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 東部戦線で、ドネツク州の要衝、ポクロウシクをめぐる状況が芳しくないようだ。こちらの記事によると、「ポクロウシクのドブリャク市長は30日、露軍が同市まで約7キロの距離に迫っているとし、防衛の準備に向けて同市を『封鎖』すると発表した。ドブリャク氏は、ドネツク州のウクライナ軍の重要防衛線の一角であるポクロウシクを巡る攻防戦が近く始まるとの認識を示した形だ。ドブリャク氏によると、防御拠点を構築中の地区への住民の出入りを禁止するほか、住民避難を進める。市内には現在、子供55人を含む住民約1万2000人が残っている」ということである。

 それで、様々なメディアが、仮にウクライナがポクロウシクを失うと、同国の鉄鋼業にとっても大打撃となると伝えている。同市には、鉄鋼業に必要な原料炭を採掘する炭鉱があり、それを失えば、ウクライナ鉄鋼業が原料基盤を欠くことになるからだ。

 代表例として、英エコノミストのこちらの記事が、以下のように伝えている。2014年にウクライナがドンバスの半分を親露分離主義者に奪われ、炭鉱の80%が失われた。ウクライナ側に残ったポクロウシク炭鉱は1990年に開坑した比較的新しいもので、ウクライナ有数の富豪R.アフメトフが所有するメトインヴェスト社のものとなっている。メトインヴェストはすでに、マリウポリの2つの製鉄所とアウジイウカにあった欧州最大のコークス化学工場をロシアに破壊されている。そして今、彼はポクロウシク炭鉱も失う事態に直面している。ロシア指導部にとって、アフメトフの資産を標的にすることは、ウクライナ経済を弱体化させる以外に、復讐という意味もあると広く信じられている。2014年以前、クレムリンは間違いなく彼が分離主義やロシア側に付くと信じていた。彼がウクライナ側に付くと、クレムリンはこれを裏切りとみなし、彼の財産を差し押さえた経緯がある。ポクロウシク炭鉱は、関連する工場や管理棟と合わせて6,000人を雇用しており、そのうち約1,000人は現在軍に勤務している。ポクロフスク鉱山はウクライナ最大の原料炭の炭鉱で、ウクライナに残る鉄鋼業にとって不可欠だ。今年、同炭鉱で530万tの石炭を採掘する予定であった。2023年、ウクライナは620万tの粗鋼を生産した。しかし、マリウポリの2大製鉄所を失う前の2021年の粗鋼生産量は2,140万tだった。この年、ウクライナは世界第14位の鉄鋼生産国だったが、2023年には第24位に転落した。もっとも、ある専門家によれば、ロシア軍はウクライナに残る鉄鋼業に打撃を与えるために鉱山を奪う必要さえないという。彼らが前進するにつれて、電力供給を遮断し、石炭を西の残りの製鉄所まで運ぶ道路を封鎖しようとするだろう。そして、ウダチネの北18kmにあるドブロピリアの別の小規模鉱山でも同じことをするだろう。業界団体「ウクルメタルルフプロム」の代表先月、ポクロウシクの原料炭の喪失は鉄鋼生産量のさらなる悲惨な損失につながると述べた。今年の粗鋼生産量は750万tに達する可能性があるが、ポクロウシクが失われた場合には、200万tから300万tになってしまうと、代表は述べた。ロシアはそれを知っているのだ。


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