入転換による国際市場秩序と新興国へのインパクト(堀井伸浩)
第7章 中国の鉄鋼超大国化と輸出競争力の源泉(丸川知雄)
第8章 中国セメント産業の発展と技術選択・産業組織(田島俊雄)
第9章 雑貨と携帯電話における新興国市場の開拓と専業市場(丁可・日置史郎)
終章 米中拮抗の時代へ(丸川知雄)


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 前々回前回に引き続き、小泉悠さんの新著『「帝国」ロシアの地政学 』(2019年、東京堂出版)の紹介を続けたい。

 本書においては、プーチン政権のロシアによるユーラシア統合の試みと、EUによる欧州近隣諸国政策~東方パートナーシップという東西の政策的なイニシアティブがせめぎ合って、ウクライナ危機を招来したことが、中心的なトピックの一つとして取り上げられている。本件は、私自身も研究に取り組んだので、本書の関連個所はとりわけ注意深く読んだ。

 当該の問題に関し、著者は次のような見解を述べている。

 プーチン首相が2011年に提起したEEU(ユーラシア経済連合)は、旧ソ連諸国内の経済統合による経済発展というポジティブな性格を装いつつ(実際、そのような効果は見込まれていたとしても)、それらの国々がEUの経済圏に取り込まれるのを防ぐこと=経済面でロシアの消極的勢力圏に留め置くという、よりネガティブな性格も有していたことになる。

 小泉氏のこの視点は、私にとっては新鮮で、「なるほど」とうならされた。ただ、私自身は、ユーラシア統合がロシア経済に及ぼしうるポジティブな効果(少なくともロシアの政策担当者はそのように信じた)に着目する分析を続けてきただけに、そうした側面ももう少し考慮に入れる方が公平ではないかと考える。2011年のプーチンのユーラシア統合構想は、ロシア・ベラルーシ・カザフスタンという3国の関税同盟がそれなりに上手く機能したことを前提にしたものだったし、当時ロシアの近代化が国是とされる中で、ロシアにとっての市場拡大や、イノベーション的発展といった要請が、ユーラシア統合構想に繋がった面があった。ウクライナは、単に潜在的な市場規模が大きいだけでなく、ロシアが戦略的に重視する航空・宇宙産業や原子力産業においてもパートナーと位置付けられていた。

 とはいえ、ウクライナ危機が激化するに連れ、もともとそれなりにあったと私が考えるユーラシア統合によるポジティブな経済効果といった要素は吹き飛び、小泉氏の指摘するようなネガティブな側面だけが前面に出る結果になったのは、そのとおりであろう。本書にある、「中長期的に見た場合、ロシアのこうした振る舞い(勢力圏を率いようとする大国的振る舞い)は周辺諸国の警戒感を強め、結果的に勢力圏を衰退させる作用を持つのではないだろうか」との指摘には、首肯せざるをえない。


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 前回に引き続き、小泉悠さんの新著『「帝国」ロシアの地政学 』(2019年、東京堂出版)の紹介を続けたい。

 本書では、第1章、第2章で理論的考察を行い、以下の章でその枠組みに沿って、ジョージア、バルト、ウクライナ、中東、北方領土、そして北極という具体的なエリアの現象を論じるという構成になっている。非常に理に適った構成であるが、個人的には、北極を扱った第7章は、それ自体は読み応えがあるものの、本書の主題からはやや外れているかもしれないという印象を受けた。

 第1章では、先行研究にもとづきながら、ロシアの対外戦略を、西欧志向、帝国志向、大国志向の3つに分類する枠組みを採用し、今日のプーチン体制においては旧ソ連圏を勢力圏とする大国志向が主軸になっているとの理解が示されている。その上で、第2章においては、プーチン・ロシアによってその大国志向が、具体的にどのような形で展開されているのかが論じられている。結論を言えば、以下のとおりとなる。

 ロシアの理解によれば、ロシアは、より弱体な国々の主権を制限しうる「主権国家」=大国であり、その「歴史的主権」が及ぶ範囲は概ね旧ソ連の版図と重なる。その内部において、ロシアはエスニックなつながりを根拠とするR2P(保護する責任)を主張し、介入を正当化してきた。

 ただし、その際に、ロシアは必ずしも旧ソ連全域に一様に支配を行使しようとしているわけではなく、ロシアの影響圏から逃れようとしているような遠心的な国については、「ロシアが決定的に望ましくないと考える行動」(とりわけウクライナやジョージアのNATO・EU加盟)を少なくとも阻止するという対応をとっており、「現在のロシアが目指しているのは、まさにこのような意味での影響圏=消極的勢力圏を維持することであろう」と指摘されている。

