shema22

 昨晩出演したテレビ番組で、「ベラルーシ版のワグネルか?」ということで注目を浴び始めている民間軍事会社「ガルドセルヴィス(ООО “ГардСервис”)」について訊かれることになったので、ちょっと調べてみた。以下、自分なりに整理しておくことにする。

 結論から言えば、現時点ではガルドセルヴィスの存在は過大視すべきものではなさそうな気がする。なお、正確に言うと、ガルドセルヴィスは、民間軍事会社ではなく、「銃器携行を許可された民間警備会社」である。

 ガルドセルヴィスの発祥については、こちらの記事が詳しい。上掲の図もそこから拝借した。当初は2019年11月に「ベルセキュリティグループ」という名称で設立された。その後、有限会社「ガルドセルヴィス」と名前を変え、元軍人のYe.チャノフが社長を務めている。

 上図が描く構図は複雑だが、要するにガルドセルヴィスはV.シェイマン氏による一連のプロジェクトの一環と理解すれば充分だろう。シェイマンというのは、ロシアで言えばN.パトルシェフに相当するくらいのルカシェンコ体制の重鎮なのだが、シェイマンは金庫番という役割を併せ持っているのが特徴的で、大統領官房を通じてベラルーシ国内の利権を独占してきた。その代表的なものが不動産で、ベラルーシでは主立ったビルはだいたい大統領官房の持ち物と相場が決まっている。私の見るところ、おそらくはその延長上のような形で、ビル警備会社として、ガルドセルヴィスが設立されたのではないか(ガードサービスというくらいだから)。

 こちらに見るとおり、2020年6月18日付の大統領令により、ガルドセルヴィスは警備専業の会社として承認され、同時に銃器携行を認められた。これは、多くの指摘があるように、同年8月の大統領選を見据えて、いったん事が生じたら、同社の警備員をルカシェンコを守るために投入する布石だったと考えられる。

 そして、ガルドセルヴィスの最近の動きに関しては、こちらの記事が詳しい。これは、S.チハノフスカヤ率いる「移行内閣」で軍事・安全保障を担当するV.サハシチクが、ベラルーシの軍事関係者からの聞き取りにもとづき、記者に語った内容である。それによると、ガルドセルヴィスの警備員たちは2022年夏から、ベラルーシ国内の複数の訓練場で軍事訓練を受け、すでに数ヵ月が経過した。最近その数が増大しつつあり、すでに1,000名以上を数える。元軍事・治安関係者が入隊している。彼らは、ワグネルの指揮下で、破壊・偵察・襲撃に投入される可能性がある。プーチンはガルドセルヴィスに多額の投資を行っている。昨夏にはガルドセルヴィス警備員の養成のためにワグネルの専門家がミンスクを訪れた。警備員たちには報酬約3,700ユーロでの「出張」が約束されたという話もある。ガルドセルヴィスに入れるのは選ばれた者だけで、一定のバックグラウンドが必要である。

 というわけで、「ベラルーシ版ワグネル」ことガルドセルヴィスが、ウクライナの戦線に投入される可能性も、まったくないとは言い切れないのかもしれない。もしかしたら、プーチンからの参戦要求が強まり、ルカシェンコが妥協案として、正規軍は無理だが民間会社なら、といった落とし所を提案した可能性も、なくはない。ただ、個人的に気になるのは、当該の情報が、チハノフスカヤの「移行内閣」筋からしか出てきていないことである。同派としては、当然政治的な思惑から情報発信をするはずであり、全面的に鵜呑みにはできないという気がする。


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