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 こちらで閲覧可能だが、ロシアの『プロフィール』誌(2019年9月9日号、No.34)に、ロシアのエレクトロニクス産業についてのレポートが出ているので、骨子を以下のとおりまとめておく。

 ロシア政府が検討している「2030年までにエレクトロニクス産業発展戦略によれば、10年間で世界のリーダーたちに追い付き追い越す目標が掲げられている。しかし、実際に商店を覗けば、国産のPC、スマホなどは皆無である。公務員使用の電子製品を輸入代替するという目標も、過去数年で失敗に終わった。最近、政府は2019年7月10日付の政府決定で「ロシアのエレクトロニクス製品の一覧表」というものを制定する新たな試みを始め、これが当該産業の発展を促すことが期待されているが、国産定義の難しさなどがあり、出だしから困難に直面している。

 ロシアのエレクトロニクス産業は、理念的にはソ連の遺産だが、現実には1990年代に壊滅し、ゼロからの出発を余儀なくされた。最初の本格的な再興の試みは、2010年代の初頭に、「2013~2025年の電子・電子無線産業の発展」というプログラムが策定されたことだった。それによれば、ロシアのエレクトロニクス製品市場における国産品の比率が40%に、世界シェアは0.8%になるとされた(2011年現在では17%、0.3%だった)。

 しかし、2014年に危機が起こり、すべての計画が狂った。国の優先方針は輸入代替となり、エレクトロニクス産業発展プログラムは棚上げになった。しかし、PC、スマホを国内生産するための設備を、ロシアは生産できないということが浮き彫りとなった。

 手始めに、まず国家機関で使用する機器を国産化することが想定された。国家安全保障にかかわる分野だからである。しかし、この面でも成果は出ていない。たとえば、2016年にPC1万台を内務省に納入する入札でTプラットフォルムィ社が落札した。総額3.6億ルーブルで、「バイカルT1」というプロセッサをベースとした「タヴォルガ」というPC.だった。同社は2018年末に必要台数を納入したものの、内務省は2,000台しか受け取らず、期限通りに納入しなかったとして社長が逮捕された。産業・商業省、経済発展省が要請しても社長は釈放されなかった。詳細は明らかでないが、同社は内務省の示した課題に応えられなかったと見られる。

 2010年代にはロスナノが投資して、学校に教科書の代わりに「チュバイス・タブレット」を配布するという計画があり、2011年にはタブレットをプーチン首相に見せたこともあった。しかし、計画は頓挫し、ロスナノのチュバイス総裁は、「時期が悪かった。iPadと競合してしまった」などと釈明した。

 それでも、政府は公務員にオーロラOSのスマホ140万台を支給するという構想を立てている。先日は、政府がやはりオーロラOSのファーウェイ製タブレット36万台を2020年の国勢調査実施のために調達しようとしているという情報が流れた。

 たとえそれらの計画が実現しても、それらを「国産」と呼ぶのは困難である。オーロラOSは最初はフィンランドで考案されたもので、2017~2018年にロステレコムが買い上げた経緯がある。機器を組み立てるのもロシアではなく、アジアの工場になる。ロシアと呼べるのは、ブランドだけだ。

 国防企業が、ロシア国産品と称して、外国の生産設備を買い付けた事例が摘発された。しかし、そうしたことが起きるのにも無理もない面もある。たとえば、2016年にマスコミが報じたところによれば、衛星「スフェーラ」の集積回路をロシア国産品に切り替えた結果、既存のロケットでは打ち上げが不可能になってしまい、今のところ1機も打ち上げられておらず、最初の打ち上げは2020年まで待たなければならないことになっている。

 現在策定されている「2030年までの戦略」では、ロシアのエレクトロニクス企業の売上が2017年の7,140億ルーブルから2030年の3兆2,600億ルーブルに、国内市場でのシェアが22%から40%に高まることになっている。ただ、ロシア国内市場では不充分であり、輸出に打って出る。輸出は、2016年の2.2億ドルから(その97%は軍事用エレクトロニクス製品)、2030年には23.7億ドルに高まる。その結果、世界のエレクトロニクス製品市場におけるロシア製品のシェアは0.6%から1.5%に拡大する。その際に、単に在来製品を生産するだけでは駄目であり、新技術にシフトすることが重要である。

 しかし、ロシアにはエレクトロニクス企業が3,000社程度しかなく、コンピュータのプロセッサを開発しているのは20社以下である。ロシアで最先端のチップは、バイカルT1、エリブルス8Sだが、それらは28nmで開発されたものであり、大多数のロシア企業は150、110、良くても65といったレベルである。2030年までの戦略では、28nmの技術が普及するのは2026~2027年であり、7nmは2030年まで待たなければならないとされている。世界に比べて大きく後れを取っている。

 ロシアのエレクトロニクス企業の大部分は国の発注にかかわっており、それなしでは赤字である。2017年には、87%の企業が国家発注を受けていた。業界で売上が大きいのは、「ロシア・エレクトロニクス」(27%)、KRET(13%)、アフトマチカ(3%)であり、その傘下の250社も含め、国策企業「ロステク」の傘下にある。つまりロステクが同部門の50%を押さえているわけである。民間企業で一番シェアが大きいのは、システマ傘下のRTI(1.5%)である。


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