 私自身も、小泉氏と同様のイメージは描いていたが、本書によってそれをより明確に理解する理論的枠組みが得られ、有益であった。


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 小泉悠さんの新著『「帝国」ロシアの地政学 』(2019年、東京堂出版)を紹介してみたい。ただし、語るべき点が多いので、何回かに分けて取り上げさせていただく。まず、アマゾンのサイトから紹介文をコピーさせていだくと、以下のとおり。

 ロシアの対外政策を分析し、その野望と戦略を読み解く。旧ソ連諸国、中東、東アジア、そして北極圏へと張り巡らされるロシアの新勢力圏を丹念に分析。国際社会の新秩序を理解するのに最適の書。北方領土の軍事的価値にも言及。

 ウクライナ、中東、北方四島、そして北極へ。東西南北に張り巡らされるロシアの新勢力圏。露わになるロシアの軍事的野望の向かう先は?混迷する世界秩序を理解するための必読書!

 内容的なことは追々コメントすることとして、本書全体のスタイルについて申し上げると、本書は、著者自身の現地訪問ルポ、国際情勢分析、理論的考察などが上手く折衷されている点に特徴がある。それらの要素がシームレスに繋がっているので、一般読者もすんなりと内容に入っていけ、ロシアをめぐる複雑な国際関係についての理解が深まるようにできている。

 実は、本書で披露されている現地訪問の一つには、私も同行している。しかし、私自身はその現地訪問から、小泉氏ほどの豊かな物語を紡ぐことはできなかった。書き手としての著者の力量に感服した次第である。


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 時々申し上げることだが、私は野口悠紀雄先生のファンなので、その著作は、経済論も、そして「超」シリーズも、だいたい読んでいる。このほど、後者の「超」シリーズの最新版となる『「超」AI整理法 無限にためて瞬時に引き出す』が刊行されたので、早速読んでみた。「はじめに」の一部を引用させていただくと、以下のとおり。

 AIはさまざまな面で人間の創造活動を補助してくれます。ですから、それを活用すべきです。人間とAIの共働体制を作ることに成功した組織や人が、未来の世界を切り開いていくでしょう。ただし、新しい技術を使うためには仕事の仕組みをうまく構築する必要があります。そのためには、これまで習慣的に行ってきたパソコンやスマートフォンの使い方を大きく変える必要があります。本書は、それについての具体的な提案です。本書が想定する読者は、クリエイティブな仕事をしたいと思っている人たち、新しい可能性を開きたいと思っている人たち、そして、仕事や生活の効率を向上させたいと思っているすべての人たちです。本書で提案する方法を活用して、新しい世界を切り開いていただきたいと思います。

 デジタル時代の仕事の流儀には、人それぞれこだわりがあると思う。私の場合は、本書ですぐに役に立ったのは、グーグルドキュメントの活用だった。今まで、メモ帳的な感覚でマイクロソフトのOneNoteを使っていたのだが、あまりにも使い勝手が悪く、何か良いものがないかと思っていたところだったので、グーグルドキュメントの存在を知り使い始めたところ、早速重宝している。その一方、ウェブサイトのブックマークや、作成中の文書の扱いについては、野口先生が本書で示している方式が自分に合っているとは思えず、すぐに採用ということにはならなかった。このあたりは、あくまでも自分に合うものだけを取り入れればいいと思う。

 AI時代の効用として、野口先生は、外国語の学習がしやすくなったことを挙げており、何と現在ロシア語を学習中なのだという。もうすぐ傘寿になられるのに、まったく恐るべきバイタリティだ。私など、うかうかしていたら、そのうちロシア語力で野口先生に抜かれそうである。


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 話題沸騰! かどうかは知らないが、最近ロシア関係者のSNSなどでチラホラと取り上げられているPC版の研究社露和・和露辞典。DVD-ROMのパッケージが17,064円で、3月15日発売ということだ。

 以前は私も、海外出張に重い辞書を持って行ったものだ。最近は、分からないロシア語単語等があっても、ネット検索すればだいたい調べられるので、当然出張には辞書など持って行かないし、そもそも卓上に辞書があってもネット検索を優先するような感じだ。ただ、PC上で研究社露和・和露辞典が引けるということであれば、結構使う機会が多いのではないかという気がする。

