これを言うと驚く人が多いが、ウクライナは今でも、ロシアの天然ガスを欧州市場向けにトランジット輸送する業務を続けている。2つあったルートのうちの1つは閉めてしまったが、もう1つはまだ生きており、それを利用した輸送はかろうじて続いている。
昨年11月に出たこちらの記事に、便利な図解資料が掲載されていたので、上掲のとおり転載させていただいた。上のグラフで、青はウクライナによる実際のロシア産ガス輸送量(10億立米、2023年は1~7月時点)、黄色は2019年契約で取り決めた輸送量(10億立米)、緑はそれにより得られるトランジット収入(10億ドル、小数点の位置に注意)を示している。
さて、2019年に結ばれたくだんの輸送契約は、本年末をもって期限が切れることになっている。ロシア側のこちらの記事が、この契約がどうなるのかについての見通しを伝えているので、以下要旨を整理しておく。
ウクライナの立場:2023年、ウクライナ・エネルギー相は、ウクライナはロシアと通過契約の延長について交渉しないと述べた。しかし、2024年1月、スロバキア首相は、ウクライナ首相との会談の後、2025年以降契約が延長される可能性があると述べた(ウクライナはその後、契約延長はないと改めて表明)。と同時にウクライナ政府は、ウクライナがEU加盟国と「自国のガス輸送網の利用」について話し合う可能性があることを認めた。このように、ウクライナは現在の契約を延長するつもりはないが、2024年以降自国のガス輸送網を通じてロシアのガスを供給する可能性自体は否定していない。
ロシアの立場:ロシア側も正式な交渉は認めていないが、同様にウクライナのガス輸送網が利用される可能性については排除していない。特にエネルギー相は、第三者の仲介によってウクライナ経由のトランジットに関する解決策が見つかる可能性があることを認めた。
EUの立場:2月15日、欧州委員会エネルギー担当委員は、EUが通過協定を延長することに関心がないことをウクライナに通知したと述べた。同委員は、ウクライナ経由でロシアのガスを受け取っている国のために解決策を見つけると約束した。「ウクライナのガス貯蔵システムをガスの貯蔵やリバース供給に利用することができるだろう」と同委員は言った。ちなみに、ウクライナのガス輸送網を通じたガスプロムのガスは、スロバキア(2023年の場合全体の86.8%)とモルドバ(13.2%、主に沿ドニエストル)に直接流れている。スロバキアからさらにオーストリアに向かい、ヨーロッパ最大のガスハブのひとつであるバウムガルテンに至る。しかし、大部分はオーストリアとスロバキアで消費される。
今後に関しては、①現行契約が延長される、②契約が満了し輸送が停止する、③現行契約は満了するが新たな条件でのトランジット輸送が維持される、という見方があり、専門家の見解も分かれている。
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