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 EUは対ロシア制裁の一環としてロシアからの鉄鋼鋼材輸入を禁止した。ロシア『エクスペルト』誌のこちらの記事で、それをアジアシフトすることは可能かということが論じられているので、以下要旨をまとめておく。

 制裁により、ロシア鉄鋼メーカーの鋼材はEU市場で販売することができなくなり、別の買い手を模索することになる。

 欧州鉄鋼協会によると、EUは2021年にロシアから374万tの完成鋼材を輸入した。また、無塗装の熱延・冷延鋼板、条鋼、一部の溶接・継目無鋼管などが欧州に持ち込まれた。なお、鉄鋼半製品および鉄鉱石については、ロシアがEUへの主要供給国となっており、当面制裁は適用されない。

 ロシアの鉄鋼メーカーはすでに東方シフトへの準備を始めている。ロシア鉄鋼協会会長で、セヴェルスターリのオーナーであるA.モルダショフ氏が、A.ベロウソフ副首相に宛てた書簡の抜粋がメディアに掲載された。その中では、鉄鋼メーカーは輸出の方向を変える用意があるが、そのためには顧客に割引を提供し、物流の問題を解決しなければならないと指摘されていた。

 ちなみに、セヴェルスターリはヨーロッパへの供給が最も多い会社の一つであった。しかし、モルダショフ氏に制裁が課せられた後、欧州向け出荷を停止し、他の市場に注力している。

 セヴェルスターリの広報部は、「EU向けの出荷を制裁により停止した後、これらの数量をアジア、中東、アフリカ、南米などの代替市場に振り向ける予定。現在、その転換にかかわる技術的な問題に取り組んでいる。我が社の製品は他の市場でも需要があると見ている」と説明している。以前同社は、ブラジルとの提携を積極的に進めており、特に大口径鋼管が主要品目になるとしていた。

 独立系投資グループAtonのアナリストA.ロバゾフ氏によると、ヨーロッパにとってロシアのエネルギー資源などよりも金属を拒絶する方がはるかに容易だという。域内の鉄鋼価格が高いため、EUは長い間、世界の輸出業者にとって非常に魅力的な市場だった。欧州の規制当局は、割当制を課して輸入を制限せざるをえなかったほどだ。

 ロバゾフ氏は、制裁下でロシア企業は確かに新しい市場を探さざるをえず、ロシア企業にとってはアジアへの転換が最も容易だが、そこにはロジスティクス上の困難が伴う可能性があると指摘する。極東の港湾や鉄道は混雑している。北極海航路はまだ未整備。ヨーロッパ部の港を経由しての輸送も可能だが、そこでも船不足、運賃の高騰、ヨーロッパでの積み替えの難しさなどの問題が出てきている、という。

 さらに、ロバゾフ氏によれば、アジア市場へのシフトにより、鋼材の平均輸出価格が低下し、収益が減少する恐れがある。供給リスクにより欧州の鉄鋼価格は上昇しているが、アジアでの鉄鋼の価格はかなり低い。中国の熱延鋼板の場合、欧州の相場より30%低い。その意味で、ヨーロッパはプレミアムな市場。しかし、現状では、ロシアの鉄鋼メーカーは腹をくくっており価格引き下げに応じるだろう。ロシアの鉄鋼メーカーは世界的に見てもそれほど大きな存在ではないので、ロシアからヨーロッパに流れていた量を新しい市場に移すことはそれほど難しくないだろうと、ロバゾフ氏は指摘した。


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