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 このニュースを理解するためには、まずソ連時代に建設されたとあるパイプラインのことを知る必要がある。本件に関しては以前、「ロシアとウクライナにまたがる『世界最長の化学品パイプライン』の謎を解く」というコラムを書いた。ロシア沿ヴォルガ地方のサマラ州トリヤッチ市から、ウクライナ・オデーサ州のピウデンヌィ(ユジネ)港に至る、全長2,471kmに及ぶアンモニアパイプラインが存在する(上図参照)。ソ連崩壊後も、途切れることなくアンモニアの輸送が続けられてきた。ところが、2月24日のロシアによる軍事侵攻開始後、パイプラインの起点に当たる窒素肥料大手トリヤッチアゾト社は、パイプラインを通じたアンモニアの輸出を停止した。ついでに言うと、アンモニアは天然ガスをもとに生産され、窒素肥料の前段となる。

 そして、こちらの記事によると、このほどゼレンスキー・ウクライナ大統領はロイターとのインタビューで、ウクライナ領を経由するロシア産アンモニアの輸出は、ウクライナ兵の捕虜が解放される条件においてのみ認めるとの考えを示した。

 この提案に対し、ロシアのD.ペスコフ大統領報道官は、人間とアンモニアを同列に扱うのかと、否定的に反応した。

 これに先立ち国連は、ウラルヒム(注:トリヤッチアゾトではないのか?)の生産したアンモニアをパイプラインのロシア領部分で対ウクライナ国境まで輸送し、その地点でトレーダのTrammo社が買い上げる(注:その後はTrammo社の貨物としてパイプラインのウクライナ部分でピウデンヌィ港まで運ぶということだろう)というスキームを提案していた。

 国連は肥料価格を引き下げるとともに、穀物輸出に関するイスタンブール合意へのロシアのコミットを確かなものとするために、ロシアとウクライナにアンモニア輸送に関する合意を形成するよう提案しており、国連関係者によれば両国とも前向きな姿勢だという。この合意が成立すれば、ロシア産アンモニアがピウデンヌィ港からウクライナ産穀物と同じスキームで輸出でき、輸送量は200万t、現在の相場で24億ドルに上る。

 2月24日の軍事侵攻開始後、トリヤッチアゾトはアンモニア輸出を停止した。ただ、同社によれば、同社のアンモニア生産は、国内需要を満たし、尿素および尿素ホルムアルデヒド濃縮物を生産するのに充分な水準を継続している。同社では鉄道輸送により顧客へのアンモニア供給義務を全面的に履行している、という。


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