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 以前、「中国~キルギス~ウズベキスタン鉄道」というエントリーをお届けしたが、こちらの記事がより新しく詳しいので、重要と思われる点を以下のとおりメモしておく。

 中国~キルギス~ウズベキスタン鉄道の建設構想は20年以上検討されているが、ここに来てそれが動き出す可能性が出てきた。それは多分に、ロシアがFSに2億ルーブルを供出することに加え、プロジェクト実現に直接参加する用意があると表明したことによる。

 プロジェクトが最初に浮上したのは1990年代半ばで、中国が新疆ウイグル自治区鉄道の建設に着手し、中央アジア諸国にそれへの接続を提案したことに端を発する。1997年に中国、キルギス、ウズベクは3国作業委員会の設置に関する覚書に調印し、2002年には最初のFSが実施され上掲地図のようなルートが提案された。ゆえに、この268kmのルートがその後長らく、検討の基礎となってきた。

 しかし、時間が経つにつれ、この案はキルギスにとって不満の残るものであることが浮き彫りとなった。キルギスではソ連崩壊後、鉄道の改修が実質行われておらす、中国~中央アジア鉄道建設の枠内で自国鉄道を近代化したかったからだ。キルギスでアタンバエフ政権が成立すると、同国は中国~キルギス~ウズベクというルートには反対し、その代わりにタジキスタン~、キルギス~カザフスタン~ロシアというルートを推すようになった。ただし、当時はいずれの国からの賛同も得られなかった。

 これまでも、交渉を活発化しようという試みがなかったわけではない。数年前に中国が一帯一路を表明すると、中国~キルギス~ウズベク鉄道は、中国とイラン、トルコ、欧州を結ぶルートの中央部分の一環と位置付けられた。しかし、3国作業グループで、すべての対立点を解消する期限が2018年4月と明記されたにもかかわらず、進捗はなかった。2019年6月に習近平国家主席がキルギスを訪問した時ですら、鉄道建設を重視すると通り一遍に述べられただけで、文書が調印されるといった進展はなかった。それには以下のような原因がある。

 第1に、ルートおよびレール幅をめぐる立場の隔たりである。キルギスは自国にすでにある広軌を希望し、可能であれば国の南北の経済社会中心同士を連結したいという思惑があった。それにより、キルギスは国内問題を解決できるだけでなく、年間2億ドル以上の中国貨物トランジット収入が得られる。それに対し、中国が必要としていたのは、最短で経由地も少ないルートと、ウズベクのミングブラク油田など中央アジアの資源産地へのアクセスであった。また、中国は1,435mmの標準軌から1,520mmの広軌への積み替えを中国・キルギス国境ではなく、キルギス・ウズベク国境で行うことを主張し(つまりキルギス領に1,435mmの標準軌を建設する)、これは同鉄道を自国の鉄道網の一環と位置付けたいキルギスには不都合だった。ただ、キルギス鉄道幹部によれば、ここ数ヵ月中国の態度は軟化しており、標準機と並行する形で広軌レールを敷設しても構わないとしているという。

 第2に、資金の問題がある。当初の建設費見積もりは20億ドルだったが、2012年までには65億ドルに跳ね上がった。中国へのコンセッション、合弁の創設、資源と引き換えの投資、中国による融資など様々なスキームが検討されてきたが、折り合うに至っていない。ただ、これについてもキルギスと中国は官民パートナーシップによる合意に近付きつつあり、投資を誘致した側が運営権を獲得し、投資が回収できた段階でキルギスに引き渡すという青写真になっているという。

 第3に、プロジェクトの政治的な背景がある。ロシア、中国ともに中央アジアを自らの地政学的勢力圏と見なしており、自らの参加なしに当地で大規模プロジェクトが進展することは妨害しようとする。ロシアは2018年から中国~キルギス~ウズベク鉄道により大きな関心を示すようになり、キルギス鉄道とロシア鉄道間で同プロジェクトへのロシアの参加に関する協定が結ばれた。しかも、後に明らかになったところによると、ロシアは設計や資機材の提供のみならず、資金面での協力の可能性も示した。専門家たちは、まさにこれによりプロジェクトが動き出したと見ている。

 問題の鉄道は関係国にとって恩恵とリスクの双方がある。中国はウズベク、さらには欧州への輸送路が短縮される。キルギスは、自国の鉄道を近代化し、人口が密集したフェルガナ盆地を中国と結んで地下資源の開発を活発化させ、通商および運輸の活発化が期待できる。ウズベキスタンも然りである。

 一方、当該の鉄道は、以前キルギスが懸念していたように、国の南部だけを栄えさせ、南北分断を深刻化する恐れがある。また、キルギスが中国の債務の罠にはまり、将来的に自国の鉄道および天然資源の権益を中国に譲渡せざるをえなくなるかもしれない。キルギスは対中国5大債務国の一つであり、すでにGDPの30%を超えている。中国は債務を返せない国には容赦がない。

 それがゆえに、キルギスではくだんの鉄道プロジェクトにロシアが参加するとの情報を大歓迎しているのである。キルギスはロシアを中国に対抗する後ろ盾と見ているのだ。

 当該の鉄道は、ロシア領とは接していないが、ロシアがそれに関心を示すこともまた道理である。そうすることで、ロシアはその鉄道の建設だけでなく、運行にも影響を行使できる。ロシアはまた、くだんの新鉄道が、中国~ロシアまたは中国~カザフ~ロシアという既存ルートを脅かすほとに拡大することを抑制することもできよう。

 ロシアが当該のプロジェクトに参画すれば、ロシアは新たなルートでの輸送により本格的に参加できるだけでなく、この地域で中国のプレゼンスの増大にも対抗できる。ロシアの主たる動機は、まさに後者であろう。ロシアも、中国も、中央アジアの権益を相手に全面的に渡すつもりはないのだ。


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