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 しばらく前に執筆参加者の一人からご恵贈いただいた本を、改めて拝読しているところ。益田実・山本健(編集)『欧州統合史:二つの世界大戦からブレグジットまで (Minerva Modern History 1) 』(ミネルヴァ書房、2019年)である。

 欧州統合、EUに関する解説書、研究書の類は、あまた存在する。そうした中で、本書の特徴は、「統合史」というタイトルからも分かるとおり、欧州統合の前史から今日までを、基本的に時系列的に解説している点にある。おそらく、EUに関する書籍で一番良くあるパターンは、制度論、通貨統合、農業政策、構成国の拡大といったテーマ別・分野別にそれぞれの分野の第一人者が論じたものをコンパイルするというものではないか。本書を手に取るまでは、私も漠然とそのような本なのかなとイメージしていたのだが、実際には年代別に9つの章が設けられており、また基本的には一人1章という割り振りになっていて、各執筆者は同時代の重要事項にすべて言及することとなる。

 寄せ集めの論集と異なり、一貫した方針で通史を描くという本書を作り上げるにあたっては、さぞかし骨の折れる編集作業になったのではないかと想像する。しかし、その甲斐あって、本書では欧州統合の流れを、前後左右の出来事と照らし合わせながら論じることで、よりリアルに理解できるようになっていると感じた。

 たとえば、東野篤子による第8章「ビッグ・バン拡大からリスボン条約へ」によれば、中東欧諸国のうち、ブルガリアとルーマニアのEU加盟交渉は2004年末に妥結し、2007年1月に加盟が実現したが、これが後に思わぬ形でEUを揺るがす、一つの伏線になったという。というのも、それまでイギリスはEUの中東欧への拡大に好意的だったものの、ブルガリア・ルーマニアの加盟以降は態度を硬化させ、中東欧からの移民流入増大を警戒するようになったということだ。

 このような思わぬリパーカッションは、東方拡大だけを、あるいはブレグジットだけに注目していたら、見過ごしてしまいそうな現象である。欧州統合というと合理的な制度設計に従って推進されているというイメージを抱きがちだが、現実には様々な要因がカオス的に絡み合って動いてきたのだということが、通史だからこそ浮き彫りとなる。


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