 ただ、気になっていたのは、この商品は、常にディスクをドライブに入れっぱなしにしないといけないのだろうか? ということだ。仮にそうなら非常に不便だし、出張用のモバイルPCにはそもそも光学ドライブがなく、それではあまりに使い勝手が悪い。そこで、この辞典のインターフェイスであるLogoVista辞典ブラウザの説明をこちらのページでチェックしてみたところ、「インストール後はメディア不要のハードディスク格納型、見たいときにすぐ検索」と書かれているので、ディスクをドライブに常時セットしておく必要などはないのだろう。それならば、便利そうだ。まあ、ドライブのないPCしか持っていない人は利用できないだろうが、当方は一応外付けドライブがあるので、モバイルPCへのインストールについても問題はない(他の商品の前例を見ると、後からダウンロード版が追加されるのかもしれない)。ただし、「何台までしかインストールできない」なんて縛りはあるのだろうか?


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 このほど読了した新刊。野口悠紀雄『平成はなぜ失敗したのか 「失われた30年」の分析』(幻冬舎、2019年)。内容は以下のとおり(前書きより)。

 平成経済史が一気にわかる。
「平成」という時代の失敗の検証なしに、日本は前進できない!
日本人が遅れを取り続ける原因を徹底解明。
 平成の30年間を一言で言えば、世界経済の大きな変化に日本経済が取り残された時代でした。平成時代を通じて、日本経済の国際的な地位は継続的に低下したのです。
 ここで重要なのは、「努力したけれども取り残された」のではなく、「大きな変化が生じていることに気がつかなかったために取り残された」ということです。改革が必要だということが意識されず、条件の変化に対応しなかったのです。
 平成の時代が終わることから、平成回顧ブームが起き、多くのメディアが「平成を振り返る」という特集を組んでいます。
 振り返るのであれば、過去を懐かしむだけでなく、なぜこの時代が日本にとっての失敗の時代になってしまったのか、その原因を明らかにすることが重要です。そうすることによって、平成回顧ブームを意味あるものにすることができるはずです。
 本書は、このような観点から、平成時代の経済を分析し、重要な選択の局面において、本当はどうすべきだったかを考えます。
 それらを、いまの日本経済が抱える問題との関連で取り上げ、将来に向かって日本が何をなすべきかを検証します。主として日本の経済について述べますが、それだけでなく、世界経済についても言及します。とくに中国の変貌と成長が重要な関心事です。
 本書が平成のつぎの時代において少しでも役に立つことができれば幸いです。

 さて、私は野口さんのファンなので、主要著作はだいたい読んでおり、正直に言えば、この本で初めて触れた分析や指摘といったものは、あまりなかった気がする。

 そうした中で、今回新たに、非常に合点の行ったくだりが、以下の箇所だった。もしかしたら、以下の主張も、以前から唱えられていたものかもしれないが、いずれにしても、我が意を得たりと強く感じた。

 成長を実現するのは民間企業の努力であって、政府の計画ではありません。なぜなら、政府が特定の産業や研究分野を「成長分野」と指定して助成すると、資源配分を歪めてしまうからです。政府の判断は、正しいとは限りません。むしろ、誤っているのが普通です。ですから、かえって成長を阻害してしまうのです。新しい産業は、市場における競争を通じて誕生します。さまざまな試みがなされ、生き残ったものが日本経済の主力産業になるのです。

 政府は、産業構造再編の過程に介入すべきではありません。政府がなすべきは、規制緩和を通じて、市場の競争メカニズムを発揮させることです。ただし、このことは、政府が何もしなくてよいことを意味するものではありません。経済成長のために政府がなすべきは、成長のための基本的条件を整備することです。とくに重要なのが、人材(高度な専門家)の育成です。しかし、これについては、何もなされていないのが現状です。


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 ついにこの日が。。。というか、正式な発売日はまだもうちょっと先ですが。服部倫卓・原田義也 (編著)『ウクライナを知るための65章(エリア・スタディーズ169)』(明石書店、2018年)です。明石書店のページはこちら、アマゾンはこちら


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 というわけで、昨日のアエロフロート便で、東京からモスクワに飛んだ。機上で読んだのがこの本、孫崎享『日本の国境問題 尖閣・竹島・北方領土』(ちくま新書 905、2011年)である。中身は次のようなもの。

 海に囲まれた島国・日本にあっても、周辺には解決が困難な国境問題を抱えている。尖閣・竹島・北方領土。領土は魔物である。それが目を覚ますと、ナショナリズムが燃え上がる。経済的不利益に、自国の歴史を冒涜されたという思いも重なり、一触即発の事態に発展しやすい。突き詰めれば、戦争はほぼすべて領土問題に端を発する―。中ソ国境紛争やイラン・イラク戦争の現場に外交官として赴任、情報収集にあたり、その後、防衛大学校教授として日本の安全保障を研究・分析した外交と国防の大家が論点を腑分け。平和国家・日本の国益に適った戦略を明かす。

