ロシアから中国向けには、すでに東シベリアから天然ガスを供給するパイプライン「シベリアの力」が稼働しているが、主力のヤマル半島から新パイプラインを敷設しようという構想が「シベリアの力2」(上掲地図の赤)である。しかし、ロシア側が合意を切望しているのに対し、中国側の態度は煮え切らず、今回のプーチン訪中でも合意発表とは行きそうもない。その原因につき、こちらの記事の解説が興味深かったので、以下主要部分を抄訳しておく。
10年にわたる精力的な協議にもかかわらず、シベリアの力2をめぐる露中の交渉は「初期段階」であり、協力モデルにつき合意に至っていない。
専門家のS.ミトラホヴィチは、シベリアの力2は皆にとり必要だが、これまでのところ、誰も譲歩の姿勢を見せていないと指摘する。
別の専門家のV.クラギンによると、欧米市場と異なり、アジアには適正なガス価格を決定する指標が存在しない。かつてヨーロッパでは、石油価格に連動してガスが取引されていた。グローバルなガス市場は存在しない。今はガスは石油に連動しなくなっている。
シベリアの力1の契約は、約20年前に結ばれ、石油価格リンクだった。2021年から2022年にかけてガス価格が上昇し、1,000立米あたり3,000ドルに達する一方、石油はマイナス値を示した時には、ガスプロムはため息をつくしかなかった。欧州市場で2022年の年間平均価格は1,400ドルだったのに対し、中国では150ドルだった。現在は、価格は徐々に接近し、世界のガス価格が下落する一方、原油は1バレルあたり80ドルを超えて上昇した。
他方、ガスと同様に中国で広く使われているもうひとつの燃料、石炭の価格は、ガス価格のピーク時には1t当たり400ドルまで上昇したが、現在はロシア極東の港湾における石炭価格は90ドル強、バルト海では65ドルとなっている。
前出のミトラホヴィチによると、これが中国側にとって非常に魅力的なポイントとなっている。中国は、シベリアの力2のガス供給価格を決定するに当たって、石油の代わりに、石炭に連動させることを望んでいる。石炭の方がはるかに安いので、これはロシア側にとって非常に不利だ。これが交渉が長引いている理由のひとつだと、ミトラホヴィチは指摘する。
クラギンによると、世界の無煙炭価格は下がる一方であり、そうなればガスプロムは中国にタダ同然でガスを供給することになる。石炭に縛られるのは得策でない。石炭市場は、世界の石炭需要を支配している中国とインドという、たった2つのプレーヤーの方針によって決まる。石炭市場が成長する望みはないし、世界需要のピークはすぐに過ぎてしまうだろう。
中国との交渉で、価格の石炭連動という話が出てきたのは、最近のことである。新たな交渉の席が持たれ、そこで議論されることになる。中国大使の発言やガスプロムの輸出収入に関する困難な状況にもかかわらず、ガス価格フォーミュラが主要な議題となるだろう。建設費用に関しては、中露間で議題にもならない。というのも、1の時もロシアが建設費を全額負担したわけで、増してや中国は2の建設費を一文も支払わないからである。
シベリアの力1の時には、ガスプロムが欧州での巨大利益を、1の建設費に充てた。しかし現在、そのような資金はない。2023年の純損失は6,500億ルーブルを超えたが、本業であるガス生産・販売事業の赤字は1.2兆ルーブルを超えた。ガスプロムは非中核資産の売却を発表するまでになっている。例えば、モスクワにある不動産は競売にかけられ、またミレル社長がお気に入りのサッカークラブ「ゼニト」にボーナスを払わないとまで言っている。
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