FIFAワールドカップ・ロシア大会が終わり、後掲の書籍原稿を書き終えてからというもの、個人的に、ロシアのサッカー事情をフォローするモチベ(もっと言えば海外サッカー全般への関心)が著しく低下した。まあ、そうは言いながらも、ロシアの国内サッカー事情は、一応気にはなっている。
そうした中、経済週刊誌『エクスペルト』2022年2月7-13日号(No.6)に、気になる話が出ていたので、以下要点を紹介したい。
記事によると、今般ロシアのサッカーに、「ファンID」というものが導入された。昨年12月に法律が成立し、6月1日に施行されることになっている。その費用として、今年の国家予算には7.7億ルーブルが計上されている。今後、観客、記者、運営者など、あらゆる関係者は、試合に訪れる際に必ずファンIDを携行しなければならない。IDは国家行政ポータルサイトで取得できる。IDがなければチケットも購入できない。ID導入の目的は、スタジアムの安全確保であるとされている。
ところが、この措置にロシアプレミアリーグのビッグクラブのサポーターグループが反発を示し、試合観戦のボイコットを表明した(ただし、現在ロシアプレミアリーグは冬季中断中で2月下旬再開予定)。彼らは、ファンIDにより個人情報が悪用されることを懸念している。また、IDの発行が拒否されたような場合に、その根拠が示されないなど、運用が恣意的なものになる見通しであることを問題視している。
そこで、まずスパルタクのサポーターグループが観戦ボイコットを決め、しばらくしてからゼニト、ディナモ、ロコモティヴ、CSKAのサポーターも続き、現在その数は13クラブのサポーターグループに上っている。ロシアプレミアリーグ、ロシアカップ、欧州カップ戦の国内試合のスタジアム観戦を拒否するものである。面白いことに、政界からも、共産党リーダーのG.ジュガノフ氏のように、サポーターに同調する向きもある。
ボイコットが現実のものとなれば、それでなくてもコロナで観客が激減しているロシアサッカーが、さらに寂しいものになる恐れが大きい。他方、政策担当者は、サポーターたちは遠からずスタジアムに戻ってくるだろうと楽観している。また、ロシアのサッカーで収益に占める入場料収入は決して大きくなく、スポンサーや国家財政が支えている部分の方が大きいので、サポーターがボイコットしても経営的にはそれほど痛手にならないという側面もある。
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服部倫卓「サッカーを通じて見るロシアの国家と社会 ―2018年のワールドカップを契機として」所収