 実を言うと、この本は数年前に電子書籍で買い、ずっと私の電子書籍リーダーに入っていたのだが、私は電子書籍は休暇時に読むことが多く、休暇で読むにしては重いテーマなので、何年もiPad内積読されていたものである。それに、ウクライナ危機が起きた時の孫崎氏の評論に違和感を覚えたこともあって、少々読む気が失せたといった経緯もあった。

 しかし、今般ようやく重い腰を上げて読んだところ、これはなかなか素晴らしい本であり、もっと早く読めばよかったと感じた。たとえば、北方領土問題にしても、歴史的な経緯や交渉の過程といったものはもちろん重要だが、領土問題というものが持っているもっと本質的な部分というものがあり、それに関し個人的にこれまで漠然と考えていたことが本書によって非常にクリアになり、腑に落ちるところが大きかった。

 むろん、本書においては、日本の3大領土問題に関し、日本の公式的な立場とは異なる視点を提示し、相手国の立場もしっかりと踏まえようというスタンスがとられているので、反発を覚える日本人も多いことだろう。実際、Amazonの読者レビューを見ても、かなり評価が分かれている。いずれにしても、日本の領土問題に少しでも関心があるのなら、本書は必読であろう(何年間もほったらかしにしていた私が言うのはなんだが)。


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 編集作業が終わったばかりの『ロシアNIS調査月報』2018年7月号の中身を、編集長特権で、どこよりも早くご紹介。今号では、 「シベリア・極東の経済と外国投資」と題する特集をお届けしております。私個人は、「プーチン・メドヴェージェフ新体制の船出」、「ウクライナがCISとの決別を宣言」、「サッカー・ロシア代表選手名鑑」、「北方領土(南クリル)の自然を旅する」といった記事を執筆。それにしても、ここだけの話ですが、サッカー・ロシア代表チームのメンバーを詳しく紹介する渾身記事を書き上げた一方、それで精根尽き果て、肝心のメドヴェージェフ内閣の分析は一覧表を載せただけで終わってしまい、さすがに自己嫌悪に陥りました。6月20日発行。


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 昨日、世銀のデータを使って、ロシア・NIS圏における労働移民の問題を取り上げたので、ついでに日本のことにも触れてみたい。ロシア圏と関係ない話だが、GW中なのでご容赦願いたい。

 日本には、「移民を受け入れるべきか?」という論争がある。しかし、論争とは関係なく、すでにそれはなし崩し的に進行している。私自身の生活圏で言えば、私の行くような安い飲食店は、従業員の大半がもう外国人である。外国人の労働力を借りなければ、日本の経済生活はもはや維持できないようになっており、今後その傾向が強まることはあっても弱まることはないだろう。

 世銀の外国への個人送金の統計を見ても、日本から外国への個人送金額は2016年の時点で88億3,500万ドルに上っており、これは世界16位の数字である。送金先の国を図示したのが、上図になる。日本の場合、経済規模に比べればまだそれほど送金額は大きくないが、いずれにしても現実がこれだけ進行している以上、「労働移民を受け入れるべきか、否か」などという論争はもはや的外れだ。

 したがって、日本としては、労働移民の拡大が不可避である前提に立ち、外国人労働者の権利の保護を進めるとともに、労働移民を日本の課税・健康保険・年金などの制度に積極的に統合していくことが求められるのではないか。


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 今回のロシア出張の行き帰りの機中で読んだ本。真山仁による小説『オペレーションZ』。アマゾンによれば内容は以下のとおり。

 国の借金は千兆円を超え、基礎的財政収支は赤字が続く。国債が市場で吸収されなくなった時、ヘッジファンドが国債を売り浴びせた時、国家破綻は現実となる。総理は「オペレーションZ」の発動を決断し、密命を帯びたチームOZは「歳出半減」という不可能なミッションに挑む。官僚の抵抗、世論の反発、メディアの攻撃、内部の裏切り者。日本の未来に不可欠な大手術は成功するのか? 明日にも起こる危機。未曾有の超大型エンターテインメント!

