こちらの記事で、ウクライナのV.ベラフという専門家(下の顔写真)が、ウクライナの穀物輸出制限の是非について論じているので、要旨を以下のとおり整理しておく。

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 コロナ問題の打撃で商品市場全体で下落が相次ぐ中で、3月末以降、小麦価格は10~15%も上昇している。穀物だけでなく、食肉等の食品も値上がりしている。ただ、これらは異常な値上がりというわけではなく、昨年の高値水準に戻っただけである。それ以上に値上がりすることは、まずないだろう。特需が収まれば価格も下がる。次の収穫を買い急ぐ者など誰もいない。

 ウクライナで、穀物価格上昇の追加的要因になったのが、ブリブナの対ドル・レートの下落である。製粉業者たちが、「小麦が毎日100グリブナずつ上がっていく」と憂慮したのである。質の良い小麦が希少になり、製パン業者は、「加工業者は買いたいのに、トレーダーが値上がりを待って売ってくれない」と不平をもらす。その結果、製粉業と製パン業の業界団体が、政権に対して、現在のパンの価格水準を維持するため、穀物輸出を一時的に停止するよう陳情する事態となったのである。

 ある業界関係者などは、政府がウクライナ国内需要に必要な食用小麦の在庫をいったんトレーダーたちから買い上げ(製パン用の500万t、パスタ・小麦粉・菓子用300万t)、その上で残った分の輸出を許可すればいいという極端な提案をした。

 黒海地域で最大の小麦輸出国であるロシアがすでに輸出制限を導入したことが、火に油を注いだ。ロシアは2020年4月1日から6月30日まで、700万tの穀物輸出割当を適用している。カザフスタンも同様の措置を講じた。パニックはウクライナ大統領府にまで伝染したようで、大統領府は輸出制限を真剣に検討した。

 それでは、現実はどうだろうか。まず、製粉業者は、価格が最も安くなる時期を待って、自分たちの在庫を補充するものである。彼らが大部分の在庫を買うのは、収穫が40~50%終わって市場に商品がふんだんにあり、したがって価格も安い8~9月である。第2の買付時期は4月の後半であり、その時期にはトレーダーが輸出契約をすでに終えており、製粉業者は余った商品を安く買うのだ。

 しかし、2020年には製粉業者が駆け引きをしすぎた。安い春先に買うのではなく、コロナ問題が輸送の停止に繋がると読み、さらに待つことにして、そして失敗したのである。世界市場は食糧パニックに転じ、トレーダーたちは取引を満たすため高値での穀物調達を余儀なくされ、輸出が活発化して国内でも価格が上がった。

 製粉・製パン業界は、国内の小麦市場は危機的と称しているが、多分に誇張である。確かに、ウクライナからの輸出は増大しており、価格低迷で昨年から売り渋っていた生産者がようやく売却を始めたが、異常な輸出増にはなっていない。昨年、輸出業者と政府は、2019/20年度の小麦輸出増減を2,000万tとした(生産は2,800万t、国内消費は800万t)。現在までに、1,800万tが輸出されており、つぎの収穫までは2ヵ月半で、この期間、国内消費を脅かすことなく、220万tを輸出することが可能である。昨年の合意を超過するようなことは、まずありえない。


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