5

 ロシア・ルーブルの為替レートは、元々はだいたい石油価格と連動していたから、油価とルーブル・レートを対比する上掲のようなグラフを、以前は定期的に更新していたものである。最近は更新が滞っていたが、久し振りに最新版を作成してみた。要するに、ルーブルのレートは、侵攻開始を受けいったん暴落したものの、ロシア当局の対策などで短期間で盛り返し、その後は概ね1ドル=60ルーブル前後の水準で推移しているということである。

 それで、この為替水準では、ロシアの産業界にとってルーブルが強すぎるという声は、早い時期からあった。そうした中、11月9日付のこちらの記事が、ルーブル高で鉄鋼業から悲鳴が上がっているということを伝えている。

 記事によると、BCS Global Markets (BCS GM)の専門家がこのほど、ロシアのほぼすべての鉄鋼メーカーおよび鉄鉱石生産者が輸出で損失を被っており、もっぱら国内市場で食っている状態だと指摘した。原因は、高い輸送費とルーブル高である。それに対し、国内市場での利益率は30%を超え高いものとなっている。

 現時点で、国外・国内合計の利益率がプラスになっているのは、欧州市場に半製品の供給を続けているノヴォリペツク冶金工場だけと見られる。EUは、完成鋼材の輸入は完全に禁止したが、半製品に関しては制裁第8パッケージに盛り込まれはしたものの、2023年までは年間370万tまでの供給は認められた経緯がある。

 ロシアの鉄鋼を中国に輸出して損が出ないためには、ルーブル・レートは今よりも37%安く(1ドル=85ルーブルに)なる必要があるという。鉄鉱石では16%安く(1ドル=72ルーブルに)なる必要がある。

 ロシアは2021年に6,590万tの鉄鋼を生産し、うち2,830万tを輸出した。ロシア政府がとりまとめた冶金工業発展戦略の草案によれば、2022年の輸出は基礎シナリオでは8%、保守的シナリオでは13%低下する。EUの制裁により、390万tの完成鋼材、20万tの鋼管、70万tの半製品が輸出できなくなり、2021年の金額ベースではこれらは37億ドルに上る。

 原料炭の価格高騰も、鉄鋼業に悪影響を及ぼしている。現在、ガスの値上がりにより、石炭火力への需要が増え、原料炭が発電に回されるケースが増えているからだ。

 こうしたことから、投資家は鉄鋼業よりも、ロシア石炭産業に注目している。石炭産業は、価格が安定しており、最初からアジア比率が大きかったメリットがある。とはいえ、石炭部門も、高い輸送費、制裁による市場喪失、ルーブル高の影響を受けていることに変わりはない。これまでロシアは欧州とウクライナに年間6,400万tの石炭を輸出し、2021年にはロシアの輸出の30%を占めていたが、その市場が失われた。エネルギー省の予測によれば、2022年の石炭輸出は、慣性シナリオでは12.5%低下し1億9,500万tに、楽観シナリオでは8.9%低下し2億300万tとなるが、いずれにしてもアジア・太平洋向け輸出増を想定している。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