 小説なので、ネタばれしないように、内容につき多くは語るまい。ただ、職業柄、おや?と感じたのは、上述のような日本の財政問題に、日本のロシアからの天然ガス輸入の問題が絡んでくるくだりである。面白いところに目を付けたとは思うが、その部分のリアリティがやや欠けていたのが、個人的にはちょっと残念に感じた。当方に相談でもしてくれればよかったのに(笑)。


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オペレーションZ
真山 仁
新潮社
2017-10-20

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 1月12日に岩波書店より『広辞苑 第七版』が発行されましたが、私はこの辞書の中で、旧ソ連・東欧圏の地名に関する記事の執筆を担当させていただきました。一つ一つの項目ごとに名前が出るわけではありませんが、旧ソ連・東欧圏の地名はすべて私が執筆・監修しています。

 まあ、私の作業自体は、2年くらい前に終えていたのですが、さすがにこれだけの辞書となると、全体を編纂するのにかなりの時間を要するものですね。


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 ブリュッセルに来る行きの飛行機の中で読んだ本。明石順平(著)『アベノミクスによろしく』(2017年、インターナショナル新書)。内容は、以下のとおり。

 アベノミクスの失敗をデータで徹底検証!  「アベノミクス以降の実質GDPは、3年間で比較すると民主党政権時代の3分の1しか伸びていない」「2014年度の国内実質消費は、戦後最大の下落率を記録」「GDP算出基準改定のどさくさに紛れてGDPを異常にかさ上げ」といった知られざる事実を、政府や国際機関による公式発表データを駆使して導きだし、詳細に分析!  さらに「アベノミクスの成果」と謳われる雇用の改善がアベノミクスと無関係であること、株価の上昇が官製相場によるものであることなどもデータで明らかにする。本書はアベノミクスが空前絶後の大失敗に終わっただけではなく、日本の未来に超特大の副作用を残していることを平易な文章で暴き出す。豊富なデータにより、アベノミクスの本当の姿が今、明らかになる。

 アベノミクス、リフレ政策に関する議論は、神学論争と化しており、賛成派・反対派の議論が収斂することは永遠になさそうである。ただし、賛成派はアベノミクスにより近い将来に日本経済は大復活すると予言しているのに対し、反対派はそれには効果がなく、むしろ無軌道な金融緩和が日本経済の混迷を深め、危機的状況に至る恐れがあると主張しているわけだから、どちらが正しいかはそう遠くない将来に歴史が証明することになるのではないか。もっとも、アベノミクス推進派は、たとえそれが破綻したとしても、「財政政策が不充分だった」などと弁明し、負けを認めないだろうが。

 アベノミクスやリフレ政策に関しては関連書があまたあるが、その中でも本書は平易ながら問題点を的確に示した啓蒙書として、広く読まれるべきだろう。特に、GDP改竄に関する下りに、本書の新味がある。ただ、著者は弁護士であり、本来であれば経済学者が率先してこのような警鐘を鳴らすべきだと個人的には思うが、どうだろうか。

アベノミクスによろしく (インターナショナル新書)
明石 順平
集英社インターナショナル
2017-10-06


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 HP更新しました。マンスリーエッセイ「『ベラルーシを知るための50章』が刊行されました」です。当ブログでもすでに簡単に告知はしましたが、改めてエッセイで刊行に当たっての所感を述べました。


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 こんな新刊をご恵贈いただきましたので、ご紹介します。仙石学(編)『脱新自由主義の時代?: 新しい政治経済秩序の模索(地域研究のフロンティア)』(京都大学学術出版会、2017年)。内容は以下のようなもの。

 経済システムの崩壊とハイパーインフレを緊急に克服するという意味では,ネオリベラリズムは一部の地域,特に南米と東欧で一定の成功を示した。しかし,その重篤な副作用としての格差の拡大固定,民主主義の形骸化や人間的な社会関係の喪失は,強く批判されている。ネオリベラリズムとは世界史にとって何だったのか。現場から検証する。

序章 「ネオリベラリズム」の後にくるもの[仙石 学]
第1章 「ポストネオリベラル」期の年金制度?—東欧諸国における多柱型年金制度の再改革[仙石 学]
第2章 危機意識に支えられるエストニアの「ネオリベラリズム」[小森宏美]
第3章 ネオリベラリズムと社会的投資 —チェコ共和国における家族政策,教育政策改革への影響とその限界[中田瑞穂]
第4章 スペイン・ポルトガルにおける新自由主義の「奇妙な不死」—民主化と欧州化の政策遺産とその変容[横田正顕]
第5章 ラテンアメリカ穏健左派支持における経済投票 —ウルグアイの拡大戦線の事例[出岡直也]
第6章 ポスト新自由主義期ラテンアメリカの「右旋回」—ペルーとホンジュラスの事例から[村上勇介]



