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 ロシア・ヤマル半島の天然ガス産地から、ベラルーシ、ポーランドを経由して欧州市場に至る「ヤマル~欧州天然ガスパイプライン」というものがある。稼働したのは1999年だった。ただ、通過国のポーランドとロシアの政治関係は緊張をはらんでおり、そのあたりについてこちらの記事が論じているので、以下要点を整理しておく。

 ガスのトランジット輸送に関するガスプロムとポーランドの歴史的な25年契約が、5月17日に満了した。今後も同パイプラインを通じた輸送は続けられるが、それを取り巻く環境は変容している。

 パイプラインのロシアおよびベラルーシ領部分の所有者はガスプロム、ポーランド部分はEuRoPol Gaz、ドイツ部分はWINGASである。輸送能力は年間329億立米で、トルコストリームのそれに匹敵する。建設当時は唯一のウクライナ迂回ルートであり、それゆえにポーランドを含むすべての当事国が建設に利益を見出した。オレンジ革命後のウクライナの立ち位置もあり、パイプラインはスケジュール通りに建設された。2009年のロシア・ウクライナガス戦争の際も、被害を受けた中東欧諸国と比べ、ドイツやポーランドはヤマル~欧州PL経由で通常通りの輸入を続けられた。

 しかし、2011年にはノルドストリームの1列目が完成し、550億立米の輸送能力が加わったことで、ウクライナやポーランドの「半独占者」としての地位は失われた。ノルド1の能力が充分ではなかったことから、その2国、特にウクライナは一定の意義を保ったが、低減したことは間違いない。トルコストリームも完成した。ポーランドは、政治的影響力の低下が生じると懸念し、ノルドの建設には真っ向から反対したし、現在もノルド2に反対することに全力を傾注している。

 ウクライナと異なり、ポーランドがヤマル~欧州PLのトランジットから得ている収入は少額であり、年間2,100万ズロチを超えることはない。ただし、その代りポーランドにはパイプライン会社の株式の52%が与えられた。1996年の契約で、ポーランドは2022年までガスプロムから年間100億立米を購入する義務を負った。2012年には追加契約が結ばれ、ガス価格の10%引き下げが取り決められた。だが、2016年2月にポーランドはストックホルム仲裁裁判所にガスプロムを訴え、欧州価格に見合った価格の導入を求めた。2018年6月にポーランドPGNiGは暫定的な勝訴を発表し、2020年3月には最終的な勝訴を発表した。ポーランド側は、従来の価格は非市場的なもので、今後は西欧市場に見合った新たな価格に移行するとともに、2014年以降の差額15億ドルを返還すべきとしている。ただし、ガスプロムはその2つとも今のところ履行していない。

 こうした背景を考えると、ガスプロムとPGNiGがヤマル契約を更新するとは考えにくく、両者とも契約延長の意向はなく、交渉も行われていないという。ガスプロムとしてはノルド2、トルコストリームの開通をにらんでおり、2019年末にウクライナ・ナフトガスとの契約も結ばれたので、ポーランドとの新たな長期契約は不要である。ポーランド側は政治的な動機であり、その他の供給源からのガス調達比率を増やして、ロシアからのエネルギー独立の路線をとっている。多様化の手段としては、米、カタール、ノルウェーからのLNG購入増や、デンマークからのガスパイプラインを建設しノルウェー産ガスを購入する計画もある。

 なお、トランジット契約満了後は、ポーランド領パイプラインの利用は、利用予約をオークションで販売する形で行われる。一方、ポーランドがロシア産ガスの購入を完全にやめることはないだろう。その他の供給源からの調達可能性を手にしたら、今後は商業的な観点を重視するようになり、条件が有利ならガスプロムからの購入を続けるということになるだろう。


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