黒海穀物イニシアティブがストップしてしまったのは痛恨だったが、研究する立場上は、小括するのには良い機会なので、改めてデータをまとめておく。本件に関しては、7月18日付のエントリーで紹介したが、その時は7月4日までのデータと中途半端なものだったので、合意が切れるぎりぎりの16日までの累計で計算し直した。まあ、その結果、中国が0.1%減って、中国以外の高中所得国が0.1%増えるだけの変化しかなかったが(笑)、何にしても、データをアップデートできてすっきりした。
それで、今回は初めての試みとして、農産物の種類別の輸出先も整理してみた。それで作成したのが、上図である。以下、気付きの点を箇条書き。
- 何度も言っているように、プーチン政権は、ウクライナの穀物が最貧国にはほとんど行っていないと批判しているわけだが、私はその際の指標として、後発開発途上国(LDC)向けの輸出を見るのがフェアだと思う。ところが、LDCというのは厄介で、低所得国でもLDCでないところもあれば、低中所得国でもLDCの国もある。後者の実例がバングラデシュであり、実は黒海穀物イニシアティブの枠組みでウクライナはバングラデシュにかなり農産物を供給している。最貧国に農産物が届いているかを問う場合に、低所得国なのか、LDCなのかで、数字が変わってくる。プーチン政権は前者のことしか言わず、それは間違いではないが、かなり作為的と言わざるをえない。
- ウクライナの穀物輸出の半分以上は、とうもろこしである。小麦主体のロシアとは、その点が異なる。そして、それは飼料用のとうもろこしであり、過去10年ほど、中国、スペイン等の養豚産業をターゲットとして伸びてきた部門である。したがって、黒海穀物イニシアティブの下でも、とうもろこしの輸出がEUと中国に偏重するのは当然であり、結果としてウクライナの穀物全体、農産物全体で見ても両市場向けが多くなるのも、必然の成り行きである。それを捉え、プーチンが、やれ最貧国に届いていないとか、豊かな国の大企業ばかりが得をするといった批判をするのは、的外れだ。
- 他方、ウクライナにとっては必ずしも主力というわけではないが、小麦の輸出ではLDC向け、その他の低所得および低中所得国向けが多い。ウクライナの小麦は、先進国市場では品質の問題ゆえ飼料向けに回されることが多いが、途上国ではヒトの食用になっているはずであり、現地の栄養状態向上に貢献しているであろうことは間違いない。
- 植物油は、LDC以外の低所得および低中所得国向けが最も多いが、実はその大部分はインドである。
- ミールとは、大豆やひまわりの種といった採油作物から植物油を搾り終わった後の搾りかすのことである。かすと言っても、栄養価が高く、飼料として利用される。その大部分は中国に向かっているようだ。やはり養豚団地の餌か。
- 大麦は、ヒトの主食という感じではなく、飼料用、加工食品用、ビール・ウイスキー用など、用途は様々。ウクライナ産は、はやり飼料用がメインかな。
- ロシアのひまわりは有名だろうが、それ以外にも菜種、大豆という採油作物も重要である。かなりの部分がEUに向かっている。ただし、ウクライナの政策として、世界に冠たるひまわりは、種のまま輸出するのではなく、なるべく国内で絞って油として輸出する政策なので、実はひまわりの種の輸出量はそれほどでもない。
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