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 趣味でよく読む(?)日本の財政破綻ものの一種だけど、これは経済書とかノンフィクションというのではなく、小説。幸田真音『大暴落 ガラ』(中央公論新社)である。その内容は、

 与党・明正党の総裁選で惜敗しながら、野党議員の投票により日本初の女性総理大臣となった三崎皓子。党の重鎮議員の反対で組閣もままならない。そんななか、危機管理官より、「秩父に大雨が降っており、このままでは荒川が決壊、都心が水に沈む可能性がある」との情報が入る。さらに追い打ちをかけるように、台風八号と九号が発生。皓子は日本では例がない「緊急事態宣言」を提案するが、経済の停滞を理由に閣内で反対の声が上がり――。

 あかね銀行のディーリングルームではその頃、「なんだこれは! 」絶叫が響いていた。一瞬でドル円相場が20円も飛び、159円をつけたのだ。「ガラだ! 大暴落だ! 」――。

 東京都心を直撃する大規模な自然災害、ゼロ金利政策を続ける日銀への信用不安。いつ現実のものとなってもおかしくない二つの危機に襲われた日本を、皓子はどのように救うのか?

 フィクションとはいえ、この手の作品を楽しめるかどうかは、ストーリーがいかにリアルかということにかかっているだろう。この作品では、複数の危機が同時並行的に発生するわけだが、本作品でそれぞれの危機がどれだけリアリティをもって描かれているかというと、

政治危機 > 自然災害危機 > 金融・財政危機

 であるように感じた。政治危機は、すでに日本で実際に起きていることと、大差ない。自然災害危機は、気象学的な設定にやや強引さがあるような印象もあるものの、一般論として言えば、いったん首都圏で大規模水害が起きたら、破局的な事態になりかねないというのは、その通りだろうと思った。問題は、金融・財政危機の描き方であり、これが著者の一番の得意分野だと思うのだが、正直言えばこの点に物足りなさを感じた。金融・財政危機は長期的・構造的な問題であり、本作ではそれをマーケットの動揺の問題として描くことに終始してしまっている。政治家のひらめきで相場危機を一山超えたら、それで終わりというわけではないはずなのに。

 まあ、小説が苦手な私が、400ページ以上ある本を一気に読んでしまったということは、面白かったことは間違いないが。

大暴落 ガラ
幸田 真音
中央公論新社
2017-03-08


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 「持ちこたえられない」というのが結論である。このほど読了した河村小百合『中央銀行は持ちこたえられるか ─忍び寄る「経済敗戦」の足音 』(集英社新書、2016年)によれば、中央銀行(具体的には日銀のこと)は安倍政権のリフレ政策の皺寄せに耐え切れず、遠からず健全性を維持できなくなるとの見通しが示されている。やはり錬金術はインチキだったという、当たり前の話である。

 個人的に本書から学んだ点としては、米国やEUも日本と同様のリフレ政策を推進してきたようでいながら、やはり日本のそれは異次元であること、日本ではプライマリーバランスさえ改善すれば安心のような風潮があるが、あくまでも問われるべきは財政収支全体であること、米国の緩和政策では最初から「出口戦略」が意識されていたのに対し、日本のそれは出口戦略が決定的に欠けていること、一口でマイナス金利と言っても日欧でかなり内容に違いがあること、日銀は米欧の中銀に比べて説明責任をまったく果たしていないこと、などである。

 それにしても、本書でも最後の方で指摘されているとおり、これだけのリスクが日々肥大化しているにもかかわらず、日本のマスコミはほとんど警鐘を鳴らしていない(著者によれば、そもそも大新聞レベルでも問題を理解できていないそうだ)。まあいいや、自分だけでも自衛しよう。



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 今般編集作業が終わった『ロシアNIS調査月報』2017年1月号では、「ソ連解体から四半世紀を経たロシア・NIS」という特集を組んでいる。ロシア・NISのすべての国を個別のレポートで詳しく論じるという意欲的な号になっているので、楽しみにしていただきたい。12月20日発行予定。

 さて、エストニア、ラトヴィア(私は通常は「ラトビア」と表記しているが)、リトアニアのバルト三国は、両大戦間期に独立国だった実績があるので、旧ソ連のいわゆる「新興独立諸国(NIS)」の範疇には含まれない。2004年にEU加盟を果たしたことを受け、2006年に私どもロシアNIS貿易会の事業対象からも外れてしまった。しかし、今回の月報の特集テーマであるソ連解体とその後の歳月、若き独立諸国の歩みを考える上で、バルト三国は避けて通れない。そこで今回の特集号では、せめて書評コーナーでこれら三国を取り上げることにした。明石書店の世界歴史叢書のシリーズから出たアンドレス・カセカンプ著、小森宏美・重松尚訳『バルト三国の歴史 ―エストニア・ラトヴィア・リトアニア 石器時代から現代まで』を紐解いてみた。以下、その書評を当ブログでもお目にかける。

