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 こちらの記事など各メディアが伝えているとおり、ウクライナのナフトガス社とロシアのガスプロム社は12月31日、年末で期限の切れた契約に代わる新たな5ヵ年の天然ガス・トランジット輸送に関する契約に調印した。輸送量は、2020年が650億立米以上、2020~2024年が400億立米以上となる(なお2019年は890億~900億立米だった)。料金は明らかにされていないが、ゼレンスキー・ウクライナ大統領は5年間の総収入が70億ドル以上としており、ナフトガスのヴィトレンコ氏は5年間で72億ドル以上の収入が保証されていると述べていることから見ると、料金は現状とほぼ同じの1,000立米当たり32ドル程度と見られる。両社はまた、ガスプロムがストックホルム仲裁裁判所の裁定による29億ドルをウクライナ側に支払い(29億ドルはすでに年内に支払済み)、双方がそれ以外の訴えをすべて取り下げることでも合意した。ロシア側はウクライナに対する支払義務を認めようとせず、ウクライナがこれを取り下げることがトランジット契約延長の条件としていたが、12月19日にプーチン大統領が恒例の大規模記者会見で、「政治的なものとはいえ、裁判所の裁定が出ている以上は、それに立脚せざるをえない」と発言していた。

 さて、今回両国が「ガス戦争」には至らず、歩み寄った背景につき、こちらの記事の中で論じられているので、骨子を以下のとおり整理しておく。

 前回のトランジット契約が結ばれた2009年には、ガス戦争の状況下で、ロシアが有利な契約を取り付けることができた。当時は、欧州の需要家がガス戦争への準備ができておらず、特に冬季だったこともあって、なるべく迅速に新たなトランジット契約に調印するよう、ウクライナに圧力をかけた経緯があった。しかし、現在は状況が大いに異なる。

 第1に、現在はウクライナを迂回するノルドストリーム1が稼働しており、これによりウクライナのトランジット国としての立場が弱くなったと一般的には言われている。しかし、ノルドのお陰で供給が全面的に途絶することはないので、欧州からウクライナへの圧力が弱まるという、別の側面もある。

 第2に、ロシア産ガスの需要家たちは、2009年の教訓にもとづき、状況が悪化した場合に備えていた。EUのガス貯蔵施設は9月15日の時点で95%も満たされており、ウクライナの貯蔵施設も同様だった。

 第3に、ガスプロムは、欧州需要家がガス戦争にも備えガス供給源の多角化を目指し、米国のシェールガスとの競争が激化する中で、欧州の需要家の評判を良くしたかった。

 ノルドストリーム2が完成すれば、より本格的なウクライナ迂回が可能になり、これがロシアの立場を強める要因になるはずだった。ところが、ノルド2は2020年1月1日までに完成が間に合わなかった。コザク副首相が述べたところによれば、ノルド2の稼働は2020年中頃になるという。こうしたことから、ガス交渉で、ロシアが短期の1年契約を主張したのに対し、ウクライナ側は長期の契約を望んだ。

 攻防はぎりぎりまで続いたが、12月21日に米国による制裁を懸念した欧州のオールシーズ社がパイプライン敷設作業を停止した。ノルド2の建設には他にもイタリアのサイペン社、ロシアのメジレギオントルボプロヴォドストロイ社も参加しているが、最も長い延長のパイプを敷設していたのはオールシーズ社の3船だった。オールシーズ社は米国でもビジネスを展開しているので、今後ノルド2の作業には復帰しないことも考えられる。年末の時点で残っていたのは第1列47km、第2列70kmの工事だった。

 将来的なことについては、ロシア側は同じ条件で2025~2034年の契約を結ぶこともありうるとしているが、これはだいぶ先の話であり、ジェスチャーにすぎない。ウクライナ側は10年契約を主張しているが、そのためにはガス輸送システムを近代化するための投資誘致が必須であり、ウクライナにはそれは不可能だろう。

 一連の交渉の過程では、ロシアからウクライナに直接ガスを供給する問題も話し合われた。その場合の価格は、欧州ハブ価格(NCG)にもとづき、供給量を考慮した値引きを適用したものになる。結局、協定のパッケージには直接供給は盛り込まれず、この問題は年始休暇後に再度交渉することになった。

 ただし、12月22日の時点で、すでにウクライナ民間企業5社が1月1日からの供給につきガスプロムと契約を交わしたことが明らかになっている(会社の具体名は不明)。ポロシェンコ前大統領は、そうした契約は商業的ではなく政治的だとして、それらのウクライナ企業に制裁措置を課すことを提唱している。


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