中央アジアのウズベキスタン・キルギス・タジキスタンからは、大量の出稼ぎ労働者がロシアに流入している。そのうち、キルギスはロシア主導のユーラシア経済連合に加入しているので、キルギス人労働者もロシアにおいて法律上はロシア人労働者と同等の権利を保証されることになっている。問題は、今のところユーラシア入りしていないウズベキスタンとタジキスタンであり、その問題についてこちらの記事が論じているので、以下のとおり要旨をまとめておく。
ロシアは2019年4月17日にモスクワでタジキスタンとロシアでの一時的な労働に従事するタジク市民を組織的に募集する協定を結び、このほど12月28日にプーチン大統領がその批准法に署名した。実は、同様の協定をロシアはウズベキスタンとも2017年4月に結んでいるのだが、今のところその成果はほぼ皆無であり、当面その見込みもない。
12月26日に駐ウズベキスタン・ロシア大使が述べたところによると、ロシア側の統計によれば、2019年上半期の時点でウズベキスタンからロシアへの労働移民数は150万人であり、一方ウズベク側は200万人の自国民がロシアで働いていると見ている。労働移民の4分の1は不法移民状態にある。こうしたなか、協定にもとづき組織的に募集されてロシアに向かったウズベク人は、1年間でわずか2,000人しかいなかった。
ロシアのいくつかの地域は、組織的募集方式を利用して移民をめぐる状況を正常化しようとしたが、それらの経験からも、組織的募集方式の問題点が浮かび上がる。サンクトペテルブルグ市では、2018年に5万人のウズベク人を組織的に募集する計画だったが、実際に受け入れたのは2,000人とも500人とも言われる。大多数の労働移民は自分でペテルブルグにやってくる。サンクトペテルブルグが2018年に労働許可証を発行したウズベク市民は10万3,500人にも上っていたわけで、組織的な募集に切り替えるという構想が破綻したことを物語っている。
一見、素晴らしいことのように思える組織的な募集方式が、現実には上手く行かないのは、現行の方式ではそれが雇用主にも移民にも利益にならないからである。雇用主にとっては、法的、資金的な厄介ごとが増し、その割には特別なメリットがない。労働移民を雇う最大の利点は人件費の節約だが、その可能性が失われてしまう。企業が人材の養成に真剣に取り組むなら、ロシアで人材を選んだ方が得策である。
労働移民の側にも、弊害がある。ユーラシア経済連合に加盟していないCIS諸国(ウズベキスタン、タジキスタンがそれに該当する)の市民がロシアにおいてビザなしで合法的に就労するためには、パテントという滞在許可証の取得が必須である。地域によって違うが、多くの地域では月額4,000ルーブル程度を支払わなければならない。モスクワではこの1月から7%上がって5,350ルーブルになった。この金額を毎月支払うのはしんどいので多くの移民は強制送還、もうロシアに入れないブラックリストに載るリスクにもかかわらず、不法就労状態を選択しがちである。個人所得税を払いたくないという事情もある。なお、ブラックリストに載ってしまった労働移民たちへの恩赦適用は、近年ロシア・タジキスタン間の重要な交渉テーマとなっている。
また、移民たちは、すでにロシアにいるか行った経験のある親類、隣人、知人たちのネットワークを通じて、ロシアで求職する。雇用主も労働者も課税を避けるために賃金を非公式な形で支払う慣行が広がっていることもあり、公式的なチャンネルで求職するよりも、知り合いのネットワークの方が機能しやすいのである。長い時間をかけて形成されてきた非公式なネットワークを、組織的な募集方式によって置き換えるのは、一筋縄では行かない。
ウズベキスタンにとって、労働移民問題の解決になるのは、ユーラシア経済連合への加盟である。しかし、ロシア側から見れば、それは問題をこじらせるだけである。経済連合の枠内でウズベク市民は共同労働市場のメリットをフルに活かし、雇用契約がある限り、ずっとロシアに留まることができるからである。そうなれば、もはや組織的な募集などは必要なくなる。
キルギスの経験からすると、ウズベクがユーラシア経済連合に加わった場合、ロシアにおけるウズベク人移民が少なくとも20~25%増えることになる。ウズベクは、キルギスの5倍もの人口を有する国であり、それがロシアの労働市場に及ぼす影響は多大なものとなる。今後数年で、CIS南部諸国からの移民を制限せざるをえなくなり、具体的にどんな方法かが問われる。もしも移民が組織的な募集でしかロシアに入ってこれなくなるなら、組織的募集方式はより上手く機能するかもしれない。
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