 実は、バルト三国の歴史を総合的に論じた書籍というのは、あまり多くないらしい。というのも、エストニアとラトヴィアが歴史的に共通のコースを辿ってきたのに対し、リトアニアの歴史はだいぶ異なっており、三国を網羅した通史を描くのは至難の業だからだ。その点、本書はバランスが良く、翻訳も丁寧で大変に読みやすい。バルト三国について本邦で得られる最良の入門書と断言できる。

 バルト三国がソ連体制下で苦難を味わい、ソ連解体の際に急先鋒の役割を果たしたことは、良く知られている。したがって、これらの民族は終始一貫して反ソ連的、反ロシア的なのではないかというイメージを、つい抱いてしまう。しかし、歴史的には必ずしもそうではなく、エストニア人・ラトヴィア人にとっては、中世から20世紀初めに至るまで、現地の支配層であるバルト・ドイツ人こそが、克服すべき存在であった。また、中世にリトアニア大公国で栄華を極めながら、16世紀にポーランド王国に取り込まれたリトアニア人にとっては、ポーランドと一線を画し自己確立することが鍵であった。エストニア人・ラトヴィア人・リトアニア人がこれらの課題を解決し、国民国家として自己形成していく上で、ロシアは意外と肯定的な役割を果たしたことが、本書からは伝わってくる。

 むろん、ロシアは善意からバルト三国の民族・国家形成に協力したわけではない。私が本書で最も強い印象を受けたのは、ロマノフ王朝時代、「バルト・ドイツ人もロシア人官僚も、エストニア人およびラトヴィア人に民族としての未来や可能性はなく、間違いなく同化されると信じていた。唯一の問題は、エストニア人およびラトヴィア人がロシア化するのか、ドイツ化するのかという点にあったのである」(143頁)というくだりだった。別のシナリオを辿れば、エストニア人やラトヴィア人は、モルドヴィア人あたりと同じように、ロシア語を話してロシア正教を信仰する、ロシアの中の小民族といった存在になっていたかもしれない。そのような歴史の「イフ」や大いなる逆説を、小さき民族たちが語りかけてくれるのが、本書『バルト三国の歴史』である。

 いずれにしても、生れ落ちるに至ったバルト三民族が、ソ連解体のドラマにおいて主役級の役割を果たしたわけである。当時話題になったキーワードや事件名を挙げるだけでも、歌う革命、人間の鎖、人民戦線、血の日曜日事件、主権宣言など、枚挙に暇がない。本書では、「ソ連解体の結果としてバルト三国の独立が達成されたと言われることが多い。だが、その逆の方が真実に近い。バルト三国の民衆運動がソ連国内の民主化を加速し、ソヴィエト帝国の屋台骨を揺るがしたのである」(279頁)と指摘されており、まさにその通りだろう。



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 この週末、10月29~30日に京都女子大学で、ロシア・東欧学会の2016年研究大会が開催された。個人的には、ロシアの分科会で「ロシアの通商・産業政策におけるユーラシア経済連合の意義」と題する報告をさせていただいたのだが、テーマがマニアックなのと、報告の完成度が低かったことから、反響は低かった。

 今回はとにかく、冒頭に設けられた共通論題「漂流する世界とプーチンのロシア」で蓮見雄さんが「世界経済の構造転換をめぐる対抗・協調とロシアの選択」という報告を行ったのが、白眉だったのではないだろうか。ロシア・東欧学会なので、「ロシアは重要」という前提になりがちであるところ(あるいは、そもそもの重要性を問うこともなく蛸壺研究に終始)、ロシアはマージナルかつ受け身だという主張を研究大会の冒頭に持ってくるというのは、なかなか斬新だったと思う。学生時代に受けた伊豆見元先生の授業で、「朝鮮半島問題を考える時の基本の一つは、朝鮮半島問題が世界的に見ればそれほど重要でないということをわきまえることだ」という話を聞いてとても印象に残ったが(自分の研究分野の重要性が相対的に低いということを認めるのは勇気の要ることだろう)、それを思い出した。

 京都女子大学のキャンパス自体はまあ普通の大学の風景だったが、周りは史跡や観光名所だらけで、知的刺激は受けそうな環境だった。


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 こんな新刊のご紹介をいただきました。小泉悠『プーチンの国家戦略 ―岐路に立つ「強国」ロシア』(東京堂出版、2016年)、2,200円+税。内容は以下のとおり。

