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 田畑伸一郎・後藤正憲(編著)『北極の人間と社会 ―持続的発展の可能性(スラブ・ユーラシア叢書14)』(北海道大学出版会、2020年)については、先日すでに簡単に取り上げたが、このほど月報用に書籍紹介文を書いたので、それをここで共有する形で改めて紹介させていただく。

 北海道大学出版会から今般、「スラブ・ユーラシア叢書14」として、『北極の人間と社会 ―持続的発展の可能性』が刊行された。

 我が国においては、2015年度から文部科学省の「北極域研究推進プロジェクト(ArCS)」が開始され、国際共同研究を推進するための8つのテーマ(サブプログラム)の一つとしてテーマ7「北極の人間と社会:持続的発展の可能性」が設定された。本書は、主にこのテーマ7に取り組んだ研究者たちがその成果を発表すべく、企画されたものということである。

 本書では、急変する北極域の気候変動と環境変化が、人間社会にどのような影響をもたらすのか、また、人間はそれにどのように対応するべきかを、経済発展、環境と社会、国際関係とガバナンスの視点から検討し、北極域の持続的発展の可能性を探ろうとしている。具体的には、以下のような構成となっている。

序 章 持続的発展を目指して(田畑伸一郎・後藤正憲)
第1部 北極の経済開発
第1章 北極海航路(大塚夏彦)
第2章 石油とガス(田畑伸一郎・本村眞澄)
第3章 漁業(成田大樹・平譯享)
第2部 環境と人間の相互作用
第4章 凍土と文化(後藤正憲・中田篤・飯島慈裕)
第5章 変化と適応(藤岡悠一郎・高倉浩樹・田中利和・S.グリゴリエフ)
第6章 先住民とモニタリング(近藤祉秋)
第3部 北極のガバナンス
第7章 国際関係(大西富士夫)
第8章 北極評議会(稲垣治・幡谷咲子)
第9章 国際法に基づく秩序づくり(柴田明穂)
第10章 開発と先住民族(高橋美野梨)

 『ロシアNIS調査月報』の中心的な読者層である実務家諸氏にとっては、第1部で論じられている北極海航路、石油ガス開発、漁業の各章が、とりわけ直接的な関心事となろう。特に北極海航路を扱った第1章は単独の執筆者によるものでありながら、輸送の需要とコスト、船舶の構造、航行の安全性、環境への影響など、きわめて多面的な分析が施されており、学ぶところが大きい。

 ところで、本書序章の中では、北極研究において直面した自然科学系と人文・社会科学系の研究者同士の相互理解の難しさが吐露されている。ArCSにおいては、それまで自然科学系の独壇場であった北極研究に、人文・社会科学系の研究者が参入してテーマ7が設けられた点が画期的だったのだが、超克すべき両者のギャップは大きかったということだ。

 今般完了したArCSに続いて、本年からはその続編となるプロジェクトが始動する予定と伺っているので、より一層の成果に期待したい。


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