 プーチン大統領が絶対的指導者として君臨するロシア。この大国は、どこに向おうとしているのか。軍事、核、宗教、ウクライナ、NATO、旧ソ諸国、北方領土問題、宇宙開発など多岐にわたる切り口からロシアの戦略に迫る。「軍事大国ロシア 新たな世界戦略と行動原理」で話題となった、いま注目の若手ロシア研究者 小泉悠氏の最新作。

 ところで、この本の帯には佐藤優氏の推薦文が書かれており、佐藤氏の名前の方が著者の小泉さんより大きく目立つようになっている(笑)。以前、ロック評論家・渋谷陽一の本の帯に桑田佳祐が推薦文を寄せ、そちらの方が目立つようになっていたので、見た人が「桑田の本」と勘違いして手に取るという、そんなことがあったのを思い出した。もう小泉さんは誰かの名前を借りて売らなくても大丈夫じゃないでしょうか。



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 以前もタイトルだけご紹介したが、このほど読了したので、改めて取り上げさせていただく。杉本侃編著『北東アジアのエネルギー安全保障 ―東を目指すロシアと日本の将来』(日本評論社、ERINA北東アジア研究叢書5、2016年)である。A5判・312頁、定価:本体5,400円+税となっている。

 ERINA北東アジア研究叢書の一環として刊行された本書は、2011年度に立ち上げられた「北東アジアのエネルギー安全保障に関する共同研究グループ」の研究成果をまとめたものということである。エネルギーの大供給国ロシアと、大消費国日本の関係を、様々な視点から分析することで、周辺諸国を含む北東アジア全体のエネルギー安全保障を論じている。また、研究会立ち上げ後の2014年に、ウクライナで政変が発生したことから、それによって生じたウクライナ危機が図らずも本書の重要な背景になっている。

 順を追って見ていくと、新井洋史による第1章「序論:北東アジアのエネルギー情勢をどう捉えるか?」は、北東アジア地域の持つ特性、日・韓・北朝鮮・中・モンゴル・露という各国の経済・エネルギー事情、国際インフラの特性と整備状況、地域国際協力の枠組みについて論じている。

 本村眞澄による第2章「パイプライン政策とエネルギー安全保障」では、エネルギー安全保障についての視点、パイプラインというものの特質、ロシアのパイプライン政策と対欧米関係、ウクライナのパイプライン問題などが扱われている。パイプライン問題をいたずらに地政学的対立と捉えることを戒める本村氏の年来の主張が改めて打ち出されている。

 兵頭慎治、エレナ・シャドリナ、蓮見雄、原田大輔による第3章「ロシアの対外エネルギー戦略」は、ロシアと北東アジア、ロシアとアジア、ロシアと欧州、ロシアと日本のそれぞれの関係について論じている。

 篠原建仁、安達祐子、蓮見雄、原田大輔、による第4章「ロシア・エネルギー企業の戦略」では、ロスネフチ、ガスプロム、ヤマルLNGプロジェクトについての分析が披露されている。

 真殿達による第5章は、「ウクライナ危機とは何だったのか」というもの。ウクライナ問題の本質に関する、鋭く、目配りの効いた考察だと感じた。

 杉浦敏廣による第6章「カスピ海の資源開発動向とアジア地域への波及」は、カスピ海における石油ガス開発の概況を論じ、アジアへのインプリケーションを探ろうとしている。

 シャグダル・エンクバヤルによる第7章「エネルギーと気候変動」は、本テーマに関する基本を解説した上で、その問題設定を北東アジアに当てはめ、地域のエネルギー消費のあるべき姿を模索した論考である。

 杉本侃による第8章「日ロエネルギー協力の展望」は、長年この分野に携わってきた著者らしく、ロシアのエネルギー戦略の歴史的変遷を踏まえ、日ロ間のエネルギー協力の課題が論じられている。

 巻末には、執筆者らによるウクライナ危機および日本のエネルギーの課題に関する座談会の模様も採録されている。

 書名に「北東アジア」と冠されてはいるが、本書で極東地域を扱ったのはむしろ一部であり、ロシアのエネルギー問題全体に関する概説書だと理解していいだろう。より正確に言えば、ロシアのエネルギー戦略の全体像、ウクライナ危機、東方シフトといった背景を理解した上で北東アジアのエネルギー安全保障を考えるべきだというのが、本書のメッセージなのだろう。



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